2017-10

「女だらけの戦艦大和」・空中戦3 - 2014.12.10 Wed

 マツコの叫びに、トメキチはニャマトを抱えて逃げようとした――

 

だがそれより一瞬早く、極悪カラス集団の第一波攻撃隊が急降下し、トメキチの背中を裂いていた。悲鳴をあげてその場に転がるトメキチ、マツコのものすごい叫び声、そしてカラスの足に掴まれて連れ去られようとするニャマトの必死の鳴き声が前甲板まで響いて、そちらを見た見張兵曹は「あれ、あれを見てつかあさいー!」と防空指揮所を指差して叫んだ。

その場の皆が一斉に防空指揮所を見上げれば、指揮所にものすごい数のカラスがギャーギャー鳴きわめきながら集まってそして、その中の一羽――一番大きな――がなにかをつかんで飛びさろうとしている。

「ニャマト、ニャマトがカラスに捕まっとる!!

麻生分隊士の絶叫が響き、分隊士は指揮所めがけて走りだした。見張兵曹、そのほかの兵隊嬢たちも「ニャマトーっ」とわめきながら分隊士のあとをついて走る。

そんなことをつゆ知らず指揮所に入ってきた石場兵曹と石川水兵長はその場の異様さに一瞬立ちすくんだがたくさんのカラスが何かに群がりその向こうにトメキチが血を流して倒れているのを見て「わああーっ、トメキチィ!」と叫んだ。

水兵長が「石場兵曹、ニャマトがカラスに…」と興奮と恐怖で震える指で指した方を見れば、ニャマトが一羽の大鴉に捕まえられているではないか。

石場兵曹は伝令所に置いてあったデッキブラシを手にすると「この野郎、あっち行けえ、行かんか」と振りまわし始めた。しかし鴉どもは逃げるどころか今度は石場兵曹と石川水兵長を取り囲んで攻撃し始める。その間に、大鴉はニャマトをつかんで空に舞い上がってしまう。

「ニャ、ニャマトー!誰か、誰かニャマトを助けてつかあさいー」

石場兵曹はデッキブラシを振り回しながら必死で助けを呼ぶ。と、「この、鴉野郎!ニャマトを返して」とマツコがカラスのあとを追って舞い上がった。マツコは、我と我が身を持ってカラスに挑んでニャマトを救おうとしているのである。

「ハッシー、いけん!あぶない」と、石川水兵長がカラスの集団につつかれながらも叫ぶ。その水兵長にマツコは

「大事なニャマトの一大事に黙って見てられないわ!あんた、トメキチをお願いよ」

と叫びながらカラスのあとを追う。そしてニャマトをつかむ大鴉に体当たりをかます。大鴉の取り巻きのような中型のカラスたちがマツコに攻撃を始めた。

その頃には急を聞いた多くの乗組員たちが前甲板に上がって空を、指揮所を指差して大騒ぎを始めている。岩井少尉も、「岩井分隊士、一大事です」と部下の水兵長に呼ばれて前甲板に上がって卒倒するほど驚いた。その身体を後ろから支えたのは誰あろう松本兵曹長。

「しっかりしてつかあさい!何とかしましょう」

と声をかけて励ました。そこに来たのが松岡中尉で、「いったい何を騒いでるんです?熱くなってますねえ」とのんびりした声で言ったが松本兵曹長に「あれ、あれを見てつかあさい!大ごとです、ニャマトが…ニャマトが!」と背中をたたかれ空を見ればなんてこったい、カラスの大群がわが『大和』上空を覆い尽くしているではないか。

「許さん」

松岡中尉はまるで桃太郎侍のように唸るとラケットを構えて走り出した。そして露天機銃座の中に入り込むとそこから大きな麻の袋を引っ張り出してきた。長妻兵曹が興奮して頬を赤く染めながら「松岡中尉そりゃいったいなんです?」と尋ねると松岡中尉は

「私が上陸時に集めた石ころです。これを撃ってあの馬鹿ガラスをやっつけるんです。あなた、長妻さん。私の助手を務めてくれますね、機銃分隊のエースでしょ」

というと長妻兵曹に麻袋を押しつけた。長妻兵曹は<機銃分隊のエース>と言われたので気をよくして

「はいっ!よろしゅう願います」

と叫ぶと麻袋を抱えて走り出した松岡中尉のあとを追う。その間にも上空ではマツコと極悪カラス集団が熾烈な空中戦を繰り広げている。

カラスは敏捷性を生かしてマツコに体当たりをかます。そのたびマツコの身体が大きくかしいで下で見守る皆が「キャーッ!」「ハッシーしっかりせえ!もうちいとの辛抱じゃ」「今助けるけえのう」と叫ぶ。

甲板上の大騒ぎに幹部たちも駆けつけてきた。黒多砲術長はその様子に肝をつぶしつつも

「助けてやりたいが機銃を撃つわけにいかんし…ああ、どうしたらいいんだ」

と頭を抱えてしまう。梨賀艦長や森上参謀長、繁木航海長や浜口機関長まで出てきて空を指差しながら「なんとかしろ、ハッシーを助けろ」と騒ぐ。

と。

第一主砲塔によじ登った松岡中尉が後ろに長妻兵曹をしたがえて、仁王立ちになってラケットを構えている。そしてガアガアとやかましいカラス連中にびしっと右手の人さし指を指すと

「貴様らあ、この馬鹿ガラス」

と雷鳴のような大声を張り上げた。カラスの集団がマツコを追うのをやめ、松岡中尉を見下ろした。松岡中尉は

「貴様らこの艦が帝国海軍期待の弩級艦<大和>と知っての狼藉かあ!我々の大事な仲間に傷をつけあまつさえ可愛いニャマトを連れ去るなど言語道断!よってここに私、松岡修子海軍中尉が貴様らを成敗いたす!そこになおれ」

と怒鳴って空を見たままで片手を後ろの長妻兵曹に突き出した。その手に長妻兵曹がこぶし大ほどの石を乗せる。

そして「これを受けよ!」と松岡中尉は叫ぶなり、ラケットでその石を激しく打った。石はものすごい勢いで上空にすっ飛んでゆき、極悪カラス集団の端で破裂した。ギャー、ギャーと鴉どもは驚いて集団行動が一瞬乱れたがすぐに立て直すと今度は松岡中尉めがけて急降下して来た。

甲板上の皆は「うわ!来よったで、皆伏せええ!」とちょっとした恐慌に陥った。すると松岡中尉は「見ていたまえ君たちー、これが私の実力だ」と叫んでそれらのカラスに次々石を打ちこんだ。翼に、体に石をうちこまれカラスたちの何羽かが甲板上に落ちてきた。

「それ、あいつら捕まえんか」と高角砲分隊の上等水兵嬢が叫んで何人かの水兵嬢がわっとばかりに落ちてきたカラスを捕捉。機銃分隊の平野少尉の持ってきた縄で数珠つなぎにして縛った。

しかし、その間も上空ではマツコと極悪カラス集団の親玉らしい大ガラスが空中戦の最中である。二羽は空中でくんずほぐれつの戦いを繰り広げ、さすがの松岡中尉も

「これではうっかり石を撃てば鳥くんに怪我をさせてしまうよ。何とかならないかな」

と唸って手を出しかねている。

大ガラスの足に掴まれたニャマトがひときわ大きな声で「ニャ、にゃ、ニャ…ニャマト――」と叫んだ。

岩井少尉が「ニャマトー!もうちいとの辛抱じゃ、頑張れ」と声をあげ松本兵曹長が少尉の両肩をしっかりつかんで見上げる。

生方中尉が必死の表情で

「松岡中尉なんとかならないか?貴様のそのラケットでなんとかできんのか?」

とせっつく。しかし松岡中尉は苦痛の表情で空を見上げるだけ――

 

空中ではマツコが大ガラスと死闘を繰り返している。ほかのカラスたちは先ほどの松岡中尉が放った石の破裂で怖気づいたのか遠巻きにしている。

[この、極悪カラス!アタシ達のニャマトを返しなさいよー!ふざけるんじゃないわよ]

そう怒鳴ってはその大きなくちばしで威嚇する。

しかし鴉は不敵な笑いを浮かべてなおさらしっかりとその爪で、ニャマトをつかむ。ニャマトはもう必死で四本の足を動かして抵抗する。小さな足がけいれんしているのを見てマツコは(いけない、ニャマトはもう体力の限界にきているわ)と思う。

「アンタ、もういい加減にしなさいよ。アタシもう怒ったわよー」

そう叫んで体勢を立て直したマツコは、ギリッとくちばしを鳴らすと大ガラスに向かって一直線に突っ込んで行った。

「ニャマトを返せ―」

突っ込んで行ったマツコだが、カラスの片足の爪に背中をえぐられた。

「ギャーーー」

マツコの叫びが轟き、甲板上に居る皆は「ハッシー!」「死ぬなハッシー」「変な鳥、しっかりしろ!!」と絶叫した。

マツコは頭を下にしてきりもみしながら落ちて来る。

皆がアアッ、と目を覆いかけた時。

対岸から何か――とても大きな飛行物体がたくさんこちらにやってくるのが皆の目に入った。<それ>は大きな声で鳴きながらこっちへやってくる。

「なんじゃ、あれは」

『大和』の皆は立ちすくんでそれを見つめる。

きりもみで落ちてゆくマツコの耳に<それ>たちの叫ぶ声が聞こえてきて、マツコはハッと我に返った。

「あれは、あの声は…!」

         (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・

一大事勃発です。

ニャマトとニャマトの運命は?そして傷ついたトメキチの運命やいかに!

緊迫の次回をお楽しみに。

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● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
ある意味この物語最大の悲劇と言いましょうか…そして飛来して来たものは敵か味方か??
マツコトメキチそしてニャマトの運命やいかに!

胸の鼓動の高まりを抑えつつ次回をお楽しみに!

こんばんは。夜中に読んでどうしよう!と何も出来ない自分が情けなくなりコメントが遅れてしまいました……空を見上げれば群れなす鳥が……ああ、わけもなく憎い!と思ったり……早く結末を知りたいような、イヤイヤもう一山!とか考える鬼畜なワタクシもいたりして……ああ、気になる(笑)

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
鳥同士の空中戦となりました…
カラス、ほんと怖いですよね。けっこう頭もいいせいかきちんと攻撃対象を見ているようで。私の友人がむかし、カラスに頭を蹴られた事があるそうですがなんでも友人と背格好の似た人がカラスをかまったらしいんですね。それで友人が間違われたらしいんです。
うちのベランダにも、よくカラスが来て悪さをしていきます。でも仕返しが怖いのでうっかり追っ払えません(泣)。

さあ、一体何が大挙してやってきたのでしょう??次回をお楽しみに^^。

No title

何という壮絶な空中戦なんでしょう。
カラスの攻撃って怖いんですよね。ただ単に電線に止まって下界を眺めているようですが、実は高いところから自分の獲物を物色しているんですよね。
一度目をつけた獲物は執拗に追いかけ回しますからね。小さな雛鳥はひとたまりもありません。それで家の軒下で育てられていた雛鳥が全滅したこともありました。

百人力の味方の登場なのでしょうか。気になる影武者ですね。
見張り員さん山場を作るのがうまいですね。

はづちさんへ

はづちさんこんばんは。
こんな危機はこの物語は始まって以来かもしれません!
傷を負ったトメキチ・マツコ、そしてカラスにつかまったままのニャマトの運命はどうなるのでしょう?
松岡中尉のラケットを以てしてもカラスの猛攻は防げないのか!!

緊迫の度を増す「女だらけの大和」、次回をお楽しみに!

おじゃまします

こんにちは

な、なんということに!?
トメキチが・・・
マツコが・・・
ニャマトが・・・
めったにない松岡中尉の大活躍だったのに、
それでも大ガラスからニャマトを救えないとは・・・。
さらに、謎の<それ>が迫ってきて、
どうなるのかドキドキの展開ですね。
どうか、みんな助かりますように・・・。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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