2017-09

「女だらけの戦艦大和」・穴と雪の大王2<解決編> - 2015.02.22 Sun

凄まじい雪交じりの風がふきつけてきたその瞬間、萱野兵曹は雪の降り積もった地面にたたきつけられて転がったーー

 

「ああっ!」

と叫んだのだろうがその叫びは吹雪にかき消され彼女は転がって次の瞬間大きな穴に落ちてしまった。

ザザザーッと音を立てて彼女に周囲を雪が一緒に落ち、萱野兵曹の体に叩き付け兵曹は気を失った。

 

どのくらいの時間がたったのだろう。萱野兵曹はぼんやりと目を開けた。まず目に入ったのは温かい土色の天井、そして自分のほほに感じる火の暖かさ。

はっとして身を起こすとそこには、何かの毛皮に身を包んだ人が数名。焚火の周りに座っているのが目に入った。

萱野兵曹がその人たちをそっと観察するとどうも彼らは人間ではないような姿で、まるで猿人のようだ。萱野兵曹は(何だあの人たちは…人間ではないとすると、私をとって食う気だろうか?)とぞっとした。が、ふと自分をよく見れば濡れた服は脱がされ体には厚い毛皮をかけられている。そして兵曹の着ていた軍服は火のそばで乾かされている。

(悪い感じは受けないが、気をつけねば)

すると火の回りにいた人のうち、リーダー格と思しき、ひときわ豪華な毛皮を着た人が

「気が付いたか?ケガはないようだから安心しなさい」

と兵曹にやさしく話しかけた。

萱野兵曹はそのやさしい物言いに安どしてその場に起き上がり正座すると手をつき

「助けてくださってありがとうございます。どうお礼を申し上げていいやら…」

といった。その場にいた皆がこちらを向いて口々に兵曹を心配してくれた。そしてリーダー格が兵曹を手招いて

「ここに来なさい、暖かい」

と言ってくれたので兵曹は体にかけてあった毛皮を背中に羽織って火のそばに歩み寄った。

数名が場所を譲ってくれて萱野兵曹はその部分にそっと、腰を下ろした。ぱちぱちと燃える火の暖かさが兵曹の冷えた体に沁みた。

火に向かって両手を出している兵曹に、別の人が

「これ、飲め。これ、食え」

と言って兵曹に何かを差し出してくれた、「ありがとうございます」とそれを受け取ってみれば

「こ、これ!!」

彼女が手にしたものは、彼女たち主計科員たちの見慣れた<ミッカウイスキー>の桜に錨マーク付きラベルに、同じく錨マーク付きの乾パンの袋である。

兵曹は「これ…どうしてここに?」と不思議そうに言って首をかしげて隣に座る毛皮氏を見た。

すると彼はにっこりとほほ笑むと

「そう!あなたたちの黒い鉄の浮くものからちょっといただいてきたよ」

といった。萱野兵曹は驚いて

「いったいいつです?私たちあなた方の姿を見たことがないんですが?」

と言った、その兵曹に別の毛皮氏がこれも笑いながら

「見てるはずですよ。ただ私たち変装が大好きだから、わからなかったかな?」

と言って満座の毛皮氏たちが一斉に笑った。

そしてリーダーが

「まあ、詳しいことはどうでもいいじゃないか。今日は我々とあの黒い鉄に浮くものに乗る人が仲良くなれた佳き日。さあ乾杯だ!」

というと皆はミッカウイスキーの小瓶のふたを開け、それを高く掲げもった。萱野兵曹もなんだか痛快な気分になってそれに倣った。

それを見て満足げにうなずいた毛皮のリーダーはひときわ大声で

「かーんぱーい!」

と叫んでみな一斉に唱和した。そしてウイスキーを瓶からじかに飲み、乾パンの袋を開けてそれを食べる。萱野兵曹は「私は大日本帝国海軍の萱野兵曹です!よろしく願います」と自己紹介。

そのうちに酔いが気分良く回ってみな歌うやら踊るやら。座が乱れリーダー格の毛皮氏も踊りだしてみな手をたたいて笑う。

萱野兵曹も、もうおかしいやら楽しいやらで左右の毛皮氏たちと肩を組んでリーダー格の毛皮氏の歌に合わせて拍子をとり、手をたたき時には立ち上がって一緒にステップを踏む。

そしてまたそれを見て大笑いの毛皮氏たち。

萱野兵曹は、リーダーの

「あなたの好きな歌を歌って?」

とのリクエストに応え、<軍艦行進曲>や<ラバウル航空隊>だとかの調子のよい歌を歌いみなから絶賛された。

萱野兵曹はもう、羽織っていた毛皮も脱ぎ捨て下帯一本の姿で歌い舞う。その姿に毛皮氏たちも大喜びでさらに座は盛り上がりを見せる。

 

歌い踊りつかれた兵曹が「すみませんが小休止」と言って、汗を手の甲で拭いつつ元の席に座り、ふと思いついたように

「ところであなた方はずっとここにお住まいなんですか?」

と尋ねてみた。するとリーダーはうなずいて

「そう、ずっと前から。もう何年、何十年何百年もずっといる。そして今は私が雪の大王」

と言ってほかの毛皮氏たちがうなずいた。

ふーむと兵曹はうなずいて

「素晴らしい。――しかし、ここには皆さんのほかにはいらっしゃらないのですか?皆様方だけのようにお見受けいたしましたが」

というとリーダーは少しだけ悲しそうな顔つきになって

「そう、もう私たちだけ。ほかの仲間はもっといい生活がしたいと言ってここを出ていったよ。人間に変装して、人間になりきってきっと今どこかで生活してるんだろうね。私たちもこの先のことをそろそろ考えないといけない時が来つつあるんだが」

といった。少しばかり座がしんみりした。

が、リーダーは元気よく顔を上げると

「でも今は考えない!今は楽しい時間だ、あなたと一緒にみんなで過ごす楽しい時間を楽しもう!」

というと皆が「おおーっ」と声をあげ、萱野兵曹も

「そうだそうだ、先のことなどわからない!ケセラセラだ!!雪の大王ばんざーい!」

と叫んだ。皆は<ケセラセラ>が気に入ったようで口々に「ケセラセラ」「ケセラセラだ」と言っては互いの背中をたたきあって笑いウイスキーを飲む。

萱野兵曹はさらに酔っ払い、さっき羽織っていた毛皮をとるとそれをかぶって妙な踊りをはじめ、皆の大爆笑と拍手を受けて踊り続けた――

 

どのくらい歌い踊り飲んでは食っただろう。

萱野兵曹はその場に倒れこむと、笑いながら

「ああ楽しい。うれしい…こんな気分になったことは今までないなあ。幸せだあ…このまま帰りたくないなあ、ずっとここに居たいよう、ねえいいでしょう、雪の大王」

といった。

リーダー格は不意に悲しげな顔になると

「カヤノ。私たちもあなたとずっと一緒に居たい。でもあなたと我々は住む場所が違うんです…悲しいけれど。カヤノはあの黒い鉄の浮くものへ帰らないといけないよ」

と言って兵曹の顔を見た。

萱野兵曹はすでに大いびきをかいている。

 

萱野兵曹がそんなことをしているその時も地上では吹雪が吹き荒れている。

軍需部の建物の中で中野兵曹と霧島兵曹は落ち着かない。

「いったいいつになったら吹雪は収まるんでしょう、これでは萱野は死んでしまいます、いやもうすでに」

そう、霧島兵曹は言って中野兵曹の顔を見つめる。

中野兵曹の表情は苦渋に満ちている。そこに柿崎大尉が来て

「『雪龍』に連絡がついたよ。君たちそのままここに待機。吹雪が止み次第捜索を開始せよということだ。気になって仕方がないのはわかる、がしかし、この吹雪では動きようがない。我慢だな」

と言ってうなだれる二人に暖かい紅茶を出してくれた。

(萱野兵曹!生きていろよ)

中野・霧島両兵曹は心で叫んだ。

 

 

翌朝。

あれほど荒れ狂った地吹雪は嘘のように静まって、中野兵曹と霧島兵曹は捜索隊に加わって積もった雪の中を歩き出していた。

「どの辺ではぐれたのかさえ、わからないようになってしまった」

霧島兵曹はそういって、萱野兵曹と手を放してしまったことを悔やんだ。あの時、あの大風が吹き付けたときつないだ手と手がもぎ取られるように離れてしまったのだ。

「どうしようもないことだ。貴様のせいではない」

中野兵曹が厳しい目つきで前方を見つめながらそういった、その時。

「おーい、ここにだれか埋まっているぞ」

と先を歩く捜索隊員の下士官が叫ぶ声が響いた。

なに!?と皆が色めき立ってひざ以上に積もった雪を蹴散らしながらそちらへと急ぐ。中野兵曹と霧島兵曹が駆けつけると雪の中から萱野兵曹が掘り起こされていた。

中野兵曹は萱野兵曹を抱きかかえると

「萱野兵曹、萱野。しっかりしろ、死ぬなーッ!」

と叫んでゆすった。

 

萱野兵曹は、軍需部の医務室のベッドで息を吹き返した。

ぼんやり開けた瞳に映ったのは真っ白い天井そして、心配そうに自分を見下ろす中野兵曹と霧島兵曹の顔。

「ああ…中野兵曹。霧島兵曹も…私は…」

萱野兵曹はかすれた声で言った、すると二人の兵曹は泣きながら

「よかったよかった、萱野兵曹。心配してたんだよ、生きててよかった!奇跡だよあの吹雪の中で!」

と萱野兵曹を抱きかかえるようにして泣いた。

萱野兵曹はまだ薄ぼんやりする頭で

(昨日…私は確かに毛皮を着た人たちと酒盛りをした…)

と思い出しそれを二人の兵曹にそっと伝えてみた。

萱野兵曹は(たぶん夢でも見ていたんだろうとか、あの世に片足突っ込んだんだって言われるだろうな)と思っていたが

霧島兵曹は

「萱野貴様すごい体験したんだね。ほら証拠があるよ」

と言って差し出したのは――

 

昨晩萱野兵曹が羽織っていたあの、毛皮だったのだ――

 

後日萱野兵曹は納品の艀が来たとき用心深くしかしさりげなく、受け取りをする主計科員や手伝いの乗組員を観察していた。

不意に見覚えのない乗組員を見つけ、見つめていると<彼女>は萱野兵曹を見て笑った。

萱野兵曹は(あの時のなかの一人だね)と思って<彼女>に微笑んだ。

<彼女>はうれしそうにほほ笑むと、大きな袋をポケットから引っ張り出すと缶詰やら乾パンやらをその中に入れてそれを担ぐと間に横付けされていた艀に飛び乗ってそして艀と共に去って行った。

そして一番不思議なことは艦のだれも、<彼女>に気が付いていなかったことであった。

萱野兵曹は

(みんな、またどこかで会えたらいいね。それまで元気で。そして時にこうして会える時を楽しみにしています)

そう思って、彼らと出会ったあの穴や洞窟そして雪の大王を懐かしく思い出すのであった――

 

              ・・・・・・・・・・・・・

 

萱野兵曹の不思議な体験でした。穴と雪の大王…どこかで聞いたタイトルでしたがまあ気になさらずに願います(笑)。

次回はオトメチャンの物語です。


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● COMMENT ●

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!

不思議な体験をした萱野兵曹でした。しかし命があってよかったというものですね^^。
そしてこの地では女将兵に紛れて今日もギンバイ行為をする毛皮の人がいるのでしょう…。

次回のオトメチャンどうぞご期待くださいませね💛

見張り員さん   こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
吹雪の中で穴に落ちて気を失った萱野兵曹
がどうなるか心配でしたが穴と雪の大王さん
達に助けてもらってよかったですね。
普通でしたが誰も信じないでしょうがちゃんと
毛皮があって夢ではなく雪龍に戻った時には
不意に見覚えのない乗組員を見つけて見つめ
ていると助けてもらった雪の大王と一緒にいた
彼女で萱野兵曹を見て笑った。
萱野兵曹はあの時のなかの一人と思って微笑ん
で誰も彼女に気づかないんですね。
萱野兵曹の不思議な体験だったんですね。
次回オトメちゃん楽しみです。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
サイズ的にいうと身長180センチくらいでしょうかw。
北の守りがやばくなったらきっと来てくれることでしょう。
狸さんの支援よりはもっとましかもしれませんがどうなりますか??

酒と祭り好きには確かに悪い人はいないようですね^^。

北海道なら

コロボックルなのかもですが、サイズで違いますね。
将来的にピンチの時の登場かな?
日露戦争時には、狸さんの支援があったとか?
ものすごく友好的な方々のようだし、酒とお祭り好きに悪い人はいないとおもうので。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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