「女だらけの戦艦大和」・棗大尉の思いやり1

 山中副長は、梨賀艦長はじめ幹部連中に休暇明けの挨拶をしたーー

 

「皆さん長い間申し訳ありませんでした。これから新しい気持ちで軍務に励みますのでどうぞよろしくお願いいたします」

そういって頭を下げた副長に、梨賀艦長は微笑んで「おかえり。副長、休暇はいかがでしたか?黒田君とも引継ぎをして、また今までのようによろしく願います」といった。

森上参謀長や繁木航海長、黒多砲術長・山口通信長日野軍医長ほかも微笑んで副長を迎え、黒多砲術長は「副長お帰りなさい。本日ここに副長代行を返上いたします…副長がお留守の間私はうまくできたかどうか心配ですが、一所懸命やりました。後ほど引き継ぎをお願いいたします」

とあいさつし、山中副長は

「本当にありがとう。迷惑をかけました…引継ぎをよろしく願います」

と言って黒多砲術長をねぎらった。

そして皆は梨賀艦長肝いりのお茶会に参加すべく、艦長室へと向かうーー

 

お茶会の席で副長は「そういえば」と切り出した。艦長が「どうしたね、ツッチー」といったのへ副長は「私の部屋に<毎日修子>という日めくりみたいのがたくさん積んであったんですがあれはいったい何なのですか?」と首をかしげて言った。

梨賀艦長は苦笑しながら、例の松岡中尉の日めくり事件を話して聞かせてやった。山中副長は愉快そうに笑って

「そうでしたか。それは大変でしたね、松岡中尉はいつも変なことばかり考えるから…それではあの大量の日めくりどうしましょう、松岡中尉に言って引き取ってもらいましょうか」

といった。艦長は

「じゃあ、黒多君。後で松岡中尉を呼んで片づけさせて」

と命じ、黒多砲術長は「はい、ではそのようにいたします」と言って副長を見て微笑んだ。

 

さて。

副長が帰艦の知らせはもう、艦内に通達され皆は「副長がおかえりになりんさった」「ほう、じゃあちいと見に行こうや」などと言って騒ぐ。

その晩巡検後見張兵曹は最上甲板に小泉兵曹と出て風に吹かれつつ

「副長の花嫁姿、きれいじゃったねえ。いつも普段から副長はきれいじゃけえ、花嫁さんになったらもっときれいでええなあ。うちもいつかあがいにきれいな嫁さんになれるんじゃろうか」

と話している。

小泉兵曹は笑いながら

「ほうじゃね、オトメチャンはええ嫁さんになれるで。――麻生分隊士の」

と言ってフフフと笑う。

オトメチャンはそのほほを真っ赤に染めてうつむいた。

そのころ、副長と繁木航海長も甲板に出てきた。二人は新婚のみでありながら夫と離れるさみしさを互いに慰めあおうと思ったようである。

舷側のハンドレールをつかんで二人はお互いの本心を吐露しあった。こんな話は軍人としてはすべき話ではないが、同じ立場の人間同士なら分かり合えると思ってのことである。

繁木航海長は「そうですねえ。私も週末には家に帰れますがそれでも、家を出るときはさみしいというのかなんて言おうか、そう、…後ろ髪惹かれる思いになりますね」と言って副長を見てさみしげに微笑んだ。

山中副長はそんな彼女の顔を見つめ

「やはり、繁木さんもそうなのね」

と言って心なしかその瞳がうるんだように見える。繁木航海長も瞳を潤ませた。遠くに見える呉の町のかすかな明かりが揺らいだ。

「でも、航海長」

副長は航海長のほうに体を向けて元気な声で言った、「この戦争が終わればすべてが笑い話になるよ、だからもう少し頑張ろう」と。

 

と。

「けなげですわあ。――副長さん、このたびはおめでとうございます」

と背後から声がしてびっくりした二人が振り向けばそこにはあの、棗大尉がほほえみながら立っていた。副長は

「な、棗大尉…いや、どうもありがとう」

としどろもどろな返礼をした。繁木航海長も(また変なこと言われるのじゃないかしら)と緊張の面持ちで彼女を見つめている。

棗大尉は二人のそばまで来るとまずは副長に

「あの本、お役に立てましたかしら?読んでくださったかと私心配で」

といい、副長は夜目でもわかるほどそのほほを赤く染めて

「よ…読みました…というか、私ではなくその、夫が、その…」

と答えた。すっかり棗大尉のほうが上の階級のように見えるのはどうしてだろうか。

ともあれ、棗大尉はウフフっと笑うと

「それはよかった。でも副長にも読んでいただきたかったですわ。ぜひこの次におうちにおかえりになったら読んでくださいね」

といったが次の瞬間突然真顔になるなり

「夫婦を続けるうえで大事なことなんですよ副長。航海長はそのへんもうお分かりではないですか?」

というと敬礼してくるりと背を向けると小走りに去ってしまった。

「どうしたのかしら…棗大尉、今までと少し違いますね」

繁木航海長が、大尉の後姿を見送りながらぽつりと言った。山中副長も何か前の大尉とは違うものを感じて

「そうね、繁木さん。よくわからないけどちょっと違うわね」

といった。春の温かい夜風が吹いて、二人の上着の裾を軽くひるがえした。

そして二人は「部屋に帰って暖かい紅茶でも」飲みましょうか、と歩き出したその時、露天機銃座のあたりで誰かの声がした。そっと闇を透かして見れば棗大尉がだれかーー下士官に話しかけているようだ。

(誰と話してるんでしょうね、棗さん)

(う~ん、誰だろう?待って、あの声の感じ…)

「オトメチャンだ!」

二人は同時に小さく声を上げた。一体棗大尉は、オトメチャン相手に何を話しているのだろう。山中副長は

「オトメチャンみたいな無垢な子に変なこと教えたら困るんだけどなあ」

とぼやいている。繁木航海長も

「そうですねえ、オトメチャンが変なことに開眼したらこれはちょっと問題ですし」

と心底困った風に言う。

二人は闇を味方に聞き耳を立てている。

 

オトメチャンが棗大尉にあったのはほんの数分前。当直を終えほっと一息つきたいとオトメチャンは巡検が済んだ艦内から最上甲板に出た。

そこここに煙草盆を囲んで下士官兵嬢たちが談笑中である。が、オトメチャンはたばこのにおいがやや苦手なので彼女たちと少し離れたところで夜風に吹かれようと思った。

露天機銃座の囲いの前に座ってほうっと息をついたとき

「あら。そこにいるのは誰かしら」

と声をかけられた。オトメチャンが見ると知らない士官が闇の奥から湧き出てきた。オトメチャンは立ち上がると敬礼して迎えた。

士官は返礼してから

「楽になさいよ。私は棗佐和子主計特務大尉。――と言ってもあまり私のことを知らない人のほうが多いかもね」

と言ってオトメチャンをその場に座らせ自分も座る。

オトメチャンは

「うちは見張トメ二等兵曹です。十三分隊です」

と自己紹介した。すると棗大尉は

「まあ!あなたが噂のおぼこちゃんね!会いたかったわ、私。私あなたにいろいろ教えてあげたくって。あなた…まだ男を知らないって本当なの?」

といきなり核心にズバッと入ってきた。

そう切り込まれてオトメチャンはたいへん戸惑った。そして膝を両手で抱えるようにして

「はい…うちはまだ、あの…その…知らんがです」

と言って恥ずかしげにうつむいてしまった。そのうぶな姿にいたく感激したか棗大尉は

「そうだったの。やっぱりね…おぼこでいけないってことはないけど、知っておいたほうがいいってこともあるのよ。あなたもいつか結婚するんでしょう?その時に困らないように教えてあげるわ」

と言ってオトメチャンの両手をぐっとつかんだ。驚いたオトメチャンに、棗大尉は<その時>の話をとうとうと語りだした――

 

    (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

繁木航海長・山中副長をたいへん戸惑わせた棗大尉がオトメチャンの前に!そして副長たちが感じた棗大尉のかすかな変化とはいったい!

次回、棗大尉の意外な過去が! ご期待ください。

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はづちさんへ

はづちさんおはようございます。
PCのごたごたがありましてお返事遅れごめんなさい!

棗大尉のあの行動。
その真意や経緯がこれからあらわになります…いったいどんな経緯があってああなったのでしょうか?
どうぞご期待下さいませ!!

鍵コメさんへ

鍵コメさんおはようございます。
PCのごたごたでお返事も更新も後れております、ごめんなさい!

ウフフ…これは楽しくなりそうですね^^、期待したいですね。
画面真っ黒でしたかごめんなさいね、こちらのPCとの関係もあるのかしら…?新しいPCを買ったものの初期不良でスッタモンダしております(-_-;)。

「おかあさん」「母ちゃん」「母上」いずれもいい言葉ですね。そして自分もそう呼ばれる嬉しさを感じます。

いつもお心にかけて下さってありがとうございます!嬉しいです、鍵コメさんもどうぞお体に気をつけて下さいませね^^。

おじゃまします

こんにちは

棗大尉がなぜあのようなお節介をするようになったのか、
これから明かされていくわけなのですね。
そうとは知らず、先日は先走ったコメントをしてしまい、
すみませんでした。
では、正座待機してじっくりと棗大尉のお話を聞かせていただきますね!

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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんおはようございます。
山中副長は切ない思いを抱いてそれでも自分の任務をこなすべく、帰艦しました。軍人であることが先なのか女性であること妻であることが先なのか悩みながらも今は軍人であることに専念します!
山中大佐もさみしいですが彼も重大な研究がまだ途上ですので頑張ります。

そしてまたあの棗大尉の出現ですが今回どこか違うと感じた副長、繁木さんの直観は当たってるのでしょうか。そしてオトメチャン、変なことを教えられて大丈夫なのでしょうか、ご期待ください^^。

No title

人肌を知ったからにはつらいことばかり。思い出すのは彼の言葉や所作のこと。そして閨での躍動的な動き、こまかな優しさのことなど。男もそうですけど(笑) 
そんな夢見心地を振り払って帰艦した副長。彼女の優しさや賢さ、前向きさがきっと報われるのではないかと祈っています。
暗闇から出てきたような不気味な棗大尉。ターゲットをオトメチャンに変更したからでしょうか。副長たちには人が変わったように見えたのは。つまらない知恵をオトメチャンに付けなきゃ良いのですが。そんなことで心が乱れることはないだろうと願っています。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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