2017-09

「女だらけの戦艦大和」・ありのままに私は生きる1 - 2015.01.09 Fri

 生方中尉は思いもよらない相手から思いもよらない手紙を受け取って呆然としている――

 

「女だらけの」大和、高角砲分隊の生方幸子中尉は従兵嬢から一通の手紙を渡された。生方中尉は何気にその封筒の裏を見てハッとした。かすかにその手が震えた。従兵嬢は瞬間不審げな顔つきになったが敬礼して中尉の部屋を出て行った。

パタンとドアが閉まっても生方中尉は封筒を見つめたままであったが我に返ると封を切った。(いったい何を言ってきたんだ)少々怖い思いもある。(あの人は…私は苦手だ)

あの人。

そう、手紙の差出人であり生方中尉の苦手な人なあの人は、野田佳子兵曹の母親である。例の野田兵曹の蝙蝠事件のあと野田を実家で静養させるべく生方中尉は野田を送って行きそこで野田母娘のすさまじいまでの確執を見せつけられたのだ。

(あのお母さんは怖かった。私の苦手な怖さだ)

生方中尉は苦り切った表情で便箋を引き出しそっと広げた。

見事なまでの筆致でまずは時候の挨拶とあの時見送りもせず中尉を返してしまったことへの詫びが書かれていた。そこまで読んで、中尉は少しほっとした。(なんだ――あの時の詫びならいいのに)

肩に込めていた力がすっと抜けた――と思ったが次の瞬間中尉は「ふええっ!?」と妙な声をあげていた。なぜならそこには中尉にとってはとんでもないとしか思えない事が書かれていたのだから…

 

>――私の嘆きを重く見た長男がたいへんよひ話を持って参りました。佳子はもう、どれほど仕込んでもあのだらしなさはなほりません。そして反抗的態度ももう、なほらないでせう。さう、私達は思ひましたので佳子を使用人のたくさんゐる家に嫁がせることにゐたしました。その方は満州に仕事をお持ちで結婚すれば佳子を連れて満州に行きたひとおっしゃっておゐでです。また先方さんも佳子のさういった性格を知ってくださつたうへで佳子を迎へてくださるといふのです。ねがつてもなひ幸せです。それでも一応見合いといふ形は取りたひ、と先方さんがおっしゃひますので今月●日、佳子に<水無月亭>といふ料理屋に来るやう言ってやつて欲しひのです。生方中尉さんにはお忙しひ所申し訳もござひませんがだうかこの母の願ひをききとどけてやつてくださひませ…

 

そう手紙には書かれていた。生方中尉は「まさか、そんなことを」と思わずつぶやいていた。両の手が手紙をグッと握りつぶした。

この母親は兄と共謀して野田佳子兵曹、自分の娘と妹をいわば厄介払いしようとしているのだろう。満州でどんな仕事をしているのか知らないが海軍をやめさせるということなのだろう。しかしだからと言って理由なくそう簡単に海軍をやめられるものでもない。煩雑な手続きが必要になるし大体が今は戦争中である。さらに野田兵曹はもう長年、海軍に奉職しているから貴重な人材である。手放したくない。

(辞められてはこまる)

正直な中尉の思いである。結婚自体は全く構わない、喜ぶべきことではあるがしかし。

生方中尉はしばらく呻吟していたが、やがて立ち上がり河崎高射長を尋ねた。河崎少佐はいつものように穏やかな態度で迎えたが、生方中尉の思いつめたような表情に怪訝な顔を見せ「どうしました中尉?」と尋ねた。

生方中尉は困り切った表情で野田の母からの手紙を渡して事情を話した。河崎少佐はびっくりして手紙を読み、話を聞いた。

そして「ふむ…確かにこれでは野田兵曹は厄介払いだね。うーん…使用人が大勢いる?満州?うーん…」と唸って頭を抱えてしまった。生方中尉は

「満州と言いますが、満州で野田が悠々閑々と暮らせるほどたくさんの使用人がいる家というと…ハッ、もしかして満州国皇帝の御親戚か何か?」

と言って次の瞬間「――ありえない」と黙り込んでしまう。河崎少佐はそんな生方中尉を見つめていたが「これは私にもよくわかりかねるが放ってはおけないね。こうなったら梨賀艦長にお尋ねしよう。どうしたらいいか一緒に考えたらいい答えが出るかもしれないよ」

と言って、二人は今夜艦長を尋ねることにした。

 

その晩、巡検が済んだあとしばらくして河崎少佐と生方中尉は野田の母親からの手紙をたずさえて艦長室に梨賀艦長を尋ねた。梨賀艦長は風呂上がりで浴衣姿で日野原軍医長、森上参謀長と談笑中であった。

河崎少佐は「お忙しいようですね、それでは明日」と言ったが艦長は「ふたりが訪ねてくるなど珍しい。お入りなさい」と招じ入れた。これも浴衣姿の軍医長も参謀長もソファをずれて場所を空けてくれた。艦長の「どうしたの?」の問いに、まず生方中尉が例の手紙を艦長に渡してかいつまんだ話をした。

聞いていた日野原軍医長と森上参謀長の表情がゆっくり変化しているのを河崎少尉は見た。艦長は手紙を読み、生方中尉の話を聞き終えると

「うーむ」

と唸った。そして生方中尉と河崎少佐を見返ると「これはていのいい身売りではないか。どうも私にはこの満州で仕事をしているという人の素性が気にかかる」と言った。軍医長もうなずいた。参謀長が

「私もそう思う…満州でそれだけの事業をしている人が単に話を聞いただけで――こう言ってはたいへんに悪いが――会ったことも無い海軍の下士官を嫁にするだろうか。しかもその手紙の内容だともう話は決まっている訳だね。どうも私も妙な気がする」

と言った。すると軍医長が

「とにもかくにも生方中尉。この事を野田兵曹に知らせた方がいい。彼女がどういうか解らないが知らせた方がいい。そして彼女とどうするのかしっかり話し合ってきた方がいい――と私は思いますが」

と言い、参謀長も

「私も軍医長に同感だ。それに向こうは日付まで切ってきたのだからもしも、行かなければどう出てくるかわかったものではないからな。野田兵曹の気持ちをよく聞いて善処しなければね」

と言った。

生方中尉はうなずき、河崎中佐は

「では善は急げというから明日、生方中尉は上陸して野田兵曹にこの事を伝えなさい。そしてその時どうするのか、そして何より野田はこの事をどう思うのかしっかり聞いて来るように。あとは生方中尉に任せる」

と言った。

生方中尉は全身が引き締まるのを感じつつ「はい!」と返事をした。

 

その翌日上陸した生方中尉は自分の下宿へと向かった。下宿には野田兵曹が<病気休暇中>の身を置いている。

(しばらく会えなかったが――元気でいるだろうか)

生方中尉はやや胸の鼓動を高鳴らせつつ、下宿への道を急いだ。見慣れた下宿への道、いつもの角を曲がったところに下宿――高田家――はあった。

その玄関先を箒で掃き清めているモンペ姿の若い女、それこそが野田兵曹であった。今までとは全く違う落ち着いた挙措で箒を使っている。生方中尉はしばしその姿に見とれていたが我に返ると

「久しぶりね、野田兵曹」

と声をかけた。こちらを振り向いた野田兵曹の顔に笑顔が満ちた。箒を置いて嬉しげに「生方中尉!」と言って駆け寄ってきた。一種軍装の生方中尉の前にもんぺ姿の野田兵曹は立つと

「お久しぶりです、生方中尉」

と言って懐かしげな顔になりふたりはしばし見つめあった。ややして野田兵曹は

「ごめんなさい、ぼんやりしてしもうて…。入ってつかあさい」

と玄関の扉を開いた。生方中尉を先に家の中に入れながら野田兵曹は

「中尉、久しぶりの上陸ですね…いろいろ艦のお話、聞かせてつかあさい」

と喜んだ。そして今日はこの家の主の高田さんは所用で夕方まで不在だと言った。そうか、と生方中尉は言いつつ自室に野田とともに入った。

野田兵曹が階下から茶の支度をして上がってくる、その野田を前にして生方中尉は少しためらった後、

「じつはな、野田」

と懐から野田の母からの手紙を取り出して「読みなさい」と言った。

母親からの手紙と聞いて複雑な表情の野田兵曹は手紙を読み始めた――

     (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・

久しぶりの野田兵曹のお話です。きれいにできなかった野田兵曹ではありましたが預けられた下宿の女主人・高田さんの訓育の甲斐があったようです。

そして、母からの手紙を読み始めた野田兵曹は一体――!

次回をお楽しみに。

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● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは!
そう、あの野田が箒をもっている!!!というのは今までの野田兵曹を御存じの方なら仰天物ですねw。まさにおてんとうさまが西から登るというやつです。
そして見合い話、しかも話は決まってるってどういうことでしょうか…嫌な予感ですね(・・;)。心拍数が多くなってしまいますね。
どうか深呼吸で次回を待っていて下さいませ^^。

レレレのおじさん!!
私実は彼のファンでございます^^。「レーレレノレー。お出かけですか?」と言いつつ片足上げて箒を使うあのおじさんにむかしから心ときめいておりまする❤


柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんにちは!
野田兵曹、今度こそ家から、いや日本から追い出されてしまうのでしょうか…??

野田兵曹も高田さんの教育のおかげをもってまっとうな女の子になったようです^^。そしてこの後野田兵曹に衝撃が…
どうぞ次回をお楽しみに^^。

そちらの連休のお天気はいかがですか?東京の本日はいい天気です。風は冷たいものの日差しは温かですよ❤

おはようございます。
あの野田さんが箒を( ̄□ ̄;)!!と驚きました~その後、レレレのおじさんを連想したのは……スミマセン(笑)
しかし、胡散臭すぎる見合い話ですね。うまくいくと思っているのでしょうか? イヤだわ……! 見張り員さまの物語はリアルな人の感情があるので、本当にああっ!とドキドキしてこれからが大変気になります!

No title

見張り員さん   こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
野田兵曹のお母様から生方中尉に
手紙がきて野田兵曹のお見合いで
相手が満州にいる方で話を決めて
いるお母様は野田兵曹をどうしても
嫁がせて家から追い出したいみたい
ですね。
野田兵曹も元々のきっちりしていた頃
に戻っているみたいですね。
これからの成り行きは生方中尉などと
梨賀艦長達も大変ですね。
次回も楽しみです。

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
ハイ!いきなり重く行きましたw。
野田兵曹のあの後についてはずっと考えていて仕事中もどうしようかこうしようか呻吟しておりました(って真面目に仕事しろよww)。
いきなりなように結婚の話、しかも相手は満洲の人。野田兵曹満洲娘になっちゃうのか??どうなりますか御期待下さいませね^^。

本当にここん所めちゃくちゃ寒くって正直仕事が嫌です(キッパリ)、ほとんど外と言っても差し支えないような職場、まあ雪が降らないだけましですが風吹くとけっこう来ますよw。
はづちさんもどうぞ御身大切にお過ごしくださいませ。
いつもありがとうございます^^。

おじゃまします

こんにちは

お、新章がスタートですね。
まずは軽いものからくるかなと思っていたのですが、
新年早々、いきなり野田兵曹エピソードでくるあたり、
見張り員さんの意気込みを感じます。
それにしても、いきなり満州だなんて、
野田兵曹はいったいどうなることやら・・・。

こう寒いと、キーボードやマウス、テーブルも冷え切っていて、
電源を入れたばかりのパソコンに触れるのを躊躇ってしまいます。
お風邪など召されぬよう、お気をつけ 下さい。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
人は環境次第で十分変わりうるものだと思います。
その最たるものが今回の野田兵曹!高田さんのおかげで見違えるようになった――と思ったら野田の天敵の母親からの手紙。
さア野田兵曹はどう出るでしょう、お楽しみに^^。

なんだかさまざまに物語は頭の中で広がりを増して行きます。ああ、もっと時間があったらなあ~と思います。楽しみながら無理なく書いてゆきますね^^、どうぞよろしくお付き合いくださいませ❤

No title

きれいに生まれ変わりつつある野田兵曹。人さまの優しさや薫陶のお蔭ですね。やっと人並みに慣れそうだというのに、またあの母親ですか。みんなの危惧で終われば良いのですが、勘の鋭い大和の人々の心配があたりでもしたら。
見張り員さんの裁量や如何に!!!

今年もドキドキから始まりましたね。楽しみにしながらも見張り員さんの体調も心配。すべての登場人物に心を吹き込んでいるのですからそのエネルギーの消耗たるや。無理をしないようにして下さいね。ゆっくりと楽しませて頂きますから。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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