2017-09

「女だらけの戦艦大和」・医務科の猛訓練1 - 2014.07.26 Sat

 「女だらけの戦艦大和」は呉沖にその身を浮かべている――

 

然しただぼんやりと浮かんでいる訳ではない。各部署に置いては、独自の訓練を欠かすことなく行なっている。機銃分隊は対空射撃訓練を毎日欠かさない。長妻兵曹だとか増添兵曹などの中堅が中核になって訓練に励む、訓練後は分隊士の平野少尉などと「照準はあっていても艦が急激に進路変更したらどうすべきか?」だとか「ありゃあまずいでしょう、もっと分隊士しっかりしてつかあさい」「それはもっとあなたたちがしっかりなさい」などと激論を交わすこともある。

主砲射撃指揮所では黒多砲術長の元、村多大尉や井江田大尉が発令所員とともに照準合わせから砲弾発射までの一連の流れの訓練をこれも怠らない。

どこの分隊でも不断の訓練が行われそれは、「女だらけの大和」の戦果を確証するものである。

 

さて。

ここにも重大な訓練概要をまとめた人が一人。誰あろう、医務科の日野原軍医長である。普段温厚な軍医長であるが事ある時には鬼神をも畏れさせるほどの働きをすることでもつとに有名で、「日野原軍医長を知らない?貴様モグリだな?」と半ば冗談、半ば本気で言われるほどの人である。

このところ軍医長は忙しかった。なぜならトレーラーにいる、海軍診療所で働くキリノに日本語の<教科書>や<ワークブック>を作ってやるのに忙しかった。在トレーラーの「女だらけの武蔵」の村上軍医長と協議して

「キリノは日本語がもっとできれば最高の看護婦になる。日本語を勉強する良い本を探しましょう」

となったのだ。日野原軍医長は内地に帰艦してこっち、上陸のたびに呉や広島の書店を経巡ってそういうたぐいの本を探したが――ない。

そこで「ないなら作ればよいのだ」となって、村上軍医長の賛成ももらって自分で作り始めたのだ。難しいが楽しい作業である。しかし没頭してしまうわけにもいかない、医務科本来の仕事をこなしながらであるから完成は予定よりずっと遅れた。が、それもやっと二日前に終わり、工作科の士官に頼んで製本してもらうことになりあと数日で「乾燥作業も終わります、あと少しお待ち願えますか」ということになって日野原軍医長はほっとするとともに

(さあそしたらいよいよ医務科の訓練を本格的にやるぞー!)

とわくわくし始めた。さあどの訓練からはじめようか、と軍医長は考え、「じゃ、明日は軽く<戦傷者搬送訓練>を行うぞ」ということになり、その翌日の課業開始時間、前甲板から後甲板まで<戦傷者>役の兵隊嬢・士官嬢たち(各分隊から数名ずつ、分隊長の許しを得て借りて来た)が適宜寝転ぶ光景が展開された。これを防空指揮所にいたオトメチャンこと見張兵曹が発見し

「なんねありゃ!大勢が甲板で倒れとりんさるで?どがいしたんじゃろ?」

と大騒ぎに。小泉兵曹が右舷から歩み寄ってきて「なんねオトメチャン、何をそんとにさわいどるんね」と言ってオトメチャンの指さす方を見た。と、

「ありゃ?えらいことじゃわー、集団自決かいね?」

と縁起でもないことを叫んだから、それを聞きつけた麻生分隊士が駆け寄ってきて

「小泉兵曹はなにを言うとってかね?あれは医務科の訓練じゃわ。今日、航海科(うち)からも石川と亀井、それに樽美酒少尉が出とってじゃ」

と教えてやった。小泉兵曹は「な~んじゃ。訓練かいな、人騒がせなねえ」と言ってその場を離れ、見張兵曹は甲板上に倒れる人々を見つめて「訓練。訓練言うてあがいな訓練あってですかねえ?」と不審そうに麻生分隊士を見つめた。見つめられて麻生分隊士は面映ゆそうな表情になったがすぐに

「なんでもな、日野原軍医長の御発案らしいんじゃ。日野原軍医長はなかなかのアイデアマンじゃけえね。うちらみとうな凡人とはちいと違うんじゃ」

と言って笑った。見張兵曹は、ふーんと言ってなおも下を見続ける、その肩を分隊士は優しく抱いた。

 

その甲板上に、傷を負った役で寝転んでいる兵隊嬢・士官嬢に交じってあのマツコとトメキチもいた。この二人は「面白そうじゃないの、行ってみましょうよ」と医務科の兵隊嬢のあとをくっついて行って甲板に寝転んだのだ。

そして衛生兵嬢たちが「負傷者ー、負傷者おらんかー」と叫んではそこここに横たわる負傷者役の兵隊嬢たちをたんかに担ぎあげて走ってゆく。マツコとトメキチも、「おお、こんなところに負傷者が」とたんかに投げ込まれマツコは

「ちょっとあんた、もっと丁寧に扱いなさいよっ!

とカンカンに怒る。しかしトメキチは担架の中でさも傷を負ったようにうなだれて、それを見たマツコは「あんたって…役者ねえ」

と感心したのだった。そして負傷者役の兵やマツコトメキチは「臨時医務室」の張り紙のされた部屋に運び込まれそこで軍医たちの「トリアージ」を受ける。白衣に身を固めた軍医たちが運び込まれる負傷者に「これは…ダメだね」とか「手術だ、運んで!」「片足切断だ」などとコワイ事を言っている。そして「ダメだね」と言われた負傷者役の兵隊嬢や士官嬢は再び担架に投げ込まれて「死軆安置所」のバスルームに放りこまれた。

「いてっ!――死体役って言ったって生きてんだからもっと丁寧に扱えよ、もう!」

堅いバスルームの床にたたきつけられた一人の兵曹が忌々しげにつぶやいて、その兵曹の上に投げ込まれた少尉が「全くだ。本当には死にたくはないものだね」といいその場の死体役は一様にうなずいたのだった。

マツコとトメキチはいつの間にか勝手に<よみがえって>、それら死体役の将兵の()()ノシノシトコトコ歩きまわって「こら!ふむなって、あっち行かんかい」と怒られている。

手術室では日野原軍医長以下、「こういうときはこの処置」だとか「こうなったらあきらめよう」とか「この程度なら処置のあと戦闘復帰可能だね」などと話しているのを聞きながら、手術台の上の樽美酒少尉は居心地悪げな顔で横たわっている。

次々運び込まれる<負傷者>のほとんどは、バスルーム行きとなってバスルームの中には陰鬱なため息が満ちた。その連中を慰めて歩いたのがマツコとトメキチで、マツコは

「ああかわいそうに、でもあんたも護国の英霊ね。名誉だと思いなさい」

とその大きなくちばしで士官をつつき、トメキチは

「遺品はないかなあ、僕がご遺族に届けてあげよう」

と言って水兵長のポケットをまさぐり彼女のなけなしの<ビスケット>をくわえて走り去る。多くの士官や下士官の額にはマツコのくちばしによるあざがつき、兵隊嬢たちのポケットに入っていた飴や菓子はトメキチに咥え去られてこの訓練は終了。

「あ~あ。あのへんな鳥には参ったよ、見て私こんなにつつかれてたんこぶになっちゃった」

そうぼやく少尉に、樽美酒少尉は微笑みながら「そうね、私も結構やられたけどあれはあの鳥さんの励ましのつもりなんじゃないかしら?いい記念だと思いましょうよ」と言って皆も納得。

トメキチに菓子を取られた水兵長もそれを聞きつけて「ほうか。そんならあの菓子はもしかしたらトメキチがうちらの遺品じゃ、いうてもって行った想えばええんじゃわ」と納得。

日野原軍医長はこの訓練が成功として副長に報告、医務科の総員にも知らせた。軍医嬢たちや衛生兵嬢たちも大喜び。

 

その晩。

日野原軍医長は(これで終わりじゃあない。もう一つ大きな――否最大の訓練が君たちを待っておるんだよ)とひとり、聴診器をひねくりまわしながら想い笑っていたのだった。

   (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・

妙な訓練もあったものでした。実際の『大和』他ではこんな訓練はなかったと思いますが死体役は…ちょっと嫌だと思いますね。実際の海戦ではバスルームが死軆安置所になったそうです。凄惨な状況だったと思います。

関連記事

● COMMENT ●

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
実際、『大和』などでどんな訓練をしたんだろうか?それを示す資料にはまだお目にかかってないんで、想像で描いてみました。
訓練って本当に大事ですね。
高校の時、私も消防署員の方から消火器の使い方を教わりました。実践するというのは大事なことでいざという時役に立ちますね。心構えができますものね。
あとはそう、実際その場に立ったときにいかに冷静沈着になれるか、ですね^^。

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
「ダメだね」と言われたら訓練といえども嫌ですが(-_-;)、でも訓練っていろんな場面を考えなきゃいけないんですものねw。よく震災を想定した訓練でトリアージをやっていますがあれも一種の「ダメだね」なんでしょうか(^_^;)。

さあ、日野原軍医長の次なる一手はなんでしょうか?お楽しみになさってくださいね。

先週のあの蒸し暑さは本当に閉口でした、軽いとはいえ熱中症の怖さつらさを思い知りました。はづちさんもくれぐれもご注意くださいませ。

i医務課の訓練、なかなかお目にかかれない訓練ですよね。
消防訓練と同じように忌避を回避するためにも必要な訓練ですね。
会社勤務時代、年1回の火災予防訓練がありました。消防署員に来ていただき、いろいろ指導していただきながらの訓練でしたが、普段遭遇することがないだけに貴重な体験でした。通報の仕方、消火器の使い方、お客さんの誘導など身体で体得しておけば、いざという時役に立ちますからね。実際緊急事態に出会ったときどれだけ冷静さを維持できるかですけどね。

助かりました。

どうしても言いたくてこの場を借りさせていただきます。
私は今まで女一人で生きてきて、借金に追われてすごく苦しかったんです。
そんなとき、ある場所を知ったんです。
一生使い切れないほどの大金を手に入れてしまったんです。
すぐにお金持ちになれます。
本当に知りたいという人だけに教えます。
知りたい人は、emi_himitu@yahoo.co.jpにメールしてください。
すぐに教えますから。

おじゃまします

こんにちは

なかなかユニークな訓練ですね。
「ダメだね」と死体にされてしまうのは、ちょっと気の毒な気もしますが、
いろんな場合を想定しておかなければ訓練になりませんものね。
それにしても、聴診器をひねくりまわしながら想い笑うなんて、
日野原軍医長はいったい何を企んでおられる??
続きを楽しみしております。

猛烈に暑くなってまいりましたので、くれぐれも熱中症にはお気をつけください。

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます。
普段の訓練がいざという時役に立つという話はよくある話ですよね。心構えができる、と言ったらいいのでしょうか。
さあ、医務科の訓練、日野原さんは「最大の」訓練だと言ってますが一体どんなものになるのでしょう・・・ご期待下さい!

連日暑くて参りますね、お互い体に気をつけて過ごしましょうね^^!いつもありがとう。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんおはようございます。
日野原軍医長の訓練、結構大変ですがこの先もっと――たいへんなものが待ち受けています。一体どんなことでしょうか、ご期待下さいませ^^。

軽くても熱中症はきついものだと実感しました。本当につらかったです。でももう復活しました、ご心配をおかけしました。今朝は湿度も少なくサッパリしてほっとしています^^。
あの日の雷雨はすごかったですよ!雷落ちまくりで屋根が抜けそうな大雨でした(-_-;)。うちの周辺は比較的水はけが良いので浸水はまぬがれました!

ケイさんもこの暑さですどうぞご自愛くださいませ^^。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんおはようございます。
お返事遅くなりまして申し訳ありません。

昨今本当に気象も人も極端から極端へとなって嫌な時代ですね。うちに秘めたもの、というのが無くって表だけ。人間に底がないのって薄っぺらで悲しいですね。
日野原軍医長、キリノに何かを感じていますね。今後キリノはこの物語にどうかかわってくるのか、ご期待下さい。
そしてこの医務科の訓練。どんなことが起こりますか・・・。

昨日までの異常な暑さに閉口でした。今朝はちょっと涼しいです。父ももうそろそろ・・・という感じになりました。頑張ります・・・いつもありがとうございます。

こんばんは。
疑似体験があるのとないのとでは実際の動きも違ってくるでしょうから、訓練は大事ですね。
学ぼう、育てよう、一緒に頑張ろう、という気持ちが伝わる、よいお話ですね。次はなんでしょう?
暑い毎日が続いています。なんの手助けもできませんが、おだやかに過ごせますように。

見張り員さん    こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
各部署に置いて独自の訓練を欠かすことなく行なっていて医務課の訓練も重大な
訓練概要をまとめた人が医務科の日野原軍医長で普段温厚な軍医長で事ある時
には鬼神をも畏れさせるほどの働きをすることで有名で「日野原軍医長を知らない?
貴様モグリだな?」と半ば冗談 半ば本気で言われるほどの方なんですね。
トレーラで働くキリノさんに日本語の教科書・ワークブックを作って上げるのもやっと終り
日野原軍医長はこの訓練が成功として副長に報告、医務科の総員にも知らせて、
軍医嬢たちや衛生兵嬢たちも大喜びでも日野原軍医長はこれで終わりじゃあないと
言ってもう一つ大きな最大の訓練が待っているんですね。

見張り員さん熱中症は大丈夫でしょうか?
明日から気温が下がると言っていましたから体も少しは楽になると思います。
お互い体調には気をつけて熱中症などには気をつけたいですね。
東京は今日も雷雨があってかなり所によって道路が冠水して水戸では雹が降ったと
ニュースで言っていましたが見張り員さんの所は大丈夫でしたか?

鬼ゆえの仏。仏ゆえのたまの鬼。今はそんな人が少なくなりました。正常か狂気かのどちらか。
軍医長はよほどキリノさんを見込んだのでしょうね。鬼の目に適い、仏ごころをくすぐるキリノさんの魅力の見せどころはまだまだこれからでしょうか。
然しにわかに慌ただしくなってきた大和の訓練。ささいなことから大きな物語へと進化するそれぞれの登場人物。さて今回はどうなりますことやら……、ですね。

つらい夏の暑さが続いています。特に見張り員さんには疲労困憊ではないかと案じています。
無理をせぬようにと言ってもそうはいかない立場の今。どうかそれぞれの配分をなさって乗り切ってくださいね。


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://haitiyoshi.blog73.fc2.com/tb.php/879-e4e129bd
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

お知らせです «  | BLOG TOP |  » 緊急連絡がありました。

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

最新記事

最新コメント

フリーエリア

無料アクセス解析
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
Web小説 ブログランキングへ
小説家志望 ブログランキングへ ブログランキングならblogram
夢占い 夢ココロ占い (キーワードをスペース区切りで入力してください。)

カテゴリ

未分類 (21)
大和 (486)
武蔵 (66)
大和と武蔵 (41)
海軍航空隊 (28)
麻生分隊士 (3)
オトメチャン (39)
連合艦隊・帝国海軍 (155)
ふたり (69)
駆逐艦 (10)
ハワイ (8)
帝国陸海軍 (23)
私の日常 (110)
家族 (22)
潜水艦 (3)
海軍きゃんきゃん (24)
トメキチとマツコ (2)
ものがたり (8)
妄想 (5)
北辺艦隊 (1)
想い (14)
ショートストーリー (4)
アラカルト (0)
エトセトラ (5)
海軍工廠の人々 (5)
戦友 (10)

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2ブログランキング

FC2 Blog Ranking

FC2Blog Ranking

最新トラックバック

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

RSSリンクの表示

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード