2017-10

熱血VS冷静 5 - 2015.05.21 Thu

松岡姉妹はまず、第一艦橋に足を運んだ――

 

松岡中尉はさも偉そうにラケットを自分の前につがえて姉を「上から目線」で見て

「さあいいですか松岡少佐。ここが大和の心臓部と言ってもいい第一艦橋・別名昼戦艦橋です。知ってるか知らないか知りませんがここは読んで字のごとく昼間の戦闘時に使うんですよ。これが羅針盤、そこら辺にたくさんあるラッパみたいのが伝声管、そして双眼鏡。航海の時この辺に梨賀艦長は立つんですよ。そして戦闘の時艦長はこの上の防空指揮所の羅針儀のところに行くんですよこれが!私の主なる配置でもありますがね、これが――ウフフフ、怖いんですよあなた!実際戦闘になったらガンガン敵機が飛んできちゃあ、バリバリと機銃掃射するんですからね、ハイ、生きた心地なんかありませんよあなた。

でもだ!この熱い女松岡修子中尉はこのラケットで敵の機銃弾を打ち返し、もういったい何機撃墜したでしょうねえ?きっとどこかの航空隊の搭乗員にも負けないと私は思いますよ?ではその私の主なる配置、防空指揮所に行って見ましょうか。ただし…心してくださいね」

と一気に話してにやっと笑った。

姉の少佐は

「ほう?なにを心せねばならんのかね」

と言って妹の中尉をみた。すると松岡中尉は手にしたラケットで姉中佐を指すと

「すげえ高いところにあるんですよ!グフフフ…海面から何メートルあるかわからないほど高いんですよ。グホホホ、怖いですよ~すっげえ高いところにあるんですからね。さあ、しっかりふんどしを締めなおしていきましょうかあ!」

と言って呵呵大笑した。そして歩き出す。

松岡少佐は顔色変えずに妹の跡をついてゆく。そのあとをマツコとトメキチ、ニャマトがついてゆく。マツコがそっとトメキチに

「ねえ?松岡少佐は高所恐怖症だと思う?だとしたらちょっと危ないわよ。マツオカの奴何をしでかすかわかったもんじゃないわよ…どうするあんた」

と囁く。するとトメキチはにやっといたずらっぽく笑うと

「かみ殺すんでしょ?マツコサン」

と言い、マツコの背中のニャマトも「ギャマト!ギャマド!」と言ってその小さな歯をむき出すようにして叫んでマツコは

「覚悟が出来てんのね、ならばよし!」

と言って勇ましく足を踏み鳴らして歩く。それを見て松岡少佐が

「おや、ずいぶん張り切ってるわねえ鳥さん方。あなたたちも大変ねえ、シューコの気まぐれにつき合わされて」

とため息をつく。トメキチが少佐に飛びついて

「でもいいんです。僕たちマツオカサンと一緒にいると楽しいから。少佐さんは楽しくないの?」

と尋ねた。松岡少佐はトメキチをひょいと抱き上げるとその耳に

「私はね…」

とだけ言って黙った。トメキチは先を聞きたかったが松岡中尉がなにかわめいたので聞きそびれた。そしてトメキチは松岡少佐の胸の鼓動が嫌に高鳴っているのを感じ取っていた。

そして一行は防空指揮所に到着。今日はもう、初夏を感じさせる日差しとやや強めの風が指揮所に吹き付けている。後部のアンテナ線に風を切る音がヒューヒューと聞こえてくる。

松岡中尉は

「やあ諸君!私の大事なかわいい皆さん元気かい?今日は私はちょっとしたお客さんを連れてきましたよー」

と叫んでラケットを振り回した。ラケットがヒュッと風を切る音がした。

麻生分隊士が指揮所の後部から走り出てきて少佐を見るなり敬礼した。桜本兵曹や小泉兵曹、亀井上等水兵や酒井水兵長、石川兵曹たちも並んで敬礼。少佐の返礼を受けた後分隊士は

「私は麻生太海軍特務中尉であります。分隊士を仰せつかっております!松岡中尉にはいつもお世話になっております!」

と大声で申告し、松岡中尉は

「麻生さーん、あなたいいご挨拶ができるじゃないですかあ。さすがですね。さすが中尉になるだけの人は違いますねえ、とってもいいご挨拶!よくできましたね、熱くなっているぞ麻生さーん!」

とまるで子ども扱いで、麻生分隊士はちょっと不快な顔になった。それでも松岡中尉の姉の前であるから必死でこらえる。桜本兵曹が心配そうにそっと麻生分隊士を見上げた。

すると松岡少佐が

「まあなんて失礼な言いぐさでしょう。麻生中尉どうぞお気を悪くなさらないでくださいね、妹のシューコは昔っからこういうことばっかり言ってお友達をなくしてるんですからね。全く仕方のない妹で恥ずかしいですがどうぞ皆様には松岡修子をお見捨てなく願います」

というと頭を下げた。泡を食ったのは麻生分隊士で慌てて

「松岡少佐、どうぞ頭を上げてつかあさい!うちは何とも思うちゃ居りませんけえ、どうか!」

と言って、松岡中尉が姉の背中をバーンとひっぱたいて

「ほらほら、麻生さんも言ってるじゃないですか。あなた私を悪く言いすぎですよ?いったいどうしたらそんなに私を悪く言えるんです?あなた熱くなり方を間違ってませんかねえ?だからあなた冷静、いや冷酷だって私は言うんですよ。熱く太陽のような私にとってあなたは冷たいとしか思えませんがねえ、違います?」

という。

と、松岡少佐はいきなり妹中尉の胸ぐらをひっつかんだ。おお?やりますかあ、という松岡中尉に姉少佐は

「冷たい、冷酷だ!?なに言ってるんだ貴様あ、私はそうなるようにずっと昔幼いころからしつけられてきたんだよ!あんたと私はたったの二つ違い、なのに私はあんたが生まれたときから<大人>のようにふるまうことをしつけられてまったく窮屈だったらありゃしない!あんたは妹という立場でお気楽極楽だったでしょうがね、私は長女であり姉であるというだけではしゃぐことも子供らしく遊ぶことも許されなくって…。年齢相応にしていけないなら冷酷にもなろうが?ああ?そんなこともわかんないのか、本当にお気楽だねえあんたは!信じらんねえわまったく。

それにあんたは自分のやりたいことを出来てよかったじゃないの私なんかねあんた、思い通りにできたのは海軍兵学校への入学だけよ!私だってテニスもしたかったし文章も書きたかった、落語も聞きに行きたかったしカフェにも行きたかったわよ!なのに私は両親からあれはダメこれはダメ言われて…そういう人間の気持ちがあんたに判って!?」

と一気に叫んだ。

そして次の瞬間、少佐はその場にくずおれて号泣し始めた。

さあ、驚いたのは麻生分隊士とその配下の桜本兵曹たちで「どうしたらええんじゃろう」「困ったわあ、松岡分隊長がお姉様の少佐を泣かしとる」と言いあって一塊になっている。

「ほうじゃ!」

とその時桜本兵曹が小さく叫んだ。どうしたんじゃねという麻生分隊士に桜本兵曹は

「松岡少佐のお話、どこかで聞いたことがある思いませんですかのう?--うちは少佐の生い立ちいうんがなにか、高田兵曹に似とってじゃ思うんです。似たような体験を持つ高田兵曹と一緒にお話ししたら松岡少佐もちいと落ち着かれるんじゃないか、思うんですが如何でしょうか」

と言った。

麻生分隊士の顔が明るくなり

「ほうじゃな!うちもどこかで聞いたような話じゃ思うたが高田兵曹の話に似とるけえ、高田兵曹にここにきて少佐と話をしてもろうたらええな…おい誰か高田兵曹を連れてこいや!」

と言って亀井上水が走り出して行く。

そしてその場に打ち伏して泣く松岡少佐のそばに膝をつくと

「松岡少佐、我々少佐のお気持ちようわかりました。実は我々の艦の仲間にも少佐の体験に似たような生い立ちを持った下士官がおってです。ちいとその下士官と話をしてみませんか、高田兵曹言います。彼女を呼びましたけえぜひお話をしてみてつかあさい」

と優しく背中に手を置いた。

すると泣いていた松岡少佐が涙にぬれた顔を上げて麻生分隊士を見つめた。そして

「そのような方が、『大和』にもいるとは。ぜひ、その人とお話しさせてほしいです。高田さん、ですね。その方と無礼講で話をしたいです私は」

と言ってその場に座りなおした。

 

亀井上水は高角砲分隊の居住区に走った。そして居住区の入り口で同年兵嬢を見つけ

「高田兵曹は居らんか?うちの分隊士が御用じゃ」

と言って高田兵曹がやってきた。

「おや、あなたは航海科の?」

という高田兵曹に亀井上水は手短に用件を話し、兵曹は「わかった」とうなずくと亀井の同年兵嬢に

「ちいと込み入った話らしいけえ言ってくる。防空指揮所にゆくけえ、済まんが生方中尉に話をしておいてほしい」

と頼んで亀井上水とともに走り出した。

そのちょっと後にその話を聞いた生方中尉はうれしそうに笑いながら

「ほう!高田兵曹に直々のご指名とはね、高田兵曹も頼られるようになったんだねえ。うん、いいことだ!」

と言った。

 

亀井上水と高田兵曹は、防空指揮所へと小走りにゆく――

 

   (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

なんだか雲行きが怪しくなってきた松岡姉妹です。冷静なはずの姉少佐が噴き出すように自分の感情を吐き出し始めました。

そして助けとなれるか高田兵曹!

緊迫の次回に続きます。

 

 

<近況>・このところ仕事終わりの時間が遅いためなかなか更新できず、また右手の腱鞘炎が再発しそのせいでの不眠も重なりへとへと状態です。でも書きたいことがあふれています!頑張ります^^。


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
「お姉さんだから」「お兄さんだから」
この言葉、本当に良くないですよね。それが上の子に我慢を強いるならなおさらです。私は兄弟がいませんが従妹間でこれを言われたことがあり「なんですとー!」とそれこそ腹が立ったこともしばしばw。

でもそんな確執がある姉妹ってうらやましいです。姉か妹がほしかったなあと今でも思いますもんw。
そして次回いよいよ姉妹の本当の対決が!ご期待を!!

ご心配をいつもありがとうございます、この陽気はとてもつらいですね(;´Д`)。にいさまも耳が痛むのですか、私も雨の前などひどくて、そしてそのあと軽重にかかわらずめまいが来ます。
そして今回は腱鞘炎が~~(-_-;)。
年を取るってこういうことかと改めて思い知る50ウン歳の初夏でございます…(泣)。

兄様にはくれぐれもお大事に、そしてお母様も!

お姉さんだからかぁ。上の者は本当につらいですね。
生まれ持ったそれが宿命にしてもさまざまに於いて、「お兄ちゃんだから」「お姉ちゃんだから」の言葉は不条理にも感じますね。
松岡少佐たち姉妹の姿。確執がありながらもそこには見張り員さんの姉妹という関係の憧れもあるようにも。
しかし自分の気持ちを吐露できた少佐。これから優しくなるのか、それとも松岡中尉の思いが変わるのか。いよいよターニングポイントですね。

どうやら無理しすぎではと案じていましたがやはり。
僕もここ数日、右耳の痛みがつらくて。気圧の関係でしょうか。年を取ると季節の移ろいが心地よいどころか体に変調が現れてしんどいです(笑)
ひたすらお体を大切にして下さい。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
親なら…子供は皆同じにかわいいはずだと思うんですが…いくつになっても。

しかし…下が女の子で上が男の子だとどうしても親は女の子をかわいがる傾向はあるみたいですね、私の子供の友達の家がそれでしたものね。
割を食うのは上の子、なんだかかわいそうで。

トシ少佐の大和訪問で彼女の心が変化してくれるといいんですが。高田兵曹や桜本兵曹のような生い立ちの人間の多い場所ですからトシさんもわが身と比較して見方が変わってくれればいいと思います。
シューコさんも今以上に柔軟になってくれればいうことなし、なんですが(;´・ω・)。
どうなりますかお楽しみに^^。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
松岡少佐、どうなるでしょう…高田兵曹と話をして落ち着いてくれればいいのですが(;´・ω・)。生真面目な人ほどいろんなことを抱え込んじゃうところがあるから自分を解放してほしいですね。それこそ熱くなって!

学校の先生の兄弟比較はひどかったです。中学でそれを目にして自分には兄弟がいなくてよかったと心底思いました。もし優秀な兄弟がいてあんな比較をされたら私絶対ぐれていました(;´・ω・)。

いつもお心遣いをありがとうございます^^。腱鞘炎はこれも私の持病?みたいなもので当分は夜もシップのお世話にならないとです(;´Д`)。

年長者はなにかにつけ

年長者たる振る舞いをせよとなるわけで、2つ下の妹とは年中比較されてます。もちろん未だに。

生まれついてのかたわ者で、基本親の言うことは聞かないおいらと、優等生な妹では比較のしようもないはずなのですがw

甥っ子と姪っ子の兄弟を見てますと、やはり兄貴は損をするような気がします。甥っ子の気持ちがわかりますよ、いきなり親の関心は下の子ですからね。気をひこうとすれば叱られますし。

トシさんが大和を訪れたのは、天命なのでしょう。こんだけ波瀾万丈な経歴をもつクルーが大勢いる艦は、まずないでしょうし。高田さんとの邂逅によりトシさんの新たな面が垣間見られればいいですね。もちろん修子さんにもよい結果が出ればさらによしということで。まず修子さんはトシさんが泣き崩れるなんて見たことないでしょうから。

こんばんは。
姉の本心を聞いて妹はどう思ったのか、気になりますが、まずは彼女の気持ちを落ち着かせることですね。自分だけでなく辛い思いをして乗り越えてきた人がいると思うと心強くこれからの指針にもなるでしょう。
兄弟姉妹の差別というか比較って親より学校の方が多いんですよね。だいたい同じ教師が担任になって「お前の兄ちゃんは出来たのに…」とか言い出すんですわ、みんなの前で。
続きも気になりますが、体調が心配です。ムリはしないで下さいね。ゆっくり休める時間がたくさんできますように。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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