「女だらけの戦艦大和」・それを人は恋わずらいという1

松岡修子海軍中尉の大騒動の後、海軍工廠の山中大佐はぼんやりすることが多くなっていた――

 

そんな大佐を皆は心配して「どこか悪いのではないだろうか」とか「仕事が多すぎてつらいのではないか、代われるときはだれか代わって差し上げたほうがいい」などとひそかなささやきが工廠内のあちこちでささやかれるようになっていた。

航空工廠の技官が時折訪ねてきて「無敵のラケット」研究の進捗を見に来るがその時こそ元気に応対はするが技官が帰ってしまうとふーっとため息をついて椅子に座り込んでしまう。

益川中佐が

「どうしました山中大尉。最近元気がないですが…どこかお悪いんじゃあないですか?」

とさすがに心配して声をかけた。これまで大佐の様子に心を痛めていたが声をかけかねていた。が、一向に様子に変化の見られない大佐に、ついに業を煮やしたのだ。益川中佐はじっと山中大佐を見つめていた。その益川中佐に山中大佐はゆっくりと

「いや、どこかが悪いというんじゃないんだ。平気だよ、平気。さあ、例のラケット兵器の研究を急がないとね」

というと立ち上がって部屋を出て行った。その後ろ姿にやはり、力ないように思えた益山中佐は深いため息をついた。

その話を伝え聞いていた山中大佐の上司の、江崎技術少将は大変心配して部屋に益山中佐を呼ぶと

「山中大佐はどんな具合だ?二日ほど休暇を出したらどうだろうか、彼に今、倒れられたらとても困る」

といい山中大佐は三日の休暇をもらうことになった。恐縮する山中大佐を益川中佐は

「一緒に街中まで行きますよ。飯を一緒に食いましょうよ」

と誘って二人は海軍工廠の研究棟を出た。江崎技術少将が見送りに出てきて「山中君。短いがゆっくり休んできてほしい。そしてまた元気になって出勤してきてほしい。ではごきげんよう」と言ってくれた。山中大佐は江崎少将に敬礼して益川中佐と歩き出す。

 

呉の町中に近づくにつれ、益川中佐はあることに気が付き始める。山中大佐が何やら落ち着きなくあちこち見ているのである。

(いったいどうしたというのだろうか、こんなに落ち着きない大佐を今まで見たことがない)

益川中佐は不審に思った。よくよく注意してみていると大佐は、上陸してきて楽しむ艦艇の将兵嬢たちを探るように見つめているのである。益川中佐はちょっとだけ―ー気味悪くなった。

(大佐、いったいどうしちゃったんだろうか?女将兵をあんなにじろじろ見つめてたら痴漢や変態に間違われてしまわないだろうか)

心配する益川中佐をしり目に、山中大佐はそこここにたむろする将兵嬢それも、士官嬢たちをじっと見つめては肩を落としてため息をついている。

二人は大通りの食堂に入りそこで腹いっぱい飯を食べる。その間も山中大佐は士官嬢たちが入ってくるたびにじっとそちらを見つめる。まるで、

(誰かを探してるみたいだなあ)

と益川中佐は思いながら刺身を口に運ぶ。(いったい誰を探してるんだろうか)刺身を飲み下し、吸い物を一口すすったその時、益川中佐の頭に電撃のように走ったものがあった。

(もしかして――山中大佐は!?)

益川中佐はじっと、山中大佐の顔を見つめていた。

 

そんな頃、女だらけの『大和』では松岡中尉が例のラケットを振り振り艦内を歩いている。途中行き会った浜口大尉に

「おう!火の玉中尉、仕事サボってんじゃねえぞお。ワハハ、ワハハ!」

とからかわれながら。松岡中尉の後ろをハシビロコウの<ハッシー・デ・ラ・マツコ>と子犬のトメキチがついて歩く。マツコが「いやあねえ、あのおとこ女。体がでっかいばっかりで頭の中身は空っぽじゃない。アタシのマツオカに何言うのよ、ねえトメキチ」と文句たれつつ両方の大きな翼をバサバサいわせる。マツコの不満を表す行動である。それに対してトメキチは器用に後足で歩きながら

「そうね、マツコサン。でも浜口さんには悪気はないから許してあげて?それにほら、こないだ浜口さんからおいしいおまんじゅうをいただいたばかりじゃない?」

と軽くマツコをいさめた。マツコは広げた羽をたたみ、「そうだったわね。あたしもうちょとで恩知らずになるところだったわあ。危ないッたらないわね」と言って身震いした。

その先頭を松岡中尉は歩きながら、

「鳥くんも犬くんも熱くなってるねえ。そうです私も仕事をさぼっているわけにはいかないんです。というわけで君たち、私と一緒に昼戦艦橋まで競争だ、よーい…ドン!」

と叫ぶとラケットを引っ担ぎ走り出した。「キャー、待ってようマツオカー!」「待ってマツコサン」とマツコとトメキチはそのあとを追って走り出した。

三人は一塊になって昼戦艦橋を目指して走ったが途中で書類綴りを見ながら歩いてきた野村副長に思いっきりぶつかって四人ともその場に転倒してしまった。野村副長はその場に散らばった書類をかき集め、床に落ちた艦内帽を拾ってかぶりなおすと「痛た・・」とうめきながらようやっと起き上った。

松岡中尉はとみれば、仰向けのままでいたが「ヨッ!」と掛け声をかけて勢いをつけて飛び起きた。ひっくり返っていたマツコもトメキチも起き上がり「いやあねえ。ちゃんと前見て歩きなさいよ野村ったら」と文句を垂れた。

野村副長は一種軍曹についてしまった埃をパタパタと払い落としてから

「松岡中尉。気をつけなさい、やたらと走ってはいけない」

と注意した。松岡中尉はラケットを下に持ってから

「ハイ、申し訳ございませんでしたー!そして失礼を承知で申し上げますならば副長はちょっとぼんやりなさってらっしゃいましたね?」

と言った。副長の表情がちょっと変わりふいと下を向いてしまった。そして書類綴りをその胸に抱えなおすと

「すまなかった・・・確かに私は少しぼんやりしていたよ。けがはなかったかな、ハッシーもトメキチも」

と言って二人の頭をそれぞれそっとなでると歩み去って行った。トメキチがその後ろ姿を見送ってから

「どうしたのかしら?副長さんちょっと変じゃない?」

と言った。マツコは羽をその大きなくちばしで撫でつけながら「さあ?いつも変じゃないあの人」というとまたも走り出した松岡中尉の後を追い始めた。トメキチも遅れじと走り出す。

 

副長室に戻った野村次子中佐は書類綴りを机の上に置くと椅子を引出し座ると机に肘をついてほうっとため息をついた。

そして引き出しの一番上に手をかけると引出をそっと開けた。そして最近来たばかりの実家の母親からの手紙を取り出した。封筒の中に指を突っ込んで便箋を引き出した。広げられた便箋には懐かしい母親の文字で

>次子、お元気ですか。あなたの乗つた艦が内地にかへってきたと聞きました。早速ですがいつこちらへかへって来ますか?かへる日を知らせて下さひね。お見合いのお相手があなたの事を首を長くしてお待ちです――

と書いてある。副長は少し困ったような顔で便箋をたたむと封筒に入れた。そして再びため息をつくと

(見合い、見合いねえ。お母さんもお父さんもあの写真の人と見合いをしろというんだが・・何か私は気が進まない。それでもやはりしたほうがいいのだろうか?でも私にはそんなことをしている時間はないんだが)

と呻吟した。見合い相手という男性の写真を見た梨賀幸子艦長は「いい人そうだね、見合いだけでもしたらいい。結婚するもしないもそれはツッチー次第だが。――ツッチーが結婚するとなるとちょっと嫌かな」と言って副長を抱きしめてくれたのだった。

(艦長―ー)

副長の体の奥が熱くなってきて、しばらく彼女は眼を閉じてひそかな思いにふける。どこからか兵員嬢たちの笑い声が流れてきたが副長はそれも耳に入らぬかのようにそのままでいた。

 

さらにそのころ。

食事を終えた山中大佐と益山中佐は上陸桟橋近くまで歩いてきていた。相変わらず山中大佐は行きかう士官嬢たちをちらちらとみている。

益川中佐はとうとう、思い切って切り出すことにした。正面から山中大佐に向き合うとやおら口を開いた。

「山中大佐」

その声に益川中佐を見つめた大佐に益川中佐は一瞬のためらいの後言った。

「大佐。大佐は―ー」

  (次回に続きます)

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

久々に『女だらけの戦艦大和』再開です。

覚えていますか、海軍工廠の技術士官・山中大佐。松岡中尉のラケットを航空工廠とともに研究したあの人です。いったい彼は何をそんなに悩んでいるのでしょうそして誰を探しているのでしょう。

さらに―ー野村副長の見合いの行方は??次回ご期待ください。


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非公開コメント

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは^^
恋の話、コイバナ。やはり心浮き立ちますね~♡どんな恋のお話になるんでしょう??これは見ものだぜぃ!というわけでまた今後もよろしくお願いいたします^^。

そしてご心配をありがとうございます。
手術は無事すんだのですが問題山積のわが実家でございます・・・タメイキ・・・

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは^^

これを書いているのは実家ではありますがやっと再開の運びとなりました!あれこれ書きたいお話が頭の中で乱舞中w、楽しみながら書いてゆきますね~♪「女だらけの大和」どうなっていきますか?ご期待ください。

大津島。
あの小さな島には重すぎる歴史が横たわっているのですよね・・・多くの若者の命を飲み込んだ海、戦いの海を真の「平和の海」にしたいものです。
戦争は私もごめんです!

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
いつもコメントをありがとうございます^^。
昨日今日やっと雨がやみ、気持ちのいい風が吹いています。これがもうちょっと続いてくれればいいと思います^^。

さあ。
山中大佐はだれを想っていたのでしょうか??
次回をお楽しみに♡

こんにちは。新しいお話、ドキドキしますわ……お医者さまでも草津の湯でも大和のみんなでも……な恋愛絵巻になるのでしょうか?
父上さまだけでなく母上さまのお身体も見張り員さまの体調も気になります。お大事になさって下さい。

久々の再開に喜びながらも見張り員さん、無理しちゃいけませんよ。
しかし今度はどのような大和になるのでしょうか。楽しみにしていますがボチボチやって下さいね。

昨日一昨日と山口に行きました。
知らなかったのですが大津島の戦争中の歴史にビックリしました。小さな島にかけられた使命の重さ。
穏やかな瀬戸内、ここを大きな戦艦がいくつも通って行ったのかと思うと言いようのない思いをしました。
戦争は二度とごめんですね。

見張り員さん     こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
野村副長と山中大佐は松岡中尉のラケットのことで
会っていますので山中大佐は呉の町で艦艇の将兵
嬢達を探るように見つめられてきっと野村副長を探さ
れているんでしょうね。
野村副長お見合いの話があってどうするか悩まれて
山中大佐のことを気にされているかもしれませんね。

そちらも不安定な天気が続いて今日は雹が降って
突然の雨だったりと大変でしたが週末は天気も
心配がないと言っていましたのでモミジちゃんも
落ちつけますね。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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