2017-09

「女だらけの戦艦大和」・高田兵曹、オトメチャンを心配する1 - 2015.03.11 Wed

祖父の葬儀を終えて『大和』に帰艦してきた見張兵曹に野田改め高田兵曹は、祖父の逝去への悔やみを言った――

 

「お心にかけていただいてありがとうございます、高田兵曹」

見張兵曹は高田兵曹を見上げて礼を言った。高田兵曹はうなずいてから

「見張兵曹、あんたも難儀じゃねえ。あんたの生い立ちをうちは聞いたが、うちとええ勝負じゃね。ほいでもうちの生みの母親言うんはどこぞで生きとってなけえ、まだええようなもんじゃ。が、あんたの生みの母親は亡くなりんさったんじゃろ?それもあんたがまだ赤ん坊のころじゃろう…。お母さんもあんたを残して死ぬるんはたまらんかったじゃろうに。心残りじゃったろうねえ、ほいであんたもえらい苦労しんさって。ようここまでになりんさったね、お母さんもよろこんどりんさるよ。

で、なあ見張兵曹。うちはちいと気がかりなことがあるんじゃが」

と言ってじっと見張兵曹を見つめた。

見張兵曹は

「なんでしょうか?」

と言ったがその時後ろから

「おーい高田兵曹、分隊士がお呼びじゃよ!」

と声がかけられ高田兵曹は

「はいー、今参ります。――オトメチャンすまんね、また後で話すわ。じゃあまた!」

というと走り去ってしまった。

見張兵曹は

「気がかりいうてなんじゃろうねえ」

とひとりごちて腕を組んだが「あ、交代の時間じゃわ」と指揮所へと走り出していった。

指揮所には麻生少尉と小泉兵曹、それにマツコ・トメキチそしてニャマトがいた。小泉兵曹は

「オトメチャン…このたびは」

と悔やみを述べ、麻生少尉も

「いろいろ大変じゃったのう、ほいでも伯父さま伯母様いうお人たちがええお人でえかったよ。今度は上陸しても桜本さんのうちに行けるのう」

と喜んでくれた。

マツコも

「聞いたわよ、おじいさんが亡くなったんですって…がっかりしちゃダメよ。お爺さんはあんたの子とずっと見守ってるからしっかりして生きなさい」

と励まし、トメキチも

「僕の知ってるあのおじいちゃん死んじゃったの?悲しいよう…でもトメさん気を落としちゃだめよ?」

と兵曹にまとわりつき、ニャマトでさえ

「ニャマート!ニャマトニャマトニャマート!」

と兵曹を励ました。

見張兵曹はしゃがんでそれぞれをそっと抱き寄せると

「ありがとうな、ハシビロもトメキチもニャマトも…心配してくれとってんじゃね、ありがとう」

と言ってマツコの肩に少しの間顔をうずめるようにした。

嗚咽が漏れたのを、トメキチは感じてたまらずその膝の上に飛び乗り兵曹のほほをなめた。ニャマトも負けずに兵曹の体をよじ登って「ニャマート!」と鳴いている。

兵曹は顔をマツコに付けたまま二人を片手で抱きしめた。

「――オトメチャン」

麻生少尉はしかし声をかけかねて黙って見つめている。小泉兵曹も涙ぐんで兵曹を見つめる。

やがてオトメチャンは泣きはらした顔を上げて

「分隊士、小泉兵曹。改めて『ありがとうございました』。小泉兵曹には迷惑をかけてしもうてすまんことをしました…ほかにみんなにもうちは謝らんと」

というと麻生分隊士は笑って

「何言うとるんじゃね、うちらは仲間じゃ。同じ艦で暮らして同じ釜の飯を食う仲間じゃないね。そげえに他人行儀なこというてくれちゃ困るで。ほいで礼を言うなら艦長じゃ、艦長が弔文を贈られて藤村少尉に行ってもろうてな、ほいで通夜に来とった連中がオトメチャンに嫌なこと言いよる言うて艦長に訴えたんじゃ。ほしたら艦長も副長もえらい悲しまれて、なら副長が航海科の人間を引き連れていったらええいうことになってな。日野原軍医長もその話を聞きつけて『そういう話ならぜひ私も行きたい』言うてくださって、なおさら箔が付いたわ」

といった。

「ほうでしたか。ほんならうち、あとで皆さんにご挨拶せんといけません」

オトメチャンはそう言ってほほ笑んだ。

小泉兵曹もほっとしたように微笑み、マツコ・トメキチ・ニャマトも兵曹から体を離してその顔を見つめた。

そこにラケットを担いだ松岡中尉がやってきて

「おお!見張兵曹、おかえり!」

と叫んだのでその場にいた皆はびっくりして中尉の顔を見つめた。松岡中尉は

「なんだなんだみんな、私の顔をそんなにみつめて――そうか私のこの顔に見とれていたんだね、そうでしょうそうでしょう。私の顔は美しい、あきらめない女は美しいですからねそれに」

とベラベラしゃべり始めて止まりそうにない。

麻生少尉はエヘンと咳払いをして中尉に向き直り

「その辺でもうやめてつかあさい分隊長。おっしゃりたいことはなるべく簡潔に願います」

と言って松岡中尉はラケットをブン!と振ると

「そうだねその通りだよ麻生さーん!あなたさすがですね、さすが何十年も海軍の飯を食ってるわけじゃない!はいはい私は黙ります、でもその前に一言。どうしてみんなびっくりしてるの?」

といい皆は少なからずすっこけた。

麻生少尉は

「まず一言私から。ええですか分隊長、私はそげえに何十年も海軍には居りゃせんです。人が聞いたら誤解しますけえ変なこと言わんでつかあさい。――何をびっくりしたか言うてほりゃあ分隊長、分隊長はいつも見張兵曹に『特年兵、特年兵』言うてなかなかきちんと兵曹じゃ言わんかったじゃないですか。それが突然『見張兵曹』なんかいうけん、皆驚きよってです」

と説明した。

見張兵曹は松岡分隊長の前へ進み出ると

「分隊長、祖父の葬儀に参列してくださって、ありがとうございました」

と礼を述べた。

松岡分隊長はラケットをブンブン振り回して

「飛んでもハップン、歩けば五分。見張兵曹あなた大人になりましたね、私はあなたが大人になってきたのをこの肌で感じ取っていたんですよ。そう、あなたと私、肌を合わせて感じ取るこの信頼感!ですから私はもうあなたを特年兵君とは呼びません。今日から君は兵曹だ!熱くなれよ!」

と聞き方によってはとんでもないことを言ってあっという間に去ってしまった。

麻生分隊士は

「なんじゃねあん人は、オトメチャンと肌を合わすなんぞうちだけしかできんはずじゃのに…嘘もたいがいにせえや!」

と怒っている。

しかしオトメチャンは笑いながら

「まあええでないですか、分隊士。――ではうちはこれから勤務に入ります」

と言って小泉兵曹と交代した。

「じゃああたしたちも一緒にここに居るわ」

マツコ・トメキチ・ニャマトがそういって見張兵曹の隣に座りこんだ…

 

 

その日も夕食を終え自由時間となった。

オトメチャンが居住区で静かに本を読み、ほかの連中は双六やトランプ遊びに興じている。そこに「見張兵曹居るか?」と声かかけられた。オトメチャンが「はい」と立ってゆくとそこには高田兵曹がいて「ちいとええかのう?話したいことがあるんじゃが」と言ってオトメチャンを露天甲板に誘った。

静かに波が舷側をたたく音を聞きながら二人は機銃座の前に座った。

「高田兵曹、なんでしょうかお話とは」

オトメチャンは尋ねた。すると高田兵曹はとても真面目な顔で

「オトメチャンはうちが野田の家と絶縁して高田さんの養女になったんは知っとろう?」

といった。オトメチャンは(高田兵曹、いつもとちがうのう)と思いつつもうなずいた。高田兵曹はオトメチャンに体を向けると

「オトメチャンは…まだ、その、戸籍は<見張>の家にあるんかのう?」

と言った。その瞳は真剣な光を湛えている。オトメチャンはその瞳を見つめながら

「はい。まだ戸籍は見張の家にある思いますが、それがなにか?」

と尋ねたオトメチャンに高田兵曹はあきれたような表情になった、そして

「それがなにか?じゃないわい。継母いう人から縁を切られた言うたじゃろう?そんとな家にいつまでも籍を置いとってええことないで?きついこと言う思うかしれんがオトメチャンはあの家にとっては厄介もんじゃ。そんとな家にいつまでも籍を残しとってええことない。あんたの未来に傷がつかんとも限らんで?

―ーあんたの生みのお母さんの実家の伯父さんか伯母さんがおってじゃ聞いたけえ、悪いことは言わん、まず戸籍がどうなっとるか調べて、まだあるようなら<見張>の家から除籍してもろうて伯父さんたちの養女にしてもらえ!」

と最後は真剣な顔になり、オトメチャンの両手を握って懸命に説いた。

オトメチャンはぽかんとして高田兵曹の顔を見つめていた。

高田兵曹は今度はオトメチャンの両肩をつかんで

「ええか。これは大事なことじゃ、直接見張の家に言えんのなら誰かほかの人を立てて折衝しろ。うちはあんたが他人のように思えんのじゃ、似たような生い立ちじゃけん、他人には思えんのじゃ!」

と怒鳴ってからはっとしたようにオトメチャンの肩から手を離した。

「すまん…だがの、オトメチャン。うちはオトメチャンがもしも、この先うちみとうに利用されたら嫌じゃ思うけえ言うたんじゃ。――うちの気持ちもわかってほしい」

そういって高田兵曹はオトメチャンの背中をやさしくなでた。

そして

「それがうちの気がかりじゃ。どうにかせんといけんで?誰かに相談してみい?早いほうがええよ、うちはどうも気になっていけんけえの」

と言って「じゃあ、これで」というとその場を離れた。

一人残ったオトメチャンは

「うちを桜本の養女に、言うて…できるんじゃろうか」

と考え込んだ。

そうだ、とオトメチャンははたとひらめいた。

「貴子姉さんに相談してみよう」

 

オトメチャンの、新しい人生が始まるか否かの瀬戸際であった――

 

      (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

オトメチャンのことを心配するのは麻生少尉だけではなかったのですね。高田兵曹(元野田兵曹)も自分の生い立ちと絡めて、オトメチャンがこのままでいいわけがないと思ったのでした。

果たして継母はこの話に同意するのか、そしてオトメチャンの亡き母の実家では彼女を養子にしてくれるのでしょうか。

緊迫の次回をお楽しみに。
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● COMMENT ●

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
さあ時代の壁に立ち向かってゆけるのでしょうかオトメチャン。

あの麗子さんがしゃしゃり出てこなきゃいいのですが(-_-;)…しかしこの問題は長くなりそうですよ(;´・ω・)。
どうぞこの先もよろしくお願いいたします^^。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
良かった!ずっと気になっておりました。オスカーさんからのコメントを心待ちにしておりましたのでとっても嬉しいです^^。

オトメチャンの戸籍問題…どうなりますか!嫌な思いばかりの家でしたから出たほうがいいのは決まっていますがさて…!?

段々とオトメチャン、大人になってまいります。大きな壁も待ち構えているかもしれませんが、どうぞご期待くださいませ!

この時代の戸籍は

家長の権限大きいですから、一筋縄ではいかんでしょう。

なりを潜めている麗子さんが、海軍省側から手を回すことも考えられますが、こちらは山本長官が抑えをきかせてくれる気がします。

こんばんは。
これは読めました~よかった!嬉しいです(≧∇≦)
気持ちの上では縁切りしていても戸籍上はそのままだともめたりイヤな思いをすることもありますからね。少しずつ周りの力をかりて少女から脱皮するオトメちゃん……今後がますます気になります!!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
人が集まれば集まっただけ暖かさがほしい。昨今そんな暖かさなど望むべくもないような世の中になり悲しい思いですが、「女だらけの大和」はやさしさの集合体でありたいと思います^^。

母胎。
まさにそうですね!オトメチャンにとってはここは母胎。そして誰にとっても―ー。
人生悪いことを考えたらきりがない、上を向いて歩こう!!

オトメチャン本当に養子になるのでしょうか、そすると苗字も変わるわけですがさて??この後しばらく音k目ちゃんにいろいろあります、そのうえで判断が下りますのでお楽しみに!

本当に真冬ですね、寒いのなんの。だのにしっかり花粉症はあってがっくりの三月ですw。
いつもお心にかけていただきありがとうございます、兄様・大王様若様そしてお母様もお大事に。お母様めまいが出ていないか気にかかっています。

あたたかな布団に入ったような安らぎ感。みんなの優しさでしょうね。
事情がありながら生まれた子どもにこそ何の罪はないのですが、オトメチャン、ここで生きていて良かったですね。まるで母胎みたい。
やはり人生って悪いことばかりではないということですね。

さて養子に?? 見張の苗字あってのオトメチャンですがどうなるのでしょう。見張り員さんの評定が楽しみです。
寒の戻りどころか真冬のようなここ数日。くれぐれもご自愛下さいね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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