女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

艦長不在 2

梨賀艦長は休暇を終え汽車に乗って一路、呉を目指していた――

 

とある駅で汽車はしばらく停車することになり、艦長は座り疲れを癒そうと席を立ちホームに降り立った。駅は静かな山あいにあり、海を見慣れている艦長にはとても新鮮に映った。

やれやれ、とうんと背伸びをした艦長の足に何かが触った。ン?と見下ろせばまだよちよち歩きを始めたばかりの赤ん坊、と言って差し支えない子供が艦長の軍袴を掴んで艦長を見上げている。

にこにこと、人見知りしない赤ん坊に艦長は「おやおや、危ないねえ」と言いながら抱き上げた。するとその赤ん坊の母親が慌てて大きな荷物を引きずるようにしながら

「ごめんなさい、すみません…」と走り寄ってきた。艦長は微笑みながらその赤ん坊を母親に返しながら「このくらいの子供は目が離せませんね、気を付けてくださいね。私も三人子供を育てましたが歩き始めは本当に苦労しました」

と言った。

若い母親は「海軍さんは三人もお育てになったのですか。私は一人だというのに…」と言って悲しげにうつ向いた。艦長はその母親をやさしく見つめると

「どなたか…一緒にお住まいではないのですか?お姑様か実のお母様か」

と言った。母親は艦長を見ると

「いえ、誰もいないのです。私も夫も、母親を早くに亡くしていますもので」

と言った。艦長は「そうでしたか」と言ってから

「それでは近所の人を頼りなさいな、あなたの家の近所にも子供を育てている人はたくさんいるでしょう」

と言ってみた。母親は

「はい。でも私はよそから来たものなので何か気おくれがしてしまって」

とうつむく、その母親に艦長は

「どこから来ようともうあなたはその町の人なんですから遠慮をしないでご近所のひとびとの中に飛び込んだらいかがですか?きっと、ご近所さんもあなたを待ってくださっていると思いますよ?」

と諭すように言った。母親の瞳が濡れた。まるで本当の母親から言われているように若い母親は感じた、そして

「ご近所の人からも一緒にお話をしましょうと誘われています…今まで行けなかったんですが、今度から参加してみます!ありがとうございます!」

と言って涙をぬぐった。

梨賀艦長は「そうですよ、遠慮は一番いけませんからね。あなたの笑顔は素敵です、その笑顔をご近所にふりまいてくださいね」と言って若い母親の肩をそっとやさしくなでた。

赤ん坊が艦長を見て笑った、若い母親が艦長を見て「じつは、」と言いかけたその時。

 

皆の立つホームが大きく波打った。停車中の汽車がガタンガタンと音を立てて揺れる。

「地震だ!」

誰からともなく声が上がり皆は揺れに抗せずしゃがみこんだ。今まで経験したことがないような大きな揺れ。ホームにいた人からも汽車の中にいる人からも叫び声が出る。

艦長も若い母親と赤ん坊をかばうようにしゃがんだが次の瞬間どこかでメリッ!と大きな音がし、艦長ははっと上を見上げそして

「あぶない!」

と叫んで母親をドン、と突いて転ばせた。その艦長の上に、ホームの屋根が落ちかかってきた――

 

「!!」

若い母親は叫び声をあげた。その腕の中で赤ん坊が火のついたように泣く。もうもうと土ぼこりが立ってその向こうにホームの屋根が無残に崩れ落ちている。

「だ、誰か、誰かきてーっ」

若い母親は赤ん坊をしっかり抱きしめて叫んだ。

「ここに、ここに…!」

その声を聞きつけて数名がまだ揺れるホームを走ってやってきた。その一人の男性が「どうした、けがはないか」と母親に尋ねた。母親は「私は平気ですが、この下に海軍さんが!」と震える指先でがれきと化したホームの屋根を指した。

「なんだって――、おい誰か手ぇ貸してくれえ!」

男性は大声を出し、その声で何人もが集まってきた。その中にひとりの海軍佐官嬢がいてがれきを取り除き始める。ほかの人々は恐怖と興奮で手が震えている。海軍嬢は「ほかに屋根の落ちたところはないか?けが人はいないか?誰か駅員を呼んできてほしい」とてきぱきと差配した。

ようやく揺れが少しおさまって、二人ほどが駅員を探しに駆け出して行った。その間も海軍士官嬢と数名は、艦長を下敷きにしたがれきを取り除く。

その傍らで、若い母親が真っ蒼になってガタガタ震えながらその様子を見守っている――

 

その揺れを艦長の留守宅のある地方でもかなりな揺れとして感じていた。

梨賀家では皆家にいたが慌てて庭に飛び出そうとする妹たちを長男の正明が抑えた。『慌てて出たら危ないぞ、瓦が落ちてくるかもしれない』

その言葉の通り隣家の屋根瓦が何枚かずり落ち、派手な音を立てて庭に砕け散る音がする。「ほら見ろ。こういうときは慌てるな!」

自分もさすがに怖かったが揺れにおびえて自分にすがってくる妹たちをしっかり抱きしめ、正明は自分を励ますように少し厳しい言葉になった。

地面はぐらぐらとしばらく揺れた後収まってきた、関東大震災を経験した艦長の母親は「揺れ返しがあるでしょうからもうしばらくこのままで居ましょう」と言った。

果たしてそれから数分後再び地面が揺れた。

外から隣家の女性が「梨賀さん、梨賀さん大丈夫ですか!」と叫んで、艦長の母親は「はーい、平気です…」と声を張り上げた。

 

ふと、多美子が

「お母さん、大丈夫かなあ」

とつぶやいた。波奈子も「大丈夫かなあ」と言い、二人は泣きだした。正明は慌てて

「何言ってんだ二人とも、お母さんは大丈夫に決まってる」

と言ったが、何かその胸の中に不安が渦巻いていたのを妹たちには言えない正明であった。

 

その揺れは、呉地方にはほとんど揺れとして感じられはしなかった。が、マツコとトメキチそしてニャマトには不快なものとして感じ取れた。

「ねえマツコサン。これって地震ってものかしら」

そう問うトメキチにマツコは

「そうね、結構どこかで大きいみたいよ。――ねえあたしさあ、嫌な感じがしてしょうがないのよ。もしかしてさ」

と言いかけてトメキチトニャマトの顔をじっと見て黙り込んだ。トメキチが

「僕もそうよマツコサン。僕ね…艦長さんがなにか怖いことに巻き込まれたような気がしてならないの。何事もなきゃいいんだけ度、ちょっと嫌な予感がするわ」

と言いニャマトも「ニャニャニャ、ニャーマト」と言って顔を曇らせる。

「やっぱり?あんたたちもなのね」

マツコはそういうと金色の瞳を宙に向け、それきり黙ってしまった。

 

梨賀艦長ががれきの下敷きになっているあたりでは、家屋の倒壊が多く見られた。が幸い死者は出ていない。ただ家が壊れたり倒壊の危険があるため路上に座り込む人々があふれている。

 

駅のホームでは梨賀艦長を救出するべく多くの人や駅員たちが力を合わせている。

やがて屋根が取りのけられその下から梨賀艦長が見つかった。海軍士官嬢が「はっ!」と息をのんで梨賀艦長に

「しっかりなさいませ、大佐。もう大丈夫です!お気を確かに!」

と話しかけた。やたらと動かせないので耳元で必死に話しかける。そのそばであの若い母親が赤ん坊を抱えたまま真っ青な顔色で涙を流しながらその様子を見つめている。

 

大地震の一報が呉在泊艦艇にもたらされたのはその日も夜の帳が降りてからのことであった。

『大和』ではその報らせを受け取った山中副長・森上参謀長ほか各科長が蒼白の面持ちで副長室に集合している。

「――この地震に関しては報道管制が敷かれている。ゆえに各科長も、分隊員などに軽々に話をしないよう願います。当該地域の出身の将兵に関してはここに話すことは避け、一堂に集めたうえで話し、そしてかん口令を敷いてください。こういうことが万が一にも国民の戦意高揚に影を落とすようなことがあってはなりません。そして、梨賀艦長からは現在まで連絡がありません…ご自宅を本日午前に出立されたということは艦長ご母堂様から伺いましたので…被災されたことは疑いありません…」

山中副長はそこまで言うと「ううっ」とうなるとその片方の腕を顔にあてて嗚咽を始めた。参謀長が慌てて副長の背中に手を当てて

「大丈夫だ。梨賀は地震でなぞ死んだりはせん!なあに、どこかで汽車が往生しているだけだろう。連絡を待とうじゃないか」

と励ました。山口通信長、黒多砲術長、浜口機関長たちもその瞳を潤ませ泣き出しそうな顔で参謀長にうなずいて見せる。

日野原軍医長は(そうか、だからここ数日ハシビロやトメキチがなにか落着きなかったのだな。――しかし、艦長が何事もなければよし。もし艦長が怪我をしているならば、何とかして迎えに行かねばならないな。さてどうしたらいいか)と先を考え始めている。

 

そのころ。

梨賀艦長は町の病院に収容されていた。艦長をがれきから掘り起こした海軍少佐と、あの若い母親が赤ん坊と一緒に梨賀艦長に付き添って。

若い母親――指月フミーーは

「私のせいでこちらの海軍さんは怪我をなさったも同然です。私にも責任の一端があります」

と言って赤ん坊を背中に背負いながら梨賀艦長のそばを離れようとしない。

海軍少佐嬢はその心に感じ入りながらも

「そんなに自分を責めてはいけませんよ、これは仕方がないことだったのですから。しかしこちらの大佐は運が良かった。上手い具合に柱と屋根に隙間が出来て、直撃を避けられましたからね」

と言った。

指月フミがうなずいたときこの日何度目かの揺れが病院の建物をまた、がたがたと揺らした――

 

        (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・

 

なんということか、梨賀艦長が大地震に巻き込まれました。

大けがはないものの意識を失ったままの艦長、この先どうなるでしょうか。緊迫の次回をお楽しみに。


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大和 | コメント:8 | トラックバック:0 |
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コメント

まろゆーろさんこんばんは!
艦長はきっと元気になって呉に戻れます^^。艦長のやさしさが指月フミの悲しい心を温めたようです。
そして彼女はきっとこの先…何らかの形でかかわると思います!

どんな形でかかわるのでしょう、ちょっと先の話になると思いますが彼女の名前を憶えていてくださいね^^。

現在の日本人に失われた心の豊かさとかやさしさをせめてこの物語の仲だけでも取り戻したい、そう思っております^^。
2015-04-18 Sat 21:42 | URL | 見張り員 [ 編集 ]
艦長はきっと元気になるでしょう。
しかしケガの前に人に施した優しさ。その深い慈愛は彼女ならではの人となりを十分に表していますね。人徳はきっと返ってくるものと思っています。ですからきっと元気にも。
指月フミさん。これから何らかのカタチでヤマトに関わってくる人物ではないかと思えるのですが。
女だらけの戦艦大和の人々はその場限りで終わらない愛情のかたまりですもんね。手を差し伸べて成長を見守る人々の懐の深さをいつも感じています。

2015-04-18 Sat 12:35 | URL | まろゆーろ [ 編集 ]
オスカーさんこんばんは!
いやがうえにも緊張感が盛り上がってきました!!
若い母親というものはきっといつの時代も不安を抱えているものなのかもしれないですね。

そしていきなりの大地震に遭遇した梨賀艦長。しかもけがをした!?
さあどうなる…!
次回をお楽しみに^^!
2015-04-16 Thu 21:25 | URL | 見張り員 [ 編集 ]
鍵コメさんこんばんは!
本当にお久しぶりです、でもお元気でよかった!何かあったのではないかと思いをめぐらしていましたが…何もないわけではなかったですね(;´Д`)。つらいことも多々あるとは思いますがどうかあまり頑張らず(ここ大事)乗り切っていただきたい、と思っています。

例のもの、私もやってみようかなと思っています。はじめましたらすぐにご報告に上がりますので待っていてくださいませね^^。

どうぞお体を大切にお過ごしくださいませね。それがまず基本ですから、日々の様々ありますがあまり考え込まずいきましょう。私もがんばらないようにしますので・・・ね!
ではまた💛
2015-04-16 Thu 21:23 | URL | 見張り員 [ 編集 ]
河内山宗俊さんこんばんは!
その通り!これはかの有名な昭和19年の東南海地震をモチーフにしております。あれは大変な自身だったようで犠牲者も相当な数だったと聞いています。が、「女だらけの~」では死者は無しでございます。

艦長は、そして暮れにいる日野原さんは。そしてあの若い母親は…目の離せないこの先でございますぞ^^。
2015-04-16 Thu 21:17 | URL | 見張り員 [ 編集 ]
こんにちは。
ドキドキしながら2話を読みはじめました。 若いお母さんの気持ちもがわかる~と思っていたらまさかの展開に…!! ますます今後が気になります……( ´△`)
2015-04-16 Thu 10:31 | URL | オスカー [ 編集 ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-04-16 Thu 08:19 | | [ 編集 ]
戦時中に起きた東南海地震ですね。
しかしなんたる強運、屋根の隙間にはまるなんて、まだお目覚めでないのが気になりますが、しかし梨賀さんですからこれしきのことでは何ともなような気もいたします。

後はどうやってこの状況を、日野原さんに伝えるのか?その辺の展開が気になりますね。

フミさんが梨賀さんに言いかけた言葉も気になります。
2015-04-16 Thu 08:14 | URL | 河内山宗俊 [ 編集 ]

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