「女だらけの戦艦大和」・毎日修子!1

 松岡修子海軍中尉は熱い生き方と熱い言葉で皆を鼓舞することで一部で有名な女である――

 

今日も松岡中尉は例のラケットを振りながら、「熱くなれよ―」と叫びながら飛び出すとまずは第一艦橋に走った。彼女は朝の始業前にはこうして第一艦橋に行って、その正面の窓ガラスを下ろすと

「さあ、今日も一日が始まりました。今日もまた熱くなって尻の穴をしっかり締めて米英撃滅に向かってまい進しましょう。――なんだもうあきらめてるのか?そうじゃないだろう、あきらめたらそこまでだ、あきらめないで生きるのが人間だ!――さあわかったらみんなしっかり朝飯を食って今日も一日、熱くなって頑張ろうぜ」

と大音声を発し、ひとりで気炎を上げるのが日課。

たいがいの場合第一艦橋には見張り兵がふたりほどいるか、繁木航海長か花山掌航海長がいるのだが、彼女たちのいずれかがいるときはわざわざ彼女たちを双眼鏡から離したり航海長の肩を抱きよせて自分の前に並ばせてこの「訓示」をする。

聞かされる方はいかに短時間とはいえ正直迷惑な話で、松岡中尉の前に立って実に複雑な表情で聞いている。特に繁木航海長は(なんで私がこいつに?)と思いつつさらに複雑な表情でいるが松岡中尉はそういうところには鋭いから

「君たち、そういう顔で人の話を聞いてはいけないって、お母さんから教わらなかったかい?いいですかあなたたたち。ひとの話をしっかり聞けないような奴はこの帝国海軍には要りませんよ?何処へでも勝手に行ったらいいでしょう。でももしそれが嫌だというのならさあ今から心の耳の穴をかっぽじって私の話を聞きなさい」

と注意をくわえる。すると見張りの兵隊嬢はしかつめらしい顔で「はい。ようわかりました。今日から熱うなって頑張りますけえ勘弁してつかあさい」と言って松岡中尉は満足してそこを出るのだった。繁木航海長は「なに言ってんだ。そんなこともっと偉くなってから言ってよ!」と苦々しい顔でつぶやく。そう、時にこのえらそうな物言いのせいで松岡中尉の方が繁木航海長より階級が上に見える時があって大尉の繁木さんとしてはとても腹の立つ思いもしているのだった。

 

その日も午前中の課業を終えると松岡中尉はマツコ、トメキチとニャマトを引き連れて第一主砲塔の上に座っていた。ニャマトは松岡の胡坐の中で、春の日差しを浴びてうたた寝中。トメキチも、松岡の横でまるまってうとうとしている。マツコはその金色の瞳を時折眠そうに閉じながらも松岡中尉の訳のわからない講義?を必死で聞いている。

「だからね鳥くん、」と中尉は言った、「私は一所懸命に私の思いを伝えようとしているんです、でもねえみんななぜか私の言うことをマジ東風、マジ東風~、右の耳から入って左の耳に抜ける~って感じで身を入れて聞かないんですよ!さあどうしようか鳥くん?」

マツコは必死に眠い目を開けながら、

「そうねえ…アンタ前に誰だっけ…よ、よ、…吉田松陰て人の言葉を集めて教科書作ってたじゃない?あれどうなったのよ。でもその前に<マジ東風>は間違いよ。正確には<馬耳東風>。覚えときなさい」

と言った。

松岡中尉はふんふんと軽くうなずきながらもだんだん熱くなり始め

「そうだね鳥くん。あの吉田松陰先生の講義も大好評だったんだが一通り終えたんでね。まあ、もう一度はじめからしてもいいんだよね…もう忘れっぽいわが艦の皆さんはとっくのとうに忘れ去っているだろうからねえ。――だめだだめだ!そんなことじゃ大きくなれないぞ、いいですか鳥くん。忘れる、ということは忘却するということです、それはいいことじゃない!忘れていいのは試験の赤点の点数だけです。あれは早く忘れましょう。でもね鳥くん、人生の先輩、先人の言葉は忘れちゃいけないんだよ。

というわけで」

と最後は大きな声になったのでマツコはもとより眠っていたトメキチもニャマトもびっくりして目を開けた。

マツコはその金色の目を大きく見開くと「いったい何よ、びっくりするじゃないマツオカ!」と叫んだ。トメキチとニャマトもその瞳をあげて松岡中尉を見つめる。松岡中尉は

「私のこの熱くなれる言葉をいつでもどこでもみんなが見られるように私はしたいんです。だからね、鳥くん達、ちょっとお耳を拝借――」

と言って三匹を抱き寄せるとその耳に何やら囁いた。

「ええっ!?」

「まさか」

マツコとトメキチが同時に叫んだ。まだ幼いニャマトはなにを囁かれたかもわからないのでぽかんとして「ニャ?」と首をかしげているが。

マツコは少し心配げに松岡を見つめて

「アンタの分際でそんなことしていいのかしら?アタシ知らないわよ叱られたって。第一さあ、副長が不在の時にそんなめちゃくちゃしたら絶対だめじゃない?普通さ…」

とブツブツ言った。トメキチでさえ

「そうよマツオカサン。マツコさんの言う通りよ?勝手なことしちゃいけないと思うわ」

と松岡をいさめる。が、自分の思いつきに舞い上がった松岡中尉はもう聞く耳を持たない。さあ、行くぞとニャマトをポケットに突っ込むとマツコとトメキチを促して、艦内へと入って行った――

 

松岡中尉は誰もいない長官室に入り込んだ。そしてそこの大きなデスクの下に隠してあった長方形の紙の束を引き出した。そしてデスクの周りに頭を寄せるマツコトメキチに

「さあいいですか皆さん。今から私が誰でもいつでも熱くなってあきらめないで頑張れる言葉をこれに書いて、印刷して日めくりを作りますからね。暫く黙っていてちょうだいなっと」

と言って紙に何やら書きつけはじめた。それを見ながらマツコがぼそりと

「黙っていてちょうだいなっていうなら連れてこなきゃいいのにね。変な奴よねマツオカって」

と言ってため息をつく。トメキチが笑った時、松岡中尉の三種軍装のポケットから「ギャ、ギャ、ギャマト!」と声がして松岡中尉は我に返った。ニャマトが、ポケットと机の縁の間に挟まれて苦しがっていたのだ。

「おお、猫くん!ごめんごめん、悪かった。私としたことが熱くなりすぎたよ…というわけでさあ、作業の先を急ごうねー、今日から私は富士山だ!」

松岡中尉はニャマトをポケットから取り出しデスクの上に置くと作業を続けた。

 

マツコトメキチニャマトがすっかり飽きて、長官室の中を追っかけっこしてうるさくなりだした頃やっと、松岡中尉の作業が終わった。

松岡中尉は紙の束をデスクの上でトントンとしてそろえるとそれを小脇にかかえた、そしてまだ大騒ぎしているマツコ達に

「さあ皆さん。私はこれから大事な秘密の作業が待っていますから、あなたたたたちとはちょっとの間遊べません。ですからここでごきげんよう。また明日会いましょう」

と声をかけて走り去ってしまった。取り残されたマツコ達、その場に立って松岡の後ろ姿を見送りながら

「マツオカがしようとしてること…アンタには、解る?」

[ううん。わからないわ、僕にはあの人の考えてること全然わからない]

「ニャ、ニャ、ニャマト」

と話しあっている。

 

松岡中尉は最下甲板の一角に自分で勝手に設けた印刷室に入ると、無心に作業を続け「後は、今夜。巡検後に一気にやるぞ!熱くなれよ」と叫んでその場を後にした。

その晩、副長代理の黒多砲術長による巡検の終わった後、松岡中尉は最下甲板の印刷室に入り残りの作業を行った。

「さあ『大和』の諸君!今まで生きる方向が見えなかった君たちに、私松岡修子がその方向を示してあげますからね。明日から君たちは富士山だ―ッ!」

そう叫びながら。

 

松岡中尉の作業は、その晩遅く完了した。

 

そして翌朝。『大和』乗組員嬢たちは<それ>を目の当たりにしたのだった――

   (次回に続きます)

           ・・・・・・・・・・・・・・・

いったい松岡中尉は何をまたしようとしてるのでしょうか?サッパリわかりません。しかしマツコが懸念するように、えらいさんがたに叱られたりしないよう願いたいものです。

次回をお楽しみに^^。

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非公開コメント

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんおはようございます。
又始まりましたよww、松岡中尉の変な行動!
ほんと、自分だけ熱くなってる分にはいいのですが人にもそれを強要するのはごめんですね(-_-;)。そうだ、雪を溶かすくらい熱くなればいいんですが。
すでに東北や新潟ではけっこうな雪になっていますね。これ以上降らないよう祈るばかりです。

あと数日な平成26年。
来年こそ穏やかに静かに過ごしたいです。
ありがとうございます。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんおはようございます。
お忙しい中コメントをありがとうございます^^。

松岡中尉の訳わからない中にも元気が出る?行動、これでどうぞ元気を出して下さい。私も元気を取り戻したいと思っています^^。

もうあと数日になった平成26年。初夏からいろいろあり過ぎ、時間が止まったような気さえしています。でも、父がもうあの家に、この世界の何処にももういないという真実に改めて涙も出てきますがいつまでもめそめそもしていられませんね!
来る年はしゃんとして迎えます!
ありがとうございます!!

はづちさんへ

はづちさんおはようございます。
松岡中尉の訳の分からない行動にまたも振り回されるのでしょうか『大和』の諸君は!?
いやもう絶対彼女は問題を起こしますね。問題起こしての松岡、みたいなところあありますw。

そうです、彼女がいると平均気温が上がります。機関室では浜口機関長・松本兵曹長が「あいつを来させるな、機関室の温度が上がっていけん!」と戦々恐々としていますw。

No title

おやまあ、またまた問題児松岡中尉のお茶目が始まりそうですね。
今度は何をやらかすんでしょうか。見ものです。
自分だけ熱くなってる人っておりますよね。ま~、人に迷惑の掛からない熱さならいいんですが。
その熱さを雪国にきて、積もった雪を融かしてほしいもんです。

もうすぐ今年も終わります。いろいろあった1年だったと思いますが、来年こそは何事もなく平穏な1年を迎えられるよう祈ってます。

No title

こんばんは。
コメントも残さずに読み逃げばかりして申し訳ありません。
何やら松岡さんの奇怪な動きが始まりましたね。メリハリがありすぎて何だか今の自分に喝を入れて下さっているようにも感じています。すべてをひっくるめてありがとうございます。

もう間もなく今年も終ります。見張り員さんにとって今年は思いの深かった一年ではなかったかと思っています。よくぞ元気を出し直して下さったと感心しています。
見張り員さんには人智を超えた彼の人々の大きな力で守られているようですね。
どうか残り少ないこの年、風邪など引かないようにして波乱であったひととせの幕を下ろして下さい。

おじゃまします

こんにちは

おや?また松岡中尉が、何やら始めましたね。
日めくりを印刷するだけならまだしも、
はてさてそれをいったいどうすることやら・・・。
副長がいない間ぐらい、大人しくしてもらいたいですが・・・。
あ、いや、まだ問題を起こすと決まったわけではないですね。
きっと、みんなの役に立つ結果に・・・??

松岡中尉がいる『大和』だけは、
他の艦艇よりも艦内温度が5度ほど高そうですね。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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