2017-10

「女だらけの戦艦大和」・穴と雪の大王1 - 2015.02.18 Wed

 ――北方艦隊の守備・停泊する某島基地は、真冬の今どこもかしこも雪と氷だらけである…

 

そんな中空母「雪龍」の主計科員三名は「御苦労だが上陸して軍需部に行って至急買いつけてきて欲しいものがある」と衣糧主計長からのお言いつけで防寒具に身をしっかり包んで上陸して行った。

一人の主計兵曹――中野上等主計兵曹――は島の向こうの空を見て

「なんだか嵐が来そうだな…まったく主計長が行けばいいのにさ。早いところ済ませて帰らないとランチも動かなくなるよ。段取りよく行こう、で?なにを買いつけろって?

とぼやき半分で言った。その中野兵曹に霧島一等主計兵曹が防寒帽をしっかりかぶり直しながら

「気象班、今日明日に嵐が来るとは言っては居りませんでしたが…買い付けるものは褌と<待ち受け一番>です。こないだの暴風雪の時けっこう長いこと艦内に閉じ込められたから酒保の分が売り切れて衣糧倉庫の在庫も昨日で底をついたそうです」

と説明した。中野兵曹が「なんだよきちんと調べとけってのよ」とまたぼやき、もう一人萱野二等主計兵曹が

「その前も吹雪で買い付けに行けませんでしたものね。このところ多いですよね天気の悪い日が。――例の<幽霊艦隊>が近くにいるんですかねえ」

と言って笑った。中野も霧島も笑った。

ランチを降りた三人は雪と氷で固まった地面を踏みながら軍需部の建物を目指して歩く。

目指す建物は港から歩いて十五分程度の場所にあって、三人は褌と<待ち受け一番>をそれぞれ二千五百枚に三千袋買い付けた。

軍需部の担当兵曹長は「運が良かったですね、昨日輸送艦がやってきて衣料品やらなにやらたくさん荷揚げして行きましたから。生鮮品も入っていますから当分心配ないですよ。ここに停泊中の艦船の数ヶ月分は確保できてますからね」と言って笑った。

「雪龍」の三人の主計科員もほっとした笑いを浮かべた。兵曹長は帳簿を繰りながら

「では、あすの〇九〇〇(午前九時)には納品できるよう手配しましょうね、お急ぎでしょうから」

と言ってちょうどそこに入ってきた軍需部の大尉嬢に「おお、御苦労さま。ねえちょっと時間あるでしょう?寒いところ来てくれたんだからあったかい紅茶でも飲んで行かない?」と言われ、びっくりしながらも遠慮なくご馳走になる三人。

三人は温かい事務室の一角の応接セットで紅茶と菓子を御馳走になった。

蠣崎大尉は「こうするとロシア風になるんですよ」と言って紅茶にジャムを入れて見せた。「よかったらやってみませんか」

新しい物好きの三人はさっそく紅茶にジャムを入れて飲んだ、「おお、これは美味い」「初めての味です」「これはなんというものですか」と口々に問う。蠣崎大尉は

「これはロシアンティーっていうんですよ。ちょっと洒落てるでしょ」

と言って三人に菓子を勧めてくれた。蠣崎大尉は話し相手に不自由していたのか三人の話を次々に引き出しては興味深そうに聞きいって笑ったり考え込んだりした。

やがて中野主計兵曹が「ではお名残惜しいですが我々はこれで」とやっと腰を上げたのはここに来てから三時間もたってから。蠣崎大尉は「ひきとめてしまって申し訳ない。艦の主計長に叱られるかな?蠣崎が引きとめたのだから叱らないでと連絡しておくから安心してね」と言って菓子を綺麗な紙に包んだものをくれた。三人は

「いやそんな…ありがとうございます」

と言って紅茶と菓子の礼を言って軍需部の建物を出た―――

 

三人はハッと息をのんだ。

目の前に展開していたのはたいへんな地吹雪。いつの間にこんな天気になったのだろう、息ができないほどの風が吹きつけている。

さっき帳簿をつけていた兵曹長がやってきて「ひどい吹き降りになっちゃったね。こんな中帰れないよ、しばらく中で待っていたらいいよ」と言ってくれた。

が、中野兵曹は「港は近くですから平気ですよ」と言って兵曹長は「そうかあ?でも何も見えないから危ないよ。悪いことは言わない、中に入ってな」と念を押すように言ったところで、なにやら奥から呼ばれたようで「ほ―い、今行く!」と返事をして中に引っ込んだ。

萱野二等兵曹が「ほんとにすごいな…港がどっちだったかこれじゃわからないですよ…吹雪が止むまで待った方がよかないですか?」と言ったが霧島一等兵曹は

「このくらいどうってこたあないでしょう?それに港はここから見て十時の方向です。それよか早いところ帰らないとそれこそ大目玉食らっちゃいます。蠣崎大尉のお口添えがあったとしてもあまりに遅れては。――ねえ、中野兵曹?」

と反対意見を述べた。中野上等兵曹は吹き倒されそうな風雪が叩きつけるように荒れ狂う様を目前にしてしばらく考え込んだ。

(どうすべきか)

このまま暫く風雪がやむまでここの事務所内に置いてもらうことは可能だろう。しかしこの風雪がいつやむかというのはまったく皆目わからない。もしかしたら明日まで吹き荒れるかもしれない、帰れなくなったらそれこそ主計の仲間たちに迷惑をかけることになりかねない。それに第一、衣糧倉庫を整理しておく仕事が残っている。

中野兵曹は

「決めた。行くぞ!」

というなり防寒帽を目深にかぶり外套の襟を立ててふたりに言った。霧島兵曹は「はいっ」と言ってこれも外套の襟を立て中に仕込んできた襟巻を目の下まで引き上げた。萱野兵曹は気が進まないと言った表情ではあったがこれも防寒帽を確かめ外套の襟を立ててその部分をつかんだ。彼女の背中で蠣崎大尉から頂いた菓子の入ったリュックが揺れた。

そして中野兵曹を先頭にして霧島兵曹・萱野兵曹は吹雪の中を歩きだした。その姿はあっという間に激しい吹雪の中に消えて行った。

 

それからほんの少しあと、兵曹長がやってきたが「あれっ!あの空母の連中どこ行ったんだ!?」と大きな声を上げた。中には居なかった、となると…

「あの空母連中、この地吹雪の中歩いて行きやがった!おい、誰か、誰かいないか!!

軍需部の中はこの叫びで上を下への大騒ぎになったのだった。

 

三人はまともに顔をあげられないまま必死に歩いた。すさまじい風が三人をふっ飛ばさんほどに吹き付けそのたびに立ち止まっては互いに「居るか!」「居ます!」「行くぞ」「行きます!」と声を掛け合いながらさらに歩く。

少しずつ歩くせいか随分長い時間さまよっているような気さえしてくる。そこにひときわ強い風が、雪とともに叩きつけるように吹いて、足が止まる。

中野兵曹は、吹雪をすかして見て(間違いない、ここをずっと歩いてゆけば港に着く)と確信した。吹き付ける雪がビシビシと顔にあたり痛い。中野兵曹は顔を振り向けて後ろにいる霧島兵曹を呼んだ。

霧島兵曹が返事をし、霧島兵曹は自分の後ろにいるはずの萱野二等兵曹を呼んだ。

「萱野、萱野大丈夫か!?

霧島兵曹はごうごうたる風の中後ろを向くこともできず、だが必死で耳を澄ました、が、返事が聞こえない。もう一度大声で「萱野、貴様大丈夫かあ!」とよばった。

返事がない。

霧島兵曹の背筋がぞっとした。やっとの思いで吹雪をすかして見たが萱野兵曹の姿は、もはや彼女の後ろにはなかった。

「中野兵曹ー!萱野が、萱野兵曹がいませんーッ!」

霧島兵曹の絶叫が吹雪の中を響き渡った――

    (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・

なんだか聞いたことがあるようなタイトルですがどうぞお気になさらず(^_^;)

しかし萱野兵曹どうしちゃったんでしょう。激しい吹雪は収まりそうにありません…気になる次回をお楽しみに。

● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
どうしたことでしょう…申し訳ありません。
ちょっとテンプレもおかしいので変えてみましたがどうでしょうか?まだ変だったらお手数ですがご一報くださいませ!

こんにちは。
次の記事を読もうとしてもレスポンスが不正とエラーメッセージが出てしまいます……私だけか気になってコメントしました。解決編が読めないなんて( ´△`)

河内山宗俊 さんへ

河内山宗俊 さんおはようございます!
コメントありがとうございます!

ブランデー入りの紅茶、そうだそれもありましたね^^。香りがよくってこれも心身ともに温まりますね!

>むやみやたらに登場人物を始末しない見張り員さん
なにか笑ってしまいましたがその通りでございますw。最後はどうなりますかぜひお楽しみになさっていただきたいと思います。

>穴ときくと、卑猥な妄想しかしないおじさん
たいがい、皆同じようなものだと思いますよww、どうぞまたいらして下さいませ!!

おいらなら

間違いなくお言葉に甘えるうえに、ジャムではなく、ブランデーはないかと聞きますな。

銀河英雄伝説のヤン提督さえ真っ青の、紅茶入りブランデーにして、酔っ払ったあと酔い醒ましをかねて、5時間ばかり休憩。

田中芳樹さんと違って、むやみやたらに登場人物を始末しない見張り員さんですので、最終的にはお笑い系落ちで締めていただけるかと?

穴ときくと、卑猥な妄想しかしないおじさんは、この辺で失礼いたします。

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
時折風の中に春の香りを感じることがあります。が…まだまだだなあとがっかりしちゃう昨今です(・・;)。

北方艦隊の話、書いているだけで寒くなってきますよw。そう、松岡中尉が行けば氷なんぞあっという間に溶かしてくれるでしょうね^^。そういえば彼が日本にいない間気温がくっと下がっていたという話があって笑えました。やっぱり!って。

そして萱野兵曹どうしちゃったんでしょうか。
次回を御期待下さいませ!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
「八甲田山」あれはたしか中学生の頃でしたが見てきた子の話を夢中で聞いていた覚えがあります。先日BS?だったかでも放映されていましたよね^^。
って私なんかしっかり年齢わかっちゃいますねww!

ロシアンティー。私好きです、寒い夜に飲むと温まりますよね^^。今夜あたりいかがですか?

おじゃまします

こんにちは

なんだかんだで春も近いのではないかと感じる今日この頃。
物語のほうは、とんでもなく寒そうですね。
松岡修造さんが行くところ、気温が上昇するそうですから、
ぜひこちらの基地を訪問してもらいたいですね。

さて、萱野兵曹の身に何が起こったのでしょうか・・・。
無事だとよいのですが・・・。

こんばんは。
私も八甲田山の雪中行軍を思い出してしまいました……これって年齢がわかるものかしら(;^_^A
続きが大変気になりますが、ロシアンティーのオシャレ感が乙女らしくてステキです♪

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
地吹雪に遭遇なさったことがおありなんですか、経験のない人にはとても怖いと聞きました…私は遭遇したくないですね、生きてる自信がないです(・・;)。
八甲田山、あれは悲惨な話でした。
ホワイトアウトの恐怖は昨年思い知らされた気がしております。

そんな話を描くのもなにか不謹慎な気がしますがあえて。
萱野兵曹どうなりますかご期待下さいませ^^。

おはようございます。
僕も一度だけ秋田で地吹雪に遭遇したことがあります。前後が見えなくなるほどのひどさではなかったですが。しかし九州人としては驚きの気象でした(笑) 八甲田山の事故、山の中で大変だったろうなと何故だか海っぺりの秋田で思った記憶があります。最近はホワイトアウトとかでさらに大変な事故まで起きていますもんね。

さて萱野兵曹は大丈夫奈でしょうか。前方が見えなくなってどこかへ迷い込んで逆に愉しい思いに浸ってたりして。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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