「女だらけの戦艦大和」・空中戦5<解決編>~大いなる愛

 ――手術台の上、大きな一枚の白い布をかけられた三つの盛り上がりがあった。

 

岩井少尉、松本兵曹長に麻生少尉、そして見張兵曹はその前に立ってしばらく声も出なかったが、岩井少尉がその三つの盛り上がりをそれぞれ撫でた。岩井少尉の眼に涙が急速に盛り上がり、流れた。そして

「ハシビロ、トメキチ…ニャマトお!」

と悲痛な叫び声が上がると同時に岩井少尉は白い布の端に打ち伏して号泣した。松本兵曹長も、麻生少尉も互いに抱き合うようにして大泣きした。

見張兵曹はトメキチと思しき盛り上がりを撫でさすって

「トメキチぃ、なんであんたは死んでしもうたんじゃ。うちはアンタが好きじゃった、ずっと一緒にいたかったんに…なんで死んでしもうたんじゃああ!」

と叫ぶとうわっと堰を切ったように泣き始めた。松本兵曹長は麻生少尉と抱き合って泣いていたが、やがて身体を麻生少尉から離すと

「こげえなことうちは信じられん…あのへんな鳥やトメキチやニャマトがこげえに簡単に死んでええはずがない!うちは…あの鴉どもが許せん」

と怒鳴ってこぶしをグッと握った。そのこぶしがわなわなとふるえている。

岩井少尉は「ニャマト…ニャマト…お前はこげえに短い人生で幸せだったんか?うちはニャマトをここに連れてきてえかったんか、解らんようになってしもうた。うちのあの時の判断がニャマトを早うに死なせてしもうたのかもしれん」と言って泣いている。

麻生少尉が岩井少尉の背中にそっと手を置くと涙をグイッとこぶしで拭い

「岩井少尉、ニャマトは少尉と兵曹長が見つけんかったら樹ぃに縛られて一生を終えるところじゃったいうて聞きました。こげえな最期にはなりましたがニャマトにはここで、少尉や松本兵曹長や変な鳥やトメキチに可愛がってもろうて幸せだったとうちは思うてます。変な鳥や、トメキチも同じじゃ。どれもみな、ほっておいたら今までも生きてはおられんかったんじゃ。それがここに来て仲間も出来て楽しい毎日が過ごせたんじゃけえ…ええ一生だった思うて、送ってやりましょう」

と言うとたまらなくなったか、ウウッ、とうめいて床に膝をついて号泣した。見張兵曹は、麻生少尉のその言葉は麻生少尉自身を納得させるための言葉だと思った。そうでも言わなければこの理不尽な三匹のありように納得がいかないのであろう。

それはまた、岩井少尉たちの心でもある。

床にひざまずいて、手術台に片手をかけて泣き続ける麻生少尉、台の上に伏して泣く岩井少尉と松本兵曹長、そしてトメキチと思しき盛り上がりのそばに頬を寄せて泣く見張兵曹…四人の泣き声だけが手術室に満ちる。

どのくらい泣いたのだろう、麻生少尉は頭がものすごく痛くなったのを感じた。

見張兵曹は涙でぬれた頬に布が当たっているのかそこが痒くなったのを感じた。

そして――

「ニャマト!!」

という声が部屋に響き岩井少尉は顔を上げた。そして「ああ、死んだはずのニャマトの声が聞こえる。うちはついにおかしゅうなってしもうたんじゃ。それともニャマトがうちを迎えに来てくれたんじゃろうか」とつぶやいてふと隣を見たとき。

「麻生少尉、オトメチャン!」

岩井少尉は大声を出して二人を指差している。麻生少尉が岩井少尉の指さす方、上を見上げるとマツコが台の上から首を伸ばして麻生少尉の頭をくわえている。そしてトメキチが布の下からオトメチャンの頬を舐めている。

布の隙間からニャマトが顔をのぞかせた。その横からトメキチも出てきて顔をのぞかせた。マツコも、トメキチもニャマトも笑っている。

「トメキチ…?トメキチ生きているんか?夢、夢じゃないんね!?」

オトメチャンが叫んで布を取り払うとトメキチに手を伸ばした。トメキチは背中に包帯をまいた姿ではあったがしっかりオトメチャンの手を舐めて

「生きてるわよ僕!死んだと思ったの?トメさん。僕たち畑大尉に手術してもらったからもう大丈夫、元気になれるわよ」

と言った。マツコもいたずらっぽくその金色の瞳を瞬いて

「ほんとはね、アタシ達少し前に麻酔から覚めてたの。でも岩井少尉たちをおどかそうかって思って畑さんにこの布をすっぽり掛けてもらったのよ~。なのにニャマトが我慢できなくって声出しちゃったのよ」

と笑い、ニャマトも包帯で巻かれた身体で

「ニャ、ニャ、ニャ、ニャマート!」

と言って大きな口を開けて笑った。

オトメチャンは「ああ…良かった」というなりその場にくず折れるようにして昏倒してしまった。安心しきって緊張の糸が一気に解けたのだろう。その身体を麻生少尉があわてて支えながら

「あほ!ハシビロもトメキチも、脅かしよって!――ほいでも、えかったわあ!」

と言ってオトメチャンを抱きしめて泣いた。今度は嬉し泣きであった。松本兵曹長も、岩井少尉をしっかり抱きしめてえかった、えかったといいながら嬉し泣く。岩井少尉も兵曹長の腕の中でそうね、そうねと言いながらとめどない涙を両手の甲で拭って笑う。

そこにラケットを持って神妙な表情でやってきた松岡中尉が眼をまるくしてそして

「鳥くんに、犬くんに猫くん!――君たち生きていたのかあ!!

と大声を出して手術室の外で心配して集まっていた大勢の将兵嬢たちはわあっと歓声をあげて

「生きとった、生きとったで!えかったなあ、ハシビロもトメキチもニャマトも無事じゃったわあ、えかったえかった」

と互いに階級も関係なく抱き合って喜んだのだった。

それを医務室の扉の影から見ていた日野原軍医長、畑軍医大尉の肩をそっと叩くと

「お疲れ様。よくやってくれました、畑さんの腕は確かだね。本当にありがとう」

と言った。畑軍医大尉はそう言われて面映ゆげな表情になって「いえ。私の腕の問題ではありません、彼らの生命力とそして」

「そして?」と問う日野原軍医長に畑大尉は

「『大和』の乗組員みんなの、あの三匹に掛ける大いなる愛のおかげですよ」

と言って微笑んだ。軍医長は「大いなる愛、か。そうだね畑さん。愛に勝るものはないよね」と言って、手術室の騒ぎに見入る。

 

翌朝、機銃の長妻兵曹が機銃座の点検に来ると旋回手席に一羽の小さなスズメが止まっている。兵曹は「ありゃ。こまいスズメじゃのう…もしかして昨日の鳥の大編隊の一員か?――そうか、ハシビロ達が心配でいねんかったんか。あのな、ハシビロもトメキチもニャマトも手術がうまいこといってのう、しばらくは入室(入院と同義)じゃが、もう平気じゃ。ほかの鳥さんがたによう言うておいてつかあさいな。ありがとう、いうてね」とスズメに向かって囁いた。

すると小さなスズメは長妻兵曹に向かって一声高く鳴くとパッと舞い上がった。そして兵曹の頭上で二回旋回すると呉の町のその先の山を指して飛び去って行った。

そのスズメ――小鈴――の報告を受けた昨日の鳶たちは大喜び、皆で翼を叩きあったり高い声でさえずり合ったりそれは大騒ぎをしてマツコ達の無事を祝ったのだった。

 

松岡中尉はラケットを抱えて麻生少尉他の航海科員に

「いやあ今回ほど緊張した時はなかったね…下手に打てば鳥くんと猫くんを怪我させてしまうし。どうしたものかと考えあぐねていたら鳥の大群が来てたいへんな空中戦だったね。ハシビロも頑張っていたよ、私はハシビロくんを見直しました。あれほどの空中戦を行ってあれだけのけがをしてもなお、気丈に振舞っていたあのハシビロくんを私は尊敬します。…今回は鳥くんたちに脱帽だ、参りました―!!」

と言って皆は大笑いするとともに深くうなずいた。見張兵曹が少し心配げに

「ほいでも分隊長、またあの鴉どもが来やせんかと思うてうちはおちおちしとられんのですが」

と言ったが松岡分隊長は

「あの鴉の親分がやられたからね、ほかの連中はもう来ないよ。かりに来たとしてもこの松岡修子が対峙してやりますから皆さんご安心くださいね、熱くなれよ!」

と言って皆を笑わせた。

 

数日後、マツコトメキチニャマトは包帯の取れた体を艦長室に休めていた。

トメキチがふと「あの時ね、マツコサン。僕あの時確かに死にかけてたと思うの。でもね、遠くから『大和』のみんなが死んじゃいけない、死なないでこっちに戻っておいでって言ってくれてたの。だから僕死ななかったのね」とつぶやいた。

マツコが金色の瞳でトメキチを見つめ、静かに言った。

「それよ。それこそが愛よ。大いなる愛なのよ」

ニャマトが相槌をうつように「ニャ、ニャマト!」と鳴いた――

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・

マツコ達、無事でよかったです。さすが畑軍医大尉の腕は確かです。そしてあの熾烈な空中戦を戦ったマツコ、ニャマトを守ってけがをしたトメキチに拍手をお願いします^^。

 

「さらば宇宙戦艦ヤマト」から<大いなる愛>をお聞きください。壮大な曲で素晴らしいです!


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すっとこさんへ

すっとこさんこんにちは!
えへへ~~おどかしちゃったですね~~^^。
岩井少尉たちも心臓止まるほど驚きました、しかしよかった!マツコ、トメキチ、ニャマトはこの程度では死にません。
「僕は死にましぇ~ん」

すっとこ姉さん私の私生活をよくご存じで!私もけっこう皆にドッキリとかするの大好きです。かべのかげにかくれて「わっ!」とか、高校生くらいの時は遅く帰ってくる父のベッドにゴキブリの模型を作って置いといて「ギャッ!」と言わせたりしましたw。
しょうもない私w。

鍵コメさんへ

鍵コメさんこんにちは。
コメント拝読して正直驚いております。まさかそんなことが?と。
しかし…人の心の中って解りませんね、結局は「頼み難きは人の心』なのでしょうか。それにしてもわびしい寂しい悲しい…。
鍵コメさんの今までをちゃんと知ったなら、と思うのですが解らない人はどんな手段を尽くしてもしんそこまでは解りえないかもしれません。何の労苦も無く過ごした人には解りえないことなのかもしれませんがそれではいけないとわたしは思いますよ。
時が至れば、きっかけがあれば、その御心情をぶつけるのもいいと思います。なにも黙って辛抱する必要もないと考えます。どういう形式にするかは鍵コメさんご自身のご判断ですが、物言わぬは腹ふくるるわざ、健康にもよくありません。なにか…アクションを起こすべきかもしれませんよ?
それにしても私は鍵コメさんのようにいつも人を思いやり、考えてらっしゃる方がどうしてそう言う嫌な目に遭うのか不思議でなりません。
試練?それにしても。
どうかそんなものに負けないでください。私は応援しております。そして鍵コメさんのお心をしっかり胸に刻んで生きたいと思います。
どうぞ御健康を損ねません様に!!

No title

んもう!

手術台の上にシーツかけられた3つの山・・・
って心臓止まりそうになったじゃないかぁ!

皆さん まんまと騙されたようで。
読者もまんまと騙されちゃいましたよん!
「はぁ~良かった、良かった」

きっと見張り員さん、実生活でも まわりに
ドッキリ仕掛けてるのではないだでしょうかクスクス。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
いや~、脅かしてすみません!とマツコ達が謝っております^^。
今回はマツコ大活躍でした、しかしほんとのハシビロコウは「動かない鳥」としてつとに有名なんですがこの物語においては正反対ですね(^_^;)。
さあ次回はどんなお話になりますか、お楽しみに❤

「宇宙戦艦ヤマト」の森雪と言えばあの松本零児臭(と言っていいのでしょうか)ぷんぷんの顔がしっかり刷り込まれておりますので平成版の「ヤマト」の彼女には青天の霹靂でございます。当世風といいましょうか…でもこれもいいかな?

北から西まで大雪になりました。正直今の時点で寒さに辟易です、春が待たれる私です^^。
はづちさんも御身大切にお過ごしくださいね♪

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
苦難を越えただけ団結は強まります。
ハッシー・デ・ラ・マツコ、私も実は頭の中で『顔はマツコデラックス・体はハシビロ』というたいへん奇妙な生き物が出来上がっています(-_-;)。

このところずっと寒いですね、もう閉口です。どうぞ御身大切になさってくださいね^^。

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
意外とお茶目な三匹でした^^。
変なうそはよくないですがこれなら許されますね、大いなる愛は死線をも超えました!めでたしめでたし^^。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
お返事大変遅くなってごめんなさい。

マツコ達が無事でよかった^^。今回だけは松岡中尉は出番がありませんでしたね、まあ、たまにはいいですかw。
でももしほんとに鳥たちの大群がやってきたらビビりますね、むかしヒッチコックの「鳥」という映画を見た後しばらく鳥が嫌いになりました。

爆弾低気圧はすごかったですね、そちらは雪が降ったことでしょう。くれぐれも御身大切にお過ごしくださいませ。

おじゃまします

こんにちは

いたずらかいっ!
まったくもう、驚かしおってからに・・・。
なにはともあれ、
みんなが無事で、良かったです。
大活躍のマツコや頑張ったトメキチ、ニャマト、そして畑軍医大尉、
お疲れさま!(^-^)//""ぱちぱち

あ、余談ですが。
この森雪の変わりっぷりには、ビックリいたしました。

なんかもう、とんでもない寒さと雪になってきましたが、
何事もないよう、どうぞ十分にお気をつけください。

こんにちは。
ああ、よかったです~様々な困難を乗り越えてまた団結力も強まりましたし……! マツコがハシビロコウの姿ではなく人間のマツコで再生されるので、飛べないのでは…と一瞬考えてしまいます(笑) 今日も寒い1日になりそう~防寒対策バッチリでお仕事して下さいね!

No title

三匹にまんまと騙されてしまいましたね。
後味の良い嘘だから嬉しいですよね。三匹とも茶目っ気があるからいいですよ。
やっぱり愛は死を越えるんですね。良かった良かった。

No title

見張り員さん   こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
マツコ・トメキチ・ニャマトがみんな助
かってよかったです。
カラスの大群を松岡中尉に麻生少尉
も頑張ってトビにスズメなどのいろんな
鳥に助けられてよかったですね。

明日から爆弾低気圧と言って風が台風
並みと言っていましたので停電が心配
で今も風の音がして明日の昼過ぎから
雪が降り出すそうです。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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