2017-10

「女だらけの戦艦大和」・叱られて4<解決編> - 2014.06.05 Thu

 野田兵曹は、生方中尉の下宿の主人の居間に招じ入れられ歓待を受けた――

 

女主人――高田――はとうに夫を病でなくし息子たち二人も遠く離れて住んでいて寂しい思いでいたのだと言った。そんな折近所の人から「海軍さんに部屋を貸したらええ」と言われ空き部屋を生方中尉に貸すことになったのだという。

高田は「ほしたらこげえな可愛い妹まで連れてきてくれて、息子しかおらんかったうちに二人も娘が出来てうちは嬉しいて嬉しいて」と言いながら作ったばかりだという汁粉を椀にたくさん入れて持ってきた。そして

「たくさん食べんさい。遠慮せんと」

と言って、野田兵曹はとても感激して最初の一杯を平らげたそのあと三杯、おかわりをした。膨らんだ腹を撫でていた野田兵曹であったが突然我に返ったようにきちんと座りなおすと高田の前に両手をついて

「初めてお目にかかった御方の家でこのような振る舞いをどうぞ、お許しください!」

と言って頭を下げた。畳に額をこすりつけて謝る野田兵曹を最初びっくりしたような顔で見つめていた高田だったが次の瞬間には笑い出し、野田の軍装の背中を優しくたたいて

「なーにいっとるんねえ。うちはさっき言うたじゃろ?うちに娘が二人出来た、て。一人目が生方さん、ほいで二人目が野田さんじゃ。娘が親に遠慮したら可笑しいで」

と言った。

野田兵曹の顔が上がって、高田をひたと見つめた。その唇がかすかに震えると「おばさん・・・」と動いてその瞳には涙が盛り上がった。涙が野田の頬を伝い落ちて高田は驚いた。そこで生方中尉は野田のこれまでとさっき会った実家でのことを話してやった。

「そうね・・・野田さんもつらい思いをして来たんじゃねえ」

高田は野田の気持ちを思いやってつらげな声になった。そして、

「ほいでもあなたはもう帝国海軍の立派な軍人さんじゃ。誰も、何も恐れんでしっかり軍務に励んでつかあさい。つらい思い出はここに捨てて行きんさい」

と言ってさらに野田の背中を優しく撫でた。実の母にもそんな優しい言葉や行為を掛けられたことのない野田兵曹は、高田の膝にしがみつくと思いっきり泣いた。まるで子供のように。

生方中尉はその様子をしばらく見つめていたが

「高田さん、お願いがあるんですが」

というと若し高田さんさえよければここに、私の部屋に野田をしばらくおいてやってもらえないかということを切り出した。実家で静養させるということだったがあれでは仮に実家に居られたとしても静養にはならない。かえって事態を悪化させると中尉は言い「今日中に私は艦に帰って高射長や軍医長、副長に話をしてみます。もしそれでいいとなったらお願いできますか」と頼んだ。

高田はにっこりと笑って

「もちろんじゃ。うちにはなあも異存はないけえね。許可が出るとええね」

と言ってくれた。野田兵曹も涙でぬれた顔で「生方中尉、お願いします」と懇願した。その手は高田の手をしっかりと握っている。

 

生方中尉は、『大和』に急ぎ取って返した。

そして河崎高射長、日野原軍医長・野村副長に野田兵曹の実家であったことや野田の生い立ちと、下宿でのいきさつを解りやすく話した。生方中尉は

「ですから私は、実家での静養はもう絶望だと思います。あの様子では今まで以上に良くない結果を招きかねません。それで・・・出来ますなら私は野田を私の下宿に置きたいのです。そこの女性はしっかりしたひとで、頼めば野田のしつけをもう一度してくれるかもしれません。実家でもああなれば他人のようなものです、遠くの親戚より近くの他人のたとえもありますから・・・いかがでしょうか」

と三人を等分に見つめて夢中で語った。そしてかすかにその身を震わせるようにして語り終え、そっと涙をハンケチで拭った。

高射長が「どうしましょう、副長。私には異存ありません」と言うと副長は高射長にうなずいてから軍医長を見て

「私も生方中尉の言う通りがいいと思うが・・・軍医長のお立場からはいかがですか?」

と言った。この三人とも、あまりに意外な生方中尉からの報告に驚いていた。

日野原軍医長は軽く咳払いをすると居住まいを正し、いつも来ている白衣の前を掻き合せた。そうしてから軍医長は

「生方中尉、話はよくわかった。――副長、私は生方中尉の言う通りがいいと思います。実家とはいえそれでは心も体も休まりませんからね。万が一野田兵曹がやけでも起こしたらもう取り返しがつかない。副長、高射長。私は野田兵曹を生方中尉の下宿に置くことを勧めます。そこならば至近ですし、もし何かあってもすぐ連絡も取れるでしょう。私はその方がいいと思います」

と言いきった。副長は、日野原軍医長を見つめるとうなずき「そうですね、その方がいいということで話を進めましょう。――生方中尉、御苦労だがもう一度上陸して改めて下宿のかたに野田兵曹をお願いして来なさい。高射長もそれでいいですね?」といい高射長もうなずいて、生方中尉は最終の上陸のランチに乗って今日は下宿に泊ることにした。

 

その頃、野田兵曹は高田の家で残った汁粉をすっかり平らげていた。

そして椀を台所へと運んで行き「ここで洗うてええですか?」と尋ね、流しで椀を洗い始めた。高田はその後ろで別の仕事をしながらさりげなく野田の様子を見ていたが(話にきくほど妙なおひとではないのう。育ちの良さがわかるけえ、このお人は心の中がサッパリさえすればきっとええ子になれる。そがいに時間もかからんとうちは思うがね)と考えた。そして

(この子がここで休養できるとええんじゃが)

と生方中尉の戻りを待っている。野田兵曹は椀をきれいに洗い終えて

「高田さん、こげえな感じでええでしょうか」

と洗った椀を高田の前にそっと出して見せた。洗い方に自信がないのだろうか、高田は野田が手にしている洗いたての椀を見た。

「きれいじゃわ、よう洗えてます。なあんも言うことないわ。野田さんあなた洗い方上手じゃね!」

と高田は感心して言った。野田兵曹の顔に嬉しそうな笑みが満ちた。そして野田兵曹は椀を布巾で丁寧に拭きながら

「そげえに褒めて下さったんは高田さんが初めてです。うちは実の母親にもほめられたことがなかったですけえ。――高田さん、ありがとうございます」

と言って頭を下げた。高田は「野田さん、もっと自分に自信を持った方がええよ。あなたは今まで頑張ったけえそこまで昇進出来たんじゃろ?上等兵曹言うてそう簡単には上がれんはずじゃ。じゃけえね、あなたは大したもんじゃ、自信を持ってつかあさい」と言って野田の肩を優しく撫でた。

野田兵曹の顔に、今までなかったような微笑みが満ちた。そして少し恥ずかしげに

「うちは、出来たら高田さんとこにお世話になりたい思うてます。高田さんにはご迷惑じゃとは思いますが・・・」

と囁くように言い、高田は「生方さんがうまいことしてくれるわ。待っとったらええ、きっとええ知らせを持ってきてくれるけえね。ほいでうちはちいとも迷惑じゃ思うてないよ。そがいなこと心配せんでええ・・・あなたはうちの「娘」じゃけえ」と言うとそっと野田兵曹を抱き締めたのだった。

 

上陸した生方中尉は陽が傾きだした呉の街を走っていた。

そして下宿に走り込むと玄関の扉をガラガラ音を立てて開いて「野田、野田兵曹!高田さんー!」と興奮して叫んだ。何事かと飛んできた高田と野田兵曹に、生方中尉は靴を片方ずつ吹っ飛ばしてあわてて脱ぎながらそしてそれを拾い集めて玄関の三和土(たたき)に丁寧に置くと

「高田さん。野田を、野田佳子海軍上等兵曹をしばらくの間よろしく願います!」

と大きな声で言って敬礼した。高田の顔に頬笑みが満ちて頭を下げた、そして野田も嬉しそうに笑った。生方中尉は敬礼手を下し高田に

「副長のお許しが出ましたし、高射長も軍医長も認めて下さいました。野田兵曹、貴様は当分の間ここで静養せよ。――高田さん、こいつを厳しく仕込んでやって下さい、野田は整理整頓がうまくないのでそこのあたりをどうか、よろしく願います」

と言った。高田は

「わかりました生方さん。野田さんは皆さんが思うようないい加減な人と違いますけえ、きっと艦にお戻りの時には見違えるような人になってます。うちが断言しますけえ、生方さんはご心配なく」

と言って野田もうなずいた。その野田兵曹を見て高田は

「ほいでも野田さん、うちはけっこう厳しいで?」

といたずらっぽく言って三人は一斉に笑ったのだった。野田兵曹は(高田さんになら叱られてもええ。うちはどんな厳しい言葉でも受け止められる自信ができたけえもう平気じゃ。ほいでお母さんを見返してやるんじゃ)とそっと心に誓っていた。

 

野田兵曹の新しい扉が開かれようとしている――!

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・

お待たせいたしました。野田兵曹のお話でした。

頑張れ野田兵曹、やってできないことなどない。きっと艦に戻った時にはみんながびっくりするような「きれい好き」になって戻ってくることでしょう。

期待してるぞ野田兵曹!

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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
力強い励ましのお言葉をしっかり胸に、行ってまいります!
ありがとございます!!

大変な付き添いになるでしょうが今日はしっかりとやってきて下さい。
お父上の手術の成功を心からお祈りしています。

鍵コメさんへ

鍵コメさんこんばんは!
励ましのお言葉ありがたく頂いております。
なんだかあっという間にこんな事態になり正直家族でも驚いております。
しかしなってしまったものはもう仕方ない、現実を受け止めつつ最期を迎えられたらいいと思う昨今でもあります。
悔いのないように・・・
本当にそうですね、あの時こうすればということが無いようにしたいと肝に銘じます!

梅雨に入ってから妙な気候になりましたね、どうぞ御身大切になさってくださいませ。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
野田兵曹、全く違った環境の元新しい自分を作るため頑張ります^^。
生方中尉も野田を心底心配しての処遇でした、さあ、今後野田兵曹がどんな変身を遂げますでしょうか??
そのへんもお楽しみに^^。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
本当に人は出合い次第という気がしますね。そして人を「その気にさせる」難しさは格別です(-_-;)。
野田兵曹、この出会いがいいものになるといいです^^。
輝く明日、きっと来るでしょう!!

さまざまのお励ましをありがとうございます!
精神的にもつらい時がありますが、もうなってしまったことですから一つ一つ処理して行こうと思います。明日の夜はまた千葉へ行きます!月曜に備えて!


オスカーさんもどうぞ御身大切になさってくださいね。今日は大雨、怖いくらいですね。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

見張り員さん    こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
野田さんは生方さんの下宿にお世話になることができて
よかったですね。
生方さんのお陰で下宿の高田さんに会うことができてお世話
になり静養ができて野田さんがどのように変わられるか楽しみ
です。

こんにちは。人ってどんな環境で誰と出逢うかで大きく変わりますよね。まわりがいくら言っても本人をその気にさせなくては長続きしませんし……♪明日という日は明るい日と書くのね~ 野田さんだけでなくまわりの人たちすべてに輝く明日がやってきますように(´∇`)
見張り員さまもいろいろあると思いますが、お身体に気をつけて下さいね。お話、ありがとうございました。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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