「女だらけの戦艦大和」・契りし人はあなただけ1

 山中次子中佐は、あと一週間ほどになった結婚休暇を楽しんでいた――

 

その日、野村の両親と山中の兄夫婦が久しぶりに新婚夫婦を訪ねてきた。山中シズは「野村さんの御両親とすっかり仲良くなったのよ!それでね分隊長、三朝温泉から私達の家まで足を延ばしていただいちゃて」と言って嬉しそうに笑った。中佐の母親――カヨ――も「そうなのよ次子。私も山中さんのお姉さんと意気投合して、佐世保のおうちにお邪魔して来たのよ」とこれもうれしそう。

山中の兄、一矢と野村中佐の父――建造――は顔を見合わせて笑いあう。

中佐は(よかった。私達だけでなく親兄弟が仲良くできるのが一番うれしい)と思って微笑んだ。

山中大佐も

「それはよかった。しかしお父さんお母さんはあちこち引っ張り回されてお疲れではないですか?」

と妻の両親を気遣った。しかし建造もカヨも

「全然疲れたりしませんよ、それよりいいところに連れて行ってもらったりおいしいものをいただいたりしてたいへんお世話になりました」

と言って微笑みあう。

それを見てほっとする山中大佐。その大佐を見て妻の次子中佐もほっとした笑みを浮かべた。

 

野村の両親はその日のうちに東京へと帰って行った。山中シズはカヨに「今度はぜひ東京へいらして下さい。あちこちご案内させていただきたいところがたくさんありますから」と言われてすっかり乗り気になって、「では秋にでも!お邪魔させていただきますね」と喜んで呉駅までふたりを見送りに行くことにして

「分隊長――じゃなかった次ちゃん。次ちゃんも一緒に行きましょう」

とシズは中佐も誘った。シズにしてみればしばらくは両親とも会えなくなるからせめて見送りを、という思いやりである。中佐もそれを解って「はい、では参りましょう。大佐、ちょっと行って参ります」と四人は連れ立って駅へと向かっていった。

その後ろ姿を見送る山中大佐に、兄の一矢は

「新也。うまくやったか」

と小さな声で尋ねた。大佐は「へあっ?うまくって何のこと?」と大きな声で振り向いて、一矢は「シ―ッ、でかい声出すなよ…次ちゃんとうまいこと出来たのかって言ってるんだよ」とあわてた。

大佐は「ああ~。あの事ですか」と言うと立ち上がって駆けだして部屋から<新婚初夜の医学事典>を持ってきた。それを差し出された一矢、手に取ってみたが「うひゃあ、なんだこりゃあ?<新婚初夜の…>って、これお前買ってきたの?それとも次ちゃんがか?」とさすがにびっくりした。

山中大佐は

「まさか。買ってくるわけないでしょう、しかも次ちゃんがこんなもの買うなんてありえませんね…これはね兄さん、次ちゃんの艦のお仲間からのお祝いの品ですよ。気がきく人がいるんですねえ~、こんないいものをくださる人がいるなんて、いかに次ちゃんがあの艦で大切にされているかってこと、よくわかりますよねえ」

とにこにこしている。一矢はあきれたような顔になって「はあ…そうか。そりゃあよかったね」と言ってから急に真顔になるとそっと弟の耳に口を寄せて

「それでお前…ちゃんと付けてしたんだろうな。あれを」

と言った。その真面目な口ぶりに大佐は少し驚いたように身を離して「あれ(・・)とは?」と尋ねた。一矢は思い切り弟の背中をひっぱたいて

「付けなかったなおまえ!あれほど言ったのに…次ちゃんと事に及ぶ時<ゴムかぶと>をつけろって」

と言って天を仰いだ。大佐は「あ…忘れてたよ」とこともなげに言ったが一矢は深刻な顔で

「おまえはいいだろうがな。問題は次ちゃんだ。もしも…もしもだぞ、こんなに早くご懐妊て事になったらどうするんだ」

と言った。大佐は「ご懐妊て事は赤ん坊ができるってことでしょう。それがなんで――」と言いかけてハッと頬を両手で押さえた。そして

「そうだ…彼女は現役の戦艦の副長だった…そうだだからアレをつけろって兄さんに言われてたのに」

と言って真っ青になった。一矢は、

「まあな、出来たらできたでそれなりに工面してくれるだろうが、しかし次ちゃんはたいへんだろう――といってまあ、こればかりは授かりものだからね。しかしお前ほんとにしょうがないなあ」

というと弟の肩をパンと叩いた。大佐は青ざめたまま。

 

そうこうするうちシズと中佐が帰ってきた。中佐は休暇中は和服で通している、その裾を気にしながら歩く様子が大佐には可愛くそしてそそられる。

「ただ今戻りました」

ふたりはそう言ってシズは居間に入ってきた。中佐が「お姉さん、お茶を淹れましょうね」と言って台所に行った。一矢がその後ろ姿を見ながらシズに「野村さんの御両親は、無事に汽車に乗れたかい」と聞いてシズは

「ええ、汽車も時間通りに来ました。お二人とお別れするの、お名残惜しくって」

と言った。中佐が皆の分の湯呑に緑茶を淹れてきた。そして座ると「お姉さんありがとうございます、父も母もたいへん喜んで居りました」と礼を言った。シズは「そんなそんな…なにもできなくってかえって失礼してしまったわ。また佐世保にもいらして欲しいわ」と言って微笑む。

シズは中佐を見つめて

「休暇もあと少しになりましたね分隊長、思い切り羽根を伸ばせました?」

と聞いた。中佐は「はい」と言って着物の胸のあたりを軽く撫でた。そして

「楽しい思いをさせていただきました。艦に戻っても今まで通りしっかり軍務に励もうと思っております」

と言った。が、次の瞬間その顔がかすかに曇ったのをシズは見た。シズは中佐の伏せた瞳の奥を覗くようにして

「どうしたの?分隊長。何か困ったことでも?」

と聞くと中佐はかすかにかぶりを振って「いいえ…なんでもないのです」と言って顔を上げた。無理をして笑っているようだ、分隊長何かに悩んでいるとシズは思った。

『山中』中佐にはかすかな気がかりがあった。(自分が戻ったところでもう、副長の仕事は黒多さんに完全に移行しているのではないか。もう私は副長としては用済みではないだろうか)

しかし、だれにも言い出せない。苦悩が彼女の内を覆っていることに気が付いているのは、山中シズだけである。

シズはそんな愛しいかつての部下であり今は妹となった次ちゃんの苦悩をなんとか軽くしてやりたく、

「もしも…艦の事で悩んでいるのならそれは取り越し苦労ですよ。分隊長もしかして自分の居場所がもう無いんじゃないかって思ってるでしょう」

と言いきった。はたして図星を指された次ちゃんはハッと顔をあげてシズを見た。中佐はその瞳をかすかにうるませて

「はい…なんだか私自分はもうあの艦では必要とされていないんじゃないかって思って」

というと遂に嗚咽を漏らし始めた。大佐と一矢は少しあわてて「次ちゃん、どうした」と声をかけて、大佐は彼女の後ろに回るとその背中を優しく撫で始める。一矢は身を乗り出して

「次ちゃん、そんなことはないから平気だよ。次ちゃんを必要としないなんかありえないことだよ?次ちゃんは大事なあの艦の副長で海軍にとっても大事な士官だ。――そうか次ちゃんは今まで長い休暇を取ったことがなかったな?だから不安になったんだよ、平気平気。心配しないで。さあ、笑った笑った」

と元気づける。

シズもその横から中佐の肩を抱いてほほ笑みかける。

山中大佐が「次ちゃんを必要じゃないなんて言ったら私がただじゃおきません。『大和』に斬り込みに行きますよ」と言って中佐は泣き笑いの表情になった。皆が中佐を抱きしめるようにして慰め言い含め、中佐はやっと気持ちを落ち着けたのだった。

 

その晩。

四人は結婚式の写真を見ながらあれこれと話に花が咲いた。

自分の花嫁姿の写真にじっと見入っていた次子中佐だったが、ふいに顔をあげてまっすぐにシズを見つめて言った言葉に、皆は驚いた。

「次ちゃん。――本当に?!」

        (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・

山中大佐の不始末?はこの後影響してくるのでしょうか?そして次ちゃんの不安はなんとか払しょくされたようでなにより。長い休暇を取ったことにない彼女ならではの不安です。

そして――いったい次ちゃんはなにを言ったのでしょうか。次回を御期待下さい。

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Secre

ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
オオ!オンタイムでの御来訪感謝です^^。

フェイスブックなさってるんですね!私は主についったーです。娘に「フェイスブックにまで手を出さなくていいよ!」と言われておりますので…もうちょっとしたらフェイスブックデビューしようかと画策中です(-_-;)。

寒い一日でした、どうぞ御身大切にお過ごしくださいね^^。

お久しぶりですb

初めてシリーズの第1部からコメント出来たような??w
オンタイムというのは気持ちいいですね!

更新は、ボチボチですけど、携帯で密かに読んでますからね(。-_-。)
最近は、フェイスブックのほうで忙しくしている為、なかなかブログに帰ってこれませんorz

またどうぞ、宜しくですb
フェイスブックやりますか?←

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
中佐はいよいよ休暇の終わりが近づいてきましたが、不在中の事からなにから考えすぎのところもあります。でもシズさんのアドバイスがあってほっとしました。
一人だと考えもどうどうめぐりしがちですが誰か聞いてくれる人がいるとまた違ってくるものですよね^^。

さあそしてこの後彼女はどうなりますか。おめでたになるのか否かも気になりますね^^。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
次ちゃんの不安、これが形を表す時が――来る。きっと来る…
どんな形になりますかはこの先のお楽しみですが、さて次ちゃんは皆が驚くような何を言ったのでしょう?これも次回明らかになります。

東京、今日は昨日ほどの寒さではないもののやはり寒かったです(泣)。一日雨がしとしと降って気が滅入りそうでした。若様、お風邪などひいていないといいなあーと雨を見つつ思っていました。
春休みが待ち遠しいですね^^、早いものですねあれからもう一年経っちゃうなんて。
それにしても若さがうらやましいです…^^。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
副長、まじめすぎるんですよね。だから考えすぎちゃう。でもそこがいいところでもあります。彼女らしいとこですね。

硫黄島唐辛子ですか!!
なんだかとてつもなくカラそうですね(^_^;)。衝撃度が半端なさそうです…
今日の読売新聞の夕刊に硫黄島で戦死なさった市丸少将の娘さんのお話が掲載されていましたね。硫黄島まで都心からたったの1250キロ…とても近いところであんなにすさまじい激戦があったなんて。
信じられない思いがしました。そしてその当時まだ私の母(当時三歳6カ月くらい)が疎開前で東京にいたという事実も合わせると不思議な気さえしてきます。

No title

見張り員さん   こんにちは♪

いつもありがとうございます♪
山中中佐はご両親を送りに行かれて仕事に復帰が
近くなって副長の仕事は黒多さんに完全に移行して
いるかが気になり副長としては用済みではないだろ
うかと悩んでいてお姉さんのシズさんが気づいてくれ
て話されてスッキリされてよかったですがみんなに言
った言葉が気になり山中大佐の不始末でおめでたか
もしれなくて気になります。

No title

彼女の役目が無くなるんじゃないかという不安は、実はいずれご懐妊という形で艦から離れるとか。でもその前に「退官」するとか。みんなの驚きが尋常ではないようで、こちらまで不安になってきました。
しかし新しい家族に優しく守られて幸せな次ちゃんですね。まさにほのぼのって感じです。よい嫁であれば誰も意地悪なんてしませんよね。

東京は荒天とか。くれぐれも風邪など引かぬように留意して下さい。世田谷在住の我が息子も震え上がっておりました。春休みまであとひと月。これからの日々がどうか充実したものであってもらいたいと思っています。

こんばんは。新婚気分を残しつつもやはり気になるのは仕事ですね。責任感のある方だけにいろいろ考えすぎないといいな、と思います。
話はかわりますが、硫黄島とうがらしというのがあるのですね。誰かが「おいた」をした時に罰としてガッツリ食べてもらいたい気がします(笑)
今日は本当に寒い1日でしたね~明日もまだ雨とか。お身体に気をつけて下さいね。

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
やはり…中佐であり副長を務める女性です、頑張る気持ちの裏返しです。その真面目さが艦内では「パッキン」とか言われてしまいますがそれでこそ副長ですね^^。

そして中佐の言った言葉とは。さらにしょうもない(-_-;)山中大佐の不始末は形になってしまうのでしょうか?こうご期待です。

今日の東京は積りはしないまでも雪が降って死ぬほど寒かったです。そちらはいかがでしたか?お風邪など召しませんように!

おじゃまします

こんにちは

次子中佐は、本当に生真面目で立派な女性ですね。
戻っても自分の居場所がないかもしれないという不安は、
戻ったら今まで以上に頑張ろうという気持ちがあってこそですからね。
そんな次子中佐、はたして何を言ったのでしょうか??
気になります・・・。
山中大佐の不始末がどうなるのかも気になりますし、
今後の展開がすごく楽しみです。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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