「女だらけの戦艦大和」・ここが私の故郷だ3

「おじいちゃんが―ー亡くなった、じゃと?」――

 

見張兵曹はその場に呆然と立ち尽くした。その顔面は次第に蒼白になっていく。麻生少尉がさすがに「兵曹、大丈夫か?」と声をかけてその肩をゆすってやっと、気が付いた。

「おじいさまのご葬儀に、出たほうがええじゃろう。うちから航海長にいうておいてやるけえすぐに行ったらええ。おじいさまのうちはわかとってじゃろう?」

麻生少尉もやや緊張気味の表情で言った。麻生少尉もかつて、兵曹の祖父母に逢っている。

見張兵曹はかすかに唇を震わせて

「ええでしょうか…勝手して…」

といったが少尉は「何言うとる!自分の身内じゃで?勝ってもくそもあるか、作戦中でもないんじゃけん行け!」と怒鳴るように言った。

花ちゃんが

「見張兵曹、うちらと一緒に行きましょう…少尉、私たちは兵曹と幼馴染であります。今私たち休暇中でもありますけえ、兵曹と一緒に参ります」

ときっぱり言った。

麻生少尉は

「それは相済まない。どうぞよろしく願います」

と三人の水兵長に頼むことにした。

見張兵曹は青ざめた顔のまま

「ほいでは麻生少尉、後をよろしく願います」

というと三人の幼馴染の水兵長たちに囲まれるようにして歩き出していった。

 

麻生少尉はすぐに艦にとって返し、舷門近くに繁木航海長と山中副長が一緒にいたところをつかまえてオトメチャンの実の祖父の訃報を伝えた。

そして

「私の一存で見張兵曹をゆかせました。おとがめは受けます、が、ほかに身寄りのない兵曹」とそこまで言ったとき山中副長はそれを押しとどめて

「誰が咎めますか麻生少尉。――それより私はオトメチャンが<故郷の村>に行って何事もないか心配です」

と考え込んだ。繁木航海長も

「そうですね…彼女はいわば故郷を追われ捨てざるを得なかった立場ですから、行って嫌な目に合わなきゃいいんですが」

と腕を組んだ。

みな見張兵曹の複雑な生い立ちを知っているだけに不安を隠せない。もし生れた村に出かけて、<見張の家>のだれかに出会ったらと思う時が気ではない。

オトメチャンは前に「縁を切られました、うちからも切ってもらいましたけん」と笑っていたが今<見張>の姓を名乗っている以上それも完全とは言えまい。余計な軋轢が生じないかと山中副長も繁木航海長も心配なのである。

麻生少尉は二人の顔を交互に見詰めて(オトメチャン、何事もないように)と祈った。その少尉へ副長は「では…見張兵曹は今日は帰艦できないかもしれないね…舷門当直に言っておくよう藤村少尉に伝えておこう」

と言って藤村少尉を呼んだ――

 

オトメチャンこと見張兵曹は、幼馴染の三人に囲まれるようにして自分が育った村に足を踏み込んでいた。さすがに緊張を隠せない見張兵曹にサダッペがそっと

「緊張しないでええよ…だれもこげえに立派になったトメちゃんをいじめたりせんで。もしそげえな奴がおったらうちらがだまっとらんよ。安心してええよ」

と囁いた。

タケが「ほうじゃ。もう昔のトメちゃんじゃないんじゃけえ堂々としとり」といい、花ちゃんが「ほうほう。ー-ほいでサダッペにタケ、これからはトメちゃんに敬語で話んさい」と言って二人はうなずいた。

 

村の中央を流れる小川の向こうに、兵曹の生みの母親の実家はある。決して裕福ではない家ではあるが兵曹の母・トヨの長兄が岡山で事業をしそれが当たったとかで以前、兵曹が幼かった頃よりずっと良い家となっている。

見張兵曹は母の実家を少し離れたところから見て「はあ立派になったのう」と感嘆の声を漏らした。足が止まった。そして(ああ…うちももっとはように偉くなっておじいちゃんおばあちゃんにちいとでも楽をさせてあげたかった)と悔しい思いをした。

花ちゃんが

「見張兵曹、行きましょう」

と促して、一行は見張兵曹の母の実家・桜本家の前に立った。扉には不幸があった家らしい「忌中」の張り紙が張られ中では人の動き回るような気配がするのが少し開けられた扉の向こうから伝わってくる。

「さあ、行くで」

花ちゃんが言って扉に手をかけ、開いた。

そして「ごめんください」と声をかけた。土間にいた女性が「はい…」と言って立ち上がり姉様被りの手拭いをとって四人を見た。女性は花ちゃん・サダッペ・タケをみると

「ああ、あなたたち…うちの爺さんの話聞いたんじゃね」

と言って頭を下げ花ちゃんたちは挙手の礼を返す。さあどうぞと中に手を伸べる女性に、花ちゃんは

「おばさん。彼女を知っとりますかのう」

というと三人の後ろにそっと立っていた見張兵曹を引き出した。おばさんと呼ばれた中年女性は小首を傾げた。しばらくして女性ははっとした表情をすると慌てて居間へと走りこんだ。そして

「お母さん。お母さんちいときてや!」

と大声を出した。その声に居間から「何を慌てとるんじゃ」と男性の声がし、そのあと「なんじゃね、きゑ子。なーにを慌てとるんじゃ」と年配の女性に落ち着いた声がしてやがてそれらの声の主が姿を現した。

三人の水兵長を後ろに従えた見張兵曹の姿を見た中年の男性が見慣れない海軍下士官嬢の姿に怪訝な顔をした。

が、後ろから先ほどの中年女性―ーこの男性の妹のようだ―ーに何事かささやかれてびっくりしたような顔をして兵曹を見つめた。

そこに「なんじゃねいったい」と言いながら腰をこぶしでたたきながら出てきたのこそ兵曹の祖母である。祖母はそこに立っている見張兵曹をみるなり

「トヨの娘の、トメちゃんじゃ!トヨによう似とってじゃ」

と言って、土間に足袋はだしで降りるとその肩を抱き寄せ水兵長たちに「さあ、よう来てくれたのう。あがりんさい」と言って三人は中へと案内された。

中へ入ったとき――見張兵曹はドキッとして片足を引いた。

居間には、この村の住人が十数名こちらを見ていた。

そしてその誰もが、見張トメの身上を知りすぎるほどに知っている者たちであったのだ――

 

        (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・

 

オトメチャン、突然の訃報に接しましたが麻生少尉や山中副長たちの計らいで祖父の家に弔問に行けましたが…村の人の視線が気になります。

さてどうなりますか、次回をお楽しみに!


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matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
最近田舎暮らしが流行っているようではありますが、田舎の実情というものをちょっとでも知っている私などは永住はしたくないなあと思います。昔山梨出身の女性が同郷の人と結婚したんですがやはり田舎に帰るのは嫌だ、人の口がうるさくって…と言っていました。
人の口に戸は立てられぬを地で行くようなものだよ、と言われたことを思い出します。

さて海の女のオトメチャンですがこの苦境を乗り越えられるでしょうか。そして理解者だった一人の祖父の死。どうなりますか??次回をご期待ください!

狭い田舎であればこそ、ちょっとした細かいことでもすぐに伝わりますからね。
差し障りのないことなら広く伝わってもいいのですが、ちょっと伏せておきたいことでも広まります。とかく狭い村は住みにくいものです。
帝国海軍で鍛えられたオトメチャンは動じないでしょうが、お祖父ちゃんの訃報は堪えるでしょうね。
住人の視線を感じるオトメチャン、さあ、どうなるんでしょうね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
オトメチャンの祖父が亡くなって…もう行かないはずの<故郷>へ。しかしそこにいたのはおばあちゃんだけではなく…となるとオトメチャンの立場はとても複雑になります。

どうして葬儀とかで親戚同士のあれこれが噴出するんでしょうね???葬儀が争議になっては故人が悲しむと思うんですがねえ…私も祖母の際あれこれあって(-_-;)。

オトメチャンがこの高いハードルを越えられるように祈ってやってくださいませ!

おはようございます。
オトメちゃん、大丈夫でしょうか、心配です。祖父を亡くした時のこととか思い出しました。葬儀の席って親戚関係とのあれやこれやとか出てきますよね……ひとつひとつ乗り越えてオトメちゃんがたくましく、したたかになってくれることを願っています~頑張れ、オトメちゃん!!
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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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