「女だらけの戦艦大和」・それを人は恋わずらいという3

艦長室では梨賀幸子艦長が、うけとった手紙を前に複雑な思いと表情でいる――

 

手紙の差出人は、野村副長の母親である。手紙には、娘の次子に見合いをさせたい、ついては相手が大変急いでいるから今月の末までにはさせたい。そちらも忙しいというのは重々承知ではあるが何とかしていただきたい、という内容であった。

艦長としてはこれがほかの幹部や乗組員の親からの申し出であったなら二つ返事の勢いで応じただろうがこと、野村次子中佐の事となるとそうはいかないのである。

(やはり私はツッチーが愛しい。ツッチーを結婚させたくないわけではないけど何か・・・いやだ)

勝手な思いと言われればそうだが、梨賀艦長としては心乱れるものがある。艦長の心にはその思いがうねりとなって押し寄せている。

が、しかし。

副長の親からのたっての願いとあれば邪険なことはできない。自分も親の立場として考えれば子供の幸せを願わないことなどできるものではない。

意を決した艦長は副長を呼んだ。ほどなくして、まだ胸に書類綴りを抱えたままの副長がやってきた。副長は部屋に入るなり艦長の緊張した表情に

「何か緊急の連絡が?新しい作戦の話でもありましたか?」

と眉間に不安の色を漂わせる。その副長に、いやいやそんなことではないよと優しく言うと艦長は副長の手から書類綴りをとりあげてデスクの上に置くなり副長をそっと抱きしめた。

「艦長?」

と尋ねる副長に、抱きしめる腕を解いた艦長はデスクの端からあの封筒を取り、中佐に差し出した。副長は艦長の顔を、私に?と言った顔で見つめた後封筒を裏返してみた。

差出人の名前を見た副長の顔が緊張で引きしまる。副長は封筒に指を突っ込んで中の便箋を引っ張り出し、広げて読み始めた。

そして「はあ・・・」と大きなため息をついた。艦長をもう一度見つめると

「艦長申し訳ございません・・・このような個人的な通信を艦長にお送りするなど、母の非礼をお詫びいたします」

と言って頭を下げた。その美しい顔には憂いが漂い艦長は再びその体を抱きしめていた。中佐の体が艦長の体に密着した。

「で・・・ツッチーはどうするんだね?早いところ親御さんにお返事をしなければいけないから・・・こういうことは早いほうがいいんじゃないかな」

副長の耳元で艦長はそうささやき副長はかすかにうつむいた。見合いの相手とやらが前に送られてきた写真の男性であるのは明白である。が、

「私はその相手の顔こそ写真で見てはいますが名前を知らないのです。粗忽な母親でして、相手の名前を書くのを忘れておるんです。顔は見ているが名前は知らないなんてそんな見合いあるでしょうか」

といい、艦長は「なんですって!?」と素っ頓狂な声をあげていた。そして笑い出した。ちょっと驚いた顔つきで胸を離した副長に艦長は

「ごめんごめん・・・笑ってはいけないが、まあいいじゃないか、それならまっさらな気分で見合いができるってものだ。――野村中佐、艦長命令。来週末に見合いをせよ。いいね?」

と最後は命令した。副長は姿勢を正すと「はい」とその命令を受領した。その副長をいとおしげに微笑んで見つめていた梨賀艦長であったが次の瞬間、彼女を激しく抱きしめるとその唇を奪い――

 

愛の行為が済んだあと梨賀艦長はデスクに向かいペンを執った。副長の両親にあてて返信をしたためるためである。そして「急なことにて申し訳なきことなれど人生の一大事にあれば来週末にも中佐を上陸させますれば、ご両親様のよきよきやうお計らいいただきたく候」と書いて出した。

副長は、みだれ髪を直してから艦長の部屋を退出して廊下を歩きながら考え込んでいた。(あの写真の男性と見合いして、私は結婚するのだろうか?) しかしどうもピンと来ない。

最上甲板に上がった副長は、機銃座や砲塔で作業中の兵員嬢たちを眺めてふうっと深く息をついた。その向こうに見える呉の町や山を見たとき、彼女の脳裏に突如として現れた面影があった。

副長の胸の奥がきゅうっと締め付けられた・・・

 

山中大佐はそのあとも呉の町を歩く海軍嬢たちをちらちら見て歩いた。さすがに益川中佐が辟易したような顔で

「山中大佐。やはり変ですよ。こうなったら直にあの中佐に逢って大佐の想いを率直にぶつけたらいかがです?立派な技術大佐が女将兵をじっと見つめるなんかやはり変ですよ、沽券にかかわりますよ?何とか理由をつけてあの中佐にお会いになったらいかがですか」

と進言した。そのやや厳しい言葉に山中大佐はさすがに考えた。そして

「そうだね、益川君の言うことは正しいね。よし、私も一世一代の勇気を奮って彼女に心の内を打ち明けよう!休暇のうちにどうしたらいいか考えて、そうだな、今週の末にも彼女を何とか呼び出そう。益川君、こんなところまでつきあわせてすまなかったね。ありがとう」

と意を決して益川中佐に言った。益川中佐はやっと愁眉を開いて

「それでこそ山中大佐です、男はそうでなければいけません。では、休暇中に作戦(・・)をじっくり練っておいてください」

と笑って、やがて二人は右と左に分かれたのだった。

 

副長が胸の奥にきゅうっと甘酸っぱいものを抱えて艦内に入るとオトメチャンに最初に出くわした。オトメチャンは心なしか華やいだ表情で副長に礼をした。

副長は「おやオトメチャン。今日はなんだかうれしそうね?」と話しかけるとオトメチャンははい、と言ってから

「すぐ上の姉から手紙が来ました。うちをあれこれと気遣ってくれてうちは今日とてもうれしいて。きょうだいいうもんは、やはりええもんじゃと思いました」

と言ってほほ笑んだ。その微笑みが副長にもうれしく「そう、それはよかった」というとオトメチャンの肩を軽くたたいて喜びを分かち合った。

副長はオトメチャンの歩み去る後姿を見送りながら(あの子にも本当の幸せが来てほしい。そしてどこかにいい人がいたら・・・って、ああ!オトメチャンには麻生少尉がいたっけね)と思って苦笑した副長であった。

 

梨賀艦長が副長の両親にあてて出した手紙の返事がその週の半ばに艦長宛についた。副長の母親の浮き立った心そのままのような文字が三日後に呉に行くのでそこで見合いをさせると知らせてきた。

その晩の巡検後、艦長はその手紙を副長に差し出しながら

「――だそうだ。いいね副長、三日後に上陸するように」

と言った。副長は「はい」と言って手紙を持ったままぼんやりしている。視線を手紙ではなく少しずれた床の上に落してぼんやりしている。梨賀艦長は椅子から立ち上がって「副長!」と言ってその肩をトンと叩いた。

ハッとして我に返った副長に梨賀艦長は

「どうしたね?副長らしくない。ぼんやりして?」

と言った。副長は何か重いものを飲み込むような顔になって苦しげに艦長の顔を見つめた。そして

「いえ・・・なんでもないんです。申し訳ありません、ぼやっとして」

と謝ると「では各科長に三日後を頼んできます・・・」というと艦長室を出て行った。ドアがぱたりと閉まって梨賀艦長はしばらくドアを見つめていたが(ツッチ、どこか体の具合でも悪いんだろうか?心配だ)と思い、しばらくの間そこで考え込んでいたがつと立ち上がると日野原軍医長をたずねに部屋を出た。

日野原軍医長は自室にいて分厚い医学書を読んでいたところだった。

「こんばんは、艦長。さあどうぞ」

日野原軍医長は艦長をにこやかに招き入れて椅子をすすめた。すすめられた椅子に座りながら艦長は

「いつもお勉強中にお邪魔してしまって申し訳ないことです」

と謝った。軍医長はいやいや、と言ってから戸棚からウイスキーの瓶を取り出したが艦長は「今日はちょっと、大事な話なので」と断った。軍医長は瓶を戻してから

「大事な話?大事な話というと・・・作戦上の話か何かでしょうか?」

と尋ねる。その軍医長にあわてて片手を横に振って艦長は「いえいえ!全く違いますーー違いすぎて申し訳ないんですが」というと「じつは」と副長の様子について語り始めた。軍医長は艦長の語る副長の様子に聞き入っていたが、はたとひざを打った。

そして「そりゃあ艦長。もしかしたらもしかするかもしれませんね」と笑うと座りなおしてからやおら、言い放った。

「そりゃあ艦長、副長は―ー」

        (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・

 

さまざまに思い揺らめく人間模様が描き出されるわが「女だらけの帝国海軍」でございます。そして男性技術佐官の山中大佐は野村副長にアタックをかけるのでしょうか。

次回ご期待ください!


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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
ありがとうございます^^、私自身も自分の誕生日を忘れかけていましたw。どんな一年が待っているのでしょう?楽しみでもあり不安でもあり――ッてみんな同じですね^^。

母と別れるのがこんなにつらかった時はついぞありませんでした。なんだか女々しいですね。
でもこれから孝行しないとなあと肝に銘じております!!

もう一度。
そうでした。昨日は誕生日だったのです‼️
遅くなりましたがおめでとうございました。良い一年であってもらいたいと願っています。
お母様を置いて帰らねばならないつらさ。電車の中で涙するのも血を分けた親子だからこそ。これからは存分に孝養に励んで頂きたいと思っています。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
そういえば昔、「クレクレタコラ」ってアニメがあったような記憶がありますねw。

さあ、これからのみんなはどうなってゆくのでしょうか?「女だらけの大和」、新しいシーズンに突入・・・でしょうか?
ご期待下さいませ^^。

またもや暑くなり始めましたね、オスカーさんも御身大切になさってくださいね^^。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
愛しいものは――手離したくはないですよね。梨賀艦長、つらい気持ちを抑えねばなりません。
果たして副長の見合いとやらどうなりますか。
そして山中大佐は??

日野原軍医長のお見立てはいかに?
ご期待下さいませ。

にい様には様々にご心配をいただきましてありがとうございます。19日(この日は私の誕生日でもありました)帰ってきましたが・・・帰りのがら空きの快速電車の中で、母を一人残すせつなさに泣いた私をお笑いください・・・

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
そうなのです。艦長にとって副長は特別なのです^^。
そして幸せな結婚をしてほしい気持ちもある半面自分のものでいてほしいという感情もありとっても複雑なのです・・・
山中大佐はそして、副長に告白をできるのか!?
緊迫?の次回をお楽しみに~~❤

おはようございます。
呉の上陸作戦名は何になるのか? 幸せをクレクレ!щ(゜▽゜щ)になるのか←こんなダサいのは許されないですね(;A´▽`A
少しずつ人生の転換期の歯車が回り始めました。きれいな音色が奏でられて皆さまがhappyになれますように。
お身体に気をつけて下さいね!!

愛しくて本当は手放したくないはずの艦長の気持ち。つらいだろうな。僕だったら無理ですっ!!
筋を通さねばならない人の立場って常人には真似のできないことですが、それがまた上に立つ人の資質でもあり求められる器でもありで……。
博学、碩学の日野原軍医長が思い出したことっていったいなんでしょうか。
わくわくどきどきが始まりましたね。

無理しないように過ごして下さい。兄

見張り員さん     こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
艦長は副長さんのことを特別にみているんですね。
副長さんはお母さんからの手紙が艦長に行ってお見合い
をするために三日後に呉に行くのでそこで見合いをするた
めに副長は三日後に上陸するように言われたんですね。
山中大佐の告白も気になりお見合いも気になりますし副長
さんどうされるんでしょうね。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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