2017-09

「女だらけの戦艦大和」・結婚ものがたり5~さあ、明日は! - 2014.11.16 Sun

 野村副長の挙式がついに明日に迫った――

 

その日の午前中には東京に住む副長の両親も呉にやってきたと知らせがあった。山中大佐とその兄夫婦と顔合わせをしたとも聞いた。兄と両親は旧知の間柄であるし、その妻シズともあっという間にうち解けたと聞いた。

副長はそれらの知らせにほっとしながらも明日の挙式を前に緊張がじわじわとわが身を支配してくるのを感じていた。今日は梨賀艦長から「明日の大事を控えている大切な体、怪我などあってはならぬから副長は今日は業務をしてはならない」と命じられ、各科長・掌長たちが「そうですとも!大事な御身体に何かあってはなりません。我々がすべていたしますからどうぞお体を休めていて下さい」と部屋に押し込まれたような感じになった。

(みんな、ありがとう)

そう思う副長の部屋のドアが叩かれ「黒多です」と声がした。どうぞ、と答えるとドアが開き黒多砲術長が入ってきた。彼女はたいへん張り切って副長の代理を務めようとしていた、砲術長は

「明日の御準備でお忙しいところ申し訳ございません、すこしだけお教えいただきたいことがあります」

と言って副長業務の件を聞きに来たのだった。副長は丁寧にその不安や疑問に答えてやった。砲術長もメモを取りながらひとつひとつを吸収して行く、その姿勢に副長は感じ入った。そして

(私のあとの副長は黒多さんで決まりかな)

と思ったのだった。

そして砲術長が用を済ませ出て行ったそのあとにもう一度ドアをノックの音がした。砲術長が引き返して来たのかと思った副長は自らドアを開けに行ったが、外に立っていたのは梨賀艦長だった。

「艦長、さあどうぞ」

副長は艦長を室内へといざなって艦長も微笑みながら部屋に入った。そして明日への荷物を見ながら「準備はできているかな?忘れものなどないように、気をつけてね」と言ってからうちかけの前に立った。うちかけの金鵄銀糸の『櫻に錨』は相変わらず美しく輝いている。

「ツッチー」と艦長は振り向くと呼びかけた。はい、と返事をして副長は艦長の前にそっと立った。すると艦長は副長を優しく抱きしめた。そしてその耳元に

「おめでとうツッチー。いい御縁があって本当に良かった。幸せになりなさい…あの山中大佐と言う方はとてもよい人とお見受けしました。若いツチ―をきっと大事にしてくれるはず。私としてはちょっとさみしいけれどね」

と言って体を少し離すと寂しげに微笑んだ。副長の胸に艦長へと愛しさが湧きあがってきて「艦長!」と小さく叫ぶとその胸にしがみついた。艦長は副長をしっかり抱きしめると「今までありがとう、そしてこれからもよろしくね、ツッチー。休暇中に思い切りご主人に甘えて来なさい、そしてツッチーも繁木大尉と同じように内地碇泊中は週末は通勤扱いにしようね」と言った。

「そんなわたしまでそんなことをしては」と副長は断ったが「これはね、皆の総意だよ」と艦長はその唇に自分の人さし指をそっと当てて黙らせた。

そのあとそっとその唇に自分のそれを当ててしばらくいたがやがて離れた。寂しげな表情のままで副長を見つめていたがやがて思い直したように表情を引き締めて「着付けや化粧などは誰か頼んであるのかな?」と尋ねた。副長はうつ向いていた顔をあげて「はい、林田運用長と運用科の兵曹が数名でしてくれることになっています。式後、運用長が衣装を持って帰ってくれることになっています」と言った。

艦長は「ならばいいですね」とほっとしたような顔つきになって言った。そして食い入るような瞳で副長を見詰めた。その場に押し倒し、めちゃくちゃに抱きしめたい衝動にかられたがそれはもうしてはいけない、と己を必死に抑えた。

艦長は部屋を出る際「休暇が終わって戻ってきたら『山中副長』と呼ばなきゃね、今から練習しとかないと」と笑った。その言葉の底に潜む寂しさを、副長は受け止めると静かに頭を下げた。

ドアが静かに閉まったその数瞬後――副長の頬をなぜか涙が数条、流れていた。

 

その日の午後は「課業なし」であったが乗組員総出で一種軍装のプレスに励んでいた。士官嬢たちは従兵嬢にアイロンをかけさせ、下級兵は前夜から寝押しをしたりあるいは従兵嬢の友人に頼んでこっそりアイロンをかけてもらったりと工夫に余念がない。

それと言うのも「いよいよ○日、野村副長がこの艦からお嫁入りなさる。ついては総員で艦上にてお見送りをしたいので一種軍装着用のこと」と言うお達し――それも藤村甲板士官からの――がひそかに出ていたからである。藤村少尉はこの素敵な思いつきを皆に広める前に梨賀艦長に許しを乞うていた。そして艦長から「それはいい、副長にも嫁入りの日のよい思い出になるでしょう。あなたにまかせます」とお墨付きを頂いていたのだ。

藤村少尉としては敬愛する野村副長の門出をどうにかして祝いたかった。それでお嫁入りの話を聞いた時から頭を絞って考えて「そうだ、まるで長官登舷礼のように艦の総員でお見送りしたらどうだろうか」と考えついたのだ。

それを知った一般将兵嬢から高級士官まで「いいこと考えたね。副長あっての『大和』だからその副長のめでたい門出を皆で送るのは当然だ。よし皆、しっかりやろうぜ」と言うことになったわけである。当然、マツコとトメキチも仲間入りで、マツコも士官の一種軍装で、トメキチは水兵の一種軍装を着て見送りに列に加わることとなった。

航海科の兵員居住区でふたりはそれぞれ松岡中尉・見張兵曹に「一度着て身体に合ってるかどうか確かめないと」と軍装を着せられている。トメキチは水兵服を着、帽子をかぶって可愛らしい。みていた石川水兵長が「かわゆいのう。トメキチは」と歓声を上げた。マツコは士官服の『袖なし』を着、軍帽をかぶってきりっとした目つきですっくと立って松岡中尉から「熱くなってるぞ鳥くん!まるで君は富士山だ」とよく解らない称賛を浴びてまんざらでもないらしい。

また、小さな子猫のニャマトは工作科の水木水兵長が作ってくれた小さな水兵服を岩井少尉と松本兵曹長があやしながら着せてみた。松本兵曹長が

「おお、かわゆい!岩井少尉、ニャマトによう似合うてますなあ」と感心し岩井少尉も「ほんまじゃ。可愛いものにはなにを着せてもよう似合うねえ」と嬉しそうである。ニャマトはふたりを見上げて「ニャ、ニャ、ニャ、ニャマト、ニャマト」と小さく声をあげている。そのニャマトの喉を、指先で優しく撫でながら岩井少尉は「明日は副長のご結婚の日じゃけえ、おとなしいにせんといけんよ」と諭した。ニャマトは「ニャ!」と言って気持ちよさそうにその眼を細めた。

 

その晩は梨賀艦長の肝煎りで副長の「挙式前夜の宴」が各科長が集まって行われた。艦長室に幹部連中が集まり、艦長が乾杯の音頭を取る。

盃をあげ「ここに野村中佐の末長い幸せをお祝いします…乾杯」と言うと皆が「乾杯」と唱和。副長は皆に頭を下げてから盃を干した。科長たちの間から拍手が起き、「おめでとうございます中佐」「良かったねえ野村さん」と声がかけられる。それに一つ一つ応えながら副長はほんのり心のうちが温かくなるのを覚えていた。副長は立ち上がると

「このたびは私事で皆さんにたいへんご迷惑をかけることになりました、心よりお詫び申し上げるとともに御礼申し上げます。三週間と言う長きにわたり艦を留守にしますがどうぞその間よろしく願います」

と挨拶して皆は又拍手。東京から戻ったばかりの日野原軍医長が副長の隣の席であれこれ新婚生活についてレクチャーするのを皆興味しんしんで聴いて、繁木航海長は「うーむ、結婚生活って言うのは奥が深いものですね。私はまだまだ入り口、これから大変になるんかなあ」とひとりごちた、その航海長と、副長を交互に見ながらに日野原軍医長は

「心配することなんかないですよ。どんなことでも自然に乗り越えて行ける、人ってそんなものです。ましてや我々は太平洋の大海原を乗り越えてきたじゃないですか。人生も航海みたいなものですからね、慢心さえしなきゃそれでいいと思いますよ」

と言い、副長は「そうなんですね。いいお話をありがとうございました」と言って微笑んだ。

一同の間にも微笑みが満ちた――

 

そんなころ山中大佐は明日の式に備えてのすべての点検を終えたところだった。兄夫婦に手伝ってもらいながら何とか終え、大佐は二階に上がった。ふたりの寝室にあてた部屋には寝台が二台くっつけて置かれている。この寝台は益川中佐が人づてに頼んでくれたもの、「艦内生活の長い人だから寝台の方がいいでしょう、それにこのほうがなにかと便利ですから」と言って。大佐はまだ布団を置いていない寝台の上にそっと腰を下ろした。そして(いよいよ明日の今頃は次ちゃんがここに――)と胸が高鳴る大佐である。

窓のカーテンをそっと開けて呉湾を見つめると、遠くに『大和』の艦影が月明かりにうっすらと見えた。

(次ちゃん――)

大佐は心の中で叫んでいた。

 

祝宴を終えた野村中佐はそっと甲板に出て山中大佐の家の方角を見つめ(大佐…いよいよ明日、私はあなたの元へまいります)とつぶやいた。

ふたりの見上げた視線は天空で絡み合った――

       (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・

明日の挙式を前にそれぞれの過ごし方がありました。

副長は艦長への複雑な思いがあるようですが、艦長自身にもありましたね。でも激しい思いを抑え込んだ艦長はさすがです。

さあ、いよいよ登舷礼のような見送りを受けて野村中佐お嫁に行きます!

 

「見上げてごらん夜の星を」坂本九 懐かしいなあ、九ちゃん。


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● COMMENT ●

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
艦内のそれぞれが副長の新しい門出を祝おうとそれぞれの位置で出来ることをしています。
狭い艦内で一緒に生活の仲間だからこその連帯感とでもいいましょうか。

式の前日…私は両親とドイツ料理の店で乾杯したのを覚えています。あの時の父親のちょっとさみしげな顔を今も鮮明に覚えています。
その父も居なくなってしまいました。
父はあの時どんな感情を持ったのか、聞いてみたかったですね^^。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
副長の親や大佐の兄夫婦も勢ぞろいしていよいよ挙式の時を待つだけになりました。
艦内での祝宴も終わり…いよいよ大佐の元へとつぐ日が来ます!

さあ、次回は『大和』からお嫁入りします!!お楽しみに。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
愛って不思議なものですよね。
好き・愛しているというのと結婚したいは別物なのでしょうか。たぶんそうなんだと思います!自分のことを思い出そうとしてももう遠い彼方の話なのでよくわかりません(^_^;)。
でも相手によって違うというのはやはり・・・ありだと思いますね。
本当に不思議な感情ですね。

さあ、いよいよ結婚式に突入ですよ^^。

おじゃまします

こんにちは

いよいよですねえ。
お見送りの準備を進める人たちもあり、
部屋を訪問して言葉をかける人もあり、
新婚生活のレクチャーをする人もあり、
副長のためにと、みんなが思い思いの形で送り出そうとしていて、
良い緊張感と優しい空気が漂っていますね。

式の前日かあ・・・どうだったっけかなあ・・・。
緊張していたことしか覚えてないですけど、
嫁ぐ側にはいろいろな思いがあったのでしょうねえ。
今度、ちゃんと聞いてみようかな。(笑)

こんばんは♪

見張り員さん    こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
野村副長のご両親も呉に到着されて山中大佐
のお兄さんご夫婦も野村副長のご両親と会わ
れて野村副長も安心して祝宴を終えた野村
副長はいよいよ山中大佐の元に嫁がれるん
ですね。
山中大佐も明日の結婚式で野村副長を待って
いた大事な日になりますね。

こんにちは。
いよいよですねぇ。昔見た舞台で「○○さんのことは好きだし愛してもいる。でも私が結婚したいと思ったのは貴方だけ」というセリフがありました。なんだろ~人の気持ちは不思議ですな~好きとか愛しているの気持ちはそれを向ける人により濃度が違うというか種類が違う気がします~布地の織りが違うみたいな感じなのかな、包まれた時のあたたかさが違うというか~なんだかわかりませんが(笑)皆さまの幸せを祈ります!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!

書いている自分もなにか実際の結婚式に臨むような気がしていますw。いよいよ副長の結婚式です。
艦長もつらいところではありましたが堪えてくれました。

男性にとってはドキドキものの初夜がもうすぐです!心の準備をなさってお待ちくださいませ!

いよいよ明日になりましたね。なんだかこちらも様々な皆さんの様々な思いが乗り移ったような思いです。そこに立って俯瞰しているような思いでもあります。
艦長との一線を保たなきゃならなくなるのも辛いことですが、ツッチーの将来を考えて見送ってくれる艦長の深い愛情もまた素晴らしいことかと。
ワクワクドキドキするのは男の方というのはいつの時代も変わりがないみたいですね。
さて明日。見張り員さんの腕の見せ所。楽しみに待っています。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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