逢いたいあなた 5

その戦いは決して楽なものではなかったーー

残敵掃討戦はなかなか困難を極めた。イギリス軍は残った武器を総動員して抵抗し、『飛龍』ほかの空母の飛行隊は苦戦を強いられる羽目になった。
山口司令官は第一次攻撃から帰艦した攻撃隊長・安達中佐は
「第二次攻撃の要ありと認めます。敵は高角砲多数所持しています。たたきつぶすのは今しかありません。幸いにも敵飛行機は一機も見当たりません」
と緊張気味の声音で言いそれを聞いた山口司令官は即座に第二次攻撃隊を出した。戦闘服に身を固め、艦橋上部の防空指揮所にいるオトメチャンの目の前の飛行甲板を次々に艦攻・艦爆・そして零戦が飛び立ってゆく。オトメチャンは上空哨戒を怠りなく双眼鏡をのぞき続ける。
(残敵掃討…しかし本当に敵は飛行機の一機も持っとらんのじゃろうか)オトメチャンは、第二次攻撃隊が編隊を組んで飛んで行った空を見続けている。

それから三十分もしたころ、オトメチャンは何か…違和感のようなものを感じていた。しきりに周囲を見回し双眼鏡を回すオトメチャンに河原田少尉は
「どうした桜本兵曹?」
と問いかけた。オトメチャンは双眼鏡から目を離さないでいたがふっと双眼鏡を離し、鉄兜のふちに手をかけ、
「気配がします…敵の」
と言いそのあとすぐはっと上空を見上げると
「敵機直上!!急降下―ッ」
と叫んだ。なにっ、とその場の皆が見上げ見張長は伝声管へ「面舵一杯!」と叫ぶ。まぶしい太陽の光の中から湧き出でたのは四機のスピットファイア。『飛龍』ほかの対空砲火が火を噴いたが、次々に爆弾を投下。『飛龍』たち空母は回避の面舵を切っている。
「避けられない…」
オトメチャンは呆然とつぶやいたーー


トレーラー水島の港に〈小泉商店〉の大きな船が接岸して二三日ほどが経った。その間しばらく船上は人の行き交いが激しかったがやがて落ち着いたようである。
舷梯を伝って大きな荷物を下げた二人の男性が下りてきた。その一人、やや年配の男性はトレーラーの土を踏むなり荷物をドンと地面に置き、大きく伸びをすると
「やっぱし南方じゃなあ。熱い暑い。ほいでもわしは暑い方が好きじゃなあ」
と言いもう一人の若いほうはやたら周囲をきょろきょろしている。そして若いほうの男性―彼こそ紅林次郎であるがーは
「柴本さん。わたし、支社長へのご挨拶が終わったらちいと行きたい場所があってですが、ええでしょうか。長い時間は取りません、ちいとのあいだですけえどうか」
とどこか切羽詰まったような声で柴本と呼んだ男性に頼み込んだ。柴本はなんじゃいったい、と笑いながら
「ええよ。なんじゃそんとに切羽詰まったような顔して…。あ!もしかして遊郭にでも行きたいんじゃろ?図星じゃな」
と言ったが紅林は至極真面目な顔で首を横に振り、
「ちがいます。私はその、あの…。言います、私の許嫁がここトレーラーに停泊中の艦にいるんです。もう長い間逢っていないのでやっと会える思うてうれしいてならんのです」
と言った。柴本は「あ、紅林君の許嫁さんか、ここに居るいうんは」とやっとわかったといった顔になった。柴本は
「ほんなら早う逢いたかろう。そうとわかれば急いで支社長にご挨拶しようや。さ、善は急げ急げ」
といってほっほっと笑いながら紅林の背中を軽く叩くとトレーラー支社の建物目指して歩き始める。
トレーラー支社では支社長の小泉進次郎が待っていて二人の姿を見ると両手を広げて迎え、
「柴本さん、紅林さん!トレーラーにようこそ。疲れたでしょう?」
と言って長旅をねぎらってくれた。二人は小泉支社長に挨拶し
「ほかの社員も今日中には船を下りてここに来ます。私たちは急ぎ、到着をお知らせしたくて一足先に参りました」
と言って支社長の進次郎は「わかりました、では宿舎に案内しましょう」と二人を自ら宿舎にと案内してくれた。柴本を一室に案内し、進次郎は「では紅林さんはこちら…」とその隣の部屋に連れて行ったがドアを開けると
「ちょっといいですか紅林さん」
と紅林をそっと部屋に押し込んで
「海軍の姉から連絡がありましたか?あなたの許嫁さんのことなど」
と言った。紅林ははい、と言ってから「しかしやたらと連絡をしていいものかどうか、わからんのです」と正直な心情を吐露した。進次郎はうなずいて
「姉から『紅林さんがいらしたら、上陸桟橋に来てそこの衛兵詰所から発光信号を打ってもらってほしい、メンカイシャアリ、と打ってもらえば行けるから』と聞いています。今から上陸桟橋に行って、姉と会ってきてください」
と言った。紅林は感激して、この年若い支社長の顔を見つめ「ありがとうございます支社長」と言って頭を深く下げた。
そして彼は上陸桟橋を目指して歩いた。だんだんとその表情に不安が満ちてきた。
(桜本さんは、特別な任務でここにはいないと聞いたが…)
防諜の意味もあって許嫁の桜本兵曹が特別任務を負って出ていることは柴本には言わなかった。言えないがゆえに余計不安が増した。果たして彼女は無事で任務につけたのか、そして無事にここに帰って来られるのだろうか。
不安なまま彼は上陸桟橋に到着しそこで「『大和』の小泉純子一等兵曹を」呼び出してほしい旨を伝えた。〈小泉商店〉の社員の願いとあって衛兵長はすぐに発光信号を打ってくれた。
しばらく待って『大和』からランチがやってきた。
降り立った小泉兵曹に駆け寄った紅林次郎は
「お嬢様、お久しぶりです」
とあいさつし、小泉兵曹は「ああ、あの時の」とすぐに応えた。以前、梨賀艦長が大地震に巻き込まれた際に出会った女性と、「小泉商店」の社員の一人とのちょっとした事件の際、実家の「小泉商店」でちらとあったことを思い出した。
(はあえかった。紅林さん言う人はうちの好みとは違うたわ。もしうちの好みだったらどうしよう思うたが…一安心じゃ)
小泉兵曹はそんなことを想ってほっとしていたが、不意に顔を引き締めると紅林をそっと物陰に引き込むと
「これから話すことは絶対誰にも言わんでつかあさい。〈軍極秘〉にも等しい事案なけえ、これだけはどうか願います」
と前置きしてから、桜本兵曹は空母の見張りに欠員が出て手伝いに行ったこと。そしてそれは単なる手伝いではなく作戦行動のためのものであること、そして
「なんでも残敵掃討戦という話じゃったがむつかしい戦らしいんです。…で、…うちが今日通信科の兵曹に聞いたところでは…」
というと顔をうつむけた。紅林は小泉兵曹の肩をつかんで
「どうしたんです、なにがあったがです?言うてつかあさい」
と言った。小泉兵曹はつらそうな瞳で紅林を見つめると、ごくりと喉を鳴らして言った、
「昨日昼前から…桜本兵曹のおる機動部隊からの通信が絶えてるんじゃそうです」。

紅林次郎の目の前が、真っ暗になった。

そしてその同じころ、「小泉商店」の船のそばにもう一隻の大型民間船が接岸した。柴本は支社長の進次郎とそれを見て
「ほう、<南方新興>も来んさったんですね。これで一層合弁事業に弾みがつきますな」
と声を弾ませた。
だが、この船にこそ…厄介なものが乗り込んできていたのだーー
  (次回に続きます)

           ・・・・・・・・・・・・・・・・
なんとオトメチャン、いのちの危機です。今まで戦死者の無かった『女だらけの帝国海軍』ですがとうとう戦死者を出してしまうのでしょうか。
そして紅林さん、小泉兵曹から衝撃の事実を聞いてしまい…、さあこの後どうなりますかご期待ください!

逢いたいあなた 4

オトメチャンこと桜本兵曹の乗った空母『飛龍』は、トレーラー水島を粛々と出て行った――

その『飛龍』を水島港に入ってきたばかりの〈小泉商店〉の船上の紅林次郎が見ていた。隣に立っていた紅林の同僚が目を細めてそれを見つめながら
「大きなフネじゃのう。ありゃなんじゃろう」
と言ったのへ紅林も首をひねって「私もようわからん、しかし甲板がまっ平らじゃけえあれが空母、言うもんじゃろうね。ここに来るといろんな海軍のフネが見られる言うて聞いてきたがほんまじゃの」と言った。
同僚の丘田は
「ありゃ、紅林には海軍さんの許嫁がおる言うて聞いておるが、いろいろ教えてくれんのか?」
と言って紅林の顔を見た。紅林は首筋を伝う汗をハンカチでぬぐいながら
「ほりゃあ丘田さん、〈軍機〉いうもんがあろうが。いくら許婚でもペラペラしゃべれんことがあろうが」
と言い丘田も「ほりゃほうじゃの、つまらんこと言うたわい」と言って二人は笑った。
遠ざかってゆく『飛龍』、その艦上に桜本トメがいるとは夢にも思わない紅林次郎である……

『飛龍』はトレーラー出撃後、偽装進路を取りつつ進んだ。見張長は胸に下げた双眼鏡をのぞきながら
「今度の残敵掃討作戦は、帝国にとって大事な戦いだからね。敵に気取られるわけにはいかないんだ。ラシガエ島の先の島には時間をかけて進むからね」
と教えてくれた。艦内の緊張感がいやがうえにもオトメチャンにも伝わり、オトメチャンは双眼鏡に目を当てたまま
「わかりました。うちも今以上に気ぃ張ってやらんといけませんな。がんばります」
と言って見張長はうなずいた。
その言葉に周囲の見張り員嬢や信号員嬢たちもほほを紅潮させてうなずいている。

その日から五日ののちには「蒼龍」、「瑞鶴」「翔鶴」が合流。それぞれに随伴の駆逐艦や巡洋艦を合わせてもに二十隻ほどの堂々たる機動部隊である。オトメチャンは安田兵曹に
「交代だ。はい、昼飯だよ」
と差し出された握り飯を貰って、それを食べながら艦隊を見回した。初めて乗って、初めて目の当たりにする〈機動部隊〉の艨艟に彼女の胸は躍った。
「飛龍」を先頭に単縦陣形を組み発光信号を放ちながら進む艦隊はこの上なく頼もしく、しかしそれを見つめるオトメチャン・桜本兵曹の胸には一抹の寂しさがよぎった。それは
(ああ、この艦隊の中にどうして『大和』は居らんのじゃろうか…)
という思いである。(『大和』がおったら、そんとな残敵なんぞ一瞬で吹っ飛ばしてしまうんになあ。ああ残念じゃなあ)
オトメチャンは二つ目の握り飯を手に取って食いつきながら
(ほいでもうちはここで『大和』のみんなの期待に応えんならん。うちの頑張りは『大和』の頑張りじゃ。うん、しっかりせんといけんな)
と決意を固めた。

ラシガエ島周辺には敵の姿はないと先発の潜水艦部隊からの入電があり、加来艦長以下『飛龍』幹部は、山口たも司令官に
「これはいい兆しですよ、今回の作戦大成功で終わるでしょう」
と言ったが山口司令官は顔を引き締めて「その慢心がいけないよ。慢心ほど怖いものはないからね、気を引き締めてゆこう」と言い艦長以下は
「わかりました。兜の緒もふんどしも締めなおしてゆきましょう」
と言ってそれぞれの持ち場に走ってゆくーー

その二日前の晩。
航海科の居住区に「桜本兵曹いらっしゃいますか」と訪う声がして、石川兵曹が戸口に行くと内務科の岳野カメ水兵長が立っている。岳野水兵長は石川兵曹に敬礼すると
「内務科の岳野カメ水兵長です。桜本兵曹はおいでですか」
と丁寧な物言いをした。すると奥から「ああ!岳野さん」と小泉兵曹が走り出てきた。そして石川兵曹に
「オトメチャンの従姉さんだ、岳野水兵長。覚えて置きんさい」
というと石川兵曹は自分より年上の水兵長に慌てて敬礼すると
「すみません、うちあなたを桜本兵曹の従姉さんと知らんで…許してつかあさい!」
と言って岳野水長は笑って「ええんですよそんとなこと」と言った。小泉兵曹は岳野水長を廊下に連れ出すと
「ご存じなかったんですね、オトメチャンは三日ほど前『飛龍』の見張に欠員が出たいいうて手伝いに行きました。それがただの手つだいでのうて、作戦行動に連れていかれました。しばらくは戻れんみとうです」
と小声でささやいた。岳野水長はその目を見開くと
「作戦行動の、空母に…。ほりゃあトメちゃんおおごとなったですねえ」
と言って遠くを見る目をした。小泉はさらに小声で
「ほいでですね、岳野さん。オトメチャンに許婚の居るんはご存知でしょう?」
とささやくと岳野水兵はうんとうなずいた。小泉兵曹は
「その許婚が、今トレーラーに来とってんです。そん人は〈小泉商店〉の社員で、今度ここに〈小泉商店〉と〈南洋新興〉が合弁会社を作るいうんで、その視察なんぞを兼ねて来とりんさるんです。ほんとなら二人はもうとっくに逢えとるんですが、そんとなわけでまだ逢うとらんのです。じつは、うちの弟が〈小泉商店〉トレーラー支社の支社長でして、その辺を考慮して報せを持ってきてくれたんですが…」
とそこまで言うと目を伏せてしまった。
岳野水長は
「ふむ…。ほいでも兵曹はトメちゃんの件を向こうさんに伝えたんじゃろ?」
というと兵曹ははいと返事をして
「上陸した友人に頼んでうちがその辺の事情を書いたものを渡してもろうたんです」
と言った。ふん、それでどうなったん?と言った岳野水長に小泉兵曹は
「返事が来んのです。相手の許嫁いう人から。うちはそれをどう考えたらええんかようわからんくて」
と言ってつらそうな顔になった。岳野水長はウーン、と言って艦内帽を取って頭を撫でつけると
「そんとに心配せんでもええんじゃないか?きっとそのお相手さん、会える思うたんがそんとな事情ができたことにびっくりしとりんさるだけじゃろう。ほいで、気にはなるがその辺を聞くんは軍機に触れることもある思うて返事を出すんを遠慮しとりんさるだけじゃとうちは思うがの。まあ、あとニ三日待っとったらどうね?それでもなあも返事も来んかったらまた動けばええ。こういうことは周りが焦らんことよ」
と言って小泉兵曹を見た。
兵曹は何かほっとしたような顔になると
「岳野さん、ありがとうございます。うちゃもう、どうしたらええかわからんくなってしもうて。正直言うてうちはまじめな付き合いいうんをしたことがないもんで。――ありがとうございます」
と言って頭を下げた。すると岳野カメ水兵長は慌てて
「やめてつかあさい、下士官が水兵に頭を下げたらいけません。どこで誰が見とってかわからんのじゃけえ、誤解されるようなことはせんほうがええですよ」
と注意した。小泉兵曹はそれもそうだと思い、
「では…完全に二人の時以外は失礼とは思いますが下士官と水兵、という関係でゆかせてもらいます。どうかご勘弁」
と言い岳野水兵長は「それでええんですよ」というと急に真顔になってさっと敬礼すると走り去っていった。すぐそのあと、小泉兵曹の後ろから数名の准士官嬢たちがやってきて、ラッタルを上がって行った…

さらに同じころ、〈小泉商店〉トレーラー支社では紅林次郎は星が降るような夜空を見上げながら桜本トメを想っていた。小泉純子から「桜本トメ海軍一等兵曹は突然の任務により当分の間トレーラを離れることになりました。詳細は言うことができませんが必ず無事帰還することと思います。紅林さんにはどうかその日までお待ちいただきたいのです。帰還の日などわかり次第お知らせいたします。以上はなはだ簡単ではありますがご了承願います」という手紙をもらっていた彼は
(どんな任務なんだろうか。危険な任務でなければええが)
と気をもんでいた。本当は小泉純子にじかに会ってでも、あるいは詳細をもっと求める手紙を誰かに託してもよかったのだが
(そんなことをしてはいけない。きっと重大な任務なんじゃけえ詳しいことが純子さんも言えんのじゃろう。ここは男らしくトメさんの無事を待とう)
そう思ってじっと耐える紅林であった。

それからさらに数日ののち、『飛龍』ほかの機動部隊は〈残敵掃討戦〉にいよいよ突入していた――
 (次回に続きます)

         ・・・・・・・・・・・・・
様々な思いが交錯するトレーラー島、そして機動部隊にいるオトメチャン。
無事に彼女は帰って来られるのでしょうか、残敵掃討とは言いますがその程度の残敵なのか。あまり相手をなめてはいけないと山口たも司令官も言っておられます。
皆の想いが星に届きますように。そして次回をお楽しみに。

「星に願いを」
When You Wish Upon A Star 【ピノキオ】
[parts:eNozsjJkhAOz1FQjkyTTlMzE4oDUTIOUgpxkJjMTAyZjMwMmAyYEcHBwAAAcuwl2]

逢いたいあなた 3

オトメチャンこと桜本トメ海軍一等兵曹は空母・飛龍からの迎えのランチに乗って『大和』を後にしていった――

身の回りの品を詰めたカバンを足元に置いて前を見つめるオトメチャンに案内の下士官嬢は微笑みながら
「そんなに緊張しなさんな。あんたは海軍期待の弩級艦・大和の人でしょう?ならもっと堂々としてなさいよ」
と言ってくれた。その微笑みにオトメチャンの緊張もいくらか和らぎ、胸の奥にしこっていた気分の悪さが薄らいだ。飛龍の下士官嬢・安田八重乃一等兵曹は
「空母は初めて?…そう、でもきっとすぐ慣れる。だって大和よりずっと小さいもの。艦に上がったら私かほかのものが簡単に艦内を案内するからね」
と言って「ほらもうあそこに」と言って指さした先にーー空母飛龍の姿はあった。
ランチから舷梯を上がり舷門を通った二種軍装で身を固めたオトメチャンは、出迎えの航海長桐橋少佐、それに見張長の河原田少尉に挨拶した。そのあとを安田兵曹が上がってきた。
やや緊張気味の挨拶に桐橋航海長と河原田少尉は微笑み、「まあそんなに緊張しないでいいよ…今回は急な話で申し訳なかったがどうにもしようがなくてね。どうかよろしく願います」と言ってオトメチャンは
「精一杯務めさせていただきます、よろしく願います!」
と大きな声で返事をして敬礼した。二人の士官は満足そうにうなずくとオトメチャンのそばに立っていた安田八重乃兵曹を手招くと
「安田兵曹は航海科の見張担当だ。何かわからないことがあったら安田兵曹に聞きなさい。では安田兵曹、まず居住区に行って持ち物を置かせてそのあと艦内をさっと回ってやりなさい」
と命じ、安田兵曹は「はい。では早速」というとオトメチャンを手招き居住区へと降りて行った。その後姿を見ながら航海長と見張長は
「さすが『大和』の、いや海軍ぴか一の見張り員だけのことはありますね。眼の配り方がもう違う」
と言ってうなずきあい見張長は「出来たら欲しいものですね」と小声で言った。桐橋航海長はふっ、とため息をつき
「ま。だめだろうがね。向こうも虎の子の見張り員をそう簡単には寄越すまい」
と言って二人はウフフと笑った。

さてオトメチャンは安田兵曹の後について居住区へ向かっていたがその途中、加来艦長に出くわした。安田兵曹とオトメチャンが敬礼するのへ返礼した艦長は
「はて、こちらは初めて見るお顔ですね」
とかすかに小首を傾けた。安田兵曹が実は、と話すと艦長は「ああ!」と声を上げ
「ようこそ飛龍へ。大和とは比較にならないだろうがどうかよろしく。急なことで迷惑をかけてしまいましたね、許してください。ともあれ、よろしく!」
と言い、オトメチャンは感激してほほを紅潮させてもう一度敬礼し
「しっかり相務めます。よろしくお願いいたします」
と大きな声で言い、加来艦長はこれも満足げにほほ笑みながら去って行った。

居住区に着くとほかに人はおらず、安田兵曹は空いているチェストを探し出してその扉を開けて
「ここ空いてるから入れなさい。済んだら上に行くよ」
と言った。オトメチャンは荷物を押し込みながら「もう皆、配置についとってですか?ほいで…うちは飛龍がどんとな作戦に出るんかまだきいとらんのですが?」というと安田兵曹は
「ええ?聴いてなかった?それはすまない、あのねえ実はね」
と話し出したのは
〈残敵掃討〉
「…なんだよ、知ってるでしょう?ラシガエ島。あの先の島にイギリス軍が残っていて、それを討つ」
安田兵曹はそういってオトメチャンの瞳をじっと見た。オトメチャンは遠くを見つめる目をして「ほうでしたか。…あの島の先に、ね」と言いそのあとすぐ安田兵曹を見るなり
「ほいでも何でそんな残敵掃討戦なら『大和』も行かんのですかね」
と不思議そうに言った。安田兵曹はきまり悪げにほほを右手の人差し指でひっかきながら
「戦艦は足が遅くて役に立たんから、今回は『金剛』『榛名』を後ろにおいて機動部隊中心に叩くんですって聞きましたよ。しかも今回大事な作戦だから隠密行動。ほかの艦艇は途中から合流します」
と言った。オトメチャンの顔が情けなさげな表情となり
「はあ…そんとに戦艦は役に立たんですかねえ。まあ、巡洋艦や駆逐艦みとうに素早いことはないが、しかしひどい言われようですなあ」
と言ったあとなぜだか笑いだしてしまった。安田兵曹は「ごめんなさい」とまるで自分のせいのように言って
「あ、早く配置に行きましょう。皆に紹介します」
というとオトメチャンの背中を軽く叩いて走り出した。

飛行甲板上の「防空指揮所」にあがったオトメチャンは(なんじゃえらい低いのう)と思ったが気を引き締めた。
何人もの航海科員嬢や信号員嬢たちが安田兵曹に紹介されて敬礼するオトメチャンに返礼の後
「急な話で申し訳ない、しかし助かった。うちのぴかイチが急病になってしまって…。でも『大和』の、いや、全海軍一の見張りのぴかイチが来てくれてこの戦、勝ったも同然だね」
と言って喜んだ。オトメチャンもそこまで言われると悪い気がするはずもなく、「いやあ、そんとなことは」と謙遜しながらもまんざらではないようだ。
早速オトメチャンは担当の双眼鏡に付くとそれを回し始め、周囲で見ていた『飛龍』の見張り員嬢たちは「わあ、できる人の扱いはどことなく違うねえ。さすが。さあ私たちも負けないようにしないと!」
と言ってそれぞれの配置についた。

その晩オトメチャンは、居住区のハンモックの中でかすかなため息をついていた。明日明後日にも紅林がここ、トレーラーに来るというのに(なんという不運なんじゃろう)と悲しく、自然に涙が湧いてきた。そしてその晩は泣きながら眠った。

翌朝、『飛龍』はその身をトレーラー水島から外へと動かし始めた。オトメチャンはもう、防空指揮所の双眼鏡についてあたりを睥睨している。
その双眼鏡が水平線をなめたとき、オトメチャンは一隻の民間の輸送船が、駆逐艦の護衛を従えて水島の港に入ってくるのを見た。
(『小泉商店』のフネじゃ!あああれに紅林さんが乗っとるんに)
オトメチャンの胸中に激しい疼きが走ったがそれをかろうじて抑え、彼女の双眼鏡は空を向いた。

オトメチャンが見た民間船は果たして『小泉商店』のもので紅林次郎は甲板に出て南方の風に吹かれていた。予定より一日早い到着である。
なんて熱いんだ、と思いつつ見つめる先にはトレーラー水島が横たわり、彼の胸は(逢える。桜本さんと逢える。ここに滞在中何回逢えるだろうか)とときめいている。

さらに。
『大和』防空指揮所では小泉兵曹が遠ざかる『飛龍』に向かいそっと手を合わせて
「オトメチャン、早う、一日も早う帰れるよう祈っとるけえね。ほいで紅林さんと逢えるように祈っとるけえ…。心配せんでええ、一所懸命に任務を果たしてこいや…」
とつぶやいている。

そのオトメチャンも紅林次郎も、そして小泉純子兵曹もーーそのあとに厄介者を積んだ民間船が来ることをまだ知らないのである――
 (次回に続きます)
   
                ・・・・・・・・・・・・・・・
オトメチャン『飛龍』に移乗完了です。飛龍の皆とは仲良くできているようですがやはり心は…。そして予定より一日早い到着の紅林次郎さん、オトメチャンとの再会を心待ちにしていますが。
小泉兵曹も気をもんでいます。
そしてー厄介者を積んだ民間船とは??
緊迫の次回をお楽しみに!

飛龍(画像WIKIより)<img src="http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/84/e0be5b478eda87293706de315081d2d8.jpg" border="0">

逢いたいあなた 2

許婚の紅林次郎の訪いを待つオトメチャンに非情な命令が来たーー

小泉兵曹から手紙を受け取って喜びに浸るオトメチャンだったがその翌朝、当直明けに佐奈田航海長直々に呼び出された。オトメチャンが(何事じゃろうか、航海長からお呼びが来るとは)とかすかにいぶかりながら第一艦橋へと走った。
「桜本兵曹参りました」
そういって第一艦橋に飛び込むとそこには佐奈田航海長のほかに松岡分隊長そして麻生分隊士がいる。佐奈田航海長がオトメチャンを手招いた、その前にオトメチャンは立った。佐奈田航海長は、麻生分隊士を見てうなずき分隊士はオトメチャンに向かうと
「桜本トメ海軍一等兵曹。明日から当分の間「空母・飛龍」に移乗し見張業務に付くことを命ず」
と言い、松岡分隊長が
「トレーラー艦隊司令からの命令だよ。『飛龍』をはじめとする機動部隊が先週からここにきているのは知っているね?その『飛龍』の見張り員が一人急病で水島の診療所に入院してね、…実は『飛龍』は明日から作戦行動に出るのだが見張が欠けてはは困る。というわけで桜本さんあなたに白羽の矢が立ったってわけですよ。艦隊司令からのご命令ですからね、しっかりやったんさい?というわけであなた、今日中に『飛龍』に行ってくださいね、これ修子のお願い」
と丁寧に補足した。
「明後日から作戦行動…ほいで今日のうちに『飛龍』に行かんならんのですか?いつここに帰れるかわからんのですか?」
オトメチャンは唇を震わせるようにして言った。ややその顔色が青ざめてきて、麻生分隊士は首をかしげて
「桜本兵曹どうした。何か不都合でもあるのか」
と問いただした。が、オトメチャンは何事もなかったかのように顔を上げると
「なんでもありません。なんでもないんです…わかりました、ではうちは何時に行ったらええですか」
と分隊士に尋ね、分隊士は航海長とともにオトメチャンに話を始める。
そのオトメチャンを松岡分隊長は静かな視線で見つめているーー

航海長と分隊士からの話を聞き終わったオトメチャンは悄然として第一艦橋を後にして居住区に向かった。その彼女を追ってきたのは松岡分隊長、「おーい桜本兵曹」と呼んでオトメチャンは振り返った。振り返ったその顔はなんだか泣きそうで松岡分隊長はその肩をそっと抱き寄せると
「こっちへ」
とラッタルの陰に引き込んだ。そして
「あなた、もしかして『行きたくない』『行けない』と思っていますね」
と言った。オトメチャンは「いいえ…」と言ったがその瞳は暗く、下を向いたままである。(やはりね)と松岡分隊長は思って
「あなたの許嫁って人…近々ここに来るんじゃないのかな?違うかな」
と言い切った。果たしてオトメチャンの顔が悲痛に歪みその瞳にあふれんばかりの涙が湛えられた。そして
「ほうです分隊長。許嫁が明後日こちらに来んさるんです。ようやっと会える思うたんに…」
とそこまで言うと彼女の目からは涙がぼたぼたと落ちて防暑服の胸を濡らした。が、次の瞬間オトメチャンは頬を伝う涙をぐいっと片腕でぬぐうと
「ほいでも分隊長。うちは海軍軍人です。そんとなことで行きたくないの行けないの言いません。うちは『飛龍』に行きます、ほいで作戦行動に出ます。精一杯、足手まといにならんようにやってまいります。『大和』の名誉を汚さんようしっかり務めてまいります」
と言って分隊長を見つめた。
「桜本兵曹。あなたは…」
松岡分隊長は心なしか痛ましげな表情になったが決然
「わかった。しっかりやってきなさい。あなたの気がかりは誰かに頼んでゆくと良い。では桜本兵曹、一緒に行こう。皆に話をしないといけないからね」
と言ってオトメチャンを従えて歩き始めた。そのあとを硬い表情で着いて行く桜本兵曹…

「ええっ」
その話を聞いた航海科見張員たちはそう叫ぶように言って絶句した。石川兵曹は
「そんな、どのくらいになるかわからんなんて無責任じゃわ。桜本兵曹はうちらの班長で『大和』の人間じゃわ。それなのに『飛龍』が勝手に寄越せいうなん変じゃわ、おかしいわい」
と怒り出すし、亀井上水さえ
「『飛龍』にねじ込んでやろうかいね、勝手ばっかしいいよってからに!」
と怒ってキーキー叫び出す。その皆をまあまあ、と抑えて分隊長は
「ですから左舷の班長は当座不在です。が、まあ『大和』は作戦行動もないですから…。しかしその埋め合わせはみんなでしっかりやりましょうね、いいですね。ではまたごきげんよう」
と言ってラケットを担いだあとオトメチャンに
「迎えのランチが一〇〇〇(ひとまるまるまる。午前十時のこと)に来る。それまでに準備を整えておきなさい」
と言いおいて出て行った。
分隊長の姿が消えるとすぐに小泉兵曹がオトメチャンに寄ってきた、その顔は心配と不安で満ちている。そして
「オトメチャン…えらいことになったのう。せっかく紅林さんがここに来るいうんに」
と言ってオトメチャンを見た。オトメチャンは小泉兵曹に微笑み
「残念じゃが仕方がないわい。うちが戻るまでに紅林さんがここに居ってくれたらええんじゃがなあ…ほうじゃ、小泉兵曹に頼みがある。どうか頼まれてくれんか?」
と言った。小泉はなんね、何でもするで?と言って顔を寄せたのへオトメチャンは
「紅林さんにこのことを知らせてほしいんじゃ。うちが空母に一時的に移動になって作戦行動に出たこと、ほいでいつ戻れるかわからんいうことを、どうか、どうか伝えてつかあさい。小泉兵曹どうか…願います」
とどこか必死な声音で言った。その瞳にさえ必死な色があらわれ、小泉兵曹は慌ててオトメチャンの両肩をつかみ
「大丈夫じゃ、安心せえ。うちがきちんと紅林さんにこのことを伝えるけえな。安心せえ、安心して任務を果たせよ?ええな、なあも心配せんでええからな。オトメチャン、な…?」
というと小泉兵曹のほうが泣き出してしまった。その小泉を支えてオトメチャンは
「ありがとう小泉兵曹、どうかよろしゅうにね。面倒かけてすまんが…あん人に…紅林さんに…」
というと瞳を潤ませてしまった。オトメチャン、と言って小泉兵曹は絶句した。

それから一時間半ほどのち、オトメチャンはややうつむき加減で『大和』を降り、『飛龍』へと向かうランチに乗って去って行った。
「オトメチャン、心配せんでええからの。しっかりやってこいや。しっかりな。ほいで早う帰ってくるんを待っとるよ」
小泉兵曹は防空指揮所の囲いから身を乗り出すようにして、オトメチャンの乗ったランチに叫んでいた――
 (次回に続きます)
          ・・・・・・・・・・・・
オトメチャン、『飛龍』にお手伝いに行きます。が、ただのお手伝いではなく作戦行動に連れていかれる羽目に。しかももうすぐ許嫁の紅林さんがトレーラーに来るというのに。
さあこの後どうなる?ご期待ください!

『飛龍』<img src="http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/d8/1684e2219f42203d971cadbd7bd726b4.jpg" border="0">

逢いたいあなた 1

ある日オトメチャンにこの上ない嬉しい知らせが来たーー

松岡修子海軍中尉の公務に同行して上陸していた小泉純子海軍一等兵曹は、その帰り道弟の進次郎に出会い、一通の手紙をそっと手渡されていた。「小泉商店」トレーラー支店長になって間もない純子の弟進次郎は
「姉さんお元気そうで何より。あ、これ、うちの紅林さんから桜本さんへです。ほかの人に見つからんように願いますよ」
と言ってそっと姉に手渡したのが、桜本兵曹の許嫁・紅林次郎からの手紙である。桜本兵曹と紅林次郎はとある事件がきっかけで出会い、恋に落ち許嫁の中になったのである。
小泉兵曹は手紙をさっと懐に隠すとうんとうなずき
「大丈夫、しっかり渡すけえの。そろそろ紅林さんはここに来んさるんじゃね?」
と小声で訪ねた。少し離れたところにいる松岡中尉に聞かれるのを少しためらったからである。進次郎も声をやや落として
「はい。なんでも途中で時化にあってグアムに寄ったけえ予定よりちいと遅れたそうですが、あさってにはここに来ますけえ、どうかよしなに」
と言った。小泉兵曹は弟の顔を見つめると
「ありがとう進次郎。――あんた、ずいぶん立派になったねえ。あの泣き虫進ちゃんがうそのようじゃわ」
と言って笑い、進次郎は恥ずかし気に微笑んだ。そして小泉兵曹は腕時計をちらと見ると
「ほいじゃあもう時間なけえ、残念ながこれで。また会おうな。元気で!」
というと弟に敬礼した。進次郎も「姉さんもお元気で。またそのうち会いましょう」と言って頭を下げた。小泉兵曹が松岡中尉のそばに走っていき
「分隊長お待たせしてしもうてすみません」
と謝ると松岡中尉はいつも担いでいるテニスラケットをブン!と一振りした。小泉はびっくりして「ごめんなさい分隊長、もっとはように話を終わらしたらえかったんですが!」と言ったが松岡中尉は
「なに言ってるんです?久しぶりに弟さんとあったのに、あれだけでよかったんですか?それより、特年兵君への手紙、なくさないようにしなさいよ」
と言って小泉兵曹は「み、見とったんですか!」と大声を出した。すると松岡中尉は小泉兵曹の唇に右手の人差し指をそっと当てて
「しっ!あなたそんな大声出したらほかの士官に聞かれますよ?聴かれたらその手紙、没収されて特年兵君の手に届かないじゃないですか。壁に耳あり障子に目あり、というでしょう?気をつけなさい」
と言った。小泉兵曹は、分隊長が自分の唇に人差し指を当てる手をそっとつかんでどかしながら
「はあそりゃご心配をありがとうございます…いうて松岡分隊長も士官なけえ、この手紙を没収できるんじゃありませんか?まさか、そんとな物わかりのええこと言うて突然手のひら返しなさるんと違いますか?」
と警戒した。すると松岡分隊長はさらにラケットを振りながら
「あなた!小泉さん、私と一体何年関係を持ってるんですか?私はあなたが思うような卑劣な人間と違いますよ?私をほかのくそパッキンな士官と一緒くたにしちゃいけません、私はあなたたたたち、下士官や兵隊さんの味方ですから」
と〈あなたたち〉の〈た〉の数がやや多くなったがそういって今度は小泉兵曹の肩をラケットでトントン叩いた。
小泉兵曹は
「か、関係を持ってる…?分隊長その言い方は誤解を招きますけえやめてつかあさい。―はあそうですか、それはすみませんでした。さすがうちらの分隊長はほかの士官とは違う思うてましたがやっぱし。さすがですね。…でも分隊長、桜本兵曹は〈特年兵〉ではありません。立派な海軍一等兵曹ですけえの」
とやんわり注意した。すると松岡分隊長ははあ~とため息を吐くとその場にがっくりとしゃがみ込んで
「あなたのその言い方、麻生さんにそっくり!私は親しみを込めて〈特年兵君〉と言ってるのにまだわかってくれないんですねえ、あなたもっと熱くなりなさい!」
と言って、突然ぶわっと立ち上がるとラケットをぶんぶん振り回して
「熱くなれよ!あきらめんなよ!」
と叫び出すのであった。それを少し離れて見つめる小泉兵曹、「はあ難儀じゃなあ。どうしてこの人とはまともに話ができんのじゃろう」と辟易している……

それから小一時間ほどのち、進次郎から託された紅林次郎の手紙は桜本オトメチャンの手に渡された。小泉兵曹は嬉しそうにほほ笑みながら
「えかったの。進次郎が言うにはなんでも途中で時化におうてグアムに立ち寄ったけえ予定より遅れたんじゃと。でも無事なけえ安心せえ」
と海兵団同期の幸せを喜んだ。オトメチャンは頬を染めて「ありがとう小泉兵曹。弟さんにもよろしゅう言うてな」と言って小泉兵曹の手を握って感謝を表した。
そしてオトメチャンはこれから当直にたつ小泉兵曹と別れて居住区に戻った。そして部屋の隅の壁に背中をつけるようにしてしゃがみ込むと、彼からの手紙をそっと開封した。
便箋をそっと引き出し広げた。懐かしい彼の文字が並んでいてオトメチャンは胸のときめきを感じている。
便箋の文字に目を走らせる…すると、紅林次郎はもう明後日にはここトレーラーに到着のようである。
(明後日…紅林さんがここに来なさる。ああ、うちはもう早う逢いとうてたまらん)
そう思うオトメチャンである。
そこに、ハシビロコウの<ハッシー・デ・ラ・マツコ〉、小犬の〈トメキチ〉それに仔猫の〈ニャマト〉が入ってきてオトメチャンの隣に座り込んだ。
マツコがその大きなくちばしをガタガタさせて
「ねえなに見てんの?」
と言いトメキチが便箋のにおいをクンクン嗅ぐと
「マツコサン、これ、トメさんの大事な人からよ」
と言いニャマトもトメキチの肩から掛けられた袋の中から
「ニャマート!ニャマト」
と言ってマツコへ声をかけている。オトメチャンははっと我に返ったようになってマツコたちを見て嬉しそうに手紙を三匹に見せて
「ほうよ、これは紅林さんからの手紙。小泉兵曹の弟さんが受けとって小泉からうちへ渡してくれんさったんじゃ。ほいでの、紅林さんは明後日にもトレーラに来なさるんよ。お仕事でじゃけど、うちに会えるいうて…。ああ、早う逢いたいわあ」
と言って手紙を胸に抱いた。
マツコたちはその様子を見つめていたが笑みを浮かべて
「よかったわね。好きな人が居るっていいわねえ」
と言った。

が。
その翌日オトメチャンにとっては無情の〈命令〉が下るとはだれも思いもよらなかったーー
  (次回に続きます)

           ・・・・・・・・・・・・・・・
オトメチャンの許嫁から待望の手紙が来たようです!トレーラーに来るという知らせにオトメチャンの胸はときめきますが…無情の命令とは??
緊迫の次回をお楽しみに。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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