2017-10

「女だらけの戦艦大和」・ライバル出現2 - 2014.09.09 Tue

 松岡分隊長は自称「敵機撃墜訓練」を終えて艦内に戻ってきた――

 

そして松岡分隊長は士官室で一休みしようと思い、マツコとトメキチを伴って士官次室へと入っていった。数名の中尉や少尉がいて「あ、ハシビロだ」とか「トメキチこっちおいで」と声をかける。トメキチは喜んで声をかけた少尉の元へ走りその膝に飛び乗った。そして頭を撫でくりまわされて大喜び。マツコは

「なーに?アタシにご用かしら?」

と気取って寄っていったが微笑みかける生方中尉の手にマツコの大好きなせんべいがあるのを見るなりきどりも何処へやらすっ飛んで行く。そして「ちょうだいちょうだい」と生方中尉に飛びついて皆大笑い。そんなマツコたちを見ながら松岡分隊長は

「いいね、みんな熱くなってるぞ!――おやこれは何かな?」

と言って、テーブルの上に置いてある冊子に目を止めた。これこそ先ほど下士官嬢たちが読んでいた「海軍きゃんきゃん」と同じものである。松岡分隊長は表紙をまず眺めて

「うん、『海きゃん』も熱くなっているね。良いぞ、尻の穴も閉まっているぞ!」

と叫ぶと椅子を引き出して座り、ページをめくり始めた。そのそばではマツコとトメキチを中心とした輪が出来ていてキャッキャッと笑いさざめいている。

ぺらぺらとページをめくって「うんいいぞ」とか「あきらめてるな!」「尻の穴を締めろ」「今日から君も富士山だ」などと独り言を言っていた松岡分隊長はとあるページをめくった時不意に黙りこんだ。だんだん、眉根にしわが寄って来た。そして鼻息が異様に荒くなってきた…とその頃になると周囲の士官やマツコ、トメキチ達も松岡分隊長の様子がいつになくおかしいのに気がつき始める。

生方中尉が、傍らの宮沢少尉に「ねえ、松岡中尉の様子変だよ。すごく怒ってないか?」と尋ねると宮沢少尉も「はい、なんだかとても変ですよね。ちょっとわたくし身の危険を感じるんですが」と言って皆気味が悪くなりそっと席を立とうとした――その時!

「なあにを言ってるんだ、この兵学校出え出えの若造が!!テニスの女王ですと!?なにを言ってるんです、テニスの女王の地位は私のものですよ!僭越だとは思わないのか?先輩を立てるって気持ちがないんだろう?ええ?何とかいいなさい君ぃ!」

と大音声を発して皆はその場から飛び上がって驚いた。

皆がおそるおそる松岡分隊長の方を見れば、彼女は片手に『海きゃん』を持ち、もう片方の手にラケットを持ってそれで『海きゃん』のページを激しくつつきながら怒鳴っているではないか。彼女はそのページの写真の誰かに向かって「なんとかいいなさい、言わないとひどいぞ」と怒っているのだ。

マツコが

「また始まったわよ、マツオカの病気」

とため息をつくとそのそばにそっと歩いて行った。松岡分隊長は激しく怒りながら冊子の中の誰かを罵倒しつつラケットでつついている。マツコはそのそばに立つと

「いったい何怒ってんのよ、この変人分隊長。アンタねえ、本の中の人になんとか言いなさいなんて言ったって無理に決まってるでしょ?おつむの中身平気なの?日野原さんに診てもらったらどうよ」

といさめた。そして分隊長がラケットでつついている相手の写真を見れば、

「まあちょっとトメキチ見てよう。この人なかなか素敵よ」。

トメキチが「どれどれマツコサン」と飛んできてほかの士官たちも松岡分隊長のラケットに襲われないよう気をつけながらそのそばに集まる。松岡分隊長はまだ興奮して叫びながら写真の人を指さしたりラケットでつつきながら怒っているが、士官たちは

「ほう、少尉候補生か。なかなかいい顔つきをしているね。こりゃあ我々もうかうかしてられないねえ」

と感心しきり。そのページには、一種軍装に少尉候補生の襟章(注・少尉候補生の襟章は兵曹長と同じものです)をつけて軍帽をかぶり、ラケットを胸に抱えた若い女性がいる。候補生らしく短めに髪を切りそろえカメラに向かって恥ずかしげに微笑むその瞳にはこれからに対する決意もみなぎっているようだ。

「ねえ、この人なんて名前なの」

マツコが生方中尉に尋ねると生方中尉はページを手で押さえながら

「ふーん、錦古里(にしこり)ケイだって。珍しい名字だね、覚えやすいや。彼女は兵学校に入る前の中学時代からテニスが素晴らしい腕前で兵学校でもテニスの女王と呼ばれて」

とそこまで言ったとき。

()()テニスの女王だって言ってるでしょうがあああああ!!

と絶叫が響き、『海きゃん』のページを押さえている生方中尉の手に向かってラケットが振り下ろされた。が辛くも生方中尉は直撃を避けて「あっぶねえ!!松岡さんは何怒ってるのよ?」と松岡の顔を見た。

松岡分隊長は怒り心頭に発していてふうふうと鼻息荒く顔を真っ赤にして皆を睨みつけながら

「誰ですかこの人は!私の称号、<テニスの女王>を勝手に奪って置いて平然とこんな本に顔をさらして、いいと思ってんですかあ?私は怒りましたからね。このなんという人ですか…?に、に、にこごりけい少尉候補生に私は宣戦布告しますからね!誰が何と言っても私の称号を奪還するため私はこの、に、に、にこごり少尉候補生に戦いを挑みますからねっ、尻の穴を締めろ!」

と怒鳴った。そばから機銃分隊の平野少尉が

「松岡中尉、<にこごり>ではなくて<にしこり>ケイ候補生ですよ」

とそっと訂正した。すると松岡中尉はハッとした顔になって平野少尉を見返って

「平野さんあなた熱くなってて素晴らしいですね。そうです、どんなに気に入らない奴でも嫌な奴でも腹の立つ奴でも名前を間違えてはいけませんね。それは失礼ですからね。私はこの人の大先輩として非は謝ります。が!テニスが海軍一上手いという地位だけは譲れない――ッ!」

と叫んだ。生方中尉達はなんだかすっかりあきれ果てて呆然と松岡中尉の顔を見つめているだけである――。

 

その日のうちに松岡航海科分隊長の怒りの話は前艦内を駆け巡った。

遂に幹部の知れるところにもなり、繁木航海長が困った顔で野村副長へその話を持ってやってきた。副長は今日は酒保にいて在庫をあれこれ見ていたが苦り切った顔の繁木航海長を見て

「いったい何がありました?航海長」

と心配げに訪ねた。繁木航海長は苦り切った表情のままで「じつは、」と松岡中尉が『海きゃん』を見て一人で勝手に大興奮している話を伝えた。副長は「はあ?なに言ってんだあの人」とすっかりあきれ顔になった。二人は酒保を出て、ラッタルを上がり露天甲板に出た。春の風が心地よい。

副長は

「私も『海きゃん』は見たけどね、テニスの女王なんて別にあの少尉候補生が自分から言ったわけではない、『海きゃん』の書き手がそう書いただけの話でしょうにねえ。そんなことも解らないくらい松岡中尉は大噴火してるんだねえ。困った人だ、本当にその少尉候補生に喧嘩を売りに行かないとも限らないね。航海長、非常措置をとりましょう。今から松岡中尉の発する通信――私信公信関係なく――制限をかけよう。特に私信は要注意ね、郵便物は必ず検閲。無線通信は、通信機に触らせないよう通信長にも通達してほしい。それに何より中尉の上陸は絶対禁止に」

とついに松岡中尉に対して非常措置を発した。繁木航海長は緊張した面持ちで

「わかりました。では私は山口通信長にこのことを」

というと一礼してその場を走り去った。副長はその後ろ姿を見送りながら

(全くもう、なんでこうもいつも松岡中尉という人は面倒事を起こすんだろうか。本当に嫌になる。確かに戦闘時には彼女がいると士気も上がるしあのラケットで敵機撃墜という離れ業もするから助かるんだが、平時に於いては厄介ばかり起してる気がしてならないなあ。――私の指導不足のせいだろうか、私が艦内の将兵の心を掌握してない証拠だろうか)

と悩んでしまった。

繁木航海長は通信室に山口通信長を訪ね、松岡中尉の件について副長からの指示を伝えた。通信長は

「うわ、また松岡中尉ですかあ?…解りました。彼女が通信室に接近するのを阻止します。あ!」

と突然声を上げたので繁木航海長はちょっとびくっとした。通信長は繁木航海長にそっと顔を寄せると

「松岡のあの腰ぎんちゃくにも要注意ですよ。以前変装して出て言った時腰ぎんちゃくにラケットを持って行かせたじゃないですか」

と囁いた。航海長は「そうだっ!忘れていた、あの変な鳥とトメキチだ!」と言って通信長を見つめた。通信長は「でも航海長、私が見るにあの変な鳥もトメキチも意外と賢いですね。よく言い含めれば意外と役に立つかもしれませんよ」と言って、航海長はしばし考え込んだ。

ややあって顔を上げた航海長はニタッと笑うと

「いい考えです通信長。今から二人であの動物どもを抱き込みに行きましょうよ」

と言って…二人はマツコとトメキチを探しに通信室を出て行ったのだった。

 

その日の夕方になっても松岡中尉の怒りは全く収まっていない、収まるどころか却ってぼうぼうと火が燃え広がっている感がある。第一艦橋や防空指揮所、はては主砲塔に登ってわめきたてる。その様子にさすがに梨賀艦長も「あれをどうにかしないと。日野原軍医長に診察してもらわねばなるまいか?まさか精神を病んでしまったのではあるまいな」と真剣に心配した。が、日野原軍医長は

「ご心配には及びません艦長。ありゃあ単なる癇癪ですよ。彼女自分以外の人間が、自分の得意分野で目立ったのがよほど気に入らなかったのでしょうね、まあ言ってみれば子供のような精神構造なんでしょうね。ワハハ!」

と言って笑い飛ばし、艦長を少しほっとさせた。

 

その夜遅くも第一砲塔の上では松岡中尉が

「にこごり少尉候補生!テニスの女王は私ですからね、何処からでもかかってきなさいっ」

と叫んでラケットを構えている。そのそばでは、繁木航海長と山口通信長に「虎やの最高級羊羹」と「宮島のもみじまんじゅう」ですっかり航海長たちに抱きこまれたマツコとトメキチがじっと監視の目を注いている。マツコはトメキチに「いいこと?こいつがちょっとでもおかしな真似したらアタシとあんたでこいつを噛み殺すのよ!」と物騒なことを言っている。

 

そして。

「女だらけの大和」の誰もが予期しなかった展開が、起ころうとしていた――

     (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・

なんだか聞いたことがある様な名前の人が出てきました!

怒りに震える?松岡中尉ですがさてこの後どうなりますか、ご期待下さい。

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● COMMENT ●

いなばさんへ

いなばさんこんばんは!
松岡お江戸の大噴火かあるいは西の島新島になるかあるいは缶室への注水になるのか!?
さあどうなる、緊迫の次回をこうご期待であります^^。

荒野鷹虎 さんへ

荒野鷹虎さんこんばんは!
今回は北海道が狙われてしまいましたね。今まで見たことがない北海道の大雨の報道に目を疑っています。大雨も後がたいへんですね、どうか速やかに復旧できますように祈ります。
最近の雨は「怖い」というのが正直な感想です。

熱くなり過ぎて、江戸時代の大噴火? それとも、海底噴火で島となるのでしょうか?。それとも、注水(副長に)されて収まるのでしょうか?。

見張り員さんへ!!

何時もながら、小説とは関係のないコメントをお許しください。汗)

早速のお見舞い心より感謝いたします。!
どうやら少し落ち着きを取り戻した感じですが、後始末に追われる自衛隊や消防団の苦労を思うとやり切れません。!
記録的大雨は戦争の危機と似通って非ではないように思いますねー。汗)

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
イエーイ来たぜにこごり少尉~~!
しかし悪い相手の目に泊って気の毒なことにならなきゃいいんですがにこごり少尉候補生。勝手に熱くなる松岡中尉ですが若しこの二人が出会ったら…松岡の出方が怖いですぞ(-_-;)。

マツコとトメキチ、考えることが極端ですね(^_^;)。噛み殺すなんて。逆に噛み殺されそうですがねww。
どうぞ次回をお楽しみに^^。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
にこごり、これを私はけっこう一所懸命考えていましたw。
松岡中尉、天狗の鼻がへし折られてしまうのでしょうか…上には上がいますものね。この二人がまみえる時が来るのでしょうか、こうご期待です。

日曜日は五十日祭、そしていよいよ納骨式です。父が家から居なくなって寂しさひとしおになります…

オスカーさんも季節の変わり目御身大切にお過ごしくださいね^^。

おじゃまします

こんにちは

きました!
に、に、にこごり少尉!
とうとう、松岡中尉の目にとまってしまいました!
富士山はどっちなんでしょうか!?
松岡中尉、熱くなってますねえ。
これは、ただではすまないでしょうね、きっと。
どうなっていくのか、
今後の展開を楽しみにしております。

それにしてもマツコとトメキチ、
いくらなんでも噛み殺してはダメでしょう。(笑)

こんにちは。
>にこごり
錦織くんの名前も間違ってこう記憶する人もいるかも(笑)
松岡さまのアツさに対向出来る人も同等のテニスの腕を持っている人もいなかったみたいですから、またいい刺激になるかも…ですね。ダブルス攻撃で敵を木っ端微塵に出来るかも!
またお忙しくなるでしょう、お身体大切にして下さいませ。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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