「女だらけの戦艦大和」・ここが私の故郷だ1

オトメチャンこと見張トメ海軍二等兵曹は今日は一人の上陸である――

 

 

いつもほとんど一緒に上陸する麻生分隊士は小泉兵曹のたっての願いで上陸日を代わってやったのだった。小泉純子海軍二等兵曹は「本当に申し訳ないですがどうか今回だけ願います!一日だけで、いや、夕方まででえんです」と言って麻生分隊士も「ええよ。なんぞ大事な用があるんじゃろう」と言って快く代わってくれた。

小泉兵曹はオトメチャンに

「分隊士との上陸、楽しみにしとってたんに悪いのう。今日だけじゃ、本当にすまん」

と両手を合わせて詫びた。

オトメチャンも「そがいにあやまらんでええよ。上陸はきょうだけじゃないんじゃし、まだうちら休暇もとっておらんけえ、楽しみは先延ばしじゃ」と笑って快諾してくれた。

 

そしてオトメチャンは上陸した。

(ほうじゃ、久しぶりにお母さんの墓参りに行こう)

オトメチャンはそう思い立ってランチの中で一人微笑んだ。その微笑みを目ざとく見つけた長妻兵曹が「オトメチャンは何をそげえに嬉しそうにしとってかね?」と聞いてきた。

しかしオトメチャンは微笑みのままで

「内緒じゃ」

と言ってゆく手を見ながら微笑む。長妻兵曹は

「ほう、オトメチャンにもついにええ人ができたんかいな?麻生分隊士がよう許したもんじゃのう」

と感心したように言ってほかの下士官たちも

「オトメチャン気ぃつけんとええ人が痛い目ぇに合うで?」

とか

「麻生少尉はそんひとのこと知っとりんさるんかね?」

などと心配してくれるのがオトメチャンにはうれしかった。オトメチャンは吹き付けてきた風に軍帽をとられまいとその庇をつかんで皆を振り向くと

「ええ人はええ人じゃが…うちの生みの母親の墓参りに行くんじゃわ」

と言い、皆は「ああ、お母さんのね」と納得した。オトメチャンの不遇な生まれについてはもう知らないものはないので皆はそれきり黙った。

ランチは春の海を軽快に上陸桟橋まで走る。

 

オトメチャンは遊びに行く仲間たちと「ほいじゃあな、またあとで。時間に遅れんなや!」と笑顔で言葉を交わして歩き出した。

町中を突っ切って母の墓地へと向かうオトメチャン、向こうからくる海軍嬢たち数名とすれ違った―ーとその中のひとりが

「トメちゃん。トメちゃんじゃないか!?」

と声をかけてきた。びっくりしてオトメチャンが声の主を見ると、幼馴染の三人がこちらを見て笑っている。

「タケ、サダッペ、それに花ちゃんじゃないね!ひさしぶりじゃのう!」

オトメチャンは懐かしい友達の名前を次々呼んで、その三人はワットオトメチャンを取り巻いた、そして

「覚えてくれとってじゃね、トメチャン…いや見張兵曹」

と言って三人はオトメチャンに敬礼した。

オトメチャンは懐かしさに気に留めていなかったが三人は上等水兵。濃紺の水兵服である。オトメチャンより海軍入団がすこし後の三人は階級が下である。詰襟の一種軍曹のオトメチャンを眩しげに見ている。

が、なつかしさにオトメチャンはそんなことはもう気にならない。

自分より背の高い三人の肩を抱き寄せて

「なつかしいのう、今日は暇かね?ひまじゃったらどこぞでゆっくり話をしたいのう!」

と言って三人は

「はい、暇でありますけえゆっくり話をしたいであります」

と言って敬礼した。

オトメチャンはちょっとふくれっ面を作って

「それ、やめえ。うちら昔馴染みじゃ。この際階級なんぞ無し、無しじゃ。ええね?」

と言って皆は笑った。サダッペと呼ばれた水兵が

「ほいでも外ではトメチャンは上官じゃけえ、きちんとせんと叱られるけえね。どこぞに入ったら昔に戻ろうや」

と言ってオトメチャンも「それもそうじゃね」と納得した。

 

オトメチャンは三人の幼馴染を、麻生分隊士とよく使う小さな店に連れて行った。店ではオトメチャンを歓迎してくれて

「ほうですか、幼馴染さんと久しぶりの!ほいじゃあ静かなお部屋をどうぞ」

と玄関から離れた静かな一室をあてがってくれた。水兵の三人は「こげえにりっぱな店、うちらはまだよう入らんね」と笑った。

座布団の上に落ち着くと四人はもう昔の悪ガキに戻ったようだった。

「ほうじゃ、花ちゃん」

とオトメチャンは思い出したように花ちゃんに言った、花ちゃんが「なんじゃねトメチャン」と言ったのへ

「前にトレーラーであったじゃろ?そん時花ちゃんはトレーラーの陸戦隊に居ったじゃろ、あの後どうしたんじゃね?」

というと花ちゃんは

「おう、ほうじゃ。うちあの後潜水艦勤務になったんじゃ。本当言えば昔っから潜水艦にのりとうてね、ほいで潜水艦の学校に行ってな。ほいで潜水艦に乗っとってよ。この二人とも学校で再会してね」

と答えた。タケとサダッペが「ほうほう」とうなずいた。オトメチャンは「ほお~、そげえなことがあったんか」と感心。

花ちゃんは「今回はうちらの伊号八〇〇潜、久しぶりの内地じゃけえ休暇をもろうてね。一週間の休暇じゃ。じゃけえ今日はちいと呉の町で遊んでからうちに帰ろう思うとってじゃ」と言って二人も

「ほうほう。潜水艦は一度出たらなかなかおいそれとは帰れんけえね。艦長もその辺はようわかってくれて若いもんから、言うて休暇をくれんさったんじゃ」

とうれしげである。

タケが

「ほいで?トメちゃんはどの艦に乗っとるんかね?」

と聞いたのでオトメチャンは「『大和』じゃ」とそっと教えた。すると三人は「や、大和かね!」とびっくりして声を上げた。

花ちゃんは「いやあ、トレーラーで会うたときそんなことちいとも言わんかったじゃないねえ。『大和』かあ、トメちゃん出世頭じゃの」と言ってわがことのように喜んだ。

タケもサダッペも『大和』の話を聞きたがりオトメチャンもあれこれ話してやった。

タケが「えらいもんじゃなあ。幼馴染があの全海軍期待の弩級艦・『大和』に乗っておりんさるとは思いもよらなんだわ。うちらの誇りじゃわ!」と言って感激家のタケは瞼をおさえている。

サダッペも「ほうじゃ、うちらの誇りじゃ。うちらの仲間の中で一番体のこまいトメちゃんが…」と言ってしばし目を閉じて追憶に浸っているようだ。

そんな三人にオトメチャンは

「うちもみんなが伊号八〇〇潜に乗っとる聞いて誇りに思うで?伊号八〇〇潜いうたらやたらと乗れん潜水艦じゃ聞いとってもん。伊号八〇〇潜に乗れるんは頭も良うないといけんし機転も利かんといけん、そのうえ肝もすわっとらんといけんいうてきいたで?じゃけえ花ちゃんたちは海軍の誇りじゃわ。うちはみんながうらやましい」

と言って三人を祝った。

そしてそっと三人に顔を寄せると

「戦艦に乗るやつは<トロいやつ>じゃそうなけえね」

と言って四人は大声で笑った。

そのあとオトメチャンは昼飯に定食を頼んで四人で楽しく食べた。

 

昼食後四人は座敷にごろんと横になって天井を見上げつつ思い出話に興じた。そのうちだんだん瞼が重くなってやがて四人は午睡をしたのだった。

 

 

夕方近くなって三人とオトメチャンは別れる時が来た。

花ちゃんが

「また会えるじゃろ?うちらの休暇の間にもう一度くらいあいたいのう」

と言ってオトメチャンはうなずいた。サダッペが「会おうな。うちらまた外地に行くんじゃ、しばらく会えんけえの」と寂しげに言いタケが「ほうよ、うちらこまいころからの友達じゃ。この先も…な」というとオトメチャンの軍装の肩をそっと叩いた。

オトメチャンはうれしかった。

彼女たちはオトメチャンがどういう生まれでどういう育ち方をしたか知っている、知っていてこうして友達として付き合ってくれる。そのやさしさがオトメチャンの心に沁みこんだ。

「ありがとう、みんなの都合ええ時を教えてくれたらうちは上陸させてもらうようにするけえね。――伊号八〇〇潜はどこに今度は行くんじゃね?」

オトメチャンはそっと尋ねると

タケが「パラオじゃ。パラオのある島に潜水艦基地が出来てのう、今度はそこじゃ」と静かに言った。オトメチャンは黙ってうなずいて

「ほうね、そこならいつか会えるかも知らんで。楽しみじゃな」

とほほ笑んだ。

そして三人は

「では見張兵曹これにて失礼いたします。お元気で!」

と言って几帳面な敬礼をオトメチャンにした。オトメチャンも同じように返しながら

「ご家族に、よろしゅう」

と言って手を下ろした。三人の手が降り彼女たちは懐かしい故郷の村へと歩き出していった。

オトメチャンの顔に羨望の色が浮かんだ。

(うちにはもう帰る故郷はないんじゃもんな…)

しかしオトメチャンはそんな女々しい思いの自分を叱った。(もう、縁を切られて切ったあの家あの人たちじゃ。いまさら何を思うんじゃ、うちはあほか。人を羨んだらいけん。人は人じゃ。うちにはうちの生き方がある)

オトメチャンは下唇をかんで上陸桟橋へと歩き出した。

(でも、)とオトメチャンは思った、(お母さんのお墓参りは行けんかったが、もしかしたらこれはお母さんが引き合わせてくれたんかもしらんね)と。

何かうれしい気持ちで上陸桟橋へ急ぐオトメチャンであった。

 

後日、あんな知らせが来るとも知らないで――

 

         (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

オトメチャン珍しく一人での上陸です。

しかし懐かしい人たちとのひと時が持てました。お母さんのお墓参りはできなかったものの幼馴染との時間は貴重でした。

そしていったい<あんな知らせ>とは何なのでしょうか。次回をご期待ください。


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オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
いったいどうなってしまったんでしょう…もう一度テンプレートを変えてみましたが…またトライしてみてくださいませ!ごめんなさいね。

どん亀乗りの幼馴染と会ったオトメチャン。いったいどんなことが起きるやら?ご期待くださいませね。

皇太子殿下も、今上陛下がご即位された御年と同じご年齢になられましたね。
私も似てらしたなあと感じています!

こんばんは。
前の記事、コメントは読めましたがやはり本文はダメでした。残念です。
このお話は読めました!! しかしドンガメ乗りの彼女たち…伊号にパラオ……ちょっと気になります……(´;ω;`)
 皇太子さまのお誕生日会見のニュースを見て、天皇陛下にすごく似てきた!と思った私です。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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