2017-10

「女だらけの戦艦大和」・ライバル出現3 - 2014.09.13 Sat

 松岡中尉はその晩ずっと、第一砲塔の上で『海きゃん』掲載の<錦古里ケイ>少尉候補生に説教していた――

 

なにかあった時の為にそばについていたマツコとトメキチも、あまりのバカバカしさに匙を投げかけたが繁木航海長と山口通信長との堅い約束――しかも高級お菓子付き――を反故にすることは人道的にできないと思い、夜風を避けて砲塔内で彼女の一挙一動に神経をとがらせている。

そしてやっと翌朝になり起床ラッパが吹きならされると、マツコとトメキチに噛み殺されることなく済んだ松岡中尉がラケットを担いで第一艦橋に急いだ。朝はいつも彼女はここで「今日も一日熱くなれよ、今日から君も富士山だ」と叫んでから一日を始めるのだ。

今日も同じように叫んでから中尉は磁気羅針盤のそばに立つとオホンと咳払いをしてから

「に、に、にこごり候補生!君はテニスの女王ではないッ。女王はこの私だ。よーくわきまえたまえ」

というとその場を出て行った。相変わらず候補生の名前を覚えない松岡中尉ではある。マツコもトメキチも「あいつはだめね、覚えようって気がないんだもの。人間ああなっちゃおしまいよ」と嘆息つく。動物にあきれられる人間松岡修子、情けなくないのか?

ともあれ、その日もその翌日も何事も無く――いや、松岡中尉的にはいらつきが最高潮に達しつつあったが――過ぎて行った。航海科の訓練では松岡中尉が異常に盛り上がって麻生分隊士が「なんじゃ?普段は適当にやっとるくせに、自分の腹立ちごとがあるとそれにかこつけて一人で盛り上がりよる。ええ加減な人じゃ、松岡分隊長は」とこぼした。

それでもなんとか午前中の課業をこなし、その日も昼飯の時間になった。松岡中尉はあろうことか航海科の兵員食の飯をくすねて大きな握り飯を作って防空指揮所に上がってくるとそこにしゃがみこんで大口を開けてそれを食べた。食べながらも「にこごり少尉候補生。君は井の中の蛙だね。私という大きな壁が君の前に立ちはだかっているのを知らないなんて、なんて気の毒なんだ。いいでしょういいでしょう、そのうち君も思い知ることになるんだからね。私はその日まで熱くなって待っていますよ」などと独り言を言っている。そして「いいですかにこごり君!私は君をかのバルチック艦隊と思って決着つける日が来るまで研さんを積みますからね。そのつもりでいなさいよフフフフ」と薄気味悪い笑いをする。

さて航海科の居住区では、飯の缶を開けた食卓当番の亀井一水が

「なんねこりゃ!なんで飯のど真ん中がこげえにほげとってかね?」

とびっくりしている。それは松岡中尉が自分の握り飯の分をねん出した痕なのだがちょっと見ただけでも二人分いや、それ以上は掘りかえされている。亀井一水は

「いやじゃわあ…誰がこげえなことをしたんじゃろうか?まるでうちが飯をギンバイしたみとうじゃ。見張兵曹に殴られるんは嫌じゃなあ」

とブツブツ言っている。見張兵曹は見た目は大和乙女の手弱女だがしかし、帝国海軍軍人のはしくれであるからいざとなればそこらへんの男並みの力は出す。「あん人に殴られるとけっこう痛いで」とはかつて見張兵曹に殴られた経験のある酒井上水の弁。そこに件の見張兵曹がやってきて「食事の支度はまだか」という、そして亀井一水があわてて飯の缶を体で覆うような格好になると

「亀井一水なんでそげえな格好をするんね?」

と兵曹は見とがめた。そしてそのそばに行って亀井一水を押しのけて飯缶を覗き込んだ兵曹は「うわっ、なんねこりゃあ!誰がこげえに食ったんじゃ?亀井一水貴様か?」と大声を上げた。亀井一水は泡を食って「ちがいます、ちがいます!うちが持って来た時はもう、ここがほげとってです」と説明した。酒井上水も「ほんまです。嘘と違います」と証言した。見張兵曹は互いにかばい合っているのではないかと二人を疑惑のまなざしで見つめている。見張兵曹の右手が、艦内帽の廂にかかって少し上にあげる。――殴り飛ばす前の儀式のようなもの、と下級兵は知っているから身を固くした。

とそこに「特年兵君、水兵くんたちを叱っちゃあいけないよ」と声がかかりその方を見れば松岡中尉が立っていた。兵曹が少し肩をいからせて中尉の前に立ち「どういうことでしょうか分隊長」というと松岡中尉は

「その飯を食ったのは誰あろう」

「誰あろう?」と見張兵曹が問い返す。

「私だからです!!

松岡中尉の告白に見張兵曹は思いっきりがっくりきた。がっくりと来た表情のまま「分隊長、そげえなことどうかやめてつかあさい。うちはもうちいとで無実の部下に罪をかぶせるところでした。なんでそげえなこと…」と力なくつぶやいた。

すると松岡分隊長はラケットの頭の方をドン、と床に突いてから

「兵食の方が力が出るからです!いいですか特年兵君に水兵のお嬢さん達。私はいずれあのに、に、にこごり少尉候補生と決着をつけなきゃいけないんです。そんな大ごとを前に士官食なんか気取って食ってる場合じゃないだろ!熱くなれないじゃあないか!いいですか君たち、熱くなるってことは食べることからしなきゃいけないんだよ。尻の穴をきっちり締めて、あきらめんなよ!てな訳で私はあなたたちのご飯をほんの(・・・)ちょっと(・・・・)いただいたというわけです。あなたたちの尊敬してやまない海軍のベテラン分隊長が兵学校出え出えの若造に負けたら悔しいでしょう、泣きたいでしょう、死にたくなるでしょうが!!――というわけです、解ったらもう静かにしてご飯をおあがりなさい」

と解ったようでわからない話をして皆を強制的に納得させた。

見張兵曹たちが不満げな表情を隠さないそこへ「あ、分隊長。ここにいらしたですか」と麻生分隊士が走り込んできた。松岡中尉が

「おお、麻生さーん。どうしたのそんなにあわてて?」

というと麻生少尉は手にした封筒を分隊長に差し出して「分隊長、東京の『海軍きゃんきゃん』編集局からお手紙であります」と言った。「海軍きゃんきゃん」編集局と聞いてその場にいた皆が色めきたった。松岡分隊長は「『海きゃん』がこの私に一体何の用だというんだね」といいながら封を切り中の便箋を引っ張り出した。

皆が固唾をのんで見守る中、分隊長は静かに読んでいた――と、突如彼女は天井が裂けんばかりの大声を発し、皆はその場から三〇㌢ほど飛びあがって驚いた。

松岡分隊長は便箋を両手に持ってその手がぶるぶる震わしながら「キタ――――ッ!!」と叫んだのだった。

見張兵曹が麻生分隊士にしがみつきながら

「いったい何が来た(・・)んじゃろう?」

と分隊長を見つめている。麻生分隊士も突然のことに度肝を抜かれて体を震わしつつ「さ、さあなんじゃろう?」という。亀井や酒井たちもすっかり腰を抜かして驚いてその場にしゃがみこんでいる。

すると松岡中尉は手にした便箋を皆の前に突き出して

「さあ皆さんこれを読んでごらんなさい。いいですか私はあのに、に、にこごり少尉候補生と対決の場を与えられましたよ!『海きゃん』編集局の人が、私が本当のテニスの女王だというのを覚えてくれていてあの小生意気な少尉候補生の実力がどれほどか、私と対決させようと言ってくれたんですよ!さすがですねえ『海きゃん』。ですから私はこの提案を受けようと思いますから今から航海長や副長にお話ししてまいりますよ。ではごきげんよう!」

というと手紙をつかんだまま走り去ってしまった。

その場に取り残された麻生分隊士や見張兵曹、酒井に亀井たちはぽかんとしてその後ろ姿を見送っていた――。

 

航海長、副長に話をつけた松岡中尉は最後に梨賀艦長から「少尉候補生と親交を深めるように」と言われて『海きゃん』提案の対決を最終的に許可してもらった。松岡中尉は艦長・副長・航海長たちの前で

「私松岡は今たいへん熱くなっていますからね、絶対勝ちますよ、ええ勝ちますとも!それで私はその何とかいう少尉候補生をぎゃふんと言わせてやりますからね!そもそも、少尉候補生の分際で私に宣戦布告など千年早いッ!というわけで私はいつどこに行ったらいいんでしょうね艦長」

と宣言し最後は困ったように尋ねた。艦長はやれやれ、といった顔で

「いいかね松岡中尉。別にあの少尉候補生は君に宣戦布告をしている訳ではない。たまたま『海きゃん』編集の目に留まって掲載されただけの話だ。いいかがりをつけてはいけない。間違ってもぎゃふんと言わせないように!いいね?――それから場所と時間は、七日後の〇九〇〇、ここに空母・凡鷹(ぼんよう)が入港するからその甲板上で、とのことだ。「凡鷹」にその候補生も乗ってくるらしいから。ではそのようによろしく。ごきげんよう」

といい艦長は副長と航海長と一緒にその場を後にした。残された松岡中尉は

「候補生のくせに空母・凡鷹に乗ってくるですと!?候補生なんぞ軽巡でよろしいッ!よーし、決着の日は七日後と来たか!私はもう既に熱くなってますからね、にこごりくんには気の毒ですがこの勝負私の勝ちですね、私が完膚なきまでにお前をたたきのめす!首を洗って待ってろ、ハハハハ!」

とひとり気炎を上げるとラケットを振り上げて大笑いをしたのだった。

 

さてその頃。

『大和』乗組員の中尉と「親善試合」をすると聞かされた少尉候補生の錦古里ケイは『軽巡・竹輪』にあって仲間に

「いいねえ錦古里。『大和』の中尉と親善試合ができるなんて。きっと素敵なかたよ、だって全海軍期待の艦『大和』乗り組みなんだもの、いいなあ!それに空母に乗って行けるなんて、夢のようね」

とうらやましがられている。錦古里少尉候補生は恥ずかしげにしかし夢見るように

「私もまさかだったんだけど。『海きゃん』に載ったのが御縁なら大事にしたいと思うのよ。ああ、どんな方でしょう、『大和』の中尉…きっと素敵な御姉さまだわ」

と語る。その錦古里を囲んで候補生たちのおしゃべりは尽きない――

        (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・

 

全くおかしな松岡中尉です。正直ついてゆけませんがそれでも皆さんにはどうかついて来ていただきたいのです。

そして!唐突に「対決」の日時が決まってしまいました。どうなる松岡中尉と錦古里少尉候補生!しかし錦古里候補生は敵意むき出しの松岡中尉を知らないので、どんなに素敵な御姉さまかと思っているようです。

たいへんなギャップがうぶな錦古里少尉候補生を襲おうとしています…次回をお楽しみに!

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● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
まだまだ純粋な、兵学校を出たばかりの乙女・錦古里候補生の夢は砕かれてしまうのでしょうか?そんなことになったら…ああ考えるだけで居てもたっても居られません!
というわけで次回をお楽しみに~❤
しかし問題一つ、私はテニスを全然知らないとでありますっ!!(-_-;)…まあなんとかなるかハハハハハ…

ぜひ次回をお楽しみにっ!!

こんにちは。
>素敵な御姉様
ああ、純粋な乙女心が打ち砕かれる時が迫っている~なんて気の毒!と思いながら、それにめげないNiceなプレイを期待するワタクシです。魔球サーブ対決とかあるかしら? ギャラリーも巻き込まれてスゴいことになりそうですね。また続きが楽しみです。

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!

実際の松岡さんが「地球温暖化の一因だw」と言われているようですが、松岡修子中尉もいるだけで気温を高くしていますね~(-_-;)。
松岡中尉には艦長の言葉も届いていないようで、錦古里候補生が一体どんな目に合うのかと思うと夜も眠れませんねw。
どんな試合?になりますやら、どうぞご期待下さいね♪

昨日(14日)、父の五十日祭と納骨祭を終えてきました。今日夕方自宅に帰りしばらくしたら突如涙が。今まで泣きたくても泣けなかった分、泣きました。いつになったら涙が出なくなるのでしょうね・・・

いつもご心配をありがとうございます!私も母もしっかり食べて元気を取り戻したいと思います!はづちさんもお風邪など召しませんように!

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
こちらこそいつもありがとうございます^^
さあ、松岡中尉は後輩に当たる錦古里候補生にどう出るのでしょうか??まあ松岡の事ですから碌なことにならない気はしますが…(-_-;)、どうぞ続きをご期待下さい!

東京地方もここ数日は朝夕中心に涼しいです。
昨日父の五十日祭と納骨祭を終えました。ひとしお寂しくなりました。

ケイさんも御身大切になさってくださいね❤

おじゃまします

こんにちは

松岡中尉のまわりだけ、気温が3℃ほど高くなっていそうですね。
「少尉候補生と親交を深めるように」
「間違ってもぎゃふんと言わせないように!」
というお言葉が、松岡中尉には全く伝わってないようで、
はたして『親善』試合になるのかどうか、
続きがとても楽しみです。

見張り員さんも、お母様も、
松岡中尉のようにしっかりとご飯を食べて、
この夏の疲れをおとりください。

見張り員さん  こんにちは♪

いつもありがとうございます♪
松岡中尉に海きゃん編集局の方から錦古里少尉候補生と対決を最終的
に提案の許可してもらって錦古里少尉候補生は松岡中尉とテニスの
対決は気になりますね。
先輩に当たる松岡中尉には遠慮があるでしょうで松岡中尉はうぶな
錦古里少尉候補生を本気に襲おうとしていますから目が離せなくて
次回楽しみです。

こちらは秋晴れで風がひんやりして涼しく朝・夕は寒いくらいです。
昨日は墓参りで疲れて今日は休憩でゆっくりします。
寒暖差がありますので風邪などひかれませんように気をつけて
ください。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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