2017-10

「女だらけの戦艦大和」・ありのままに私は生きる3<解決編> - 2015.01.13 Tue

 野田の母親はいきなりその言葉を叫んだ――

 

「不倫の落とし子のくせに!」

その言葉は塀の上にいた生方中尉と谷本少尉を凍りつかせた。生方中尉が「不倫の…?」とつぶやき谷本少尉が「不倫の落とし子、っていったいどういう…」と言って絶句した。

さすがに野田兵曹は今まで避けていた母親にその視線を落とした。そしてひきつったような声で

「どういうことです…不倫の落とし子とは」

と言った。母親は、息子の背に手を当てたまま兵曹からは目をそらし

「あんたは、あんたはお父さんと私の子供じゃないのよ」

と言った。その瞬間、野田兵曹の頭に(やはり)という思いが電光のように走った。(やはりそうだったのか…どうもうちはこの家族とあまり似て居らん思うとった。さっきも写真を見てそう思うたが、そうだったんか)

母親は兵曹に背を向けたまま話した。

 

――おまえの本当の母親は私の末の妹なのよ。あの子は女学校のころから『女も男と同じに自由に生きる権利がある』とか何とか妙なことに没頭し始めて女学校を出たらそれに同調する男たちと外泊したりたくさんお酒を飲んだりとそれはもうやりたい放題だった。そんなあの子をなんとかおとなしくさせたいと私も姉たちも私の母も父も…みんなで心砕いてまともにさせようと頑張ったわ。時には野田の家に呼んで仕事を手伝わせたり…でもあの子には全く私達の心なんか届いていなかった。

そのうちあの子は<同志>とか呼ぶ男性と良い仲になって、でもその人には家庭があったのよ。きちんとした家庭のある人とそういう関係になるなんてどうかしている。第一遊ばれているに違いないってみんな思っていた。そしたら…あの子は身ごもってしまった。それがおまえよ。おまえをあの子は産んでしまったの…そして相手の男性はおまえのせいで離婚することになってしまった、それから三月(みつき)もたたないうちにあの子はおまえを置いてある日突然相手の男性とどこかに行ってしまった。残されたおまえがあまりに不憫だと言ってうちの人がおまえを引き取って私達の娘として籍に入れたのよ。

でも…やっぱり血は争えないわね。おまえはだらしないあの子にそっくり!ちっとも片づけはできない、物事をてきぱきこなせない挙句に理屈ばっかりこねる…。そうよ、おまえのような娘が生きる場所はまともな場所にはないわよ!そしたら佳夫さんのお友達が満洲でお仕事をしてらっしゃるというから聞いてみたらおまえみたいな堕落した女にはちょうどいい仕事があるというじゃない、そしておまえをつれて行ってくれるというんだから願ったりかなったりよ。おまえはね、向こうに行って客を取ってその身体で稼いで生きてゆけばいいわ、それがおまえみたいな不倫の果てに生まれた女にはお似合いなのよ!――

 

塀の上で一部始終を見聞きしていた生方中尉、谷本少尉の瞳から滂沱として大粒の涙がこぼれる。ひどい言われようの野田兵曹があまりに不憫だった。(そんなこと、野田のせいではないじゃないか!なんてことをあの人は言うんだ、鬼かそれとも蛇か。野田をそんな形で手放そうとは)

あふれる涙をぬぐうことも忘れ、二人の士官嬢は部屋の中を注視しつづける。

黙って立っている野田兵曹に年上の男がそっと

「だから、な。一緒に行こうじゃないか。悪いようにはしないからよ」

と言った。その場の雰囲気に十分飲まれたらしく先ほどよりずっと声の調子がおとなしくなってしまっている。野田兵曹はその男を見つめると

「うちは――行かん」

ときっぱり言い放った。そして座卓をこぶしでドン!と大きな音をさせて突くと軍帽をかぶり

「うちは海軍軍人じゃ。うちは海軍をやめたりせんで。ほいでなあ野田(・・)さん(・・)

と母親に話しかける、無論もう視線は向けない。兵曹は軍帽をしっかりかぶると汚いものでも見るように男性たちを一瞥し

「野田さんアンタのその言い方では身体を売って働くおなごを馬鹿にしとりゃせんかのう?そういう仕事をしとるおなごたちは皆、訳あってその仕事をしとるもんが多いんじゃ。男もそうじゃ、うちは南方でそういう人幾人も見てきたが皆、遊びでしとるわけじゃないで?毎日を真剣に生きとるで。少なくとも野田さんよりずっとな。野田さん、あんた調子に乗るんもええ加減にせんとこの先えらい目ぇに会いますよ。――ではうちはこれで失礼します。もう二度と会うことも無いじゃろう。今までお世話になりました。ではごきげんよう」

というと部屋を飛び出した。それを見た生方中尉たちも塀を降り、野田兵曹を迎えるべく玄関に急いだ。

 

ふたりが玄関に走り込むと丁度、野田兵曹が出てきたところだった。野田兵曹は生方中尉の顔を見るなり泣いた。生方中尉はその野田兵曹をしっかり抱きしめ「よくやった、よくやったぞ野田」と言ってこれも泣く。その横で谷本少尉も嗚咽を漏らしている。

 

三人は、中尉の下宿・高田の家に帰った。玄関先で心配して背伸びして見ていた高田は、三人の姿が見えると「あっ、よっちゃん」と叫んで走りよってきた。そしてその大きな体で野田兵曹を包むようにして抱きしめた。

高田はよッちゃん、よッちゃんと言って半泣きになって

「よう帰って来たね、うちは心配しとってよ。よッちゃんがどこか遠くへ連れてかれてしもうたらどうしよう思うて。生方さんたちが居っても相手が大勢だったら強い人ならどうにもならんと思うて気が気でなかったが…ああ、よかった。よッちゃんが帰ってきた」

と言ってさらに抱きしめる。

野田兵曹は嬉しそうにほほ笑みながら高田を抱きしめて

「うち、おばさんと約束しましたけえね。帰ってくる、って。うちの帰る場所は『大和』と、ここなんですけえね」

と言った。高田はうん、うんとうなずいた。涙が地面に幾つも落ちる。

 

家に入った四人はやっと落ち着いて話をすることができた。高田は、野田兵曹の隠されたおいたちに愕然としながらも

「そげえなことに負けたらいけんで?生い立ちや親なんぞ関係ない。よッちゃんがどれだけ頑張って生きてるかにかかっとる。じゃけえ、この先もしっかりやりんさい」

と励ました。野田兵曹はゆったりとほほ笑む。その野田兵曹に生方中尉はおずおずと

「それでも野田兵曹、なぜそれほど落ち付いていられるんだ」

と尋ねた。野田兵曹は、生方中尉・高田・谷本少尉をゆっくり見つめると「うちには解っておりましたけえね」といい、「うちはある時から感じ取りました。うちはこの家の誰とも似ちゃおらんと。子供のころからなんとのう、違和感を覚えとりましたが父親がみまかってから母親のうちに対する扱いが今まで以上にぞんさい言うんか、適当になったんを感じとりました。ほいで、うちはこの人の子供とは違うんではないかとうすうす感じ始めとりました。今日も写真を見て、確信しました。うちはあの家の子供ではないなと。覚悟はだから、とうにできとりました。ほいでもまあ、<不倫の落とし子>言うんはちいとびっくりしましたがね」と笑った。

生方中尉は改めて野田兵曹を見つめ、

「野田…貴様強くなったな。生まれ変わったようだな」

と言った。野田兵曹はうふっと笑うと

「そう見えますか!嬉しいですね、うちは飾って生きるんをやめたんです。うちはありのままの自分で生きることにしました。いうてもだらしなかったところは直しましたよ。――いや高田さんが直してくれました。それもありのままの自分の中に入れて、生きてゆきます」

と言って高田の手に自分の手を重ねたのだった。高田がその手をしっかり握り返した。

 

その後。

野田佳子は野田家を離れ、正式に高田の家の養女となった。これには誰も――高田の息子たちも――反対することなくすんなり決まった。

 

そして野田改め高田佳子上等兵曹の<病気休暇>が終わる日が来た。迎えに来た生方中尉に高田兵曹は「またよろしゅう願います、生方中尉」と敬礼し、高田に向き直ると「ではお母さん、行って参ります!」と元気にあいさつししっかり敬礼した。

その兵曹に高田は深く頭を下げてから「気をつけてね。次の帰りを待っていますけえね」と笑って玄関で見送る。生方中尉は「高田さん、いろいろありがとうございました。そしてこれからまたよろしくお願いいたします」と言って高田は嬉しそうにうなずいた。

春とはいえまだ冷たい風が生方中尉と高田兵曹の一種軍装の裾を翻す。高田が<娘>を見て「寒くないの?」と尋ねる。

高田兵曹は最高の笑みを母親の高田に向けると元気な声で言った。

「ちいとも寒くないです。ではお母さんごきげんよう!」

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・

意外な展開となりました。野田佳子兵曹も生い立ちに影がありました。が、高田さんの養女となって新しくもありのままの自分で生きると宣言しました。

<高田佳子>兵曹に幸あれ!

 

ありのまま、と言えばもうこれですね。松たか子さんの歌唱で「レット・イット・ゴー ありのままで」。


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● COMMENT ●

鍵コメさんへ

鍵コメさんこんにちは!

そんな人のいることに驚愕です。鍵コメさんの御対応は間違っていませんよ!ご自分を信じて下さい。応援しております!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
野田兵曹。実はこんな数奇な運命の渦に翻弄されていました。母親とは名ばかりの人に育てられて、つらい反sねいではありましたが高田さんという新しい母親を得てその人生は大きく変わろうとしています!
そうだ、じゃぱネットの高田さん退任だったんですね…

ありがとうございます、長女は昨年成人でした、次女は二年後となります^^。阪神大震災の時は長女は一歳と一カ月でした、私勘違いしてましたね(^_^;)。
子供の成長はなんて早いものだろうかとつくづく思います。
この先の人生、平凡でもいいから何事も無く穏やかに過ごして欲しい。それだけがささやかな願いです。

No title

なんともやりきれない運命の人だったのですね。
しかしかりそめにも親子の縁を持った人が、母親としての人が、そこまで口汚く言うかと呆れ寂しく思いました。
非常に苦しくも過酷な野田さんだった人の運命も、高田さんになってきっと良き運命へと開けることだろうと思っています。
今日はジャパネット高田の社長が退任した日。同じ高田さんになんだか新旧の人生が交差しているように感じたりしました。
すっきりと後味も良くまとめて下さってさすがに見張り員さん。

遅くなりましたがお嬢さん。成人式ではなかったかと。おめでとうございました。
素敵なお嬢さんに育ったことでしょうね。素晴らしい人生でありますように心からお祈りしています。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
全くめちゃくちゃ寒い雨の一日になりました(-_-;)。もう寒くて早く仕事をおわりたくて仕方がありませんでした。

本当に野田の母親は心は薄汚れた女性でした。お金持ちに嫁いで良い気になっていたのでしょうかそれとももともとこういう心根だったのか…いずれにしても野田佳子はこの家を離れて正解でした。あの母親にはそれなりの報いがあることでしょう。
さあ、高田佳子としての新らしい人生を祝ってやってください^^。大和に戻っても今までとは違う生活で皆を驚かせることでしょう。

インフルエンザが流行中、どうぞお気をつけてお過ごしくださいませ!

いなばさんへ

いなばさんこんばんは!
なんでもブームや評判になったものは使ってしまう私ですw。

ありのままで去年よりずっときれいになった…♪

すごいぞ!!

こんにちは。
血縁を超えたつながりって絶対ありますよね! 高田として生まれ変わった人生がゆたかでありますように。しかしイヤな人間もいるものです…いくら身綺麗にして立ち振舞いが完璧だとしても、どす黒い気持ちの破片はどこかに落としているはず……これからの人生できっと大きくつまずき、苦しめばよいのだ(`Δ´)と思ってしまいました。
今日は冷たい雨の1日になりそうです。お身体に気をつけて下さいね。

こんばんは。
あの歌を題材にするとは! 流石、見張り員さんですね。私はいたずらして、替え歌しました。「ありのままで~♪きれいになった~♪去年よりずっと~きれいになった~♪」(笑)

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
野田兵曹にとっては育ての母だったわけですがあまりに思いやりも何もない人でした。体裁だけしか頭にない人で野田兵曹は生きにくかったと思います。
が!
高田さんの家で一緒に暮らし自分のありのままを見つめることができ、しかも高田さんの養女になり新しい人生を踏み出しました!
これからの野田改め高田兵曹をよろしくどうぞ!!

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
野田兵曹、本当に不憫です…(泣)

しかし野田兵曹随分強くたくましくなりました。自らそんな体裁だけの家族を振り捨てて自分の生き方を見出し始めました。
高田兵曹としての新しい人生を見守ってやってくださいませ^^。

No title

見張り員さん    こんにちは♪

いつもありがとうございます♪
野田兵曹は不倫の子供であっても
お母様とは叔母の関係でしたが人
の優しさですとか思いやりがない人
だったんですね。
高田さんは野田兵曹のありのままを
受けとめられて養女になってよかった
ですね。

おじゃまします

こんにちは

これは・・・
野田兵曹があまりにも気の毒で、
涙がこぼれてしまいましたよ・・・。

でも、でも、
そんなひどい人たちのもとから自由になり、
ようやく本当のお母さん、本当の家族を得て、
これからは高田兵曹として生きていけるわけですから、
これはとても良いことだったに違いありません。
高田兵曹の今後の活躍に、期待したいですね。

鍵コメさんへ

鍵コメさんおはようございます^^!
身に余る光栄です!!
早速ご連絡入れさせていただきました、よろしくお願いいたします。
ありがとうございます!!

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんおはようございます^^。
野田の母親――非道とはこのことでしょう。
彼女には「むすめ」を育てたという意識はないようです。厄介なものを背負い込んでしまったという被害者意識しかなかったようです。悲しい話でした。

しかし野田兵曹、ガンバりました!
高田さんの家でいろいろと精神修行にも励んだのでしょう、大きな人間になりました。
『大和』に帰ったら今まで以上に役に立つ人間になることでしょう!

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

No title

ひどい話でしたね。
不倫の子を預かったといえ、あそこまで本人を冒涜するようなことを言えるんですかね。
預かって何年か育てたわけで、その間に愛情が乗り移らなかったんですかね。旦那さんの不倫の子供を引き取るとはわけが違います。実の妹の子供なんでしょう。そこまで蔑視できるもんですかね。

よくぞ耐えました、野田兵曹、いや高田兵曹。人間一回りも二回りも大きくなったようです。成長しました。軍人の1人として今後も頑張ってください。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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