2017-10

熱血VS冷静 4 - 2015.05.17 Sun

松岡修子中尉は仏頂面で姉の松岡トシ少佐と艦内を歩き出していた――

 

「あなたたちは本当にいい動物さんたちね。でも私、今の今まで知らなかったわ、『大和』にこんなに大勢の動物さんがいるなんてね」

松岡少佐はそう言って腕に抱いたトメキチに囁きかけ、傍らをゆくマツコの頭をそっと撫でた。そしてマツコの背中に下がっている袋の中からこちらを見つめているニャマトに微笑みかけた。

すると松岡中尉は恐ろしい形相で振り返ると

「そんなことも知らないなんて、いけませんねえ。熱く生きていない証拠です!この全海軍期待の弩級艦『大和』に三匹の動物がいるなんてもうとっくに全海軍に広まってるんですがねえ。少佐あなたもっと情報網を広げて熱くなりなさい」

と噛みつくように言ってラケットを振った。

少佐はフフッと笑いマツコたちを見て「――だそうですよ、みなさん」と言って楽しそうに歩く。マツコが「マツオカッたら何を言いがかりつけてんの?あんたちょと今日おかしくない?」と言ったのへトメキチが

「マツコサン今日だけじゃないでしょ」

ととどめを刺す。松岡トシ少佐が

「なんだワンちゃんたちのほうがずっとよくわかってるじゃないの」

と大笑いし、松岡中尉は「黙りなさいあなたたたたち!艦内は静かにゆくものです!」としかりつける。

途中行きあった兵隊嬢たちは少佐に敬礼する。

その兵隊嬢たちに少佐は

「私はこの松岡中尉の姉で松岡トシ海軍少佐です。いつも妹が迷惑をかけてごめんなさいね…姉として謝ります。どうぞ妹をお見捨てなく願います」

とあいさつし、兵隊嬢たちは

あの(・・)松岡中尉のお姉様!ご丁寧にありがとうございます。松岡中尉はいつも熱うなっておられてうちらを励ましてくださいます。うれしいことであります」

と返事をする。松岡トシ少佐は(無理してるなあ…きっとシューコはやりたい放題なのでしょう。困った子)と思っているがおくびに出さず微笑む。

松岡中尉は「何を余計な事をしゃべってるんですか!行きますよまったくもう」と愚痴りながら先を行く。そして「ここは何々、あれはなになに」と説明しながら松岡中尉は歩き、そのたびにトシ少佐は近寄ってみたりその場の兵隊嬢に話しかけてみたりして見聞と交流を広めている。

松岡少佐に出会って話をした将兵嬢たちはみな「松岡少佐はええお人じゃ、ちいとも偉そうなところがのうて、ほいでも威厳がありんさる。ああいうお人は海軍広しというてもそうそうおらん。松岡中尉のお姉様じゃ聞いたが、本当のお姉様かいな?」と言いあいうなずいている。

そんなさざめきはしっかり松岡修子中尉に耳に入っているので彼女は内心いらいらしつつ――いや、もうすっかり行動に表れているが――艦内を歩き回る。

トシ少佐はそんな妹を見ながら

「ねえシューコさん。そんなにカリカリしてはよくありませんよ?それがあなたのよくないところ。あなたのそんな精神状態で部下の皆さんを掌握できると思ってるの?熱くなるとあなたは言うけど何か間違ってない?」

と諭した。

すると松岡中尉は「なんですとー!」と叫んで振り向いた。額に汗を浮かばせ必死な表情である。それに対し松岡トシ少佐はいたって冷静に微笑みさえ浮かべている。

松岡修子中尉はラケットを握りしめ姉ににじり寄ると

「あ、あ、あ、あなたのそのヒッジョーに冷淡な、冷酷な言葉が大っ嫌いですよ私は、ええそうです大っ嫌いですとも!なんであなたはそういつでも、そう昔っから冷淡なんです?子供のころからあなたは私に対して冷たかったですねえ?覚えてませんかね、あの時もこの時もー!そのさまざまを今この場でびちまけましょうか!?」

と怒鳴った。

松岡トシ少佐はトメキチを抱えなおすと

「シューコさん、『びちまけ』ではありません。ぶちまける、でしょう?」

と訂正した。修子中尉はそのほほをカッと紅くすると

「はいはいすんませんねもう。間違えました、間違いは誰にでもあるでしょうが、そんな些末なことをいちいち重箱の隅を突っつくようなことしてあなたはうれしいんですかねえもう!あなたは昔っからそうでしたね、私の間違いをいちいち突っ込んできて。うっとうしいんですよそういうの!それでまた今大人になってまであなたは私に指導されなきゃいけないんですかねえ?私はもういい大人ですよ?」

と怒鳴ってラケットを振り上げた。

今にも少佐を殴りそうなその雰囲気にマツコが慌てて

「マツオカ、だめっ!」

と飛びついてその大きなくちばしでラケットの柄をがっと咥えた。

修子中尉はラケットを振り上げたままでマツコを見下ろして

「止めてくれるな鳥君!私はもう我慢ならんのです、この人を私は、わたしはああ!」

と芝居がかった声音で叫ぶ。

すると松岡トシ少佐の柔らかい掌がマツコの頭にそっと置かれ

「珍しい鳥さん、危ないですよ。この人のラケットはもう凶器ですからね」

と言って笑うと

「なんじゃとー!何が凶器じゃあ」

と修子中尉の絶叫が響いた。廊下の向こうを通りかかった数名の下士官嬢と士官嬢が立ち止まってこちらをうかがっている。

トシ少佐は至極落ち着いて

「そうでしょう?あなたそれを振り回してみなさんを恐怖に陥れているのでしょう、わかりますよそんなの。それにそのラケットはあなたの大事なものなのでしょう?なぜ大事にしないんですかねえ?ラケットカバーに入れてお部屋に大事に保管しときなさいな」

と返す。

修子中尉は

「大事大事、大事だからこそこうやって持って歩いてるんですよ私は。大事なものを部屋に置いといてもしとられちゃったらどうすんです?それ以前に私は大事なものは肌身離さず持っていたいんですから勝手にさせてちょうだいよ。カバーに入れろ?そんなことしたらいざというときさっと使えんでしょうが。そのくらいわかってちょうだいよ」

とさらに返す。すると少佐はトメキチを床にそっと置くと両腕を組み足を肩幅に開いて修子中尉の真ん前に立ちふさがるようにした。そして

「いざというとき?艦内で?ほー驚いた、あんた艦内でテニス大会するんですか。この艦内のどこでそんなことするんだか私に教えてちょうだいよ。変わった人ねあんたって」

と返すが先ほどより冷静さが少し失われたような感じを受ける。

修子中尉、

「だーれが艦内でテニス大会ですか?あなたね、常識でものを言いなさい!どこの世界に艦の中でテニスをする阿呆がいますか?私も以前に少尉候補生君と空母の飛行甲板でテニスの決闘をしたことはありますがね、艦内でなんかしたこた無いですよ。馬ッ鹿みたーい」。

すると少佐は松岡中尉の三種軍装の胸を指先で突いて

「ほらあなたそうやって人の揚げ足を取る、いやなクセねえ。昔っからそう、あなた人の揚げ足ばかりとってそれで嫌われてるのわからないの?よくそれで海軍兵学校に入れたこと!その前にあなたが『大和』に乗ってること自体がもう驚きね、あっと驚くタメゴローですよ」。

修子中尉、

「何言ってるんでしょうね『あっと驚くタメゴロー』って何でしょう?あなたはむかしから造語がお得意でしたからねえ、もっと熱くなればもっと昇進できたでしょうがいかんせんあなたには熱血が足りないんですよ。もしかして貧血症?」

とやればトシ少佐はさらにカッと来たようだが、向こうで姉妹喧嘩の行く末を見つめている下士官嬢たちの視線に気が付いた少佐は軍帽をかぶり直し、一種軍装の裾を軽く引っ張って咳払いをすると

「まああなたとここで言い争いをしても時間の無駄ってものですから、先をいきましょう…あなたの所属の航海科関係部署を見せてくださいね。あなたの直属の部下の皆さんにご挨拶したいですからね」

と気を落ちつけて言った。

修子中尉はいよいよこれから怒りと熱血のボルテージが上がるところだったのだが水を差されて不満の表情になったが人だかりができ始めていたので

「わかりましたよ。あなたと変なところで熱くなっても仕方がないですからね。対決はあとでにしましょう。――というわけでさあ、私のかわいい部下の皆さんを紹介しますから熱くなってくださいよーっ!鳥くんも犬くんもねこくんも熱くなっていくぞー!」

と叫んでラケットをぐるぐる振り回し始める。まるで水車のように回るラケットにトシ少佐は「まあ、危ない」とまゆをひそめた。が、修子中尉は走り出す。

そのあとを「待ってマツオカ!――松岡少佐さん行きましょ」とマツコたちが追う。

松岡トシ少佐は集まりかけていた下士官嬢たちのそばを通る時

「騒がせてごめんなさいね。あの子いつもこんな感じなのかしら…あとできつく叱っておきますからご容赦」

と言って皆は緊張して敬礼。

すると先を走っていた修子中尉が振り返って「何やってんですか、早く来てくださいな!もうあきらめてんのか、そうじゃないだろう!尻の穴を閉めろ、今日からあなたも富士山だ」と叫んだ。

 

冷静な松岡トシ少佐、この先タガが外れてしまうのだろうか――

 

  (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・

 

ちょっと大人げない言い争いが勃発しましたが、我に返った姉少佐。確かにあまりみっともないところをしたの階級の人たちに見られたくないものです。

そして『大和』に宿泊する姉少佐、そのお世話を修子中尉はどうするのでしょうか。緊迫の一夜は次回に!


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● COMMENT ●

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
姉妹喧嘩ですw。
それにしても動物に心配されるってどれだけでしょうね松岡姉妹。この連中のことですから建設的な?喧嘩を望めるのか??大変不安です。そしてまた誰か巻き込まれなきゃいいんですが(;´Д`)。

兄弟も喧嘩の内容によっては他人になってしまいますからね~「他人の始まり」なんて悲しすぎますよね…私の母は五人兄弟で女一人、いまだに「女兄弟ほしかった」と言っております。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
冷静なトシ少佐ですが…ハチャメチャな妹中尉に翻弄されてこの先どうなるか大変心配ですね。おとなしい人は意外とこわいものですから、どうぞ心してこの先をお待ちくださいませw。

このところ天気が不順で困りますね。東京も昨晩から今朝雨降りでしたが午前中には止んで蒸し暑くなりました(;´・ω・)。
どうぞ御身大切になさってくださいね^^。

いよいよ姉妹喧嘩の勃発ですか。
お姉さんはお姉さんの立場で、妹を説得しそうですね。マツコもトメキチもハラハラし通しのようですね。
罵り合うだけの喧嘩なら泥沼に落ちるんでしょうが、お互いの行動、言動を指摘するような喧嘩なら、お互い納得し、認識を深められるんじゃないですかね。
喧嘩するほど仲が良いといいますけど、最後は仲直りしてほしいもんです。それが赤の他人同士の喧嘩と兄弟愛に満ちた喧嘩の違いだと思います。中にはこれを機会に疎遠になる人もいるかと思いますけどね。人間や兄弟の付き合いって難しいですね。

冷静沈着な人が一旦こわれると収取がつかなくなりますね。トシ少佐ももしかしたら心のどこかに、人にも妹にも言えない何かがあるのかもしれませんね。姉だかからという呪縛。実は妹よりも更に熱血な人。過激な人だったりとか。
猫を撫ぜつけるような声の人ほど気が強いとも言いますし。
これからどうなっていくんでしょうか。きっと姉妹の修羅場も設定しているでしょうし、それが幸いして仲良くなったりもするかもしれないし。楽しみにしています。

大分の今日はこれから雨だとか。ちょっと肌寒い朝で、返って気持ちが良いです。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんおはようございます!
よく言われますよね「普段からおとなしい人・冷静な人が起こるとたいへん怖い」って。さあ、トシ少佐はそのセオリーに合致するか否か!見所です。

一番上の子供って兄弟が出来たときから大人っぽいふるまいを強いられるような気がします。それがその子に合っていればいいのですがそうでないと悲劇だなあと思うときも多々ありました。
そして…修子の姉さんはどう出るのでしょうか。
なんか怖い次回をお楽しみに~♪

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます!
姉らしく妹らしく…まあ妹らしくはあまり言われないかもですが「お姉さんらしくお手本となるように」はよく言われますね。私は兄弟こそいませんが下に従妹が何人もいますので似たようなことを言われ反感持っていましたね。
さあトシ少佐、やはりどこかに無理があるのかそれとも??この先をお楽しみに!

兄弟を引き比べるってよくないなあと思いますね。私のかつての同級生もそれをされて(しかも学校の先生にまで)ぐれちゃったのがいましたからね。かわいそうでした、いい人だったんですがねえ。

松岡姉妹、ビューティーペアとなれるか?なれたらなんかかっこいいですね^^。

普段から

冷静な方がキレてしまうと、かなりエスカレートしそうな予感です。このお話が始まる前から、見張り員さんが悲劇と予告されてますし。

とかく兄や姉は「年長者」たる振る舞いをせよと言われ続けますので、このへんで修子さん以上の熱さを出すのも、後々のためには良いのかもしれないのですが。一度出してしまうとなにやら恐ろしい感じが。フカどころかホオジロザメもたおすとかね。

こんばんは。
トシ姉上は妹が生まれた時から「あなたはお姉さんなんだから、妹のお手本になるようにしなさい」と言われて育ってきたのかなぁなんて思いました。本当はアツくなりたいのに「私は立派な姉でなくては!」とムリしているのかも。この再会をきっかけに変わるかも?
私も兄と比べられましたね~特に小学生の時は…兄弟姉妹のいるまわりのみんなもそうだった~本当にイヤでしたが、同性だったらもっとイヤかも。私の同級生で顔立ちは似ているのに(お人形さんみたいにキレイ)、お姉さんはおっとり深窓の令嬢だったけど、妹(同級生)はチャキチャキしていて……喋らないといいのにって感じでしたよ~!
松岡姉妹も打ち解けたら、最強のビューティーペアで七つの海を征するかもしれない(≧∇≦)


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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