熱血VS冷静 3

松岡中尉は酒保からくすねてきた「海きゃん版・毎日修子」を艦長室のドアの横にぶら下げようとした――

 

その時、艦長室のドアが内側から勢いよく開いて、松岡中尉はドアと壁に挟まれた。ぎゃああ!と叫んだのは松岡中尉ではない、マツコとトメキチである。二人は「マツオカ大丈夫なの!生きてるあんた?死んだら駄目よこんなところで」と大騒ぎした。

部屋の内側から「ん?なんだどうした」と顔を出したのは山中副長、副長はマツコトメキチがドアの向こう側を覗き込んで騒いでいるのを見てドアの外に出てきた。そしてマツコたちが覗き込んでいるところを見て

「うわあ!大丈夫か松岡中尉!」

と叫んだ。参謀長と艦長が「いったい何を騒いでいるんだね副長は」と言って出てきた。松岡トシ少佐は艦長に続いて出てきたがドアと壁の間に挟まれている人物を見るなり

「シューコ!!」

と大声で叫んでいた。すると壁に張り付いていた松岡修子中尉がばね仕掛けの人形のように後ろ向きのまま壁から跳ねとんできた。

うわ!と副長が飛びのいた。

松岡修子中尉は、「私がシューコだとなぜ知っているー!」と恐ろしい声を出してこちらを振り向いた。そして松岡トシ少佐を見るなり

「ギャー!くそパッキンの松岡トシさんでございましたかーっ!」

とまたも大声で叫んだ。く、くそパッキン!?と山中副長がすっとんきょうな声を出した。無理もない、彼女と彼女の腰巾着の藤村少尉は『副長・甲板士官はくそパッキン』と陰口たたかれているからである。ちなみに「パッキン」とはきっちりしていて融通が利きにくい人を海軍においては陰でそう呼ぶのだ。それはしかし、職務上当たり前のことでありそうでなければ困るのである。兵員嬢たちからしたら愛情もあるがちょっとだけ煙たさもある、だからパッキンだのご丁寧にクソまでつけて呼びならわすのだ。

ともあれ。

山中副長は自分より背の高い松岡修子中尉の三種軍装の胸蔵を片手で掴むと

「松岡中尉あなたはなんてことを言うんです?いやしくもあなたのお姉さまであり海軍の先輩でもある松岡トシ少佐に『くそパッキン』などと!少佐にお謝りなさい!」

としかりつけた。

が松岡中尉は副長に胸倉掴まれたままでも平然とした顔で

「嫌でございますね、いくら敬愛する新婚の山中副長のおっしゃることでも私はこれは、これだけは受け入れたくありませんね。ムリ~~でございます!」

と言って横を向いた。

マツコがおろおろして

「マツオカ―、謝りなさいよ。だいいちあなた副長さんにその口の利き方はないわよ!早く謝りなさいよー」

とその大きなくちばしで松岡中尉の尻を突っつく。トメキチも松岡中尉の腰のあたりまで飛びついて「ねえ謝って?お願いだから」というし、マツコの肩にかけたカバンに中から、ニャマトさえ「ギャマド!ギャマド!」と叫んで抗議しているようだ。

すると松岡中尉はそっと副長の手を自分から取ると

「いいですかみなさん。ここに居る熱くない松岡さんは本当に本物のパッキンですよ。それにね、この松岡さんは常に冷静とか落ち着いているとか言って氷のようにすましています。それでいて私のすきを狙って襲い掛かろうとしてるんですからねえ。怖い人でしょう?さあわかったらみなさんすぐこの松岡さんから離れましょう」

と皆に向かって宣言した。

副長は真っ赤になって

「な、なんて失礼な!いくら姉妹の仲とはいえど許せません!松岡中尉そこになおれ!」

と怒り、今にも自慢の軍刀を持ち出しかねない勢いである。

「まあ、待ってください」

とそんな副長を穏やかに押しとどめたのは誰あろう松岡トシ少佐。少佐は穏やかに微笑みを浮かべて山中副長に

「私をお気遣いいただいて本当にありがとうございます。でも、それこそ姉妹の仲ですから私はこの人の悪い部分も良くない部分もしっかりわかっていますから平気です。この人の良くないところはすぐに熱くなるところ。方向性を見極めてるんだかないんだかわからないような熱くなり方、さぞご迷惑だろうと存じます。そしていいところですが…」

というとしばし考え込んだ。

松岡修子中尉は床に落ちていたラケットを拾い上げてその先を姉の少佐に向けた、そして

「ほーらごらんなさい。普段から私のよくないとこばーっかあら捜ししてるから<悪い部分>に<よくない部分>しか言えないこと!良くないでしょうこういうの。これがこの人の良くないところですよ、わかるでしょう新婚の山中副長?ねえ梨賀艦長も森上参謀長も!」

と言った。山中副長が苦り切った表情で

「いちいち私に<新婚>をつけなくっていいから!」

と苦情を言った。

梨賀艦長がなにか言いかけた時松岡トシ少佐が笑いながら

「相変わらずですねえ修子さんは。――そしてなんですかこれ?『毎日修子』…」

と言って日めくり教育語録を手に取ってめくり始めた。松岡修子中尉はラケットを姉に向けたまま鋭い視線をぶつけている。

『毎日~』を見ていたトシ少佐はやがて笑い出した、そして

「あなた本当に相変わらずですね。こういうものを作るのが昔から、子供のころからのあなたの得意とするところでしたね。小学校時代もこういうものを作って教室の中にぶら下げていましたよねえ」

と言ってさもゆかいそうに笑った。

「笑うんじゃない」

松岡修子中尉は不機嫌そうに言った。不機嫌な顔のまま修子中尉は

「笑うんじゃない。私はいつも真剣ですよ?いつも真剣に熱くなって皆のこと、自分のことを考えてるっていうのにあなたは私のした素晴らしい功績を馬鹿にしたじゃないですか。あの時の屈辱は忘れませんよ、私は熱くって執念深い女ですからね。そして今また、私の素晴らしい言葉をけなすんですね、あなたって人はあああ!!」

と言ってラケットをブン!と一振りした。太刀風ならぬラケット風が起きて、その風が近くにいた副長の頬を軽く打った。

梨賀艦長は「ツッチ、危ないからこっちへ」と副長をそっとどかせて自分が松岡修子中尉のそばに立った。そして大変困ったような顔つきで松岡修子中尉の前に立つと

「どうしてあなたはそうもお姉様に対して挑戦的なんだね?何か確執があるのか?」

と尋ねた。すると松岡修子中尉はまたラケットを振り「カクシツ、ですと!」と恐ろしい声を出した、そして

「だから今説明したじゃないですか、梨賀艦長あなた熱くなってませんね?尻の穴を閉めて人の話を聞かないからそんな的外れのことを言うんですよ!私とこの熱くない松岡さんは小学校時代からいろいろあったんですよ、その一つがさっき言った『毎日修子』の小学校版の話ですよ。あんなに良くできた語録はほかにない、論語や吉田松陰先生の言葉も私のあの言葉を見れば恐れ入る、というくらいの代物だったのに、それをこの熱くない松岡さんがけなして次の日教室から姿を消してたんですよまったくもう」

とぷりぷり怒った。

(くだらない)と副長も参謀長も思ったがうっかり声に出せば松岡修子中尉の逆鱗に触れそうで怖くて言い出せない。あのラケットでぐちゃぐちゃになって死んでは「英霊」になれない。

一人でぷりぷり怒る熱い松岡さんを笑いながら見ていた熱くない松岡少佐は

「シューコ中尉。ここでわめいていては艦長さん方の迷惑です。さああなたの『大和』を私に案内してくれませんかね」

と言った。そしてそっと梨賀艦長たちに目くばせした。艦長は(このままでは松岡中尉は際限なくべらべらしゃべってきりがないからね。場所を変えて冷まそうというわけか。さすが姉ともなるとよくわかっておられる)と思って

「では松岡中尉。松岡少佐をご案内よろしく願います」

と言って松岡少佐は「ありがとうございます。それでは艦内を拝見させていただきます」と言って敬礼し、梨賀艦長と山中副長、森上参謀長も返礼。

今にも噛みつきそうな恐ろしい顔の松岡中尉に梨賀艦長は

「あ、そうだ松岡中尉。今日少佐は『大和』に宿泊されるからあなたが少佐のお世話をなさい」

と言い添え、松岡中尉は

「ウギャーー!こんな熱くない松岡さんを私が世話するんですか!もう~、だれか従兵さんをつけてくださいよ~」

と泣きそうな顔になった。

そんな妹の片方の腕を掴んで姉の松岡少佐は

「さあ、早く艦内を案内して頂戴な。あなた熱くなってるんでしょう?だったら私も熱くしてみなさいよ、ウフフフ!」

と言って廊下を歩き始める。松岡修子中尉は姉の手を振りほどくと

「お望み通り熱くしてあげましょう。真っ黒こげになるくらい熱くしてあげましょう。∸-その前に一つ注意しときますがね、この『大和』は私の住処、あなたが勝手に先にずんずん行ってはいけませんよ!ここは私の言うことをしっかり聞いてもらいましょう、いいですね。では、熱くない松岡さんしっかり尻の穴を閉めていきましょう!」

というとマツコとトメキチ、そしてニャマトに

「さああなたたたたち。行きますよ、あなたたたちは私の大事なお友達。ですから私の言うことをしっかりお聞きなさい?この熱くない松岡さんが私の言うことを聞かなかったら容赦なく噛みついて結構ですからね…では、いざゆかん!」

と声をかけたが。

マツコは松岡少佐を見上げて

「ねえトメキチ、この松岡さんはいいわねえ。とっても穏やかだしわけのわからないことを言わないからアタシ好きだわ」

と言いトメキチはもう少佐に抱っこされてご満悦、「そうねマツコサン。僕もこの松岡さんだーい好き」と嬉しそう。

ニャマトも「ニャ、ニャ、ニャマト!」と鳴いて抱っこされたがっているようだ。

松岡修子中尉、腹心の部下の離反(?)に目を剥きながら

「どうでもいいですがねその人は私ほど寛大じゃないですからね、人は見かけじゃないぞ!」

と言いつつラケットをブンブン振りながら艦内をどすどす歩いてゆく。

その妹の後をついてゆく姉、松岡少佐は楽しそうに動物たちと語らっている――

     (次回に続きます)

 

                    ・・・・・・・・・・・・・

 

松岡少佐『大和』訪問、そして劇的?な妹との再会でしたが、松岡中尉なんだかやたら居丈高です。そして動物は人を見る目があるんでしょう、すっかり松岡少佐の虜のようです。

さあどうなりますか次回をお楽しみに。


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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
駄々っ子シューコ。
きっと年少時に姉との間に何かあった口ですね。姉さんと比べられたか何かあったのかもしれません…それが解き明かされるか否か。
そしてこのままのうるさいラケット女でいるのでしょうか、シューコさん。

兄弟っていいのは小さい時だけだと言ったのは誰だったか。兄弟間の確執がひどくって嫌になると。そして相手の連れ合いもこれまた問題だと嘆いた人がいました。
それを想うとき私は一人でよかったなあと思たり。

そうそう、>元々が素敵な女性 にシューコさん大感激ですよ^^。

駄々をこねているだけにしか見えないのですか……(笑)
所詮というか、やっぱり終生姉には敵わないということを身をもって体験しているからこその反目かもと。
元々が素敵な女性なのでここで一皮むけるのではないかと思いつつも、ラケットブンブンのままでいてほしくもありと思いながら次回が楽しみです!!

きょうだい(兄弟、姉妹)の確執って人には言えなし、長い時間をかけて歪んでいったので人には分らないものですね。だったらいっそ他人の方がよほど良かったかと思ったことがしばしば。いや、いまでもその気持ちは継続中です。きょうだいの仲互いは性質が悪いです。
そんなことを思う今回の松岡物語。じっくりと拝見です(笑)

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
>臆病な小型犬
いい表現ですねw。きっとこの姉さんはシューコさんの上に君臨していたのかもしれませんね。

しかしどうして兄弟で比べるのかしら?比較してもしょうがないと思うんですがねえ???比較されるって嫌ですよね(;´・ω・)。

そして。
松岡トシさんいつまで笑っていられるでしょうか。なんだか怖いですね…。


オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
まさにシューコさん剣ヶ峰にかかっているようなw。あまりこの人を追い込むといいことはないんですが…(;´Д`)。
さてどうなりますか、ご期待ください。

昨日になりましたが大きな地震でしたね、夜もちょっと揺れたしなんだか怖いです。箱根大涌谷もどうなるのだか?気になりますね。

修子さんが臆病な小型犬のようにみえるのですがw

兄弟姉妹の間柄って微妙なものですから、
できのよい妹と比べられたおいらは、
いろいろありましたです。ハイ。

トシ姉様の忍耐の限界が来たときの展開を考えると、
何か恐ろしいものを感じますね。

こんばんは。
うわ~シューコさん(笑)どうも押され気味ですね~大丈夫かしら……まわりの皆さんにとばっちりがいかないといいのですが(◎-◎;)

今朝の地震には驚きましたが、さっきも地震が……これから梅雨に入ると雨量も多くなり土砂災害にも注意が必要ですね。気をつけなくては…。

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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