2017-10

熱血VS冷静 2 - 2015.05.10 Sun

「松岡トシ少佐であります!」――

 

<松岡>という名前を聞いて居並んだ科長たちの間に声にならないさざめきが起きた。梨賀艦長はそんな科長たちに

「松岡少佐はわが『大和』航海科分隊長の松岡修子中尉の姉上である。私が科の大地震に遭遇してけがをした際助けていただきまた、あれこれと手助けをしてくださった恩人でもあります」

と説明した。繁木航海長が

「なんと、あのときに!松岡少佐、艦長がお世話になりました。ありがとうございました」

と言って敬礼。皆もそれに倣う。

松岡少佐は爽やかな笑顔で

「いえいえ。とんでもないことでございます。困ったときはお互い様であります。しかし奇遇でありました、まさかあのような事態において妹の乗る艦の艦長さんと出会うことになるとは…まさに縁というものは異なものでありますな」

と言って繁木航海長以下は(やはり松岡修子中尉の親族、しかも姉!なのにこの爽やかさ!そして落ち着いた挙措。松岡中尉とは正反対だ…本当に姉妹なのだろうか)と変な関心の仕方をした。

そして松岡少佐は、梨賀艦長・山中副長そして森上参謀長に伴われて艦の中へと入ってゆく。それを見守っていた科長たちも三々五々散ってゆくが、黒多砲術長がすっと繁木航海長のそばによると

「航海長、あれ本当に松岡中尉の姉でしょうか?私はなんだか信じられませんよ。あんなに落ち着いた人があんなにうっとうしいくらい落ち着きのない人と姉妹だなんて。∸-航海長はどう思われます?」

と尋ねてきた。

繁木航海長はあたりをそっと見まわしてから黒多砲術長に顔を寄せると

「私もそう思っていましたよ、あまりにも違いすぎるものね。姉妹と言えど人間は別だから違って当然だろうけど松岡さんの場合はね…。まあ誰も皆思っていることだと私は思いますがね」

と言ってからウフフフと笑った。なんだか楽しくて仕方がないと言った笑い方で黒多砲術長もなんだかとても可笑しくなって一緒になってウフフフ笑った。

 

松岡少佐は艦長室に案内されそこで紅茶と菓子のもてなしを受けた。

艦長従兵の桜本兵曹が紅茶と菓子を運んだが(誰じゃろうあの少佐。見たことがないのう)とちらと思った。しかし一介の下士官である自分が尋ねることなどできるわけもなく、桜本兵曹はそれぞれに紅茶をだし、菓子を盛った大皿、そして取り皿を置くと入口で一礼して出てこようとした。

「待ってください」

と松岡少佐がいい、桜本兵曹はびくっとしてその場に固まった。(しまった!なんぞいけんことをしてしもうたんか!失礼があったんじゃろか!ああ、どうしたらええんじゃ)桜本兵曹の頭から血の気が引いた。

松岡少佐はソファから立ち上がって入口に立っている桜本兵曹のもとへ歩み寄り、やさしく微笑むと

「ありがとう。あなたはお茶の淹れ方が上手とお見受けしましたよ。素晴らしい香りが漂っています…これは淹れ方が上手でないとありえないことです。あなたにはもてなしというものがわかってらっしゃる。さすが大戦艦・全海軍期待の『大和』乗組員だけありますね。その調子でこの先も軍務に励んでくださいね」

と言って固まったままの兵曹の肩をやさしく叩いた。桜本兵曹はやっと気を取り直し「お褒めいただき光栄です!この先も軍務に励みます」と言って敬礼した。松岡少佐はやさしい微笑で礼を返すとソファに戻った。

桜本兵曹は艦長室を辞した。そして隣の部屋で待機する。少佐のやさしい微笑を想い返しつつ兵曹はまだ(いったい誰じゃろう?やさしいお姉さんみとうなお人じゃが…『大和』に乗りんさるんじゃろうか)と考えている。

 

さてそんなころ、実の姉が自分の艦に来たとも知らない松岡中尉は例によってラケットを担いでマツコ・トメキチを後ろに従え、ニャマトを自分の三種軍装のポケットに突っこんで艦内を走り回っている。

途中途中で出会う兵隊嬢や士官嬢たちに

「さああなた!今日の<修子の言葉>は何でしょう?」

と質問をぶつけながら。<修子の言葉>とは例の『毎日修子』のことでついたちから三十一日まで毎日に松岡中尉ならではの熱い言葉が書かれている。それを艦内数か所にぶら下げてあるのだが「今日の修子の言葉はなんでしょう?ハイ言ってくださいな」と出会う将兵嬢ごとに言って回るのだ。

最初に遭った一等水兵嬢は四六のガマもさもありなんというほどの脂汗をかきながら「うーん、うーん」と必死に思い出そうと唸っている。

その一等水兵嬢を見つめていた修子中尉は「はいはい結構ですよ」と言っていきなりラケットを最上段に構えた。

殴られる!――と思わず防御の姿勢を取ってしまった水兵嬢に松岡中尉は

「何をしてるんだね?さああなた、今からすぐに『毎日修子』の下がっているところに行って見てきなさい。そして今日の言葉を心の奥深くに刻み込みなさいね、きっとあなたのこの先の人生の大きな糧になりますよ」

というと「ではごきげんよう」とあっという間に走り去る。そのあとをマツコとトメキチが「待ってよう、マツオカ!」と言いながら走ってゆく。

一等水兵嬢は額の脂汗を手の甲で拭いつつ

「なんだあん人は?うちはてっきりあのでかい、敵機でさえ撃墜できるいうハエ叩きみとうなもんでぐちゃぐちゃにされるんじゃ思うて生きた心地もせんかったわ…戦闘より怖いわあ」

というともう中尉に出くわさないようにと祈りつつ自分の持ち場へと小走りにゆく。

松岡中尉はさらに走り、昼戦艦橋に戻る途中の繁木航海長と黒多砲術長を射程に入れた。突進する松岡の跡を必死に追うマツコとトメキチ。

松岡中尉はニャマトをポケットから取り出してつかみ、高々と掲げて「ネコーッ!」と叫びながら二人に迫った。ニャマトが喜んで「ニャマート!」と鳴く。

「ギャッ!」

航海長と砲術長は背後から鬼気迫るものが突進してくるのに気が付くとその場に腰を抜かした。二人は抱き合うようにして恐怖の面持ちで松岡中尉を見つめながら

「い、いったい何なのだ…」

と言った。唇が震え言葉にならないようだ。そんな二人を気持ち悪い微笑で見つめつつ中尉はニャマトを突き出して

「かわいいでしょう?ニャマト。――さあそしてお二人に質問です。今日の『修子の言葉』はなんでしょう?」

と尋ねた。

「へっ?」「ホエッ?」

二人が同時に言った。そして互いの顔を見合わせた。松岡中尉はニャマトを繁木航海長に突き出して「さあ」と促した。航海長はニャマトを松岡の手から取ると自分の胸に抱いて「ウウ…」とうなった。さらに中尉は黒多砲術長にラケットを突き出して「さあ」という。

黒多砲術長はラケットにおののきながら「あ…アウアウ…」とうなる。松岡中尉は厳しい表情で黒多砲術長をにらみ、

「あなた、いけませんねえ。多くの将兵の上に立つものがあんな大事な言葉を覚えていないなんて、なってませんよ。そんなあなたが私は悲しい!さあ、黒多砲術長。今から熱くなって日本のため海軍のため働いてください。そのためにさあ!『毎日修子』をしっかり読んで諳んじましょう」

と怖い声で言った。

恐怖のまなざしで松岡中尉を見つめる砲術長の腹に、ラケットの先を当ててぐりぐりしながら松岡中尉は「さあ!」と促した。

と、「待て松岡中尉」と繁木航海長が右の手にニャマトを持ったまま立ち上がって左の手で松岡中尉のラケットを黒多砲術長から軽く払った。そして

「いい加減になさい松岡中尉。あなたのあのへんな言葉を覚えようが覚えまいがそんなことはどうでもいい!その上なんだ、あなたは黒多さんにいったいなんのうらみがあるんです?いつもいつもあなたは黒多さんを目の敵にしてるとしか思えませんよ」

と詰め寄った。

すると松岡中尉はラケットをまたも砲術長の腹に突き立てて

「私はこの人の偉そうなところが気に入らないんですーう!」

と怒鳴った。ヒエッ、と砲術長が泣き声を上げ「なんで、なんでわたしが?私はそんな偉そうになんかしてませんよう」と言って繁木航海長をみた。航海長は

「私は砲術長が偉そうになんかしてはいないと思うぞ。中尉はまだ、副長が休暇中に砲術長が副長代行したときのことを根に持っているのだな。あれはもう解決したはずだが∸-ハッ、そうか!松岡中尉貴様が本当は副長の代理をしたかったんだろう、それで砲術長を…。逆恨みだ!」

というとラケットを松岡の手からもぎ取って慌てて自分の後ろに投げ置いた。

松岡中尉は

「ハイハイ、何とおっしゃられても結構です。私はそんな些末なことで怒ってるんじゃあありません。あなたたたたちに上に立つものとしての覚悟も何もないことを憂いているだけです。ハイもう結構です、いいですから後で私の言葉をしっかり読んで尻の穴をしっかり締めてくださいね、これ修子のお願い!」

というと航海長の手からニャマトを取り、床に置かれたラケットを拾い上げて「じゃ、行こうか君たち」とマツコトメキチに声をかけてさっさと歩きだしてしまう。

マツコとトメキチは「ごめんなさい、あの人やっぱり変よね」と二人に謝ってから松岡の跡をついていく。繁木航海長は、黒多砲術長を抱き起して

「ハシビロやトメキチにもわからんものを…我々に判るはずがない」

と言い、黒多砲術長は泣きそうな顔になってうんうんとうなずいたのだった。

 

松岡修子中尉は酒保倉庫に置いてある『毎日修子』の海きゃん版を数冊勝手に持ってくると

「熱くなりなさい、『大和』の諸君!」

と言いながら下甲板の廊下にぶら下げだした。マツコが「あんたそんなことしたらまた艦長に叱られるわよ、いい加減にしなさいよ」と諌めたが松岡中尉は

「何を言うんですハシビロさん。私は今度という今度は我慢できませんからね。艦内のみんなが私のこの素晴らしい言葉を諳んじるまでやりますからね。∸-というわけで艦長室前にもハイっと!」

と言って艦長室のドアの横に『毎日~』をひっかけた。

 

その時―ー!

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・

 

爽やかで落ち着いた印象を『大和』幹部に与えて松岡トシ少佐がやってきました…が、何やってんだか妹の松岡修子中尉。

黒多砲術長はいいように松岡修子中尉にかまわれて気の毒です。頑張れ黒多砲術長。

そしていったい何が起きるのでしょう、ご期待くださいね。


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● COMMENT ●

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
松岡のようにふてぶてしい人たまーにいますね。上官(上司)なんかへでもねえや!みたいな。頼もしい部分も多いんですがちょっと行きすぎじゃない?ってのもあって。難しいですよね、人って。

さあ、松岡中尉どうなりますか。果たして姉の少佐はどんな人なのか???
お楽しみに^^

今朝の大きな地震、matsuyamaさんのおうちの方ではいかがでしたか?被害などなかったでしょうか、案じております。
どうぞくれぐれもお気をつけてくださいますよう。

上官をも屁と思わない肝っ玉の据わった人っていますよね。
自分の頭の中で都合のいいように地球が回っているんでしょうけどね。
こんな人って根を持たない性格なんでしょうが、
人から愛される反面数多くの敵を作ってしまいそうですよね。
姉の松岡少佐には全く頭が上がらなかったりして。
お姉さんとの対面。松岡中尉、果たしてどう出るか。楽しみですね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
さあ、いよいよ恐怖の?姉妹対面です。
>妹がテニスラケットなら姉は卓球ラケットか羽子板を隠し持っているかも
いいですねこのアイディア!そうだ、トシ少佐に何か持たせようw!

金魚のテンプレ、これからの季節にいいかなと思って変えてみました。タブレットで見るとそんな面白い風に見えるんですね!
文章同様に楽しんでくださいませ💛

こんにちは。
いよいよドキドキの姉妹対面ですね~アツい抱擁になるのか流血の惨事になるのか…イヤイヤ( ̄0 ̄;) 性格が違うとは言えやはり姉妹……妹がテニスラケットなら姉は卓球ラケットか羽子板を隠し持っているかも(≧∇≦)
続きが楽しみです!
タブレットでもブログを見たら涼しげな金魚たちが~スクロールすると金魚たちが文章を読んでいるように見えて面白かったです(´∇`)

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんおはようございます^^。
さあいよいよ運命の?再会がそこまで迫った松岡姉妹ですが…何事にも妙に熱くなる妹はどんな反応を示すのでしょうか?怖いです…(;´Д`)

兄弟も小さい時はいいけど大人になるといろいろ問題が起こる場合があるようではたから見ていてもなんだかなあ、とため息が出る思いです。それを見るとき私は兄弟はいなくてよかったのかな?と思うときもありますが、だがしかし、姑から「一人っ子は過保護」と決め付けられたときは大変腹が立ちました。しかもそれを私の母の前で言ったんですからねえ。常識のない人の無責任な発言がいかに私と母を傷つけたか、あの人は今もわかっていませんよw。

オトメチャンのように細かいところまで気の付く女性になりたいというのは昔からの想いでした。それをわが娘に…と思ってもこれがまたなかなか(;´・ω・)…『大和心』の継承は大変むつかしいです(泣)。

知らぬは当のご本人だけ。
さて間近に迫っているお姉さんの出現に修子さんの驚愕ぶりやら動揺ぶりが楽しみです。怖くもあり早く見たくもありの対面場面ですね。
きょうだいでも似ても似つかぬものですが、我が家もご多聞に漏れず似ても似つかぬどころかほぼ天敵です(笑)
きょうだいの仲が悪いって最高に近い不幸ですね。

オトメチャン。心配りができるからどんなこともソツがない。今どきこんな女性はいないだろいうなと思います。それもまた現代日本の不幸かもしれませんね。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
松岡姉妹の対面、なんだか見ていいのか悪いのか…怖いもの見たさという言葉を思い出しますねw。

いきなり上官、それも知らない少佐に呼び止められたらギクッとしますよね、オトメチャンはしかし褒められたからよかった^^。

私は兄弟がいないのでいる人がうらやましいですね♡上でも下でも一人いたらよかったのになあって思います。

いよいよ

姉妹のご対面。怖いような楽しみなような。

オトメちゃんはまさかあの松岡さんの姉上とは気がつかなかったようですが、いきなり呼び止められたときには生きた心地しないですよね。

ほかの皆さんの感想を見るまでもなく、修子さんと姉上は正反対なのですが、ここにこそ兄弟姉妹の醍醐味があるのかも?


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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