「女だらけの戦艦大和」・ライバル出現4

 某巡洋艦に座乗中の錦古里ケイ少尉候補生は、ほかの仲間たちと夢見る瞳でその日を待ちわびている――

 

自由時間や巡検後に皆で集まっては「大戦艦、しかも全海軍期待の大型艦『大和型』一番艦・大和の中尉の御姉さま。ああ、どんな方なのかしら、早くおめもじしたいわ」と語りあう。今度の親善試合にはこの巡洋艦の艦長の特別の思し召しで乗艦の少尉候補生たち皆、空母『凡鷹』へ行けることになった。巡洋艦の三原田艦長の「なんでも若いうちは体験だ!ぜひ行って、空母も見てその大戦艦の中尉の様子も見て今後に生かしなさい」という一言ですべてが決した。

錦古里少尉候補生たちは「さすが、艦長は話がお分かりになるわ!私たちも三原田艦長のような立派な人にならねばいけませんわ!」と感激。

菊地少尉候補生が「それはそうと錦古里さん、テニスの練習はしなくてよいの?」と尋ねると錦古里候補生はにっこりとほほ笑んで

「いいんです。だって今回親善試合ですもの。勝った負けたなんてどうでもいいことですわ。それより私は先輩の、大戦艦の中尉の御姉さまとお手合わせできるだけで幸せですわ」

と言った。皆も「そうね、それが一番だわ」と同意したのだった。

 

某巡洋艦で少尉候補生たちがしとやかに笑いさざめいているころ。

「全海軍期待の大型艦・大和」の前甲板では松岡中尉が決死の表情でラケットを振っている。びゅっ、びゅっとラケットが激しく風を切り、誰が見ても松岡中尉が本気以上に本気を出しているのが嫌でも解る。中尉の着ている借り物の事業服の背中には汗染みが広がっている。「勝つ!」という信念に支配されている中尉のそばにはなんぴとといえども近づきがたい雰囲気が漂っている。

その近づきがたい雰囲気のただなかに入っていったのは誰あろう野村副長、彼女は松岡中尉の背後に立つと彼女の動きにしばらく見入っていた。松岡中尉は呼吸一つ乱さずラケットを振る。

(松岡中尉、大したものではあるが熱くなりすぎては困るんだが)

副長はその場に腕を組んで考え込んでしまう。松岡中尉は今回の話が来た時から異常なまでに錦古里少尉候補生に闘志を燃やし、「絶対ぶったおす!いいですかテニスの女王は全海軍に一人、この私だけですっ!」と連日叫んでいるのだ。

野村副長や繁木航海長などが「だからね、中尉。別に錦古里少尉候補生が戦いを挑んで来たんじゃないんだから勘違いしないでよ?あくまで親善だからね、親善試合!解ったね、間違っても少尉候補生をぶったおしてはいけない!」と注意を与えても松岡中尉は

「副長も航海長も一体だれの味方なんでしょう?同じ艦に乗って一緒に激戦をくぐりぬけ、同じ釜の飯を食っている可愛い部下の中尉が候補生ずれに負けてもかまわないって言うんですか!?情けないですねえ副長も航海長も、もうあきらめてんじゃないのか!?あきらめたらそこまでだ、あきらめんなよ!尻の穴を締めて、今日から君も富士山だ―ッ!」

と言ってものすごい勢いでラケットを振り回すだけ。

その光景を思い出しやれやれ、とため息ついた副長は「中尉、松岡中尉」とその背中に声をかけた。しかし振り向かない中尉に、副長は大声で「マツオカ中尉!」と怒鳴った。咳が出て副長は口元に手を当てしばらく咳きこんだ。

やっと松岡中尉は振り返り「おや?」と言った。副長がなんとか咳を収めて松岡を見た。松岡中尉は

「副長でありましたか。しかし副長、大声を出して咳きこむなんていかにもお嬢様の所業ですねえ、兵学校でしごかれなかったんですかあ?あ、そうか副長のクラスはお嬢さんクラスですねきっと。だから大声を出すと咳が出ちゃうんでしょう。いいですか副長、大声出すときは喉からではなくて腹からこうやって」

といらぬお世話を焼いて副長は「いいから解ってるから!それより何度も言うが少尉候補生には優しく接してやりなさい。あなたの武骨な接し方でもしも候補生が海軍をやめたいなんか言いだしたら私も松岡中尉も何らかの責任を取らねばならん。いいね決して荒っぽくしてはいけない」と注意した。

と、松岡中尉は

「なんと。兵学校出え出えの若造、未だ海の物とも山のものともつかないような候補生と、この長年海軍に奉職して貢献してきた我々を理不尽な天秤に掛けるつもりなんですかねえ海軍は!あきらめてるな…。ダメだ駄目だ、そんなのどっちかと言われたら我々ベテランを取るにきまってるでしょうが!それでも若造くんを取りたいというなら副長、潔く二人で海軍を辞めましょう。――と言っても我々海軍軍人を職業としてきたものですからほかの職業になんていまさらつけませんね、せえぜえ誰かの奥さんにでもなるのがいいとこでしょう。そんなのつまらないだろう!?尻の穴をもっと締めろ!」

ととんでもないことを言い出し、副長は「…誰かの奥さんになるのもいいかもしれんじゃないか」とつぶやいたが次の瞬間声を励まして

「松岡中尉、わけのわからないことを言うな。ともあれあなたは私の言うとおり候補生に優しく接すればそれでいい。ゆめ忘れるな」

と言明した。松岡中尉はラケットを右肩にひっ担ぐと一礼し「ハイハイよくわかりました…よちよち候補生のお嬢ちゃん、よくいらっちゃいまちたねえ。お手手をひいてあげまちゅね、ここはすべってあぶないでちゅからねえ~~…てな感じでよろしいでしょうか!熱くなれよ!」と人を小馬鹿にしたような言い方をしてあっという間に走り去ってしまった。

取り残された副長、「あの女、人を小馬鹿にしやがってむかつくなあ!もう、腹が立つぅ!」とひとしきり悔しがったが不意に静まると「…奥さんか。奥さんにはなるけど海軍は辞めないよ」とひとりごちると、ウフフと笑いながらその場を去った。

 

そしていよいよその日は来た。

その日の朝まだき、「凡鷹」と駆逐艦二隻が霧のかかった呉港に入ってきた。巡洋艦からの少尉候補生たちは飛行甲板に整列して行く手を見つめている。結構濃い霧で空母は発光信号を出しながら微速前進。

柿沼候補生が「ねえ、『大和』はどこにいるの?」と尋ねるとその隣の吉川候補生が秀才然とした顔で「あの<島>の向こうにいるのよ。あの島の影にいるのよ」と行く手をそっと指した。吉川候補生が指差した先にはぼんやりと島影のようなものが見える。

高橋候補生が「早くみたいわ、どんなに大きいのかしら。島の後ろから出て来て見せてほしいわねえ」と感嘆し錦古里少尉候補生も静かにうなずいた。そこに「凡鷹」の川鍋艦長がやってきて

「おお、あなたたちもう起きてたの早いなあ。え?『大和』?あそこにいるじゃない、あれだよ」

と指さして教えてくれたのこそ「全海軍期待の大型艦・大和」――。

「え!?あれは<島>ではないのですか?」

吉川候補生がびっくりしたような声を上げた。霧越しにぼんやり見える島、それこそが「大和なんですね!」と一同は大興奮した。川鍋艦長は微笑みながら

「この霧が晴れたらよく見えるよ。まあもうちょっと待っておいで」

というと艦橋へと歩いて行った。候補生たちは霧のまだ晴れない海上を、固唾をのんで見守っている。

この日の霧はなかなか晴れず、皆が朝食をとり終わる頃やっと晴れた。候補生が食後のひと時をくつろいでいると見張り長の千脇少尉がやってきて

「皆、大和が見えるよ。飛行甲板に上がってご覧」

と教えてくれた。喜んで候補生たちは甲板に上がり千脇少尉に「ほらあれだよ」と指し示されたものを見て一様に声を失った。

大きい…あれが『大和』なのですね…

皆の間に声なき声が漏れた。島だと思っていたあの影は『大和』そのものだったのだ。錦古里候補生は「あれが、『大和』なんですね」とひとりごち、山田候補生が「聞きしに勝る大きさね。信じられないわ」とつぶやいた。

小河候補生が

「あんなに大きな艦が日本にあるなんて。日本は安泰ね、しかももう一隻あるのでしょう?」

と言って千脇見張り長を見た。千脇見張り長はそうだよとほほ笑むと

「君たちも知っているだろう、『武蔵』。巨大戦艦の双璧だ、その上に我々空母や巡洋艦、駆逐艦に潜水艦その他たくさんの艦艇がわが帝国海軍にはある。日々練磨を積めば、米英撃滅も遠くはないよ。君たちも頑張りなさい」

と候補生たちを励ました。候補生たちは整列すると一斉に「はいっ、頑張りますっ」と答えて千脇見張り長に敬礼した。

 

松岡中尉と錦古里少尉候補生の<親善試合>は翌日に行われることになった。「凡鷹」は『大和』に横付けするような形で碇泊、候補生ばかりか「凡鷹」乗組員さえ暇さえあると飛行甲板に上がって『大和』を見物している。

『大和』艦橋や防空指揮所では見張り員や信号兵嬢たちが「みんなこっちを見とるで。そげえに『大和』が珍しいかねえ。ほいでもなんや、こう背中がむずむずするような妙な気イするねえ」と言って笑っている。指揮所では見張兵曹があちこちきょろきょろしている。麻生分隊士が「オトメチャンどうしたんじゃね」と尋ねると見張兵曹は

「分隊士、松岡分隊長は甲板で練習しとらんですねえ。あん人のことじゃけえ『候補生たちに見せつけてやる』言うてこれ見よがしに練習しよるんでないかと思うたんですが、ちいとも姿が見えんですねえ」

と不思議そうに言った。麻生分隊士は

「もっともな意見じゃが、松岡分隊長もあれで考えとってらしいで。なんでも筋肉を鍛えんといけんいうてここのとこずっと下甲板のどこかでトレーニング言うんをしとりんさるんじゃそうな。はあどうでもええがあんまり問題起こさんで欲しいのう」

と言ってため息をそっとついた。見張兵曹も「ほうですねえ、分隊長熱くなるんはええんですがちいと方向がちごう気ぃがして、うちは時々ハラハラしていけんです」とこぼす。

その視線の先には、空母「凡鷹」がその小柄な体を呉湾に休めている。

 

その同じ時。

工作科の作業室では松岡中尉が狂喜の叫びをあげていた――

   (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・

候補生諸子は大いなる勘違いのまま呉へやってきたようです。さあ、錦古里候補生、松岡中尉はあなたの思うような人とは違うのですが――。

そして松岡はなぜ狂喜の叫びを上げたのでしょう?緊迫の次回をお楽しみに。

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Secre

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
お返事遅くなってごめんなさいね。

さあいよいよ因縁の?対決ですが何も知らない錦古里候補生は大変気の毒ですね。そしていったい何を叫んでいるのか松岡中尉。
次回目を離せませんよ~~w。

こちら東京も朝夕の寒暖差が大きいですね。寒暖差アレルギー、私も出ておるようです(-_-;)。
ケイさんもどうぞお健やかに^^!

鍵コメMさんへ

鍵コメさんこんばんは!
お返事遅くなってごめんなさい。

九段にいらしたのですね。私もご一緒したかったな^^と思いました。いつの日かぜひ。
いろいろお大変とは思いますが常に応援しています!あなたのそばにあり、です!

こちらこそいつもありがとうございます、Mさんの存在が私の励みです。

No title

見張り員さん     こんにちは♪

いつもありがとうございます♪
今回親善試合で大戦艦の中尉の御姉さまとお手合わせできるだけ幸せですわ
と言っている錦古里少尉候補生に闘志を燃やしている松岡中尉に親善試合は
解ったねと念をおされているのに松岡中尉はなぜ狂喜の叫びを上げているか
気になりますね。

こちらは昨日・今日と秋晴れで朝・夕は寒く昼間は暑く今朝から寒暖差アレルギー
でクシャミと鼻水が出ています。
見張り員さんも無理をなさらずに体調には気をつけください。

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鍵コメMさんへ

鍵コメMさんこんばんは!
少し気分が楽になてきました。時に涙が出る時もありますがその時はその時として頑張っていきますね!いつもご心配をありがとうございます。

そちらは楽しかったりお疲れになったりですが充実してらっしゃるようにお見受けいたしました。どうかお気をつけてお過ごしください、そしてこんな陽気ですから御身大切に!
なかなか本当の秋にはならないようですね、台風も心配です。ご無理なさいませんように^^。

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
等々、運命の日がきます(-_-;)…錦古里候補生は一体どうなってしまうのでしょうか。そして工作科の部屋でえたいのしれない歓喜の叫びをあげている松岡中尉は一体何をしたのでしょう。気になりますねえ~。ハンバーグ・・ではないと思いますがw、きっと何かを作ったのでしょうね奴のことですから。次回をお楽しみに^^。

だいぶ気持ちが楽になっては来ました。ダメなときは日々雑感で吐き出したいと思いますのでそのせつはどうぞよろしくです^^。

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

おじゃまします

こんにちは

ああ・・・とうとう到着してしまいましたか・・・。
逃げてー!錦古里候補生、逃げてー!!

松岡中尉が、なぜか狂喜の叫びを??
工作科の作業室で、何をしてたんだろう・・・。
もしやハンバーグを作っていた?(←そんなわけあるか!)


こらえきれない時は、また日々雑感で吐き出してくださいね。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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