2017-09

「女だらけの戦艦大和」・医務科の猛訓練4 - 2014.08.25 Mon

 呉市民や、『大和』医務科員の語り草となったあの担架訓練から一週間ほどが過ぎた――

 

それからは艦内で医務科は独自の訓練を行っている。包帯の巻き方を改めて見直したり点滴や注射の素早いやり方、患者の取り違えや薬の取り違えをなくすための二人一組での指差し訓練、薬剤を扱う士官たちへの調剤訓練など日野原軍医長自ら陣頭に立って行ったものである。

黒川軍医大尉は

「いやあ、包帯の巻き方なんてしばらくやっていなかったからね。正直下の者任せだったがそれじゃあいけないよね。気付かせて下さった軍医長には感謝感謝!」

とありがたがる。尤もこの感想は多くの士官連中の感想でもある。基本が大事だということすら忘れかけていた士官たちにはいい『薬』になったようだ。

黒川軍医大尉のそばで、マツコとトメキチが包帯をかごに入れるのを手伝いながら「そうよアンタ。なんでも基本が大事。よくわかったでしょ」ともっともらしく言うのへ黒川大尉は

「おお、ハシビロとトメキチもそう思うかね?そうなんだよ、なんでも基本あってだからねえ。ないがしろにゃ出来ないよね」

と言って微笑む。と、そこに松岡中尉が通りかかり

「おっ!私の鳥くんと犬くんじゃないですか、ここでお手伝いですか?うん、いいぞ熱くなってるな!というわけで私のお手伝いを」

とわめきながら包帯の入ったかごを取り上げたがラケットと一緒に持ち上げたのがあだ、包帯のかごはラケットともに派手な音を立てて床に落ちてしまった。黒川大尉は「はいはい、松岡中尉。熱くなるのはもう結構ですからね、お気持ちだけいただいて、ハイごきげんよう」というと松岡を部屋から押し出した。押し出された松岡中尉は別段怒りもしないで

「うむっ!医務科の皆さんも熱くなってていいぞ!そうですこういうときは部外者の相手なんかしてちゃあだめだ!ということで私は退散します。黒川大尉、ではごきげんよう」

というとラケットを担いで廊下を走りだした。

 

そんなころ、日野原軍医長は今回最大の――あの訓練の構想を練り終えていた。日野原軍医長は

(あれをそろそろ下士官たちや士官たちにも仕込んでおかないとな。技術は継承してこそ、だ。場所はやはりあそこでするしかないな…よし私が明日にでも頼みに行こう)

と思い、黒川軍医大尉を呼びつけると「黒川君、明日私と一緒に来てほしいんだけど」と言って某所に同行するよう頼んだ。黒川軍医大尉は「一体どういった御用なんでしょう」と尋ねてみた。すると日野原軍医長は

「あれだよあれ。し・ご・き」

と言って笑って見せた。と、黒川軍医大尉は「ああ!しごきの…ですね。はいわかりましたっ」と朗らかに言って「では明日」と一礼をするとその場をそっと出て行った。

すると、それを戸棚の影でそっと聞いていた一人の水兵長が(し、しごきじゃと!?これは大ごとじゃ、えらい訓練をさせられるんじゃな。皆に知らさんといけん!)と顔色を青くして、軍医長に気づかれないようにそっとその場を離れて皆の元へと走った。

 

「なんじゃと!?

「しごきをするじゃと!?

水兵長からその話を聞いた医務科の下士官兵たちは恐慌に陥った。彼女たちにとって一番恐ろしいのがしごき、という三文字である。そんな恐ろしい訓練――一体どんな訓練なんだろうか。彼女たちの背筋に冷たいものが走り「これはその日まで大人しゅうしとった方がええよ。大人しゅうしとったら案外軍医長も考え直してくれるかもしれんでね」と皆はうなずき合ったのだった。

さあその翌日から医務科の下士官兵たちは妙に士官たちや日野原軍医長に従順に接し、日野原軍医長は

「なんだあ?なんであの子たちは妙に低姿勢なんだろうねえ?おい、何があったか知らないかあ?気持ち悪いよ」

と言って怖がる。畑軍医大尉が手近の下士官嬢を捕まえて

「ねえ染谷さん。一体どうしたのみんな。なんだかほんとにいつもより腰が低いねえ。軍医長が気味悪がっておいでだから普通にしててくれないかしらねえ」

とこぼす。すると染谷と呼ばれた兵曹は気弱げな微笑みを浮かべて

「そ、そんなことはございません。いつも我々はこんな感じではありませんか。じゃけえ、これが普通です。軍医長何か勘違いしておいでじゃありませんかのう」

というとあわててその場を去ってしまう。

「はあ、そうですかあ」

と畑軍医大尉は言って釈然としない表情のままでその後ろ姿を見送った。染谷兵曹は仲間たちに「どうじゃった?なんぞ変な事言うとらんかった?」と聞かれたが

「いやあ?却って向こうさんの方がうちらをこわがっとるで?一体どうなっとるんか、うちにもようわからん」

と首をひねる始末。皆「ほうね。ようわからんが、しごかれるんは嫌じゃけえね。もうちいと大人しゅうしとった方がええかもね」と言ってそれぞれの仕事に分かれて行く。

 

その二日後の夕食後。

くつろぐ皆の元に、黒川軍医大尉がやってきて

「皆そのまま聞いて欲しい。明日艦内要員の五名を残して他は〇九〇〇上陸し訓練の場所に行くからそのつもりで。いいな?」

というとそのまま出て行った。その場の皆は一斉に顔色を青くして「…来たで。いよいよ明日じゃ。明日うちらはしごかれるんじゃ…みんな、今生の別れじゃ。今夜が最期じゃ、みんなで顔をよう覚えておこうな、あの世に行っても忘れんように」というとすすり泣き始めた。

しごき、の一言がとんでもない誤解を招いていることを、知る由もない日野原軍医長であった。その軍医長、今夜は入室患者(けがや病気などで病室に入っている患者の事、入院と同義)の二名を回診してから私室に戻った、(明日はちょっと大変な訓練だからね。よく寝て置かないと。しかしまあ、後継者を養成するってのはぁたいへんなことだよなあ)と思いつつ――

   (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・

しごき!!怖いですねえ(-_-;)…さて日野原軍医長は一体何をたくらんでいるのでしょうか。そして「後継者」とは一体どういうことなんでしょう??

次回をご期待下さいませ。

関連記事

● COMMENT ●

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
コメントありがとうございます^^。

しごき、なんて聞くとちょっとぞっとしますね。一体何をされるんだろうとまるで拷問前のような気分に…(-_-;)。
さあ日野原軍医長のあんがえるしごきの正体とは?ご期待下さいませ。


今日は朝から雨の東京、随分と気温が低く肌寒かったです。暫く気温が低いようですがこうなるともう暑くなって欲しくないですね(^_^;)。しかしこの夏は妙な夏でした。

NoTitle

見張り員さん    こんにちは♪

いつもありがとうございます♪
日野原軍医長は黒川軍医大尉に技術は継承してこそと場所は
やはりあそこでするしかないなと言って私が明日にでも頼みに
行こうと話をしている時に黒川軍医大尉はしごきですねと
言っているのを水兵長が聞いていてみんなはしごきの言葉が
よほど怖くて変に誤解してどうなるか大変ですね。

今日も風がひんやりして涼しくてすっかり秋めいてきたのを感じます。
東京の方も気温が低く過ごしやすくなっていますね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
とんでもない事態にならなきゃいいのですが…(-_-;)。
そして日野原軍医長の思惑は一体何なのでしょう?そして後継者とは?謎が深まる「女だらけの大和」医務科です。
本当に今では限度を知らない体罰からいじめへと発展してしまいますね。親からぶたれたことがない、というのを自慢にしているようではだめだと私の母は言います。
その母に育てられた私は母から「精神棒」でぶったたかれましたよ子供のころw。でも耐えられたのはやっぱり「愛情」に裏打ちされていたからでしょうね。

おかげさまで少しずつ落ち着き始めている…感じではありますが気がつけばぼーっとしていることが多いですね。日の出前に目が覚めるとものすごくさみしく悲しくなって。
これも五十日祭・納骨が済めば良くなるのでしょうか…。

いつもご心配をありがとうございます。そうですね、おっしゃるようにあまり我が身をしごかずにしばらくは過ごしたいと思います!

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!

しごき。――不穏な感じ。
後継者。――はてなんのこっちゃ。
ですよね~~~^^!
これが実際実に恐ろしい訓練の始まりなのです。ウフフフ…次回をお楽しみに❤

継承ということ、地域のことでも国の行事でも次代に繋いでゆこうとするとたいへんなものですよね。はづちさんも苦戦中ですか、でも大丈夫。絶対出来ますとも!!
応援しておりますよ!!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
盗み聞きはほんと、悪い方悪い方へと考えがちですよね。実際そんな悪いことはなかったりして(^_^;)。さて医務科の面々の場合はどうなりますかお楽しみに^^。
松岡中尉やマツコにトメキチ、そうそう、エガチャンも出番を増やせ!と言っておりますので出して行こうと思っておりますので楽しみにしててくださいませ。

早いものでもう九月。日の出もずいぶん遅くなりその分日の入りが早くなって…寂しい秋の訪れを感じます。暗いうちに目覚めると気の早い秋の虫の音。亡き人を思って涙がまだ出ます。

誤解。なんだか大騒動になりそうですね。
皆の恐怖も露知らず日野原軍医長は安眠の淵へ。
しごきって何だろう。それも後継者育成の。楽しみです。

昔はしごいてなんぼのものでしたが最近はしごきイコール体罰。そしていじめへと連鎖して。そこには愛や純粋さが無いからでしょうか。いやな世の中になったものです。

お加減は如何ですか。慣れない行事の連続だったでしょうに、今はあまりご自身をしごかずにゆっくりと過ごして下さいね。

おじゃまします

こんにちは

しごき?後継者?
ん?ん??んんん???
と私の頭の上にハテナマークがたくさん浮かんでおります。
下手に勘ぐるよりも、大人しく次回を楽しみに待つことにします。

継承といえば、私は父に何も教わっていなかったので、
(地域の習わしとか行事などなど)
ただいま何かと苦戦しております。(笑)
継承って、本当に大事ですよねえ・・・。

こんばんは。
盗み聞きは情報が中途半端な分、悪い方に考えてしまうので「しごきだなんて…((((;゜Д゜)))」しか考えられないですね。
あいかわらずの松岡さま! また出番をふやしてあげて下さい~あとエガちゃんにも会いたいです(((^^;)
来週にはもう9月ですね。秋の気配がものかなしいです。


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://haitiyoshi.blog73.fc2.com/tb.php/885-c0e97a67
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

「女だらけの戦艦大和」・医務科の猛訓練5<解決編> «  | BLOG TOP |  » 「女だらけの戦艦大和」・医務科の猛訓練3

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

最新記事

最新コメント

フリーエリア

無料アクセス解析
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
Web小説 ブログランキングへ
小説家志望 ブログランキングへ ブログランキングならblogram
夢占い 夢ココロ占い (キーワードをスペース区切りで入力してください。)

カテゴリ

未分類 (21)
大和 (486)
武蔵 (66)
大和と武蔵 (41)
海軍航空隊 (28)
麻生分隊士 (3)
オトメチャン (39)
連合艦隊・帝国海軍 (155)
ふたり (69)
駆逐艦 (10)
ハワイ (8)
帝国陸海軍 (23)
私の日常 (110)
家族 (22)
潜水艦 (3)
海軍きゃんきゃん (24)
トメキチとマツコ (2)
ものがたり (8)
妄想 (5)
北辺艦隊 (1)
想い (14)
ショートストーリー (4)
アラカルト (0)
エトセトラ (5)
海軍工廠の人々 (5)
戦友 (10)

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2ブログランキング

FC2 Blog Ranking

FC2Blog Ranking

最新トラックバック

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

RSSリンクの表示

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード