「女だらけの戦艦大和」・結婚ものがたり2~彼の家

 「さあ、ようこそ我が家へ」そういって山中大佐は玄関のドアを開いた――

 

「遠慮しないでどうぞ。もうあなたの家も同然ですから」

そういって山中大佐はそっと野村中佐の背を押した。野村中佐は「では、お邪魔いたします」というと玄関のたたきに足を踏み入れた。山中大佐はこの家で一人で暮らしていると聞いたがなかなかきれいに整理整頓が行きとどいている。さすが海軍軍人である。彼ら彼女らは兵学校・海兵団の別なく整理整頓をやかましく言われるので普段の生活にもそれが現れる。まあ、例外もいたが。

山中大佐は「さあ、あがって…」と中佐の手をとり上がりかまちに先に上がると中佐を抱くようにしてあがらせる。野村中佐がきちんと靴をそろえるのを待って、「さあ、こちらへ」と大佐は彼女の手を取って家の中を案内する。

一階は和風に作ってあり大佐自慢の大広間がある。そしてほかには台所や風呂場、小さな部屋がいくつかある。中佐が感心していると、山中大佐は「そしてこっち、階段を上がります」と言って奥の階段を上がる。中佐もしたがって上がってゆくと今度は洋風に作られた部屋が三部屋。その二つには特に家具もなく「ここは将来子供たちの部屋にしてもいいと思いますよ」と大佐はいい、中佐はほんのり頬を赤く染める。

そして「さ、ここが私の一番好きな部屋です」と言ってドアを開ければベランダに出られる大きなガラスのドアのある明るい部屋。正面に呉湾が一望できる。

「なんて素敵なんでしょう」

野村中佐は思わず歓声をあげて窓に寄った。山中大佐は微笑みながらドアのかぎをはずすとドアを開いた。春の暖かい風が吹き込んできた。大佐は、両親が残してくれたこの土地と家に感謝しているといい、家自体は経年の劣化が目立ったので両親の死後、建て替えたと説明した。

大佐は「そうだ、ベランダに出ましょうよ」と言ってつっかけを貸してくれた。自分も下駄を引っかけてベランダに出ると、手すりに両手をかけ景色に見入っている中佐の隣に立った。そっとその横顔を見つめる大佐の心のうちはもう、(ああ、たまらない…つぐチャンを抱きしめたい、接吻したい、…したい…)であふれ返っている。

と中佐が「あ、『大和』が見えます!」と声を上げた。山中大佐が見やると、中佐の指差した先に『大和』がその身を浮かべているのが見える。他の艦艇が本当にちっぽけに見える中でひときわその存在感を見せつける『大和』。大佐は

(私の嫁さんになるこの人はあの弩級艦、全海軍期待のあの艦の副長なんだぞ!)

と大声で自慢したい気分にもなっている。するとますます、(彼女を…)という欲望が湧きあがってきた。大佐は野村中佐の背後に立った。いきなり後ろから抱き締めて…と考えたのだ。いざわが手を彼女の肩に掛け、と思ったその刹那中佐が「あの!」と言って振り向いた。

山中大佐はあわててしまいさらにばつの悪さを隠すため自分でも予期しないほどの恐い顔になってしまった。すると中佐の綺麗な顔が曇った。

「あの…山中大佐。私何かいけないこといたしました?」

おずおずと尋ねる中佐に、山中大佐は大いにあわてて「いやいやいや!!そんなことないですよ!私はただあなたに見とれていただけで…」と弁解した。中佐は「そうですか」とだけ言って黙りこんでしまった。大佐は気分を盛り上げるように声を励まして

「そうだつぐチャン。式や披露宴のこと、もっと詰めて話をしないといけなかったんじゃないですか?さあ、ちょっと下に行って話をしましょう!」

と中佐を下の部屋へと連れてゆく。

大広間になっている部屋の隣に六畳ほどの和室がありそこの座卓を使ってふたりは式や披露宴の打ち合わせを始めた。大佐は「料理やなにかはすべて私に任せて下さい。そして私の方の招待人数はこのくらいです。つぐチャンのほうはどのくらいです?――ああ、それなら十分ここで間に合いますね、で、つぐチャンん着付けやなにかは心当たりはありますか?」と言って中佐に話を聞いては手元のノートに書き込む。

野村中佐は

「それは大丈夫です。うちの運用科長の知り合いに頼むことにしてあります。それで――当日のことなんですが」

と言って恥ずかしげにうつむきつつも中佐には一世一代の大きな願望があり、いよいよそれを実行できる時が来たのだ、と説明を始める。

野村中佐は「私その日は『大和』からあなたの元へお嫁に行きたいのです。『大和』で花嫁姿になって、そして内火艇で上陸してそしてここに来たいのです」と熱っぽく語った。それが長年の夢だったと中佐は夢見る瞳で語り続ける。

が。山中大佐は別のことが気になって話に集中できにくくなっていた。(つぐチャンをこの場で!)と言う想いにすっかり支配され、あろうことか彼の<男性>が熱くなり始めてしまい、それをこらえるのに膝をぐっと掴んで歯を食いしばっている。自然、表情はたいへん怖いものになる。

中佐はふと、話をやめ大佐の顔を真正面から見つめた。大佐はしばらくしてはっと我に返った、みれば愛しいつぐチャンが深い憂いを含んだ瞳でこちらを見つめているではないか。

「山中大佐。――私、帰ります」

やおらそういうと中佐はその場で頭を下げると立ち上がった。そして玄関へと小走りに向かう、そのあとをあわてて大佐は足音も高く追いかける。「待って、待って下さいつぐチャン!!

野村中佐は嗚咽を漏らしながら玄関に走り、手を伸ばして壁の帽子掛けの軍帽をつかもうとした。その時、

後ろから左の手をグイッとつかまれ、引っ張られた。そのまま先ほどの部屋に連れ戻された。

「痛い!――離して下さい、私、わたし帰ります。あなたは私の話をちっとも聞いて下さらない!あなたの心の中には誰が住んでいるのですか?私ではないのでしょう?ならどうして私と結婚なんて…!私は誰かほかの人の()用品(わり)なんですか?」

泣きながら叫んだ。涙の粒がいくつも一種軍装の紺の胸を走り降り濡らした。

と、山中大佐はガッと中佐を抱きしめた。そして「ごめんね、ごめんねつぐチャン!でもこれは信じて欲しい、私の心の中には今も昔もつぐチャンしか住んでいないんだ。ほかの人と結婚なんて私は考えたことはないよ。それにつぐチャンはこの家にはじめて呼んだ女性なんだ」と言ってさらにグッと抱きしめる。「うそ…だって大佐はとても怖い御顔で私を見てた。本当は私との結婚はお気が進まないのでしょう」

中佐は抱きしめられながらもそう言って反論した。そして大佐の胸を両手で押して離れようと必死だ。

「ちがうんです!!

大佐は中佐を一旦自分の胸から離すとそう怒鳴るように言った。中佐は涙を流したまま山中大佐を見つめる。大佐は野村中佐の腕をつかんでその瞳を見つめつつ

「ちがうんです、聞いてください!私はあなたが大好きなんです。あなたのいない生活なんか考えられない、そして大好きだから、愛しいから、大切だから…あなたに接吻(キス)したいのです。あなたを――抱きたいのです!たまらないのです!

と激しい口調で言った。そしていきなり中佐に足払いをかけて畳の上に倒すとその身体の上に重なって中佐の唇を奪った。

野村次子、初めての口づけ…。

山中大佐はもう止まらない、唇を離すと荒っぽく彼女にまたがりその軍装の前を開け始めた。襦袢の前が広げられ大佐の指先が肌着の中にもぐり込んだ。すると。

引き裂くような、悲鳴にも似た泣き声が上がった。大佐はさすがに驚いて身体を少し離して中佐を見た。野村中佐は「お願い、やめて下さい。私、私今はこんなことしたくはないんです。あなたが大好きだけど今は…」と言うとさらに泣き続けた。

大佐は、野村中佐からそっと離れるとその横に座った。そして静かに彼女を見つめている。中佐は仰向けのまま両手を顔に当てて泣いている。しばらく泣くに任せていた大佐は彼女を優しく抱き起こすと、自分が開けた軍装の前をそっとかきあわせてやった。そして今度は自分の胸に抱き寄せた。そうしているうち、野村中佐も落ち着いて来たようで、大佐の胸にそっと手を当てながら泣きやんだ。

「山中大佐、」と中佐は言った。大佐は返事の代わりにそっと中佐の瞳を覗き込む、すると中佐は

「ごめんなさい。大人げなかったですね、私。馬鹿ですよね、大佐のお心うちを斟酌できないで一人で勝手に怒ってしまって。男のかたの女に対するお気持ちがどんなものなのか私には解らなかったのです、でも今わかりました。それでも大佐、女の気持ちもわかってください。<初夜(そのとき)>まで待っていただきたいという気持ちが女にはあるのです。それに私…実は男の人のおうちをお訪ねするの、初めてなんです。それで本当は少し怖くて…。大好きな、<しん兄さん>のおうちなのに、おかしいですよね、警戒するなんて…私の方こそどうかしてる」

と言ってその瞳が再び潤み始めた。大佐の胸にあてられていた中佐の手が、大佐の紺の軍装をそっとつかんだ。その手を大佐はつかむと「よくわかりました、ありがとうお話してくれて。私もバカです、あなたのお気持ちも汲もうとしないで自分だけの思いであなたをどうこうしようとするなんて。本当に、ごめんね」

そう言うと今度は本当に優しく、大佐は<つぐチャン>に接吻したのだった。

 

その晩、野村中佐は山中大佐の家に宿泊した。中佐を二階に泊らせ自分は階下の六畳間で眠った。大佐は心が通じ合った安ど感から、ほっとしてよい眠りに就くことができ、中佐は結婚式までのあれこれに心悩ましながら、自分不在の『大和』は大丈夫かなどと思いつつ眠りについた。

ふたりが一緒の部屋で眠れる日まであと少し――

    (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・

危なかった!!

山中大佐、急いては事をし損じるということわざを身を以て体感したんじゃないかしら?女と男ではこういうところで大きな差異が生じるものなのですよ。

そして女は相手のちょっとした表情などから大きな不安を感じてしまうものなのです。

まあお互いいい勉強になったのではないでしょうか。

さて、次回はどうなりますかお楽しみに^^。

 

河合奈保子「インビテーション」。


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Comments 6

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見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
言葉って大事なだあと思いますね。しっかり言葉にすれば解り合えるのに、それをしないばかりに仲たがいしてしまったり別れることになったり。

山中大佐と野村副長、これできっと今までより深く信じあい愛し合えるようになることでしょう^^!

2014/11/10 (Mon) 20:55 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
オスカー  

おはようございます。
お互いきちんと言葉にして確認しないとわからないことってありますよね。これがきっかけになりますますふたりの絆が深まりますように!!

2014/11/10 (Mon) 08:13 | EDIT | REPLY |   
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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
男性の心と体はそのまんま直結状態だと聞かされた、乙女だったむかしを思い出しつつ書きましたw。
最近は子供を先に作ってから結婚、結婚式に新郎新婦プラス赤ちゃんと言うのも見かけます(義妹の息子がそれでした(-_-;))。
古い女と思われても私は自分の娘には段階をおってくれと言ってあります。まあどうなりますか??

ともあれスッタモンダのあったふたりもわかりあえたようで何より。あとは式の日を待つだけです。
『大和』からの嫁入りシーンは随分前から温めていたものです。どうぞお楽しみに^^!

2014/11/09 (Sun) 21:34 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
男性はソッチの事をけっこう考えてもんもんとする時期があると聞いております(-_-;)…しかしそれが清浄な男性なら致し方がないことです。
が。
山中大佐ちいとやり過ぎですね。
でもこんなことが年を重ねてゆくうちにいい思い出になるのでしょう^^。

そうです大佐には中佐の夢をしっかり本物にする義務があるのだ~~!しっかりせえよw。

2014/11/09 (Sun) 21:29 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  

男心と正直なカラダの反応。いやぁ、まさに焦って焦って何が何だか訳の分からないままの大昔を思い出しました。順を踏むことの大切さって貴重なんだなと改めて思いました。ひとつの儀式ですもんね。
行き違っても修正できるからこそ絆や愛が深まるものですね。お互いに理解し合えて本当に良かった!!
花嫁道中は大和からですか!! なんて美しい光景になるんだろうかと今から楽しみです。きっとその日は大和全員の心からの祝福の晴れ舞台になることでしょうね。

2014/11/09 (Sun) 20:59 | EDIT | REPLY |   
はづち  
おじゃまします

こんにちは

いやはや、まったく、男ってやつは・・・(^_^;)
まあ、悶々とそっちのことばかり考えていた時期が、
今となっては懐かしい気もしますが、
それで女性に「足払い」を喰らわすとは、
さすがにやりすぎというか焦りすぎというか。
でも、こういう男女の心情の差異が、
人生をややこしくも面白いものにしてくれるんでしょうね。
山中大佐には、ちょっと前のめりすぎた反省として、
野村中佐の長年の夢をしっかりと実現してあげて欲しいものです。

2014/11/09 (Sun) 18:35 | EDIT | REPLY |   

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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)