「女だらけの戦艦大和」・空中戦4

 対岸から何か、大きな飛行物体がたくさん飛来して来た――

 

それを前牆楼の中途のラッタルで見た見張兵曹は「まさか、またカラスの仲間じゃろうか?」とぞっとしたが麻生少尉の

「ちがうで…ありゃ鳶じゃ、いや待て鷲もおる…どういうことじゃ、いろんな種類の鳥が居るで」

という言葉に眼をこすってもう一度それを見つめる。確かに、トンビに鷲、それに大小さまざまな鳥が大編隊を組んでやってくるのが見え、それがだんだん接近してくる。そしてものすごい大声で鳴き交わしながらやがてそれたちは『大和』の上空を覆った。

頭から落ちていくマツコは、[頑張れ、頑張って!助けに来ましたよ]という声に励まされたか体勢をたてなおした。そこに一羽のまだ若い、大きな鳶がやってきて下からマツコを支えるようにして持ちあげた。

マツコはその鳶を見て「あなたは」と言った。鳶は力強いその瞳でマツコを見てうなずいた。鳶はマツコが自力でしっかり羽ばたくのを見ると

[詳しいことは後で!]

というなり急上昇してゆき大カラスに向かって突進して行った。周囲ではほかの鳶や鷲や、ミサゴや鳩やスズメや…たいへんな数のいろんな種類の鳥たちがカラスに襲いかかりさすがのカラスたちも驚いて算を乱して逃げ出して行く。

最後に残った大カラスは救援に来た鳶と、マツコの攻撃にさらされる。鳶とマツコは交互にカラスに体当たりし、爪やくちばしでカラスの身体を裂く。が、カラスの足にはまだ、ニャマトがつかまれている。しかしもうニャマトは叫ぶ声も、もがく力も無くなってしまったようでぐったりとしてその小さな四本の足がカラスの動きに合わせてぶらぶらと動いている。

鳶とマツコは空中で瞳を見かわしうなずき合うと二羽一丸となってカラスに突っ込んで行った。マツコは「ニャマトをか・え・せー!」と叫びつつ。

二羽は一つになり燃えながらカラスに体当たりを敢行した。カラスの羽根が空に散り、ガーと大きな声が響いてカラスは力尽きた。そして――甲板上で見守る皆の目に、次の瞬間とんでもないものが見えた。

力尽きたカラスの足からニャマトがするりと落ちたのだ。

ニャマトはぐったりとして落ちるに任せている。水兵嬢たちが「キャー!ニャマト、ニャマトがああ」と悲痛な叫びをあげ、岩井少尉が「ニャマトー」と叫んで松本兵曹長とともに走ってゆく。岩井少尉は自分の上着を手早く脱いで広げ、その片方を「松本兵曹長、こっちを持って!」と叫ぶとニャマトが落ちて来ると思われるあたりに立った。そして

「ニャマトー!こっちじゃ、眼え開けんか、こっちじゃ!」

と叫んだ。松本兵曹長も「ニャマト、しっかりせえ!」と叫ぶ。しかし、ニャマトは反応なくすう―ッと落ちて来る。

前牆楼途中のラッタルにしがみつくようにしてこの光景を見つめている見張兵曹が

「ニャマト…まさか死んでしもうたんじゃ…」

というなり嗚咽を漏らし始めた。麻生少尉は兵曹より数段上のラッタルで食い入るようにその光景を見つめている。

ニャマトは、岩井少尉と松本兵曹長の広げた上着の上にボスッ、と音を立てて落ちた。急いで岩井少尉と松本兵曹長がニャマトを見ると、ニャマトの背中や足にカラスの爪による切り傷が出来ていた。血に染まって虫の息のニャマトをしっかり抱えた少尉は

「畑大尉、畑軍医大尉を呼んでー!ニャマトが死んでしまう」

と悲痛な叫びをあげ走り出した。大騒ぎの兵員嬢の間から畑軍医大尉が飛び出し、ニャマトを受け取ると素早く艦内へ走り込んでいった。

上空ではマツコと大勢の鳥たちが次々防空指揮所に集まって

「早く、ここにきてー!トメキチがたいへんよ」

とわめいている。麻生少尉と見張兵曹はその声にラッタルを駆け上ってやっと防空指揮所に上がった。そしてマツコや鳶たちが指揮所の甲板に集まっているのをかき分けるとそこには――

 

すっかり血に染まったトメキチが横たわっていた。

 

「トメキチ?」

見張兵曹が震える声で言ってトメキチの前にへたりこむ。そして両手を伸ばすとトメキチの身体をそっと揺すった。トメキチ、と呼びかけたが反応がない。何度かトメキチと呼んでは揺すってみたが全く反応がない。オトメチャンの顔色がスーッと蒼くなった。

「トメキチー!」

オトメチャンの、今まで出したことがないようなそして、聞いたことがないような叫び声がその口から飛び出し、オトメチャンはトメキチを抱きしめ「死んだらいけん、死んだらいけん。いやじゃあ、いやじゃ!トメキチが死んだらうちも死ぬ」と言いながら号泣した。

麻生少尉がオトメチャンを抱き起こし、

「まだ死んだと決まったわけじゃない、はよう畑大尉に診せるんじゃ。これでトメキチを包め!」

というと自分の上着を脱いで泣いているオトメチャンからトメキチを抱きとって上着でくるんだ。そして「いくぞオトメチャン!」

というと泣いているオトメチャンをそのままに麻生少尉は医務室へと走り出す。オトメチャンはその場で泣き伏していたがマツコに

「行ってやって?トメキチの事だからそう簡単に死なないわよ…でも目が覚めたときあなたがいないとトメキチ、さみしがるから行ってやって」

とそのくちばしでそっとつつかれ、「ほいじゃあ…行ってくるけえ」とよろよろと立ちあがるとその場をふらつきながら出て行った。

その後ろ姿を見送ったマツコはふーっと大きなため息をついてから若い鳶を見つめ

「ありがとう。あなたたちのおかげでカラスを撃退できたわ。本当にありがとう」

と礼を言った。若い鳶は

「でも…あなたの大事なお友達が大けがをしてしまいました。ごめんなさい、もっと早く来ればよかったんですが」

としなだれた。ほかの鳥たちもうなだれた。が、マツコは「大丈夫。アタシはあの子たちの生命力を信じてるから。――でもなぜあなたたちはここに?」と不思議そうに尋ねた。

すると若い鳶は

「ここにいる仲間はかつてあなたとトメキチさんに助けられたものばかりです。覚えておられませんか?私はまだ雛のころ、カラスに殺されそうになったところをあなたとトメキチさんに助けていただいたのです。私の親がその話をずっとしてくれましてね、だからわたし、若しこの先あなたたちに何かがあったら絶対助けに行こうって決めていたのです」

といい鳩やスズメたちもうなずいた。皆ここに来た鳥たちは以前に危ないところをマツコトメキチに救われたものばかりだった。

「ですから、」

と一羽の鷲が言葉を引き継いだ。

「あなたたちの危機をここにいる小鈴が知らせてくれたので我々種類を異にする物たちではありますが心を一つにしてやってきたというわけでございます」

鳶はそう言って一羽の小さなスズメを前にそっと押しだした。小鈴と呼ばれたスズメはマツコの前に進み出るとそっと頭を下げて「あなたには、わたしのおじいさんが助けていただきました」というと恥ずかしいのか鳶の後ろに隠れた。マツコは「そうだったの…本当にありがとう」と言って小鈴やほかの鳥たちを見つめた。

下の方で人々の騒ぎが聞こえ、マツコ達が見ると麻生分隊士がトメキチを抱えて畑大尉に手渡したところだった。マツコが羽根を広げて飛び上がりそして下に降りて行った。そのあとをたくさんの鳥たちもしたがった。

マツコが大勢の兵員嬢たちの近くに降り立ったときトメキチは畑大尉に抱かれて艦内に入ったところだった。「トメキチ…」とマツコは呟いて呆然と立っている、なにげなくその姿を見た長妻兵曹が

「おい、ハシビロ!貴様怪我しとってじゃないか!――誰かハシビロも畑大尉に!」

と叫んでマツコの肩に手をかけた、その時マツコは静かに長妻兵曹の腕の中にくず折れて気を失った。

 

手術室の前には岩井少尉、松本兵曹長に麻生少尉、そして見張兵曹が立ちつくしている。他の兵員嬢たちも入れ替わり立ち替わり来ては様子を聞いてはしばし魂が抜けたような顔になってやがて歩き去ってゆく。梨賀艦長も顔を出したが彼女たちの悲痛な様子に掛ける言葉も無く、そっと立ち去った。

岩井少尉が

「うちは…どうしたらええんじゃ。大事なハシビロとトメキチそしてニャマトをこげえなことで亡くしてしもうたら、うちは副長になんていうて謝ったらええんじゃ。うち、あの三人に何かあったら自決する」

と言ってすすり泣く。松本兵曹長は岩井少尉の肩をしっかり抱いて

[その時は、うちもお伴いたします」

と言って泣く。その二人を苦しげな表情で見ていた麻生少尉が

「岩井少尉も、松本兵曹長も早まらんでつかあさい。…自決なんぞせんでつかあさい。これは誰のせいでもないんですけえ」

とだけ言って下を向いた。涙が床に音を立てて落ちる。見張兵曹はただ黙って手術室の扉を見つめて涙を流している。オトメチャンの脳裏には、トメキチと初めて出会った日からこちらの事が思い出されている。あの日、トレーラーの人からたばこ十箱で譲り受けたトメキチ。賢くて可愛くて『大和』のアイドルになったトメキチ。いろんな可笑しい事件を巻き起こしたトメキチ…。

「トメキチ、トメキチぃ…。うちはトメキチが居らんくなったら、生きていけん。うちもトメキチのあとを追うて死ぬるわ」

オトメチャンがそう涙声で言って床に両膝をついて顔を覆うとひきつるような声で泣き出す。

岩井少尉たちも一緒になって泣き始める。

 

どのくらい時間が経ったのだろう。

手術室の扉が開いた。見張兵曹がハッと顔をあげ、岩井少尉たちも扉を見つめた。畑大尉が手術着の後ろのひもをを助手の兵曹に解かせながら「入っていいよ」とそっと言った。

四人は消毒薬の匂いの漂う手術室に入った。

そこで四人が見たものは――

 

白い布がかけられた三つの小さな盛り上がりだった――!

     (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

壮絶な空戦は終わりました。力強い援軍をえてニャマトはカラスの足から解放はされましたが…。そして動かなくなってしまったトメキチは、突然気を失ってしまったマツコ。

そして手術室の中で四人が目撃した布に包まれた三つの盛り上がりは――まさか!!

 

緊迫の次回に続きます。

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Secre

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
このくそ忙しい時に気になる話書きやがってえ~~~(怒)!!って感じでしょうかw。

このごろ動物を標的にした悲しい事件が多くてたまりません、動物と人との間にも心通わす何かがあれば――そう思って書きました。

今日とんでもない寒さでした!足先がジンジンしびれるほどに。一人で店先に立ちながら呪文のように「アッツ島の兵隊さんを思いなさい…」と唱えていましたw。
今日は早く仕事を終えてお風呂に入ってほっとしています。大分はいかがでしたか?明日も大荒れみたいですね(-_-;)、どうぞお気をつけてお過ごしください!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
『大和』の皆の思い儚く三匹は死んでしまうのでしょうか?そんな馬鹿な…!

次回をお楽しみに。

母の事お心にかけていただきありがとうございます。現在何とか一人でやっているようです。家の中の片付けやりふぉむが一段落したのでほっとしたと言っています^^。一月になったらまた娘をしばらく行かせようと思ってはいます。

オスカーさんもどうぞお風邪など召しません様お過ごしくださいね、今日の寒さったらひどかったですね。頭が痛いです(-_-;)・・・。

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
次回は――どうか心して読んでくださいませ!
たいへんなことが起こります…

No title

おぉ!!!!
年末にこの続き知りたくもあり怖くもあり。
人間も動物も持っている心は一緒。よいお話ですね。

何やら急激に寒くなるとか。お忙しい時でしょうがくれぐれもご自愛下さい。

こんばんは。
みんなの「まもりたい!」「助けたい!」気持ちにお鼻がツーンとなってしまいました。またまた続きが気になります!
しかし寒いですね。母上さまはお元気でしょうか? 見張り員さまもお身体に気をつけて下さいね。

おじゃまします

こ、こんにちは・・・。

(;゚д゚)ゴクリ…
ま、まさか・・・。
ど、どうなるのでしょう・・・。
ドキドキどころか、こ、怖い・・・(((( ;゚д゚))))アワワワワ
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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