2017-10

小泉兵曹逃げ出す。 - 2015.06.07 Sun

小泉兵曹は、久しぶりの内地での一週間の休暇をもらうことになった――

 

航海科員の中では一番の休暇で、石場兵曹長など<暗黒の一重まぶた>を重々しく垂らしながら

「なんであなたが一番か知っとる?それはねえ、あんたが『男男!』言うてほりゃあやかましいけえ麻生分隊士が特別にお願いしてくださったおかげです。じゃけえアンタ麻生分隊士に感謝せんといけんよ」

と言った。

小泉兵曹は「まさかそげなことあるわけなかろう」と笑い飛ばしつつも出がけに麻生分隊士に

「分隊士の有難きお口添えにてイの一番の休暇をいただけましたこと感謝いたします!ありがとうございます、ほいでは行ってまいりますっ」

と一種軍装に身を包み、直立不動で敬礼して艦を降りて行った。

麻生分隊士は「はあ?なんのことね?別にうちはなあも口添えなんぞしとらんで?あいつどうしたんじゃ、ちいとおかしいで?上陸より海軍病院に入れたほうがええんじゃないかね?」と真相を知らないからあきれている。そしてうーん、と考えた後

「まああいつをいの一番の上陸にさせる理由があるなら、顔見ただけで『しとうてたまらん』言うんがわかるからじゃろうか、ワハハハハ」

と一人大笑いしてしまった分隊士であった。

 

桜本兵曹は同期の上陸をうらやむでもなくいつものように淡々と自分の業務をこなしている。いくつかのランチが『大和』を離れて行き上陸場を目指してきらめく海の上を走ってゆくのを見た。その美しさにしばしその目を細めた桜本兵曹である。

いつの間にかそのそばに麻生分隊士が立っていて、

「オトメチャンも早う休暇が欲しいか?」

と尋ねた。桜本兵曹は双眼鏡のレンズを柔らかい布でそっと拭いながら

「休暇ですか?まあ、欲しいと言えば欲しいですね…正直に言うと欲しいです!ゆっくり眠りとうて。ほいでもうちは、祖父の葬儀やらなんやらでお休みをいただいてますけえ、そげえぜいたくは言えません」

と言って分隊士を見て微笑んだ。

分隊士はその微笑みにたまらないものを感じながらも何とかこらえて

「それとこれは別じゃ。副長も久々に休暇をとりんさるようじゃけえ、これを機に皆休暇に入るんと違うか。休暇を取れたもんはまだそれほど多くはないけえの。それに―ー」

とそこで言葉を切った。桜本兵曹はそのかわいい瞳でじっと分隊士を見つめ「それに――なんですか?」と尋ねる。

麻生分隊士は遠くに視線を放って

「トレーラーに戻る(・・)時もそう遠くはない言う話じゃけえね」

と言った。桜本兵曹は「ほうですか…今回はずいぶん長い内地滞在でしたけえね。じゃが、あまり改装だとか何とか、しとらんではないですか?」と言った。

麻生分隊士は

「今回は改装うんぬんより、うちらを内地に返したかったんと違うかなあ。長いこと外地に居ったからね。あとは磁性塗料の塗り直しじゃろう、そがいなん、すぐに終わるけえ。一週間もあれば乾燥までできるけえな」

と言ってオトメチャンに視線を向けた。オトメチャンはほうでしたか、と言って分隊士を見つめた。そして

「トレーラーに戻るいうことになれば、寂しいでしょうね」

と言った。寂しい?だれがじゃ、と問うた分隊士にオトメチャンは

「山中副長、それに繁木航海長。お二人はご結婚されたばかりで初めて外地に行くことになって…大好きな旦那様と別れて過ごさんならんのはどれほどさみしいものか思うたら、なんだか気の毒で」

と言って目を伏せた。

この子は!――分隊士は、オトメチャンはなんて人を思いやれるのだろうと感激した。そして

「その通りじゃオトメチャン、お二人は寂しかろうのう…うちらはその点、いつも一緒じゃけえなあも寂しゅうないわ」

と言ってオトメチャンを抱きしめた。

 

さて小泉兵曹。

彼女は休暇として実家に長逗留するのは久々である。今回は今までと違って継母とも分かり合えたし、姉の岸田今日子にも「おかあさんはうちらが思うとるような悪い人と違います。一所懸命で小泉商店のために尽くしてきたけえちいときつい感じがしとったんでしょう。うちは今回ようわかりました」という内容の手紙を書いて出して、今日子からそれを喜ぶ返信が来ていた。そして姉は「純子の休暇が決まったら知らせてつかあさいな、あの家でみんなで仲よう逢いましょう」と書き添えてきた。

実家への道を歩きながら(そういえば)と小泉兵曹は思った、(進次郎だけは、おかあさんを悪う言わんかったな、進次郎はずっとあの家にいておかあさんとも一緒に生活しとったけえすべてわかっとったんじゃな)と。

そして実家の『小泉商店』の前に来ると、社員たちが「あ、お嬢様じゃ」「お嬢様のおかえりじゃ、社長を」と騒ぎ始め、小泉兵曹はちょっと恥ずかしげに微笑み「ただいま」と小さく言うと社員の一人に案内され店部分を横に見ながら自宅へと案内された。。

自宅部分は社屋とは別に建てられ、今度は前より落ち着いた雰囲気になっている。

自宅の玄関にはもう、騒ぎを聞きつけたか孝太郎とエイが待っていた。孝太郎はしかつめらしい顔で「ご苦労様」といい、継母のエイはきちんと頭を下げて

「お疲れさまでした…お帰りなさい」

とあいさつして、小泉兵曹はその母に向かって「ただいま!」と力いっぱいの敬礼をした。その敬礼を嬉しそうに受けて、エイは

「さあさあ、上がって!長い間のフネの生活でお疲れでしょう?お風呂が沸いていますよ」

と兵曹を気遣った。孝太郎も

「風呂に入ったらどうだ、疲れが取れるぞ」

と言って兵曹は、風呂は母が沸かしておいてくれたのだと悟った。だから「はい、では早速入らせていただきます。――艦では海水の風呂ですけえ入ったいう気がせんのです。おかあさんありがとう、さっそく使わせていただきます」と一種軍装の上着を脱いだ。

その上着を受けとってエイは「さあさあ、こっちですよ」と兵曹を湯殿に案内する。

案内された湯殿は以前より広く使いやすそうで兵曹は感心した、そして

「おかあさん今度の風呂場は広うてええですねえ!こりゃ使いやすそうでええですねえ」

と嬉しそうに言って母を見た。エイもうれしそうに

「喜んでもらってうちもうれしいわ。この風呂はね、うちが頼んでちいと大きめにしてもろうたんです…純子さんが帰ってきたとき狭い風呂じゃ嫌じゃろう思うて。休暇の間思い切り風呂を楽しんでつかあさいね」

と言って、兵曹はその心に感じ入り「…おかあさん、ありがとうございます」と言って深く頭を下げた。そして、私はこんなに良い母になんてことを今まで思っていたんじゃろう、とわが身を恥じた。以前までの兵曹は、継母は小泉商店の財産を目当てで来たに違いない、油断ならん女じゃと思って決して心を開かなかった。そういえば、そんな時この母はとても悲しそうな瞳をしてうつむいていたっけ。

(女いうんは浅はかなところがあるのう)

そう思いつつ、これからは少しずつ視野を広げて行かんといけんなと思った兵曹である。

兵曹は着ているものを脱ぎ、洗い物は風呂場の隅にあった盥にいれた。湯をその中に入れてまず洗濯である。新兵時代からさんざ仕込まれた洗濯の技で、小泉兵曹は褌、襦袢などを洗った。そしてそのあと堪能するほどわが身を洗って、ゆっくり湯船につかってうたた寝さえしてしまった。

 

その晩は親子三人で楽しい晩餐。小泉兵曹は酒を飲みつつ外地の話などして両親を笑わせた。

そのあとで不意に思い出したように兵曹は「ほうじゃおかあさん」と言った。

「はい、なあに?」

と言ったエイに兵曹は

「こないだいただいた手紙に桜本兵曹をここに来させるように、言うて書いてあったがですが…ありゃどういうことでしょうかのう?」

と尋ねた。

するとエイは孝太郎を見た、孝太郎はエイにうなずくと娘の純子に向かい

「あのなあ、純子。あの桜本さん言う下士官さんには…その、何というたらええんか…ええ人はおらんか?」

といきなり聞いた。純子兵曹は(ええ人…いるゆうたらいるが麻生分隊士はおなごじゃけえ厳密にいうたらええ人いうンとは違うな)と瞬間的に考えると

「居りません。桜本はおぼこですけえ。まあ何ともつまらんおなごで遊びをせんのですわ、まあ酒くらいはちいとたしなみますがね、たばこは吸わんし賭け事もせん。言うてみりゃあつまらんおなごです」

と言っていかにも自分のほうが人間的にも<面白い>女だと暗に知らせたつもりの兵曹。

すると孝太郎とエイの顔が嬉しそうに輝いて

「ほりゃあえかった!あんなあ、純子。うちの社員のひとりがなあ、えろう桜本さんを気に入ってなあ。ぜひ交際させてほしい言うんじゃ。じゃけえ今度桜本さんが休暇の時ここに来てくれんさい、言うて手紙にしたんじゃ」

と孝太郎は言った。その言葉にエイもうなずいている。

小泉兵曹は思わず

「なんねお父さんもお母さんも、自分の娘にちいとも縁談をもってこんで、何でよその娘にそげえな話を!」

と叫んでいたが以前見合い話をむげに断ったのを思い出し口をつぐんだ。

孝太郎は

「お前は結婚はしばらくはせん、いうたじゃろうが!それにお前は嫁に行くにはちいと落ち着きがなさ過ぎていけん。じゃけえお前には休暇でここに居る間、お茶とお花を習ってもらうで。ほいで朝早くには誓願寺に行って早朝座禅を組むんじゃ。ええね」

と兵曹にとっては残酷なことを言った。

「グエッ」

と小泉兵曹はカエルがつぶれたような声を上げた。(いけん!こりゃあ早々に呉へ戻らんとせっかくの休暇が台無しになる)と思った。

そしてふと顔を上げると

「ほうじゃ、オトメチャン――こりゃ桜本のあだ名ですが――を見初めたいうんは誰です?」

と尋ねた。

が、孝太郎は「お前に教えたら絶対邪魔するじゃろ!教えたらん!」と言われてしまった。

 

結局小泉兵曹は広島の実家にたった一泊しただけで

「呉の下宿に行って掃除もせんとならんし、あれこれすることを思い出しましたけん、帰ります」

と言って逃げ出してしまった。

一種軍装に身を包み、「ではまた、おかあさん。いろいろありがとうございました」と敬礼して去ってゆく兵曹の後姿を見送りつつ、エイは

「ゆっくりしてたらええのに。純子さんはよっぽど座禅やお茶やらお花を習うんが嫌なんじゃねえ」

とつぶやいて、そしてくすっと笑った。それらが嫌で、せっかく帰ってきた実家から逃げかえる兵曹がかわいかった。

(次にかえって来るときは、純子さんにもええお話を用意しとかんとね)

エイは心でそう、兵曹に呼びかけた。

 

小泉兵曹は呉に帰って下宿に荷物を置いた後、さっそく久々の朝日町に繰り出し…思う存分男性を味わい楽しんだのだった。

(結婚したらほりゃあ毎晩やれてええじゃろうが、いろいろ味わうことは出来んもんな。うちはまだ結婚はせんでええわ)

ととんでもないことを想いつつ、男性と抱きあう彼女であった――

 

                  ・・・・・・・・・・・・・・

 

小泉兵曹の休暇。継母への想いはすっかり良いものになり母のエイも兵曹を深く愛してくれていました。しかしお父さんは娘をしっかり見抜いていましたね、早朝座禅に茶道華道。どうも小泉の好きではないものばかりでした。逃げるが勝ちか小泉兵曹。

そしてオトメチャンに人生の春の兆しが!

この先どうなりますか、お楽しみに!

大和
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● COMMENT ●

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
小泉兵曹、さっそくの休暇がこんなことになりましたが、さっさと逃げていい思いをしに行きましたね(;´Д`)。しょうもない女ですがどうかこらえてくださいませw。
あんなことしてたらお嫁入りに差し支えると思うんですがねえ~。
オトメチャンはまさに乙女ですのでどこに出しても恥ずかしくないですが、この先どうなりますでしょう、ご期待くださいませ!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
しょうもない小泉純子さんですw。もうこれはある意味病気かもしれませんので放っておきましょうwww.

問題はオトメチャンですね、彼女あまり世間ずれしていないので心配ですね、そして麻生という怖いお目付け役兼想い人がいますのでどうなりましょうか…(;´Д`)。
ドキドキやきもきしつつ見守ってやってくださいませ^^。

見張り員さん   こんにちは♪

いつもありがとうございます♪
小泉兵曹さんは航海科員の中では一番の休暇
をもらえて実家に戻っても一泊で呉の下宿に
戻って朝日町に繰り出し思いっきりあそんで
満足したでしょうね。
オトメチャンはみんなに可愛がられていますね。
いいご縁があるといいですね。

こんにちは。
純子さんは相変わらずですが(笑)オトメちゃんの今後が気になりますね~ナゼか柏原よしえちゃんの『最愛』の歌詞を思い出してしまいました。これからどうなるのか、ヤキモキしながら見守りたいと思います!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
小泉兵曹のような子には残酷な親の言葉でしたがやはりというかさっさと逃げくさったw兵曹でした。朝日町で思いっきり発散してすっきりしたことでしょうw。いったい何人相手にしたことやら(;´Д`)。

オトメチャン。
あの子にはいい縁があってほしいと思うんですが麻生さんとも…と書き手としても悩むところです。何せこの二人長い付き合いですし。
そう、せめてその相手がすべてにおいていい人ならば…ですね!

あはは。花嫁修業と同時に人間修養に。純子さんちぃと可哀そうでしたが、うまく逃げて、そして朝日町で思いっきり(笑) 
受け身の女性はいくらでも受け入れることができていいなぁ。その点、男は……などと思ってしまいました。

やはりオトメチャンに。どうなることやら。
できることならずっと大和にいて、麻生さんと仲睦ましく過ごしてもらいたいと思いつつも、女性としてのさまざまな喜びをオトメチャンだからこそ味わってもらいたいとも。
ひとまずお相手が容姿も性格も素敵な男であれば良いがと祈っております。

鍵コメさんへ

鍵コメさんこんばんは!
小泉にとっては大いに当ての外れた実家訪問となりました(-_-;)。
この、大店のお嬢さんにあるまじき女にはお茶だのお花は絶対無理ですね。座禅なんてくまされた日にゃ死んじまいましょうてw。

そこへ行くとオトメチャンは清楚ですからどこへ行っても喜ばれ欲しがられる人材です。
そしてもし男性と交際となったら…説明責任を果たせるのか?これからの課題ですね。

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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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