2017-09

「女だらけの戦艦大和」・それを人は恋わずらいという2 - 2014.06.14 Sat

益川中佐は一瞬のためらいの後、山中大佐に向かうと言った――

 

 

「山中大佐。大佐はもしかして」

そういった中佐を山中大佐は見つめた。益川中佐は、ごくりと喉を鳴らしてから、

「大佐はもしかして、あの時のあのかたを想ってらっしゃるのではないですか」

と言った。

山中大佐は「う・・・」と言葉に詰まって一瞬顔を伏せたが次の瞬間顔をあげると益川中佐に向かい

「そうだよ益川君。私はあの人をずっとあれから想っていたんだよ」

というと呉湾を見つめた。その方角の沖には『大和』がその巨躯を浮かべているのが遠望できる。益川中佐は(やっぱり)と思うと一人で何度もうなずいた。うなずいて

「そうだったんですね大佐。――しかし大佐も、こういっちゃあなんですが変わったご趣味ですね。まさかあんな人がお好きだとは」

というと呵々大笑した。しばらく笑ったあと自分の横に立ってこちらを睨みつけている山中大佐に気が付くと益川中佐はあわてて笑いを引っ込めた。そして

「いや申し訳ございません私としたことがついうっかり。でも・・・あの威勢のいい中尉を山中大佐がお気に入りだとは・・・益川意外でした」

と言った。すると、

「なんだって、私がどうしてあのラケット中尉を好きにならねばいけないのだ?益川中佐はいったいぜんたい、私のどこを見ているのだ!私が想っているのは――」

というなりほほをぱっと朱く染めた。益川中佐は、大佐の次の言葉を待った。が、なかなか出てこない。じっと大佐の横顔を見つめている中佐に、山中大佐は

「益川中佐、察しなさい!」

と少しばかり語調が強くなったがそう言った。一陣の海風が吹き付け、二人の技術佐官はあわてて軍帽の庇をつかんだ。海風が二人のはるか後ろに走り去って軍帽の庇から手を離したとき、山中大佐は沖に浮かぶ『大和』を見つめたまま、

「野村中佐だ」

と言った。益川中佐は聞き取りかねて「は?何とおっしゃいましたか?」と言った。その中佐に向き直ると山中大佐は今度は大きな声で

「野村中佐、と言ったのです!私は・・・私は『大和』の野村中佐に・・・その・・・恋をしました」

というとそっぽを向いてしまった。耳まで赤くなっている。益川中佐はこの期に及んでやっと、やっと山中大佐の想いに気が付いた。

「おお!あのきれいな中佐ですか!さすが山中大佐、お目が高い。そうですとも、ラケット中尉であるはずがないですよねえ。あの時来た三人のうちきれいで聡明なのは野村中佐と繁木大尉でしょう。しかし繁木大尉は繁木少佐の奥さまですからそうすると後は野村中佐しかいませんものねえ。――誰だ山中大佐の想う人がラケット中尉だなんていったやつは!」

と最後は憤激したように言ったが

「それは益川君じゃないか!」

と大佐に指摘されて「あ・・・そうでした」と言って小さく舌を出した。そうしてから益川中佐は急に真面目な顔になると

「で。大佐は今日あの方を探してきょろきょろなさってらしたのですね」

と言って、山中大佐は益川中佐を見るとうなずいた。そして再び視線を『大和』へ当てると、

「そうなんだよ。でも益川君、彼女はあの大きな艦の<副長>なんだろう?副長の役割は大変忙しいと聞いた。私は心配だよ、彼女がそんなキツイ役職をこなしているというのが信じられない。しかもあの艦にはラケット中尉のような変人士官やわがまま下士官が多いと聞いたが?そんな連中を彼女のような<大和をとめ>が束ねるなんて・・・かわいそうだ」

と言ってしばしその瞼を閉じた。が、『大和』の名誉のために言っておくなら『大和』に変人士官もわがまま下士官もいない。大佐は悪い噂をそのまま鵜呑みにしているフシがある。そして、野村副長も単なるやわい<大和をとめ>ではない。

 

そんな頃。

副長は、甲板士官の藤村少尉と一緒に艦内点検中で「ここ!ここに物を置いたらいかんと言っておるのがまだわからんのか!」とか「またこんなくだらないヘルブックをラッタルの下に落としているやつがいる!なにをやってる!」などと指摘して歩いては手にした書類に何やら書き込んでいる。長いまとめ髪が彼女が動くたびその背中を軽くたたく。

それを見送りながら兵員嬢たちは「はあ、パッキン二人組には参るのう。それにしても今日は、副長は妙にピリピリしとらんかね?なんぞあったんかいな。もしかしてアレの最中かね」とささやき合っている。

副長には日本海溝、マリアナ海溝より深い悩みがあってイライラしていたのだ。しかし副長たる者、私事を表面に出すわけにもいかない。だからこうして艦内巡検で発散しているのかもしれない。藤村少尉はそれとなく悟っていた。しかしその正体は何なのか、そこまではわからないが。

(さわらぬ神にたたりなし、っていうからね。まあ、副長にもいろんな悩みがあるんだろうね、佐官になれば大変なこともあるんだろうなあ)

と同情もしている。

そこに「郵便物が到着した」との連絡が入り、二人は露天甲板へと向かう。二人が最上甲板に上がるともう横付けされた小型輸送艦から郵便物などが入った大きな袋がいくつも『大和』へと移されようとしている。

『大和』から担当の兵員嬢たちが出ている。彼女たちはこの大きな袋を受け取って中身をそれぞれの分隊に仕分けするのである。副長と藤村少尉もそれに立ち会う。

本格的な休暇もまだなので、乗組員の家族からの手紙や小包がたくさんある。それを見ながら野村副長は(親や兄弟ってものはありがたいね。こうして心配してくれているのだから)と思いつつ作業に加わった。

それが終わるころ副長は主計長に呼ばれて場を去った。残った藤村少尉が後の陣頭指揮をし、手紙類の仕分けは無事終了と相成った。

手紙や小包は各分隊の分隊員たちの手元に渡った。航海科では小泉兵曹や石川水兵長など実家からの便りに
「ああ、やっぱり親の手紙はうれしいのう。持つべきものは故郷じゃ」

と言ってうっとりした表情をしている。その様子を寂しげに遠くから見ていた見張兵曹である。オトメチャンは

(ええのう、手紙をくれる人がおるんは。いまさら言うても仕方のないことじゃがうちにもお母さんがおったらえかったのに)

と悲しくなってきて視界がかすんできた。あわてて部屋を走り出て廊下を少し小走りに行った先にあるラッタルの下でオトメチャンは涙をぬぐった。しかし涙が次々に頬を流れて止みそうもなくなった。思わずその場にしゃがみ込むと両腕に顔を伏せて声をあげて泣き始めた。いつもなら優しく慰めてくれるはずの麻生分隊士は今朝から呉停泊中の艦船の見張指揮官の集まりで留守である。

しばらく泣いていたオトメチャンの背中にやわらかい手が置かれた。泣いていたオトメチャンが顔をあげるとそこには樽美酒少尉がいて優しく微笑んでいた。

「見張兵曹、どうしたの?」

と言って少尉はオトメチャンの横にしゃがみ込んで尋ねた。オトメチャンは鼻をすすりあげながら理由を話した。樽美酒ゆう少尉の顔が悲痛にゆがんだがオトメチャンを奮い立たせるようにその肩をパンパンと叩くと

「そうか・・・分かってはいても悲しくなってしまったのだね。でも、オトメチャンにはこの人がいるじゃない」

と言って一種軍装のポケットから何かを引き出した。オトメチャンが見ればそれは一通の封筒で、樽美酒少尉は微笑みながら手渡した。封筒の裏には「新井貴子」の署名、これこそ見張トメ二等兵曹の腹違いの姉でこの正月に和解し合った仲である。ハッと息をのんで、次の瞬間喜びに頬を桜色に染めたオトメチャンを樽美酒少尉はうれしそうに見つめる。そして

「よかったね、オトメチャン」

というともう一度その華奢な肩をそっと叩くと二次士官室へと歩いて行ったのだった。立ち上がってその後ろ姿に敬礼したオトメチャンは、もう一度しゃがみ込むと封を開くと便箋を引き出した。

 

そして艦長室では、梨賀艦長が遠方から届いた意外な人からの手紙を受け取っていた。

(なんと・・・)

艦長はその人からの手紙を、何とも言えない表情で読んでいく――

     (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・

 

山中大佐の想い人はやっぱり野村副長でしたね。この恋の行方は一体どうなるのでしょうか。そして梨賀艦長はいったい誰からの手紙を受け取ったのでしょう?

次回をご期待ください。


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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんにちは!
さまざまな不安が身中に渦巻いてはいますがこればかりはいかんともしがたいことが多いのであまり心煩わさず推移を見守ろうと思っております。

「恋わずらい」なんてもう忘れかけた感情ではありますが、こんな時こそこういう内容で書いてみたいと思い選んでみたテーマです^^。

私は全然そんな、えらくも強くもないですよ(^^ゞ、でも母親を支えるためには頑張ります!ありがとうございます!!

久し振りに拝見したテーマが「それを人は恋わずらいという」なんですね。
心中は穏やかではないと思いますが、ご親族の不安を払いのけるように
このテーマに臨んでるんですね。
偉いな、強いな、見張り員さんは。これからも頑張ってくださいね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは!
ラケット中尉・注意。素晴らしくシンクロしております~~!しかし物騒な人ですよ松岡中尉。

今ではEメールが主流と言っても過言ではないですが我々中学くらいは文通をよくしたものでしたね!私もご多分に漏れず文通仲間がいましたっけ。便箋を広げるあの瞬間が好きでした。
「切手のないおくりもの」!懐かしい歌ですね♪

父親不在の父の日でした。
おお、「乳の日」だなんて♡、麻生分隊士がやりそうですねww!

朗読と言えば、中学2年の時の「正課クラブ」は<朗読クラブ>でした。実はアナウンサー志望でしたので(~_~;)・・・

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんにちは!
いつもコメントをありがとうございます^^。

山中大佐、心に思う野村中佐の事をどうするのでしょうか!?
しかし、松岡中尉と間違われて本気で怒った大佐はマジメに心外だったのでしょうww。

そして梨賀艦長に来た手紙の中身は!
ご期待くださいませ^^。

こんにちは。
>ラケット中尉
「ラケット注意」にも繋がる素晴らしいあだ名です(笑)
手紙、開封する時も便箋を広げる時もドキドキしますね。戦時中は綺麗な便箋とかはムリでしょうが、その分、綺麗な文字や文章が綴られていたように思います。
昔、文通していた人から『切手のないおくりもの』という歌を教えてもらったことを思い出しました。
今日は「父の日」!大和だと「乳の日イベント」があるのかしらん?とおやぢなことを考えたりして…!出版に関わっていた父上さま、見張り員さまの朗読とか喜ばれるかもしれないですね。

見張り員さん    おはようございます♪

いつもありがとうございます♪
益川中佐は中川大佐についに聞かれて勘違いで松岡中尉
と間違えて野村副長を想っている事を益川中佐に話してこれ
からどうなるか気になりますね。
梨賀艦長の手紙の相手も気になりますね。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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