「女だらけの戦艦大和」・ここが私の故郷だ2

オトメチャンは『大和』に帰艦した――

 

そして夕食後の自由時間になって、居住区に麻生分隊士が苦虫を噛み潰したような顔でやってきて「小泉兵曹、おるか?」とよばった。

小泉兵曹はハンモックの中で本を読んでいたが顔を上げると「はい、おります」と言って入口の麻生分隊士のそばに行った。

分隊士はむつかしい顔のまま「ちいとこいや」と言って二人はどこかに行ってしまう。それを石川水兵長が見ていて、石場兵曹と一緒に縫物をしている見張兵曹のそばに行くと

「見張兵曹、麻生分隊士ちいと様子が変でしたねえ」

と囁いた。

見張兵曹と石場兵曹は同時に顔を上げて石川水兵長を見た、そしてオトメチャンは

「様子が変いうて、どがいに変なんじゃね?」

というと石川水兵長は

「えろう機嫌が悪うてらっしゃいます…小泉兵曹なんぞ悪い事でもしたんでしょうか」

と心配げに囁いた。石場兵曹は縫いかけのものを手箱に入れ込むとよいしょ、と立ち上がって

「ちいと見に行くか。小泉兵曹がなんぞいけんことをしたならそれは首席下士官のうちの監督不行き届きでもあるけえね」

と言い、石場・見張・石川の三人は連れだって麻生分隊士たちの言ったと思しきほうへ歩いてゆく。オトメチャンは「分隊士は何かあるときはたいがい、主砲塔のあたりに居るで?」と言って石場兵曹は「オトメチャンが言うなら間違いない。行こう」とそちらへ歩を速めた。

果たして主砲塔の陰に麻生と小泉兵曹はいて、麻生分隊士はなぜだかカンカンになって怒っている。少し離れた場所でオトメチャンは「どうしてあげえに分隊士は怒っとりんさるんじゃろう」と少し怖げに言った。

三人が耳を澄ますと麻生分隊士の声が聞こえてきた。

 

「なんでそげえに大事なことうちにだまっとったんじゃ。うちは貴様らの家族じゃ思うとるんに、何でね?うちはそげえに頼りないか、他人も同然か?」

半分涙を含んだような声に、オトメチャンたちは胸を突かれる思いで分隊士の声を聴く。

小泉兵曹が

「ほいでも個人的なことですけえ…だまっとったんは悪い思うてます。ほいでうちは分隊士を他人じゃとは思うとりません!」

と反論するのが聞こえた。すると分隊士が

「個人的なこと…その個人的な、いうんが他人行儀じゃいうんじゃ!――うちの大事な家族の、その家族の一大事をうちが知らんでええ思うとるんか!うちは…うちは悲しいで!」

というなり小泉兵曹を一発殴りつけるとその場を走り去ってしまった。

殴られてその場にしりもちをついている小泉兵曹のもとへ、三人はまず駆けつけた。そして彼女を抱え起こすと石場兵曹が

「何をしたんね?なんであげえに分隊士は怒っとッたんね?話してみんか」

と首席下士官らしい物言いで言った。小泉兵曹は殴られたほほをそっと撫でながら

「じつは」

と話し出した。それによれば、昨日彼女は嫁いだ実の姉の岸田今日子から手紙をもらっていた。それには広島の実家の父が病にふせっている、そして純子に会いたがっているから何とか来れないかと言うものであった。小泉兵曹はその手紙を居住区に落とし、それを折悪しく麻生分隊士が通りかかり拾ってしまい中を見てしまったのだ。小泉兵曹は分隊士と上陸日を交換してもらうとき手紙のことを言わなかったから、分隊士は機嫌を損ねてしまったのだ。

 

広島の実家には小泉兵曹が海軍入団の後亡くなった実母の後釜、父の後妻がいる。なんだか行きにくい実家ではあったが姉のたっての願いと病にふせる父の願いではいかないわけにゆかない、それに。

「それにもしも、父親が死んでしもうたら…二度と実家には行けんけえ」

小泉兵曹はそう言って顔を伏せた。見張兵曹が「ほんならなんで分隊士にきちんといわんかったんね?そがいなことされたらうちでも怒るわ」というと石川水兵長もそっとうなずいた。

小泉兵曹は「じゃけえ、個人的なことじゃというとるじゃろ!親の病気のことで分隊士を煩わすんはうちは嫌じゃけえ、言わんかったんよ!」と怒ったように言った。

と、

「あほ!」

というと見張兵曹は小泉兵曹の、今さっき分隊士に殴られたばっかりのほほをぶん殴っていた。

「ウワッ!」

と小泉兵曹はもう一度その場に転がった。石場兵曹は黙ってそれを見つめている。石川水兵長は見張兵曹が人を殴るのを見たのはなかったので驚いて絶句している。見張兵曹は小泉兵曹の事業服の襟をつかんで引き起こすと

「貴様は何でそがいに他人名義なんじゃ!そげえなことされたら誰でも腹が立つ。分隊士の気持ちになってみい、家族とも思う大事な小泉のそのお父さんが病にふせっとるんを知らされんなんぞ悲しすぎるじゃろうが!貴様もっと、人の気持ちを斟酌せえや!」

と怒鳴った。その瞳が涙でぬれているのを石場兵曹は見た。石場兵曹はオトメチャンの手をそっとつかんで小泉から離させた。

そして

「オトメチャンの分隊士に対する気持ちはようわかった。そしてそれは正論じゃ。小泉兵曹、貴様はこれから分隊士のところへ行ってきちんと謝れ。――ほいで、それはそうとおとうさんはどがいね?」

といった。小泉兵曹は切れた口の端から流れた血を手の甲で拭ってから

「はい。父の病気は重うなかったがです。――いやその、病気言うんはその、うそじゃったんです」

と言って三人は「ええっ!」と叫んで絶句した。そして小泉の顔を見つめていると彼女は話を続けて

「父は、うちに見合いをさせるようと思うて、うそ話を姉と作ってうちを広島の実家に呼び出したんです。うちはそんとな罠があるなんかちいとも思わんかったけえ、なんや欺かれたような気ぃがして…」

とそこまで言って黙ってしまった。

見張兵曹はなんだか気まずい思いにとらわれて「ほうね…ほりゃあえらいことじゃったの。――まあええわ、はよう麻生分隊士のところ、行けや」というとその背中を押した。小泉兵曹は石場兵曹に頭を下げて「お騒がせしてすみませんでした」

というと走り出した。

それを見送る石場兵曹は「はあなんじゃろう思うたらそげえなことか…言うても分隊士にとっては一大事じゃったね。さ、いこうや」と言って三人は艦内へと取って返す。

艦内へと歩きながら見張兵曹は

(小泉兵曹もいずれ、故郷をなくしてしまうんじゃろうか。ほいでも小泉には姉さんがおりんさるし弟さんもおりんさる。うちとは雲泥の差じゃ…見合いくらい一回したらええのに。お父さんの顔をつぶさんか、うちはそっちのほうが心配じゃわ)

と思っている。

 

その晩のうちに小泉兵曹は私室に麻生分隊士を訪ね、先ほどの件を謝った。麻生分隊士は部屋の中に小泉兵曹を招じ入れ

「わかればええよ。うちもあげえに怒ったりして悪かった…なんじゃ、見合いをさせるためにお父さんと姉さんがうそを言うてか!えらい手の込んだことをしんさるねえ、それほど貴様が見合いを嫌がるけえそうなるんじゃろう、一度くらい親の顔を立ててやらんか」

と笑いながら言ってふと小泉の顔を見ると

「誰かに殴られたんか?ここ、切れとってじゃ」

と彼女の口の端をそっと指さした。小泉兵曹は照れ臭そうに笑って

「オトメチャンに殴られました。『分隊士の気持ちになれ!』言われて。確かにそうですわ、うちはあほです。これから気を付けますけえどうぞ許してつかあさい」

といった。

麻生分隊士は

「オトメチャンがかね!あの子が人を殴るなん、あまり見たことも聞いたこともなかったが」

と言ったが分隊士は、オトメチャンが自分の気持ちを代弁してくれたことに内心感謝していた。

小泉兵曹はしばらく黙って自分の手を見つめていたがやがて

「うちは…なんだかんだ言うても故郷があります。でもオトメチャンには故郷いえるもんがないいうんが何かうちには哀れに思えてなりません。ほいでもこげえなこと言えばオトメチャンには嫌味に聞こえるんではないか思うと言えません」

といった。

麻生分隊士も「ほうじゃな…オトメチャンのこれまではあまりに壮絶じゃけえ、生半可な慰めや励ましの言葉なんぞ却ってウソに聞こえてしまうんではないかと思うな。むつかしいもんじゃの」と言って黙り込んでしまった。

 

数日後。

見張兵曹は今度は麻生分隊士とともに上陸していた。休暇をのちに控えているので今日は泊まりなしの上陸であるが心浮き立つものがあるふたり。

本通りに入り、「飯でも食っていこうや」となった。そして一軒の店で飯を食べそこを出たとき、オトメチャンは

「あ、見張兵曹」

と声をかけられた。見れば伊号八〇〇潜乗務の幼馴染のあの三人がいた。三人の上等水兵は少尉の分隊士に丁寧な敬礼をして見張兵曹に向き直ると敬礼をした。

二人が手を下ろすと花ちゃんが

「見張兵曹、ちいとお話があります」

といった。サダッペもタケもどこか緊張気味の顔つきである。麻生少尉は気を利かして「うちはちいと行くところが」と言いかけたが見張兵曹は

「いえ、分隊士。居てつかあさい。花ちゃん、どうしたんじゃね?ここで言うてくれんか?」

と頼んだ。

花ちゃんは、一瞬見張兵曹の顔を見つめたが気を取り直したように姿勢を正すと

「兵曹の…<お母ご実家>は、桜本さん言いましたよね」

といった。見張兵曹は「ほうじゃ。それが、なんか?」というと花ちゃんはうつむいてしまい、サダッペが言葉を引き継いで言った。

「やはり…。兵曹落ち着いて聞いてつかあさい。兵曹のおじいさまが、昨日亡くなられました」

 

見張兵曹の視界が、真っ白になった――

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

小泉兵曹と麻生少尉のちょっとした争いは無事解決。

そしてオトメチャンには衝撃的な情報が幼馴染からもたらされました。さあどうなる―ー次回をご期待ください。


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Comments 2

見張り員">
見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
壁紙、なかなか気に入ったのが見つからなくて。これはと思ったら見ている方のほうで不具合が出たりしてまったく困ります(;´・ω・)。
これは本当に春らしくていいと思いますね^^。

オトメチャン、数少ない本当の身内の訃報に接してこの先どうなりますか…そして祖rを伝えてくれた友人は???どうぞご期待ください!

今日は昨日と打って変わって寒い北風の吹く一日でした。そちらはいかがですか?おかあさまめまいなど出ていませんか?御身大切にお過ごしくださいませね。

2015/02/27 (Fri) 22:10 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  
No title

おぉ!!! なんて素敵な壁紙!!!
見張り員さんの優しさや穏やかさがこちらにしっかりと通じています。

ただならぬことがオトメチャンの身の上に。
でも皆さん、それぞれあるんですね。
人の知らない家族のこと。さまざまがあって当然のことでしょうが、そんなつらい時にこそ有難いのが友人と呼べる仲間の存在でしょうか。

天候が不順の折です。どうかご自愛下さいね。

2015/02/26 (Thu) 23:51 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)