「女だらけの戦艦大和」・大志を抱け4

 キリノは巡洋艦の中でも勉強を欠かさなかった――

 

巡洋艦に乗り込んだその晩も、キリノは日野原軍医長が作ってくれたワークブックを広げていた。村上軍医長が「そんなに根を詰めたら具合が悪くなってしまうよ、今朝はずいぶん朝早かったらしいじゃないの。今日はもう寝なさい」と心配して声をかけた。

キリノは顔を上げて村上軍医長を見つめた、軍医長の瞳はキリノを気遣う色にあふれている。キリノは微笑むとそっとワークブックを閉じた、そして

「ソウシマス村上軍医長サン。ホントヲイウト私、昨夜ほとんどネムレナカッタネ。だから今、トッテモ眠いんです」

と言って笑った。軍医長も声を立てて笑うと「そうだろうと思ったよ、こんな大旅行の前に平気で寝られはしないものね。さあ、寝ようじゃないか。キリノは上か下かどっちが良いかな」と言って二段になったベッドを指差した。キリノは「グンイチョウサン上にどうぞ、私は下でイイデス」といい、二人はそれぞれベッドにもぐりこむとすぐに寝息をたてはじめたのだった。

 

その頃内地・呉碇泊中の『大和』では日野原軍医長が実家の「聖蘆花病院」に居る夫や息子たちへの連絡を取り終えほっと一息ついたところだった。

軍医長は、夫にキリノの部屋の手配から着る物など生活用品の手配すべて任せていてそれすべて整ったと夫は言った。

「あなた、ありがとうございました。今回はたいへんな御厄介かけてしまって申し訳ありませんでした。キリノももうすぐこちらに着くことでしょう、会う日を楽しみにしていて下さいね。あなたもきっと気に入る女の子ですよ」

軍医長は電話を介してそう夫に告げた。電話の向こうで夫は

「そんな厄介なものではないよ。大丈夫大丈夫、私も楽しみながら用意させてもらったよ。で、その子の部屋だが病院の最上階にしたよ。――、そう我々の住まいの隣に空いてる部屋があっただろう、日当たりのいい。どうだろう」

と言った。軍医長は「なにからなにまですみません。その部屋ならいいと思います、明るいし風の通りは良いし若い子が住まいするにはいい部屋ですよ。ありがとうございます!」と夫の心遣いに感謝した。

夫は「昭吾も楽しみにしているよ。どんな子が来るかって今からそわそわしてるよ」と息子の様子に触れてくすくす笑った。軍医長も「まあ、昭吾ったら」と笑いしばらくとりとめのない話をした後「それではまた後日」と電話を切った。

受話器を置いた軍医長は何か胸の奥がほかほかと温かくなるのを感じつつ、電話室から出て医務室へと歩き始めたのだった。

 

途中、藤村甲板士官を連れた野村副長に出くわし、副長は

「軍医長、近々トレーラーから優秀な女の子が来るそうじゃないですか。ぜひ私たちにも紹介してくださいよ。東京に連れて行ってしまう前にぜひ願います」

と言って興味しんしんのようだ。軍医長は微笑んで「わかりました」と答えた。すると副長はちらりと周囲を見回した後軍医長にそっと身を寄せて

「あの、日野原軍医長。気の早い話で恐縮ですが…軍医長はいつ東京からお戻りになりますか」

とそっと尋ねた。軍医長は「そうですねえ、向こうには一週間から十日ほど滞在する予定ですが、なにか?」と尋ね返す。すると副長の頬がふうっと赤く染まり「それならいいのです。いや、その…来月の半ばに出ていただきたい集まり(・・・)がありますので」というと一礼して藤村少尉を促すとなにやら恥ずかしげに歩き去ってしまった。

しばらくぽかんとしてその後ろ姿を見送っていた軍医長だったがやがて「ああ!そうか。野村副長とうとう決まったんだね!」というと嬉しげに微笑みながら又歩き出した。

 

キリノ達を乗せた巡洋艦は一週間の航海を経ていよいよ日本へ到着した。最初は九州の陸地が見え、キリノは「あれが日本の九州だよ」と教えられると目を輝かせて手を胸の前で組んだ。艦は豊後水道から瀬戸内海に入りやがて呉へ――

艦内の医務室で医務科の兵隊嬢たちのてきぱきした動きを見学していたキリノはいよいよ目指すところに来たのをその動きで感じ取った。皆の邪魔にならないように甲板上に上がっていたキリノに村上軍医長が

「おお、ここにいたのかね。ほら、見て御覧。あれが『大和』だよ」

と指差したところに――

『大和』がその巨躯を浮かべているのが見えた。キリノはハッと息をのんで「あれが――「ヤマト」。トレーラーでミタトキよりずっとオオキイ!素敵なフネ。村上軍医長サン、アノオオキナ艦にヒノハラさんが?」と言った。驚きのあまりその可愛い唇を少しだけ開けて『大和』に見入っているのが村上軍医長には可愛くてたまらない。

 

そして二人はいよいよ『大和』へ乗り込むことになった――

     (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・

キリノ初めての日本です。『大和』では日野原軍医長が待っています。さあ、どうなりますか!

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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