2017-09

艦長不在 6 - 2015.04.27 Mon

梨賀艦長は長い道のりをトラックに揺られとうとう、呉海軍病院に収容された――

 

艦長はトラックで運んでくれた軍需部の士官嬢・下士官嬢に丁重に礼を述べ『いずれ改めてお礼に参ります』と言い、海軍病院の職員に『大和』に連絡を入れてほしい、そして山中副長と森上参謀長をここに呼んでほしい旨頼んだ。

そして傍らに控えている松岡トシ少佐に「ありがとうございました、松岡少佐は呉鎮守府に赴任なさる途上でしたね。私のごたごたに巻き込んで大変申し訳なかった。私から鎮守府長官に仔細を申し上げておきますからご心配なきよう」と言った。

松岡トシ少佐はさわやかな笑顔で

「お心遣いありがとうございます。それにしてもとんでもない目にあいましたね、どうぞお大事になさって一日も早いご快癒をお祈りいたします。そして妹の修子をどうぞお見捨てなく願います。あれはああいう性格ですからやりにくいことも多々あると思います。あまりなことがありましたら私にご一報ください。きつく叱りにまいります」

と言って艦長は笑った。そして

「いや、松岡修子中尉はなかなか熱い士官です。その熱さで今までもたくさんの危機を乗り越えてきましたからこの先も頼りにしていますよ」

と言って、松岡トシ少佐はちょっとホッとしたような顔になった。

そして松岡トシ少佐は梨賀大佐との別れを惜しみつつ、鎮守府に向かった。

 

 

さて『大和』では、海軍病院からの知らせを受けて山中副長が

「さ、さ、参謀長!森上参謀長、どこですか!」

とおめきたてながら艦内を走り回る。ちょうど通りかかった繁木航海長が「参謀長なら図書庫にいらしたと思いますが。いったいどうなさいましたそんなに慌てて?」というと副長は航海長に抱き付いて

「艦長が、艦長がご無事でした!先ほど海軍病院に入院なさったそうですよ!――ああ、よかった…艦長がご無事で本当に良かった…」

と言って泣きそうになった。その副長に繁木航海長は

「なんと!それは良かった~…ホッとしました。そうですとも艦長が死んだりなんかするもんですか!――あ、副長は参謀長にお知らせなさるのでしょう、お急ぎ召され」

と言って副長は「あ、そうでした。ではまた後でね、繁木さん」というと艦底の図書庫へ走り出していった。繁木航海長は心底ほっとしながら副長の三種軍装の背中を見送った。

 

院長の診察を受け、「やはり背中側のあばらにひびが入っています、しばらくの間ギプスをして安静を」と上半身をギプスで固められ、病室のベッドに寝かされほっと一息ついた梨賀大佐ではあったが、同じ部屋の付添用のベッドに赤ん坊を寝かせている指月フミをチラリ見て(さあ問題はこのお嬢さんとその旦那さんと…『小泉商店』の奥方だな。これは小泉の奥方と指月さんを呼んで、――小泉兵曹も呼ばずばなるまいなあ)と内心頭を抱える思いでいる。

ともあれ、その件は副長と参謀長がここに来たら相談するつもりである。

 

一種軍装に身を固めた山中副長と森上参謀長が息せき切って呉海軍病院に駆け込んできたのはそれから二時間もしないうちであった。

病室のドアがせわしくノックされ「どうぞ、」と返事ももどかしく副長は「梨賀艦長!」と声を上げてドアを開けた。森上参謀長も「梨賀、お前大丈夫だったのか?」と言って二人は艦長の横たわるベッドのそばに走り寄ってきた。

梨賀艦長は

「心配かけて本当にすまないことをしました。休暇を終えて汽車で帰る途中の駅であの大地震に遭遇してしまって、ホームの屋根が崩れてね…でも、運よく助かった。この女性がいろいろと私の世話をしてくださったんだ」

と指月フミを紹介した。山中副長は几帳面な敬礼をフミにして「このたびは私どもの艦長が一方ならぬお世話になりました、ありがとうございます!」と心からの礼を述べ、参謀長もフミに敬礼した。

「それでね、あの松岡中尉のお姉さんの松岡トシ少佐も私を助けてくれたよ」

艦長が言うと二人は驚いて

「あの松岡の!?まさかもっと熱い人じゃなかったでしょうね?」

と言ったが艦長の「いやいや、うちの松岡よりずっと冷静で落ち着いた士官だ。なんでも呉鎮守府に赴任の途中で地震に遭ってしまったんだそうだ。で、日にちもずいぶん経っているからと鎮守府に急がれたよ」との言葉に参謀長は

「なんだ…逢ってみたかったな」

副長は

「まるで火と氷みたいですね、私も逢ってみたかったですよ」

とそれぞれ残念がった。艦長は「まあ、またここに来ると言っていたから」と言って軽く笑った。

 

フミの赤ん坊がぐずり始め、彼女は「ちょっと外を散歩してまいりますが、よろしいですか?」と言ったので艦長はうなずき、「気を付けて行ってらっしゃい」と送り出した。

そしてフミの足音が遠ざかったのを見計らうと副長と参謀長を「ちょっと聞いてほしい」と枕辺に寄せると、フミとその夫そして『小泉商店』の奥方そしてもしかしたら小泉兵曹も関係あるかもしれないあの話をしたのだった。

 

「ええっ!」

山中副長が絶句した。そして腕を組むと何やら考え込んでしまった。森上参謀長も「うーむ…」とこれも腕を組んで天井を見上げてうなっている。

副長はしばらく考えていたが顔を上げると

「――小泉の母親が、指月さんという男性を小泉兵曹と娶わせると言ったのが一番の問題ですね。それにしてもですよ、私はあの女性、フミさんとおっしゃるあの方とその夫という方。どうかと思いますよ?いくら一緒になりたいからって先に子供を身ごもるようなことをするなんて私はどうかと思いますよ。ねえ、参謀長?」

と言ってかすかに唇を震わせた。

(山中副長、怒っているな)梨賀艦長はそう思った。副長のようにけじめを大事にする人間には指月夫妻(厳密にはまだ夫妻ではないが)のように結婚をする前に子供を産んで、というやり方は気に入らないだろう。

否、副長だけでなく正直言って梨賀艦長もフミの話が進むにつれ、(これはいかがなものか)と思う心にもなっていたのも確かである。出会った当初は気の毒な娘だ、と思っていたのに。フミが「社長令嬢の純子さんには負けたくない」と言った時の瞳の挑むような色に、それまで彼女を擁護していた艦長の心が萎えたということもあった。

参謀長は副長が唇を尖らしていうのへ

「そうだなあ、確かにそういうやり方は好きではないな。ほかにやり方もあったろうにね。まあともあれ、『小泉商店』に連絡を取って兵曹の母親とその何とかいう男性を呼んで話を聞かないことには収まりつかないだろう。小泉兵曹も多分、いやきっと身に覚えのないことで翻弄されて、あれも気の毒だ。それにしてもまあ今度の大地震は厄介なものまで連れてきたもんだな」

と言って手にしていた軍帽の庇を指先で撫でた。

 

 

そのころ、『大和』のトップでは風に吹かれながらマツコとトメキチにニャマトが座っている。マツコはその大きなくちばしをガタガタさせてから

「艦長やっぱり無事だったんですって!良かったわねえ、やっぱりあの人がいなきゃ『大和』は『大和』じゃないわよね。ていうかさあ、やっぱり誰が欠けてもだめってことよね」

と言った。

トメキチはニャマトの背中をやさしく嘗めてやりながら

「そうねマツコサン。僕もそう思うわ。――それにしてもなんか、一波乱ありそうな予感がして、僕背中がぞわぞわして嫌なんだけど」

というとニャマトも「ギャ、ギャ、ギャマート!」と言った。トメキチが「ほら、ニャマトもそうだって言ってるわよ」と言ってマツコをみた。

マツコは深くうなずいてその大きな翼を広げて

「で…肝心の本人はどうしてるのかしら?」

と言って軽くその場で跳ねてすぐ下の防空指揮所を覗き込むようなしぐさをした。

 

その下の防空指揮所では間もなく当事者の一人となる小泉純子一等兵曹が

「ああ~。はよう休暇がほしいわあ、はよう朝日町に男の子と遊びまくりたいのう!うちはもうあそこがムズムズしてたまらんわあ」

ととんでもないことを言って桜本トメ一等兵曹の頬を赤く染めさせている。

「しょうもない女!」

マツコの舌打ちが、その場に響いた――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・

 

艦長の心のベクトルが微妙に変化しつつあるようですが、指月フミさんは艦長の<信用>を取り戻せるのでしょうか?そして小泉兵曹、どんな目に遭っちゃうのでしょうか??次回をご期待ください。

次回は艦長も帰ってきたので、タイトルを変えて続きを書きます!


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● COMMENT ●

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
なんだか面倒なことになっている『大和』の面々です。小泉兵曹きわめて能天気ですが、もし指月さんの夫が子に弥陀だったらどうするつもりなんでしょうか、心配ですね(;´Д`)。
昔の結婚は顔も知らないで、というのが多かったと聞きますがでもいざ一緒になると結構うまく生活していたような話も多々聞きますね。

艦長、大変な役目を背負っちゃいましたがうまく切り抜けてほしいものです!

おやおや、三角関係になりそうですね。とはいっても小泉兵曹とはまだ会ったことがないようですから、指月夫妻にはひびが入ってないんでしょうけどね。意外と小泉兵曹、指月フミさんの夫と会ったらメロメロになるかもしれませんよ。
昔は親の許嫁、というのが多かったですよね。家系を繋いでいくために強制結婚もありました。
今でもあるのかな。政治家などには政略結婚などというのもあるようですが、今は自由恋愛の時代ですから。

複雑な縁をどう裁いてくれるのでしょうか。梨賀艦長の采配が楽しみですね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
女の情念…なんだか怖いですよね(;´Д`)、しかしフミさんにとっては人生の一大事ですのでまあ、致し方ないか…という感じですね。
艦長も副長たちも、あまり色眼鏡でフミさんを見ないでやってほしいと思うのですがこのまま「ふしだら女」のレッテルは嗅がれないのでしょうか!?
次回をご期待くださいませ!!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
副長たちの不快感もある意味においてはもっともですが指月夫妻にはほかに選択肢がなかったとすればただ避難は出来ないんですが、彼女たちにはまだそこまでしっかりこれまでの経緯が伝わっていないみたいです。さあこれからどうなりますか??

ふしだら。何をもってそう判断を下すのか、むつかしいところです。艦長なんだかとんでもないところに足を踏み入れてしまいましたが何とか頑張ってほしいですね^^。
そしてまったく能天気でしょーもない小泉兵曹。この後どうなるでしょうか。ご期待くださいませ。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
嵐の前の静けさ…なんかぞっとしますね(;'∀')…
指月夫妻の行為、確かに良くはないかもしれませんがただ糾弾するだけでは済まない何かがありそうな。艦長頭を悩ましますがここはブレーンの力を借りて何とかせんとね。

それにしても小泉兵曹ののほほんぶりに脱力感半端ないですね。オトメチャンこういう話に助けになりますか??次回をお楽しみに^^。

こんばんは。
なんでしょう、女の情念が燃え上がるというか燻っているというか……私好みのドロドロ愛憎劇に!?とちょっとワクワクしたりして(笑) ほんのちょっとしたことで相手に対する印象は変わりますね。どれが本当のその人の姿か見極めるのって難しい……あ、私はこのままのオッサンですのであきれずによろしくお願いいたします(^o^;)

既成事実を突き付けて難を逃れる。ひとつの手段としてそれを選んだふたりはきっと純真無垢に違いないと思います。
昔も今も「なんてふしだらな!!」と一喝されますが、快楽を求めてできた子どもではないという事実だけは認めてあげたいですね。
結婚前は「ふしだら」、結婚した途端に「子どもはまだか」。同じことをしているのに儀式を経ないと許されないことなんだと、冷静に考えてみたら滑稽な表裏ですね。

さて艦長。どのような采配を振るのでしょうか。
我が身のことが問題になっているなんて知らぬとは言え、何やら当の小泉さんの能天気ぶりがとっても気になるところですが。

むむっ嵐の展開?

艦艇ーズの面々も、この嵐の前の静けさに武者震いといったところですかね。

フミさん達の行動は、この時代でなくとも非難される部分はありますが、産まれた子供に罪はないですし、大和の面々には似たような境遇の方々が多いというのもありますから、梨賀さんも思案のしどころ。副長、参謀長もいますから妙案がでるでしょう。

この事件の中心人物、純子さんは相変わらずですが、今度の休暇は遊びどころじゃありません。高田さん、オトメちゃんのように協力者が現れてくれればいいのですけど。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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