2017-10

「女だらけの戦艦大和」・狙われた松岡8<解決編> - 2014.04.25 Fri

野村中佐と繁木大尉はマントを冬の風に翻しながら内火艇に乗り込みそして、『大和』に帰って来た――

 

出迎えた梨賀艦長は「お帰り。・・・松岡中尉は?どうしたね?」と尋ねるのへ、やや疲れた表情で野村副長は「ただ今帰りました。松岡中尉を呉海軍工廠に残してまいりました・・・松岡の願いでもありましたしそうでないと工廠の皆さんに大きな迷惑がかかると判断いたしました結果です」と報告。

梨賀艦長は自室に二人を招き、詳細を聞きたがった。

野村・繁木の両士官は艦長室で、艦長従兵の見張兵曹の淹れてくれた紅茶を喫しながら工廠での出来事をすべて艦長に話した。

艦長は、

「そうか――ではあなたがた二人にはあのラケットの秘密というのか構造は知らされなかったんだね。残念だ」

と言った。副長は少し目の下に隈を作っており、その疲れた視線を艦長に当てて「はい。知りたかったのですが。まあ、山中大佐が明日にもラケットの構造を解析し始めるとのことですから何かわかれば我々にも知らしてくれるでしょう。それにしても松岡中尉があれほど妙な人間だとは私はあの時まで思いもよりませんでしたよ」と言ってふっとため息をついた。

繁木航海長も

「その通りです。大体が彼女、口のきき方がなっちゃないですね。山中大佐に失礼なことばかり言って、私はハラハラしていましたよ。それでも山中大佐は寛容なお人柄とお見受けしましたね、松岡中尉の言うことに御立腹されないでいらしたんですから」

と言った。副長が航海長を見て

「まあ、でも大佐もこんな奴とまともに話は出来んと思ってらしたのかもしれないがね。いずれにしても我々は恥をかきましたよ」

といい二人はほーっと深いため息をついた。その二人に艦長は心からねぎらいの言葉を掛け、「副長も航海長も少し休みなさい。疲れているようだ」と二人をそれぞれの室で休ませた。

 

そして翌日。

朝から松岡中尉は「熱くなれよー!尻の穴を締めるんだ、あきらめんなよー!」と大声で叫んでいる。彼女の周囲には山中大佐他、昨日のメンバーが勢ぞろいして松岡を取り囲んでいる。技術士官たちは松岡中尉のラケットをいよいよ分析・解析するために事務棟から少し離れた場所にある実験棟に場所を移したいのだ。そこで松岡中尉ごとラケットをそこに移そうとしているのだが彼女は何を勘違いしたのか、

「あなたたたち、私を襲おうとしていますね!そうでしょうそうでしょう、私は魅力的ですからねえ。さあそれならどこからでもかかってきなさい!私は来るものは拒まず、去る者はゴリラだ!」

と騒いでいるのだ。

小柴中佐がほとほと困って

「ねえ松岡中尉。我々はあなた自身をどうこうしようとは思ってないの。昨日も言ったけどあなたのそのラケットに用事があるんですよ、わかってくれてる?だから我々と一緒にここから実験棟に行きましょうと言ってるの。わかる?」

とまるで子供に語りかけるような言い方で説いた。すると松岡中尉はラケットをひと振りした。ブン!と太刀風ならぬラケット風が起き技術士官たちはうわっと身を引いた。それに構わないで松岡中尉は

「おお!なんとそういうことだったのですかあー、それならそうと言ってくれなきゃ分からないじゃない~。私はまたてっきりあなた方に襲われるんじゃないかと思って怖くて怖くて仕方がなかったんですよ。でもそうではないなら私も安心だ!ではみなさんその実験棟とやらに行こうじゃないですか、あきらめんなよー!」

とひとりで騒いでさっさと歩きだす。その中尉のあとをあわてて追う山中大佐以下の士官たち。すっかり松岡中尉に翻弄されている。山中大佐は

「待て、待ちたまえ松岡中尉。あなたは実験棟の場所を知らないだろう?そんな先にすたすた行ってはいけないよ!」

と叫んで松岡中尉を止めて、自分が先に立って歩き出した。他の士官たちは互いを見やって深いため息をついている・・・

 

実験棟につき、一室に皆入った。そこには松岡中尉が初めてみるような設備がたくさんあり、中尉は「ギャーッ!」と叫び出し皆の度肝を抜いた。中尉は器械などがお好きなようでそこに置いてある顕微鏡だとか実験用のフラスコだとかさまざまなものに駆け寄ってはいじくりまくっている。

益川中佐が「こら、松岡中尉それにさわったらいけない!あっちに行きなさい!」とまるで幼子を叱る親のようになって皆は苦笑した。

松岡中尉はやがて落ち着き、皆を振り向くとラケットをまたひと振りした。山中大佐が「うわっ、器械が壊れる!」と叫んだが松岡はあわてず、

「で?」

とまず一声放った。皆が、松岡中尉の顔を見つめると中尉は

「私のラケットをどうするんです?どうでもいいですから早いところやって下さいよ。私もその研究とやらに加わりたいですからねえ」

と言った。山中大佐は「やっと本当に理解してくれたらしい」とひとりごちると松岡中尉のそばに寄り

「では少しの間、あなたのラケットをお借りしますよ」

とラケットを受け取ろうとした。すると松岡中尉はその瞳にいっぱいの涙を浮かべて

「私のラケット、大事なラケット。ああどうか無事でいておくれ・・・熱くなれよ私のラケット」

と言って泣きながら山中大佐にラケットをそっと渡した。なんだか山中大佐は(意地悪してるみたいで嫌だなあ)と思いつつも

「ではお借りする・・・さあ皆」

と言って、技術士官たちは備え付けの白衣を羽織ると山中大佐を取り巻いて台の上に置かれたラケットを見つめたのだった。

 

長い時間をかけて、さまざまな検査をラケットに行った技術士官たちである。やがて金属の専門の士官や繊維の専門の士官もやってきてあれこれ議論を交わし合った。

ラケットはX線に掛けられ特別な何かがないかをも調べられた。

が。

これと言って特別なものが検出されない。さすがに手詰まり感を覚えた山中大佐以下は「あのガットと言われる網の部分の一か所を削って調べたらどうだろうか。見ているだけでは決して何も分からない」という結論に至った。

「私が彼女に言ってみよう」と鈴木中佐が松岡中尉を手招いた。松岡中尉は「ハイハイ、およびでしょうか?熱くなってますねえ鈴木中佐~!」といいながらやってきた。

鈴木中佐は「実は・・・あなたのラケットのガット部分をしっかり調べたいんだ。ほんの少し削らせてほしいんだが」と頼んだ。松岡中尉は

「ダメだ駄目だ!そんなことできっこないでしょう?何処から削るんです?削ろうとするならラケットから外さなきゃできませんでしょうが。――ちょっと待って下さい」

というと一種軍装のポケットをあちこち探り、「あった!」というと守り袋を引っ張り出した。そしてその口を縛る細い紐を解くと中から一本の針金のようなものを出して皆の前に指先でつまんで見せた。

「これはですね、ずっと前にガットを張ってもらった時の余りですがこれでいいですかねえ?」

その指先に、山中大佐たちが一斉に集まり「おお!」「これさえあれば」「よかったよかったー、ワハハ」などと口々にわめいている。

それを見る松岡中尉も嬉しそうに「熱くなってますねえ皆さん!いいぞ、その調子であきらめんなよ!今日からみんな富士山だーっ」と叫んでいる。

そして技術士官たちはその細い針金状のものを大事にシャーレの中に入れてさらに調べを始める。

 

結果。

この針金状のものは細くてたいへん頑丈な繊維をより合わせて作られたものであることが判明。何か金属を練り込んだ糸を幾つもより合わせて作られた太い針金のようなものであることがわかり、山中大佐他は「まだ研究しなければならないことはあるが、試行錯誤をしながら早めに完成させたい。完成したら真っ先に航空部隊を守る防御兵器を作りたい――それにしてもどうしてこんなものを一般の人が持ちえたのか、それはもう謎である」と話して意気軒昂である。

 

ようやく、松岡中尉はラケットを返してもらい御満悦である。『大和』に明日、帰れることになり艦からは再び野村副長と繁木航海長が迎えに来ることになった。

翌朝『大和』から副長と航海長が迎えに来て松岡中尉は居並んだ技術士官たちにラケットを振り上げて別れの挨拶をした。

「皆さん熱くなって新兵器を開発して下さいよー!あきらめんなよ、もうあきらめてんのか?そうじゃないだろう?尻の穴をしっかり締めて頑張れよー!」

とまた変なことを叫び出し、副長も航海長も頬を染めてうつ向く始末。その副長を優しく見つめてから山中大佐は

「ありがとう、松岡中尉そして野村中佐、繁木大尉。素晴らしい兵器が出来ることでしょうからその日を楽しみにしていて下さいね。松岡中尉ご協力本当にありがとう」

と松岡中尉に礼を述べた。

松岡中尉も笑顔で

「これで私ももう狙われなくって済みますね。やっと呉の街を堂々と歩ける、そんな幸せがほかにあるか!?熱くなれよー!・・・そしてあなたがた、油臭いですよ。ちょっとまめにお風呂に入りましょう」

と余計なひと言まで言うと笑った。皆――技術士官たちも――一斉に笑った。

 

三人は来た時と同じようにマントを風に翻しながら上陸場へと歩いて行った。

その後ろ姿を見つめる山中大佐にこっそりと益川中佐は囁いた、「山中大佐。今度は別の人を狙わねばならん様ですね」と。

『大和』ではきっと、マツコとトメキチが松岡中尉の帰りを待ち焦がれていることだろう――

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・

松岡中尉のラケットの秘密はなんだか複雑な繊維?で出来ていたようです。

が、優秀な海軍工廠の技術士官たちですからほどなく同じものを――いやもっとすごいものを――作り上げて海軍の為に貢献することでしょう!

そして――山中大尉が狙う人とは・・・やはり彼女ですね^^。

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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

matsuyamaさんこんばんは!
私はテニスラケットを高校の体育の授業で初めて持って、「重い!ガットが固い!」と大変な衝撃を受けた覚えがあります。
こんなものを振り回ししかもあの固いボールをなんなく打ち返すテニスプレーヤーはただものではないと思いました。
私はテニスができません。ボールを打ち返せないのです・・・(-_-;)。きっと松岡にどなられるのでしょう「尻の穴を閉めろ!」って。

さあ。山中大佐はだれを今度はロックオンするのでしょうか??

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
やっと・・・松岡中尉の大きな任務?が終わったようです。あとは工廠任せです(って丸投げか!?w)。

さて山中大佐次はだれを??

れい姉さんへ

れい姉さんこんばんは!
本物の零戦の装甲のやわさ、泣けてきます。機体の軽量化はわかるのですが搭乗員の命はどうなるんね?という感じで(-_-;)。

オオ!れい姉さま宅でも修造氏が出ると笑いが起きていたのですか!うちでもですよ。そして彼がTVに移るとなぜか部屋の気温が上がりますね。

そう、松岡中尉の恩師は『胡桃伊達』さん、<クルム伊達>さんからお借りしました!
頑張っておられる伊達さん、私は好きです―――!熱くなれよ!!ww。

昔、ラケットのガット触って見たことがありますが、凄い固いんですね。
あの弾力でテニスボールを弾き返すんですから、プロのテニスプレイヤーは凄いですよ。それこそ熱くならないと打ち負けますよね。
時々試合中にガットが切れるアクシデントがありますが、あれも強力なスピードボールを打ち返すだけの頑健なラケットでないと務まらないでしょうね。

さてさて次に狙われる彼女、誰なんでしょうかね。

見張り員さん   こんにちは♪
いつもありがとうございます♪
ラケットのガットを張ってもらった時の針金も出てきて松岡中尉
は副長と航海長と一緒に大和に戻れましたね。
山中大尉が狙う人が気になりますね。

こんにちは(=゜ω゜)ノ

このラケットが零戦にも生かされていれば…!!(;つД`)ww
軽量化を保ちつつ、薄い装甲を補えたかもしれませんのにww。
最近、テレビで修造が出る度に、我が家では謎の笑いが起こってたんですがw、
こうして見ると、やはり暑苦し…もとい熱いですねww。
そして、恩師のお名前は伊達さんなんですね…ww。
そういや、最近よくCMで見かけますww。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
本当はもっと複雑怪奇にしたかったんですが――私のほうの科学力が追いつきませんでした(-_-;)。
あれを使いこなす松岡中尉はすごいやつなんです、よく考えてみると発射される機銃弾をラケットで打ち返すなんて・・・人間業じゃないですね。

ご体調いかがでしょうか、あまりご無理なさいませんように。このところいろいろとありましたし季節も変わり目なのでお疲れが出たのでしょう。大事になさってくださいね^^。

ラケットの秘密、そうだったのですか。てっきりもっと複雑かと思っていましたが。
つまりは松岡の腕も相当なものであるという証拠ですね。
更に彼女がリケジョであったとは。

ここのところご無沙汰してしまって申し訳ありませんでした。少し体調も良くなりつつあります。
松岡みたいに熱くはなれませんが此処に来て元気をもらってまた頑張ります。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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