熱血VS冷静 7<解決編>

松岡トシ少佐は、防空指揮所のあまりの高さに卒倒してしまった――

 

高田兵曹はマツコとトメキチに

「すまんが誰か呼んできてくれんかのう。松岡少佐は高所恐怖症らしいで。そんとな人がようここに上ってきんさったもんじゃ」

と言いマツコがそこを出ようとしたとき騒ぎを聞きつけたのか麻生分隊士と松岡修子中尉がやってきた。そしてその場に昏倒している姉少佐を見るなり麻生分隊士は少佐に駆け寄ってその場に膝をついて

「松岡少佐、松岡少佐。しっかりしてつかあさい!」

と叫んでそのほほを軽く叩いた。だが目を覚まさない少佐を分隊士は抱き起し

「分隊長!松岡少佐を医務室に連れていきますけえ、背負ってください!」

と叫ぶ。すると松岡中尉は「なんですとー!」と叫んだ。すると分隊士はキッと松岡分隊長をにらみつけると

「なんですとー、ではないですよ分隊長!あなたのお姉様がここで気をうしなっとってですよ?あなたが医務室に連れてゆくんは当ったり前でしょうが!」

としかりつけた。

松岡中尉は、「うむ!」と一声唸るとラケットを麻生分隊士に渡した。これには分隊士は少しびっくりした。普段松岡中尉は大事なラケットを人に簡単に手渡したりしないからである。

分隊長は

「その通りですね麻生さーん。では私の大事な、命より大事なラケットをあなたに預けますからね。しっかり持っていてください。∸-というわけで私は姉の少佐を医務室に連れて行きますからね。さあ麻生さんあなたも一緒に来てちょうだいなっと!」

と言って高田兵曹に手伝ってもらい姉少佐を背負って下へと降りる。そのあとを麻生分隊士と高田兵曹がマツコトメキチニャマトとともについてゆく…

 

医務室に来かかると松岡中尉は大きな声で

「軍医長~、日野原軍医長!急患であります!」

と軍医長を呼んだ。医務科診察室の中から「おーう、どうしたね?」と声がしてすぐに日野原軍医長が姿を現した。

麻生分隊士が「じつは」と詳細を語り、その間に診察室に入った松岡中尉は高田兵曹とともに衛生兵曹の指示でベッドに少佐を寝かせる。

話を聞いた日野原軍医長は「そうだったのか」とうなずいてから白衣の前を掻き合わせて、聴診器をかけると<患者>のもとへ。高田兵曹が心配そうに少佐のそばに立っている。

軍医長は患者の血圧を計ってのち軍装の前をそっとはだけさせて肌着の隙間から聴診器の先を差し込み心音を聞いてから

「心配ないね。しかし相当高いところが嫌いなのだろう…そんな人を、防空指揮所にいきなり連れていったのですか松岡中尉は」

と松岡中尉に向き直って問いただした。

松岡中尉はラケットを麻生分隊士から返してもらいながら「はい、私は姉の弱いところを直してやろうと思ったんですよこれが。少佐にもなってあれが怖いのこれが嫌いのなんて変じゃないですか?少なくとも私はそう思ったんです、ですから」と言ってベッドの上に横たわる姉少佐をみた。高田兵曹が何か言いたげな顔で松岡中尉の顔を見つめる。

日野原軍医長は、高田兵曹のその表情を見逃さなかった、「高田兵曹、」と声をかけ兵曹は「はい」と軍医長をみた。

日野原軍医長は

「ねえ高田兵曹。松岡中尉はそういうが、兵曹はどう思う?――いや、ここでは思ったことを言いなさい。松岡中尉、そしてあなたは何をこの高田兵曹から言われても黙って聞きなさい。いいね・」

と言って松岡中尉は「いいですとも!高田さ~ん、あなた熱くなっているようですね?熱いあなたのお言葉私は何でも聞きますから遠慮なく言ってちょうだい」と言い、日野原軍医長は笑顔で「――だそうだ、だから言いたいことを言いなさい」と言った。

高田兵曹はゴクリ、と喉を鳴らしてから

「失礼を承知で言わせていただきますが…弱いところを直してやろうなんか大きなお世話じゃ思います。少佐であろうがなんであろうが怖いもんがあって当然じゃないですか?うちは松岡少佐と先ほどお話しさせてもろうてなんとのうわかりましたが、少佐は子供のころからえろう我慢を強いられてきたみとうですね。そして年よりも大人になることを望まれて、それは少佐にとってはつらいことじゃった想います。それに長女、一番上の子じゃからいうてやりたいこともさせてもらえんかったと聞きました。一番上じゃけえきっと親御さんの期待も大きかったんじゃと思いますがそれは少佐にとってはつらくて嫌なことじゃったんでしょう。

松岡中尉あなたそういうお姉さんの気持ちを思いやったことがあってですかのう?ないでしょう?じゃけえお姉さんに対してきついものの言い方やお姉さんの好きでない高いところに連れだしたりするんでしょう?中尉、もっとお姉さんに対して想像力を働かしてつかあさい。あなたはやりたいことをしてえかったでしょうがお姉さんは出来んかったんですよ?それを見てこんかったんですか?」

と一気に語った。

日野原軍医長は黙って聞いている。マツコトメキチニャマトも黙って少佐のベッドのそばに座って兵曹の言葉を聞いている。

麻生分隊士がやや厳しい視線を中尉に送っている。

松岡中尉はしばらくの間ラケットを握ったまま黙って考えているようだった。

長い時間が、沈黙とともに過ぎていく。――と、布団がこすれる音がして松岡少佐が目を覚ましたようだ。

「あ…私はいったい?ここはどこです?」

少佐の声がし、麻生分隊士が駆け寄って小声で何やら話しかけている。しばしの後、少佐がベッドから降りてきて日野原軍医長のもとへ来ると

「ご迷惑をおかけしました。そしてありがとうございます」

と言い、今度は妹中尉の前に立った。皆――日野原軍医長・麻生中尉・高田兵曹にマツコたち――も一様に緊張の表情になった。

少佐は「修子」と話しかけた。そして

「私はあなたといつも引き比べられて本当に嫌でしたよ。昔っからね、そう昔っから。そして私は一番上の子供だというだけで大人っぽくふるまうことを強いられるは、親の決めた道を進むように強いられるはろくなことはなかったわ。でもあなたは自分の生きたいように生き、しゃべりたいことをしゃべり、やりたいことをやり本当に天真爛漫というのか奔放で羨ましかった。私だって…そうしたかったのに。させてもらえなかった、そんな人間の気持ちがあんたに判る!?感情を押しころさなきゃいけなかった人間の気持ちが!」

と叫ぶように言った。感情が沸騰しているように思える。

「あんたはいつもバカみたいなことを言ったりやったり、周りをびっくりさせるようなことばっかりやって!私はね、私は…」

そこまで言うと少佐は滂沱として涙を流し始めた。ひくひくと肩を大きく波打たせて泣きじゃくる。

松岡中尉は静かに

「私は…なんですか?」

と尋ねた。しかし少佐は泣くだけで話ができない。そんな姉を見ながら松岡中尉はハーッと大きな吐息をついた。

そして天井をじっと見つめると

「そうだったんですか姉さん。私はそうすると大変な誤解を何年もしてきたことになりますね。私はね、姉さん、あなたはもともとそういう性格だとずーと思っていたんですよ。だってあなた、私が物心ついたときにはあなたはもうそんな感じでしたでしょ?ほんとのこと言ってなんてつまらない人なんだろうって思ってましたよ。だもんでちょっとばかりあなたを馬鹿にする心もありましたね、申し訳ないことだと今になって思いました。

もっと早く二人でじっくり話が出来たらよかったんですがねえ…でもまあこうやって今日話が出来ただけでもよかったんじゃないですか?

で?『私は』のあとなんと言いたかったんです?このさい何でも言っちゃってくださいよ」

と言って少佐を見て笑みを浮かべた。

松岡少佐はひくひくと泣いていたが、日野原軍医長の差し出した手拭いを受けとると涙をそれで拭いた。高田兵曹と麻生中尉が心配そうに見守る中、松岡少佐は丁寧に涙を拭き軍医長や兵曹、麻生中尉にそっと頭を下げると、キッと妹中尉を見据えた。

そして叫んだ。

「私は!私は――あんたみたいに何かを振り回しながら馬鹿言ってみたかったのよ!!」

 

一同、あぜんとすると同時に何かうれしいようなおかしいような気分になった。松岡中尉は「姉さんの本音はそんなところにあったんですか?だったらそうしたらよかったのに」と言ったがトシ少佐は

「家にいる間なんか、できるわけがないでしょう?それにきっかけがなくって今までできなかったの」

と言った。松岡中尉はラケットを振り上げると

「では今から松岡トシ少佐は熱い女になりましょう!今までのつまらん呪縛を解いて、さあ新しい自分に生まれ変わるんだ、あきらめてんじゃないぞ!」

と叫ぶ。軍医長も高田兵曹も、マツコトメキチニャマトも笑った。

麻生分隊士が笑いながら

「では少佐は何を振り回しますかのう?なにがええでしょう」

というと、トシ少佐はにっこり笑って軍装の背中に手をやって何かを取り出した。そしてそれを松岡修子中尉の目の前に突き出すと

「私はこれ!これであなたをしばきたかったのよ」

というなりそれを振りかぶって修子中尉の頭を思い切り、ひっぱたいた。

松岡中尉の頭でそれはそれは素晴らしい音をさせたものは―ー少佐手製の「ハリセン」だった――。

 

そしてその晩、『大和』艦内を「熱くなれよ!」「あきらめんなよ」と叫びながらラケットとハリセンを振り回し走り回る松岡修子中尉と、松岡トシ少佐の姿があった。

心のうちのもやもやを、高田兵曹によって解き放たれた松岡少佐は大変高田兵曹に感謝して「あなたのおかげで私はなりたい自分になれました、本当にありがとう。あなたももっと熱くなってね」と言ったのだった。
しかしそんな姉妹の姿を見せつけられた乗組員たちの驚愕は普通ではなかったが。

 

マツコがその晩、航海科の居住区で眠りにつく前にトメキチに

「人間って複雑だけとその実単純なのかもね。それともその反対?アタシもうわからなくなってきたわ」

と頭を抱えた。トメキチがそんなマツコを気の毒そうに見ながら

「そうねマツコサン。僕も良くはわからないけど…一つだけよく分かったのは、松岡少佐さんが今はとっても生き生きしているってことよ。ここに来た時とは別人みたいに」

と言った。

それでいいんだ、とマツコは思いその瞼を閉じた。

 

そして松岡姉妹は今夜はニャマトと一緒に幕僚室を借りて眠りについている。

梨賀艦長以下は意外な展開に驚いたり呆れたりしながらもほっとする思いで今日という日を終えたのだった――

 

                 ・・・・・・・・・・・・・

 

どうなるかと思ったらこんなことか(;´Д`)。でも、高所恐怖症が意外な展開を引き出したわけです。妙な対決にならなくってよかったかも。

そして高田兵曹ご苦労様でした。
DSCN1621.jpg


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鍵コメMさんへ

鍵コメM様こんばんは!
ご心配をありがとうございます、大変気持ちの悪い揺れでした。最初気が付かないほどでコップの水が動いているので地震?と思っていたらだんだん大きくなったのですが「たぶん鳥島の方じゃない?」と言っていたら小笠原ということでそれほど遠くもなかったです。揺れの感じがいつか会った鳥島沖の震源の地震によく似ていましたもので。
あの辺は深部で地震がよく起きてそするとこちらでは2分弱のタイムラグで大きく揺れます。
口永良部島もおおごとになりました、なんだか日本全体が火山地震活動の活発期に入ったみたいでいやな気がしますね。

いろいろと真剣に考えて備えをしたいと思います。
本当にありがとうございます!

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柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
高田兵曹が間を取り持ったような形になりました。でもこういう人間の存在も大事ですね。
ようやく分かり合えた姉妹でした^^。

本当に急に暑くなって閉口ですね(;´Д`)、水分補給は欠かせなくなりました!モミジもこのところの熱さに早くもげんなりしています。
ケイさんもお体大切になさってくださいね^^。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
松岡トシ少佐の鬱積したものが一気に爆発!そしてまたこの姉も妹のように暑苦しい女だった…とするとやはり血筋以外の何物でもないですね(-_-;)。
家族間の、それもきょうだいの確執ほど悲しいものはないですから、これでこの姉妹も本当に熱くなれます^^。
ちょっとしたことで幸せになれたら本当にそれが幸せですね。

今日の東京はやや蒸し暑かったですが昨日よりは熱さがなくてちょっとホッとしました。大分もしのぎやすくってよかったですね、五月で異常な熱さ、まさに松岡級w。
にいさまご一家も御身大切になさってくださいね♡

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
高田兵曹も一緒のチャンバラトリオwww!なんかすごいことになりそうですよねww。
この三人とも結構熱い連中ですので階級なんか関係なく何かしでかすかも知れませんね。

枕もとで「熱くなれよ」「あきら目てんじゃない!」「尻の穴を閉めろ」とか言われたらもう寝てらんないですね、そんな看病をされたらあっという間に治りそうですw。

悪坊主河内山宗俊 さんへ

悪坊主河内山宗俊 さんこんばんは!
チャンバラトリオが懐かしく、トシさんにはハリセンを持たせてみました。最初は鉄扇にしようかなとも思ったんですがw。
ラケットで張り倒されるよりずっといいですね、あのハリセン音の割には痛くないそうですね。

そしてトシ少佐のあまりの変貌ぶりに皆きっと驚くことでしょう。まあ人生にそういうことって―ーそんなにないからなおさらかなw。
さまざまな束縛を振り切って生きる。なかなかできませんね(-_-;)。したいけど。

見張り員さん  こんにちは♪

いつもありがとうございます♪
高田兵曹さんの話を松岡トシ少佐が
素直に話を聞かれて自分の気持ちを
聞いてもらい気持ちもスッキリされ
て松岡姉妹で本音をぶつけて話がで
きてよかったですね。
修子さんもお姉さんの今までのこと
がわかりよかったです。

見張り員さん暑いですから水分補給
されて熱中症にお気をつけください。
モミジちゃんも暑さに気をつけてく
ださい。

なんという結末。たまりにたまっていた思いが一気に爆発。それも妹と同じような無茶ぶり。微笑ましいくらいに血は争えないものですね。
しかしこれで姉妹の確執がなくなって良かったです。
小さなきっかけが大きな幸せへと発展する。気持ちのよい物語をありがとうございました。

今日の大分はいくらかしのぎやすい気温です。松岡姉妹のような熱さには及びませんがまた暑くなりそうです。
東京も暑いようですね。くれぐれもご自愛を。

おはようございます。
私も高田さんを仲間にしてチャンバラトリオに…と思いました(笑) やっぱり姉妹ですね、根っこはきっと同じアツいものがあるのでしょう。シューコさんがスッゴく体調が悪い時にはトシさんが枕元でウザく(笑)応援してくれそう~!!

ハリセンといえば

チャンバラトリオさんですね、真っ先に思い出すのは。親方がなくなって、メンバーも先頃なくなったので、あの芸を見る機会はなくなってしましましたが。

ラケットよりは殺傷能力がないので少々安心ですが、解放されたトシさんの将来がちょっと心配だったりもしますw解放前のトシさんしか知らない方々は、さぞや驚かれることでしょう。唯一の救いは修子さんほど振り切れた熱さじゃないことですかね。

人間らしく生きるには、過度の抑圧は御法度ってところで。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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