2017-10

「女だらけの戦艦大和」・ライバル出現5 - 2014.09.24 Wed

 松岡中尉は工作科の作業室で狂喜の雄たけびを上げていた――

 

そして松岡中尉は工作科の一等兵曹に抱きつき「ありがとう、ありがとう!あなたも熱くなっていていいですね!最高ですよ、私はもうこれ以上ないほど燃えて熱くなっていますよ、これというのもあなたのおかげ、あなたが尻の穴を締めて頑張ってくれたおかげです。ですから私は明日の決闘に何が何でも勝たねばなりません、事もあろうに私に宣戦布告して来た小憎らしい少尉候補生をぶったおさないといけませんね!そうですよ、二度と先輩に生意気な口がきけないようにしてやらないとね!明日の勝利はあなたに捧げますよ!――というわけで本当にありがとう、私はこれにて失礼、また明日ね。ごきげんよう」と早口で言うと作業室から走り去っていった。

その場に残された一等兵曹はしばしの間ぽかんとしていたがやがて我に帰ると

「ひゃあ、えらいこっちゃ。うちはそげえな相手をぶったおせ言うようなつもりで作ったんと違うのにのう。なにかあったらこりゃうちまでお咎めを受けそうじゃわあ。そげえな物騒な勝利を捧げられてもうちも困るわあ…ほいでも松岡中尉はどうして少尉候補生をぶったおさにゃいけんのじゃろうか?」

と腕を組んで考え込む。彼女はまだ、『海軍きゃんきゃん』を読んでいなかったから知らなかったのだ。それを聞きつけた仲間の工作科の青木一等兵曹が

「なんじゃ、知らんのね。これじゃこれじゃ、見てみい」

と差し出した『海きゃん』を読んだ一等兵曹、「なんねこりゃ、ちいとも宣戦布告なんぞしとりゃあせんやないね?大体が松岡中尉の名前なんぞこれっぽっちも出てこん。はああの人の頭の中はどがいになっとるんじゃ?うちはもう頭がおかしゅうなりそうじゃ」と言って悲劇的な表情で仲間を見つめた。

青木兵曹は「なあ、ちいとも理解できんじゃろ?貴様も妙なお人の片棒担がされて難儀じゃな」と言って気の毒そうな表情を浮かべたのだった。

 

ともあれその晩も更けて、とうとう<親善試合>の朝はやってきた。この日の呉湾は朝から綺麗に晴れて風も穏やか、絶好のテニス日和である。第一艦橋から見える「凡鷹」甲板上にはテニスコートを模した白線が引かれ、見物者用の天幕も張られている。この天幕の下に入るのは『大和』艦長以下の幹部数名と、呉碇泊中の艦艇の幹部の都合のつく者たち、そして「凡鷹」艦長以下の幹部。それに『海軍きゃんきゃん』編集局の人間。

錦古里候補生の仲間たちやほかの見物の将兵たちはコートの周辺で座り見立ち見。

「凡鷹」の甲板に上がってきた錦古里候補生や仲間たちは「ドキドキするわね」とか「『大和』の艦長ってどんな方かしら」とか「大勢の艦艇の幹部の方たちがいらっしゃるようですわ、緊張しますわね」などと小声で話している。

背の高い大松少尉候補生が

「大きな戦艦に乗り組みのお姉さま方。それに下士官や兵のお姉さま方ってどんな感じなのかしら。早くお会いしたいわね」

と言って『大和』を見つめた。錦古里候補生が

「そうね…きっと大きな戦艦に載られている方たちだから御立派な方ばかりよ。そういえば兵学校の教官に言われましたよね、『下士官・兵たちはお前たちのように兵学校に経済的な事情などで行けなかったが海軍での勤務も長く技量は一人前以上である。決して馬鹿にしてはいけない』って。私達よりずっと長く海軍で頑張っていらした方を馬鹿になんてできないわ。みんな、下士官や兵の方々にもきちんと御挨拶いたしましょうね」

と皆に進言、皆は神妙な面持ちでうなずいたのだった。

 

そして一〇〇〇(ひとまるまるまる、午前十時)。

『大和』から内火艇とランチがやってきて「凡鷹」に接舷、十数名ほどの士官連中が舷梯を上がってきた。錦古里候補生たちはそっと背を伸ばして「どの方がその中尉さんなのかしら?」とそっと見やるが誰だかよくわからない。やがて『大和』の士官たち、呉碇泊中の艦艇の幹部や「凡鷹」の幹部たちがそろったところで「凡鷹」の艦長があいさつに立ちあがった。

短めにあいさつを切り上げた艦長、パラパラと拍手が起きた。そのあと『大和』の福島主計大尉が審判として紹介された。しかし今回はあくまで、あくまで親善試合なので厳密な審判は特にせず、反則行為を見張るようだ。

福島大尉は凛と通る声で

「錦古里ケイ少尉候補生、コートへ!」

と言って錦古里候補生がコートへと進み出た。胸にはしっかり愛用のラケットを抱いて。その姿があまりにも初々しく『大和』の梨賀艦長に野村副長、それに森上参謀長はいたく感動した。梨賀艦長は顔を動かさずとなりの副長にそっと

「なんと初々しい。我々もあんなころがあったんだよね…懐かしいね。しかし松岡中尉は一体どう出るつもりなんだろうか、心配だね」

と囁いた。副長も前を見つめたままで「はい。私も兵学校当時をちょっと思い出していました。松岡中尉、候補生をぶったおすと言ってるらしいですから私も大変心配です。何事もなきゃいいんですが」と答える。

すると、候補生たちの席からどよめきが起きた。見ればコートの中央にマントをまとった松岡中尉が歩いてきたのだった。候補生たちは「見てみて、あれが噂の中尉のお姉さまよ!さすがねえ、出方からして素敵よねえ」と両手を胸の前に組んでうっとりしている。錦古里候補生もその姿を見つめて小さく口をあけるようにして中尉の姿に見とれている。

――と!

松岡中尉はやおらマントをばさーッと脱ぎ捨てた。すると見物の総員から「おお、あれは!」と声が出た。

松岡中尉は、白いシャツに白い短パン。そして白い帽子をかぶるとかっこよくラケットを構えている。その白いシャツの胸にはローマ字で「MIZUNO」と書かれている。そしてその左の袖には赤い文字で「KOUKAIKA」(航海科)と書かれている。

これこそ松岡中尉が工作科作業室で狂喜の叫びを上げたそのもので、彼女はこの決闘(親善試合)が決まってから工作科の水野一等兵曹に「あなたは仕立てが大の得意と聞きましたよ、熱いですねえ!でちょっとお願いがあるんですが」と言ってテニスウエアを作らせたのだった。そして「シャツの胸部分にはあなたの名字をローマ字で入れて欲しいんです。え?松岡と書いた方がいいって?ちがうちがう、それじゃあだめだ!こういうものには作った人の名前を入れるものなんです!ですからここにはあなたの名字をずば―ッと入れてね。それからこっちの袖には私の所属「航海科」をローマ字でかっこよく入れてちょうだいな、これ修子のお願い!」と言って無理やり作らせたというのが真相。

出来上がった時中尉は「ギャーーッ!」とものすごい叫びをあげ、水野一等兵曹は死ぬほど驚いてその場に腰を抜かした。中尉は喜んでいたのだ。そしてそのあと、冒頭に記した言葉を言って感謝の意を水野兵曹に示したというわけである。

ともかく、松岡中尉は新しいお気に入りのウエアを皆によく見えるようにあれこれポーズをつけている。そして突然、持っていたラケットで錦古里候補生を指すとそれはそれは大きな声で

「ようこそ少尉候補生くん!君はなんだね、随分テニスが上手だそうじゃないか。よりによって『海軍きゃんきゃん』に出てテニスの女王だとか豪語して兵学校の大先輩である私を愚弄したね?熱くなっていて大いに結構、だが私は収まらなーいッ!てな訳で今日はここで決着をつけましょう、あなたが女王かそれとも私が本当の女王か。あなたが負けたら土下座して謝りなさい!いいですね、卑怯な真似はしっこなしですよ!」

と怒鳴ったのだ。『海きゃん』編集局の片野中尉は腰が抜けるほど驚いた。そして「そんな、まさか!これでは決闘じゃないか、我々はこの二人を決闘させようなんて意思はないぞ、二人を対談させたらいいと思ってそう手紙を書いたのに、それをあの人…どうしよう、こんなことになるなんて」と泣きべそをかいている。

そう、松岡中尉は『海きゃん』からの手紙に合った<対談>を対決と読み違ってしまったのだ。錦古里候補生は「軽く試合形式をとりながらそのあと対談」と思っていたからこれも驚愕している。

ラケットを抱えたまま「そんな…お姉さま、私はそんな大それたことを考えたことございませんわ。先輩のお姉さまを敵に回すようなこと、いたしませんわ」と呆然としている。

が、松岡中尉のテンションは上がるところまで上がり、

「それじゃああなた、にこごり君!行くぞ!」

というなりボールを高く投げあげ、それを思いっきりラケットでひっぱたいた。ボールは真っ赤に燃えながら錦古里候補生の足元にその身を叩きつけるとその後ろの士官見物席に飛び込み、森上参謀長の右足を強打。ギャッ、と参謀長は叫んで椅子から転げ落ちた。野村副長があわてて「しっかり森上大佐」と引き起こした。

森上参謀長は助け起こされながら

「おい、まずいぞ。松岡中尉の奴本気になってる…止めろ、止めないと少尉候補生が危険だ!」

と叫び士官たちは総立ちになって松岡中尉のもとへ駆け寄ろうとした。すると松岡中尉はボールのたくさん入ったかごを引きよせて

「なんですかあなたたたたちは!」

と少しばかり「あなたたち」の「た」が多くなったが叫ぶとボールを次々取り出してはガンガン士官たちに打ち込んだ。

「あなたたたちは一体だれの味方ですかあ!私は長年海軍に奉職して来たつわもの、向かうところ敵なしの松岡海軍中尉だあ!海軍兵学校●●期の恩賜組ですよ!それをあなたたたち、昨日や今日兵学校を出てきたような若造の姉ちゃんと引き比べて私をおとしめようなんか百年いや、千年早いんだ!尻の穴を締めろ!さあかかってきなさいにこごり君!」

そうわめきながら。

士官たちは松岡が打ち込むボールを避けんと右往左往していたがハッと気がつけばそのボールを器用に打ち返す錦古里候補生の姿が目に入った。

「おお…あれを見て!」

いすのかげに隠れるようにしてボールを避けていた野村副長がコートを指差し叫んだ。皆は一斉にその指さす方を見つめた――

     (次回に続きます)

 

                 ・・・・・・・・・・・・・・・

なんだかしっちゃかめっちゃかの様相を呈していますが、野村副長は一体何を「見て!」と指差したのでしょう。熱いボール飛び交う「凡鷹」艦上からお伝えしましたw。

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● COMMENT ●

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
こちらこそありがとうございます^^。

松岡中尉の勘違いはけっこうひどいものがありますので周囲はたいへんです(^_^;)。錦古里候補生翻弄されそうですがどうなりますか!ご期待下さい。

ケイさんのお住まいのところから御嶽山遠望できるんですね!灰はふりませんか?体によくないのでお気をつけて下さいね。
それにしてもまだ取り残されている方がたくさんいらっしゃるようで気がかりです。無事を祈るばかりです。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
そうそう「エースをねらえ!」はたいへんなテニスブームをまき起こしましたよね!確かに中学でのテニス部任期は半端なかったですよねw。私はあんなに走りまわるのは疲れて嫌だし運動神経皆無なのでアウトオブ眼中でした(-_-;)でした。
さあこの後そうなりましょうか、ご期待下さいませ^^。

木曽御嶽山いきなりの噴火にびっくりしました。たしかあの山は気象庁が常時観測体制を敷いていると思いましたがあんなことになるとは。
山梨県甲府市にも降灰があったと聞きましたし、いまだ山頂に取り残されている登山客や行方不明の方が気の毒です。早く下山できますよう祈るばかりですね。

見張り員さん    こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
松岡中尉は錦古里候補生に何を勘違いしたか海きゃんの手紙
の対談を対決と読み違えてしまいボールを錦古里候補生の足
に打ってそれを打ち返している錦古里候補生は凄いですね。
野村副長は何をみて指差したか気になります。

今日こちらから御嶽山を見ましたら噴火と空の色がグレーで写真
を撮っても噴火と区別がつきませんでしたので写真は止めました。
被害者が増えて連絡がつかない方も多く見えて心配で今日は救助
は暗くなりましたからできないみたいですが山頂に近い所で布を振
っている方達がいましたので無事に救助して欲しいです。
連絡がつかない方達も救助されることを願いたいです。

おはようございます。
テニスといえばエースを狙え!ブームの時代、中学でテニス部に入る人がたくさんいました。あんなに走るなんてムリ!!
試合がどうなるのか、気になります!
話はかわりますが、御嶽山噴火に驚きました。風向きによっては山梨にも…行方不明の方など早く安全が確認されますようにと願います。

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
いきなり言われても困りますよね!強引に引きずり込まれたなんて、私なら死んだふりしちゃうかもですw。
私自身高校の体育の授業で軟式テニスをしただけです。ですが硬式テニス部の部員が数名クラスにいたので彼女たちのサーブを受けましたが、手加減しているとはいえやはり「すごい!」の一言でした。結構な球威。手首が折れたかと思いましたもん(泣)。

さあ、錦古里候補生と松岡中尉の熱戦はどうなりますでしょうか、ご期待下さいませ^^。

No title

以前テニスクラブのメンバー同士でダブルスの練習試合をしているのを見ていたら、1人足りないから入ってくれと頼まれたことがありました。できないですと断ったにも関わらず、強引にコートへ引きずり込まれました。

レシーブに立つとサーブの球速って早いんですよね。ラケットに当てるのが精いっぱい。打ち返すなんてできないですよ。
プロのサーブは250キロともいいますから、新幹線並みですよね。それをいとも簡単そうに打ち返すなんて、さすが錦古里候補生。連戦練磨だったのでしょうね。

錦古里候補生の打ち返す姿を見て、松岡中尉はますます燃え上がるんでしょうか。ちょっと厄介な展開になりそうですね。

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
とうとう阿鼻叫喚?の試合が始まりました――が、なんでも形から入るような松岡中尉、「MIZUNO」のロゴ入り?のシャツを作ってもらってこけおどしでしょうか。

さあそしてこのもうすでに親善試合とは完全に1000マイルも遠くなったこの試合の行方はどうなりますやら??ご期待下さいませ^^。

おじゃまします

こんにちは

ああ~ああ~ああ~
とうとう始まってしまいました・・・(;´Д`)

工作科で作ってもらったのは、
テニスウェアでしたか!しかも、「MIZUNO」!
そうきたか!(笑)
あなたたちの「た」が多くなるところといい、
たくさん笑わせていただきました。

錦古里候補生、戸惑いながらも打ち返しているようで、
これは「試合」の今後に期待ができそうですね。
すでに「親善」どころではないようですが・・・。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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