「女だらけの戦艦大和」・それを人は恋わずらいという7

 経御国三とその両親は平謝りで半泣きになって帰っていった――

 

そんな中、見合い会場だった部屋の隅で山中大佐はまだ野村中佐をマントに包んだまま抱き抱えていた。それにやっと気がついた中佐の母親が

「ああ、ありがとうございました。あなた様のおかげで次子は助かりました。何とお礼を申したらよいやら」

と言って山中大佐を見つめていたがやがてなにか思い当ったような顔になった。そしておずおずと

「あの・・・もしかして山中さんの坊ちゃんではないですか?」

と尋ねた。すると山中大佐は微笑んで「はい。そうです――その昔、隣の家に住んでいた山中のワルガキの下の方です。お久しぶりです!野村のおばさん」と言った。中佐の母親は「やっぱり!ねえお父さん、私が言ったとおりでしょう」と言って喜んだ。中佐の父親も

「おお!あの小さかった坊ちゃんがこんなに立派になられて――御両親はお元気ですか?」

と懐かしげな顔になってきいた。山中大佐もうれしげに「いやあ、私は相変わらずのワルガキのままで・・・はい、父も母ももう数年前に相次いで亡くなりました。兄は今佐世保の鎮守府に居ります」と言って笑った。

「そうだったのですか・・・知らなかった。でも何年ぶりでしょう。山中さんご一家が御引越されて以来ですね」

中佐の父がそういった時、母親が「お父さんその前に次ちゃんを――山中さんがお疲れになりますよ」と言い、母親が先に立って料亭が用意してくれた一室に中佐を運んだ。山中大佐は、いとおしそうに中佐をマントに包んだそのままで抱いてゆく。その様子を見た中佐の父親には何か心に響くものがあった。しかしそれをおくびに出さず彼の背中を見つめる父親である。

あてがわれた一室には、料亭の女将が気を利かせて布団を延べておいてくれた。中佐の母親が掛け布団をはぐると、大佐がマントのまま野村中佐を布団の上にそっと置いた。まだ中佐は目を覚まさない。優しいまなざしで見守る大佐、中佐の母親は「次ちゃん、次ちゃん」と呼びかけその身体に手をかけ軽くゆすった。

と「ううん・・・」と軽くうなって野村中佐は目を覚ましたようだ。ふうっと目を開けた中佐は、自分が布団に寝かされ目の前に山中大佐が居るのに驚いてはっきり目が覚めた。

「山中大佐、私は一体?」

そう問う中佐に山中大佐は優しく微笑んだ。中佐の母親は山中大佐に「少しの間次子を、お願いいたします。私達は先ほどの部屋に居ります」と囁くとそっと部屋を出る。母親は<軍人>同士の話もあろうと気を利かせたのである。野村の母親が部屋を出た後大佐は

「お見合いの最中だったのですね、でもあんなことになるなんて。もう平気です、あの男性は帰りましたよ」

と言って安心させるようにマントの上から中佐の身体を優しく叩いた。すると野村中佐の瞳に見る見るうちに涙が盛り上がった。まぶたを閉じると涙が流れ落ちた。

「私、うかつでした。ぼんやりしていて人気のない道に連れ込まれたのも気がつかなくて。私あの男性に聞くに堪えないことを言われて腹が立って、そのあと・・・」

中佐はそこまで言うと嗚咽を漏らし始めた。山中大佐は両掌で野村中佐の頬を流れる涙をぬぐった、そして

「あなたはうかつなんかじゃない。見合い相手にそんな非礼な行為に及ぶ男が悪いのですから、あなたは自分を悪く思うことなんか一つもないんですよ、いいですね、野村さん」

と言って彼女をひたと見つめた。野村中佐は「山中大佐・・・」と言うとマントの下から彼に片手を伸ばしてきた。その手をつかんで、彼女を包むマントをそっと取り去った大佐はその下の彼女の体が軍装をまとっていなかったのに今更ながら気がついた。

 

彼女の軍装はあの男性に脱がされていたのを、中佐の身体ごとマントで一緒に包んできたのだ。そしてその軍装は今、中佐の両親のいる部屋に落ちていた。

母親が「あら・・・これは次ちゃんの」と部屋の隅に落ちている一種軍装と短剣を持って「持って行ってやりましょうね」と腰を上げかけたのを、父親は「まあ、待ちなさい。まだいいだろう」とおしとどめたのだった。母親は「はい・・・そうですね」とほほ笑むと、軍装をたたみ始める。父親は軽くうなずいて湯呑の中に残った茶を飲み干した。

 

マントが取り去られたその時、中佐は自分が肌着だけなのに気がつくとハッとして体を隠そうとした。が、それよりも早く大佐の身体が野村中佐に覆いかぶさるようにしてきた。

抱きしめられた。

<初めての>男性からの布団の上での抱擁。

野村中佐は、どうしていいのかわからないまま身を固くして大佐に抱きしめられている。大佐は彼女の耳元で

「野村さん・・・いや次ちゃん。あなたは覚えていないかなあ。昔あなたの家の隣に住んでたワルガキの事を。そのワルガキはまだ赤ん坊だったあなたをおんぶさせてもらっていたことがありました。それからもう少し大きくなったあなたをこうして抱っこして寝かせたことも」

と囁いた。中佐はまぶたを閉じて古い記憶をまさぐった。古い古い、一番古い記憶を探った時――

「ああ・・・そうよ!私はとなりのおうちのあのお兄ちゃんが好きだった。よく遊んでくれた。一緒にあちこち駆け回って・・・でもそのうちお引っ越しされて会えなくなってしまったあのお兄ちゃんが――山中大佐?そうなんですね?」

そう語った野村中佐のまぶたが開くと大佐を見つめた。二人の視線が、絡み合った。大佐はそっとうなずくと

「そうですよ、私があの<お兄ちゃん>。――あの時三人で工廠にいらした中のあなたを見て、あなたこそ私が大好きだった――いや今でも大好きな次ちゃんだと思いました。そのあと確認してあなただとわかった時の私の喜びをわかって下さいますか?私はあなたのことが好きです。昔からずっと、ずっと今までもそして」

とそこまで言うと一旦言葉を切った。そしてさらに真面目な顔になり中佐を抱きしめる腕に力を込めると

「これからもずっと、好きでいていいですか?」

と言った。野村中佐は、山中大佐の軍装の腕をぎゅうっ、とつかんだ。そして

「はい。私も――好きでいていいですか?」

と尋ね、答える代わりに大佐は中佐の身体を力いっぱい、抱きしめたのだった。二人の間にこれ以上言葉は必要ではなかった。

 

それからしばしのあと、山中大佐は元の部屋に行き野村の母親に「野村中佐の服をお願いします」と伝えて母親は娘に軍装を持って行った。野村の父が「山中さん、今日は面倒に捲きこんでしまって本当に申し訳ありませんでした。娘の不始末であなたにご迷惑をおかけしたこと深くお詫びいたします」と謝り、大佐は

「いえ、決して中佐の不始末などではありません。あれは相手の男性が責めらるるべきことで野村中佐は一切責められてはなりません」

ときっぱり言った。父親は「ありがとうございます」と静かに頭を下げた。やがて中佐がきちんと身支度を整えて母親と一緒に部屋に戻ってきた。中佐は、山中大佐の前にきちんと座り両手をついて今日のことの礼を述べた。

山中大佐はうなずくと今度は自分がもう一度居ずまいを正してから野村の両親の前に両手をつき、深く頭を垂れると

「お願いがございます」

と言った。ふた親は、じっと山中大佐を見つめた。その視線を受けつつ大佐は平伏したまま

「次子さんと、結婚させて下さい!」

と大音声を発した。中佐はさすがにびっくりして山中大佐を見たが、父も母も、山中大佐が我が娘を見つめる瞳や抱き上げている時の様子から(これはもしかすると)と思っていたからさほどびっくりはしなかった。が一応「しかし、」と異を立ててみた。彼の想いの深さを知るために。

「しかし山中さん。あなたと次子は未だ出あって日が浅いのではないでしょうか?いくら子供のころを知っているとはいえあまりに年月がたち過ぎている。その間に次子も変わってきていると思うのですが」

そう優しく言った野村の父に、顔を上げた山中大佐はむかしのように「野村のおじさん!」と呼びかけていた。

大佐はその一途な瞳を中佐の父親に向けて

「私は昔から、そして今でも次子さんが大好きです。次子さんが海軍に入られたと聞いた時私は必死でどこにいるか探していました。なかなかつかまらなくて焦りました、が今年やっとその思いが報いられる時が来ました。次子さんがお仲間と一緒に私の勤める海軍工廠にいらしたんです――もしかしてあのつぐチャンだろうかの思いを、確信に変えた時私は決心しました。私は野村次子と結婚すると!私はつぐちゃんと結婚するためにこの年まで独りでいました、どうか、どうかこの思いをお聞きとどけくださいっ」

というともう一度その額を畳にこすりつけた。

ふた親が大佐を見つめて微笑み、中佐を見たその時料亭の玄関が騒がしくなった――

          (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・

いよいよ野村中佐もお嫁入りでしょうか。お互いの心がしっかり結ばれたようです。

 

今回のお話のテーマ曲にしたい私の大好きな曲「TONIGHT」小比類巻かほる です!



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Secre

ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
ぜひ、お子様に縁談が持ち上がった際には使ってみてくださいませ^^。でもやはり娘の結婚には男親は尋常ならざる心境に陥るものらしいですね!
ウダモさんご一家にその時が来た際―ー修羅場にだけはなりませんよう今からお祈りいたしておりますっ!

幼馴染との結婚って本当に素敵だと思いますね~♡
私は引っ越しが多かったので幼馴染がいないんですよね、ガックシ。--おお、暴れん坊双子将軍が幼馴染でしたか、それはちょっと…かな(-_-;)、ホント残念!!

なんとあの件そんなことで収束ですか??なってねえな!!

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
うふふ…脅かしちゃいましたね、そう、山中大佐は男性です!このお話に出てくる「海軍工廠」技術者は男性です^^。益川中佐とかあの人たちも男性ですよ~^^。

いよいよ副長もお嫁入りとなりそうです♡素敵な人と出会えた彼女のこれからをお楽しみに!
そしてまた、玄関先の騒ぎとは????
ご期待ください。

すっとこさんへ

すっとこさんこんばんは!
(実家にて書き込みです^^)

山中さんと野村さん。恋が実りましたね、後はいつ挙式かという段階です!

しかし気になる玄関のざわめき…いったい何が!ガーン!!
私の物語の進め方ってこの手のものが多いですね~我ながら「いやらしいやつぅ」と思いましたw。

昨日父のいる病院に行ってきましたが痴呆が進んでいますし、反面リハビリが進んでいないようでこれはもう退院後は特養に入所を考えないといけません(-_-;)。

すっと子姉さまのありたがきお祈りが天に届いて万事うまくいく気がします!!ありがとうございます!!

こんばんは!

>が一応「しかし、」と異を立ててみた。彼の想いの深さを知るために。

うぁあ、ここすごく共感しましたよ!
親心が見事に表現されてますb
私も同じ事をしよう!…とか思っちゃいましたよw
でもうちの夫がその前に、彼氏にケンカ売りそうな予感w
なんだか想像以上に修羅場になりそうで、この物語のようになってくれたらいいのに…とか思いながら読んでいましたw

幼馴染と結婚だなんて、おそらく世界で一番幸せな結婚だと思いますよb
うらやまし~!
私の幼馴染……ふたごの兄弟がいたけれど、奴らはただただ暴れまわっていて迷惑だったっっ!w
くぅ~残念!!←

ps:明大のあの事件、娘の情報によると、大学側からのお咎め無しだそうです。
よって、彼らは元気に学校に来ているらしいです(怒

あれあれ、山中大佐って男だったんだ。
てっきり「女だらけの…」だから女だとばかり思ってました。
でもこれで野村中佐も年貢の納め時?ですね。
良かったじゃないですか、いい男性と巡り合えて。不幸中の幸いだったのかな。
またなんか事件でも勃発したんでしょうか。気になる騒動ですね。

まだ何か?

きゃぁぁあああああ。

山中大佐と野村中佐。初恋はこれにて成就・・・
めでたし、めでたしと思ったら まだ何か?
玄関のざわめきとは?

見張り員さんたら なかなか一筋縄ではいかない展開
なのだからぁ。ハラハラどきどき。

お父上のこと、どうかご無理なさいませんように!
ものごとがすべて平らかに納まりますように!
遠くより祈っております。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
こちらこそいつもありがとうございます^^。

山中大佐、たいへんな場面に遭遇しましたが結果、よい方に向かうことが出来ました!さあこれからは結婚式に向けて一直線だ――ー!と言いたいのですが玄関に騒ぎってなんぞや??
妙なことにはならないとは思いますが・・・気になりますね!

次回をお楽しみに^^❤

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
幼馴染とか初恋ッて今も胸ときめく言葉ですね^^。
山中大佐の一途な愛が結実しようとしています。ずっとずっと心の中で温めていた愛は美しいと思いますね。その場限りの愛ばかり横行する昨今では「ださい」と言われるようなものかもしれませんが私はこういう愛が好きです。
そして玄関の騒ぎはなんぞや??御期待下さい!

夏越の祓の今日も何とか穏やかに過ぎて行きました。父へのお言葉、ありがたく頂きました。明日夜、仕事終えたらまた実家へまいります。明後日介護訪問人さんとの話し合いです。
父の様子は、母からの伝聞によれば決してよいものではなさそうです(-_-;)・・・

にい様にとってこれからの半年が素晴らしいものでありますようにお祈りいたしております!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
こういうところで「次回に」というのが私のヤラシイところでありますw。

そうだ!高円宮承子さま。お父様が早くに亡くなられてお母様を支えてこられて青年皇族のお勤めをしっかり果たされてらっしゃいますね。
お印が萩。
まろにい様のお庭にも萩。そしてつぐちゃん。
みんなきっとどこかでつながりがある。
私とオスカーさんは「千葉」と『山梨』のつながり。
人っていいなあと思う瞬間です^^。

夏越の祓の本日でした。
半年の穢れを払い、来る残りの半年がよい半年でありますよう祈るものです。オスカーさんの夏が素敵な夏でありますように^^。
お互い頑張りましょうね!!エイエイオー!

見張り員さん    こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
野村中佐は山中大佐に抱きかかえられて
戻られてから山中大佐のご両親と会われて
子供時代に隣同士に住んでいて幼馴染み
だったんですね。
相思相愛で今回は危ないところを山中大佐
に助けてもらって山中大佐はご両親に結婚
を申し込まれて野村中佐も安心ですね。
次も楽しみです。

幼なじみ。初恋。そして結ばれる。
今どきの刹那的な男と女の出会いとは雲泥の差くらいに純粋で美しいですね。
ひとつひとつのシーンにしっかりとした歴史と物語が裏打ちされてて。
男女の縁ってこれほど崇高じゃなきゃいけないんじゃないかなと思いながら、その玄関の騒ぎは一体??

さて明日で6月も半年も終ります。明日は夏越しのお祭です。見張り員さんにとって後半年が安寧でありますように。そして病床のお父上にとっても穏やかな日々でありますようにと心から祈っています。

こんばんは。
今回もいいところで次回に~もう、先が気になって仕方ないですわ(笑)
つぐちゃんとあると高円宮さまの承子さまがうかんで参ります。お印は萩ということで、見張り員さまが兄と慕われるまろゆーろ様のお庭の萩を連想し、勝手にお二人の絆を感じているところです。
明日で今年も半年過ぎますね。いろんなことがありましたが、見張り員さまもどうぞお身体に気をつけて、これから来る暑い夏をのりきって下さいね。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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