2017-10

「女だらけの戦艦大和」・狙われた松岡7 - 2014.04.23 Wed

松岡中尉は顔をあげると一言だけ言った――

 

「ダメです」。

それを聞いた一同――工廠の士官も『大和』の士官二名も――仰天して松岡を見た。野村副長があわてて

「松岡中尉、あなた話を理解してくれたんじゃないのか?中尉のラケットの威力がわが帝国海軍を救うものになると」

と言ったがその言葉を遮るように松岡中尉は山中大佐にラケットをつきつけて

「いいですかあなた。私はこのラケットが命より大事なんですよ、だから私はどんな時も、どんな時も私が私らしくあるようにこれを持っているんです。これがない私なんかそこらへんの犬の糞と同じです。それほど大事な私のラケットをあなたは取り上げてぶっ壊してバラバラにしてしまおうというんですか!あなた、熱くなり方を間違ってますよ。私はそんなあなたに協力なんかできませんよ!あなた、もっと尻の穴をしっかり締めてから私にかかってらっしゃい!」

と怒鳴った。中尉の顔は怒りで真っ赤に染まっている。ハアハアと息を荒げ山中大佐を睨んでいる。睨まれている山中大佐はどうしたものかとおろおろしている。

すると、野村中佐の怒りが頂点に達した。野村中佐は椅子を蹴るようにして立ちあがると松岡中尉の胸ぐらをグイッとつかんで自分の方に引き寄せた。そして

「貴様なんという無礼な口を山中大佐にきいて居る!?こうして山中大佐他の皆さんがどうか中尉のラケットを調べさせてほしいとお願いしておられるというのに、貴様はなんという口のきき方をして断るのだ!許さんぞ貴様、そこへなおれ!」

と怒鳴った。しかし――松岡にとって幸いなことに今日、副長は自慢の軍刀を艦に置いて来ていた。その代わり、副長は自分の右の手をグイッと握って松岡中尉を殴ろうとしていた。

と、

「まあ、野村中佐ちょっと待って下さい」

と山中大佐が声をかけた。穏やかな物言いに副長は意外な気がして松岡を殴ろうとしていたこぶしを下ろした。中尉の胸から手を離した。

山中大佐は穏やかな瞳で松岡中尉を見つめると

「あなたの言い分はわかりました・・・確かにそうですね。あなたが命より大事にしているものを貸せだなんていきなり言われて承服できるわけがない。そして我々はあなたの大事なラケットを壊したりバラバラになどしません。それは約束します。ただあなたのラケットのその真ん中の部分が一体いかなるもので出来ているのか、それを知りたいだけなのです。そしてそれがもしも、我々の持つ技術で量産できるものなら、まずは航空部隊に防御の為の兵器として使いたいのです。あなたがラケットと離れて過ごせないとおっしゃるなら、ラケットの調査中あなたはここで泊られたらいい。あなたとあなたのラケットを強引に引き離すことなど私はしませんよ」

と静かに言った。

すると松岡中尉の全身から激しい怒りの感情がスーッと抜けて行ったのを副長も、そばにいた繁木航海長も感じ取った。

松岡中尉は今度は笑みを浮かべて山中大佐の両手をガシッとつかむと

「わかって下さいましたか山中大佐!あなた熱くなっていて素晴らしいですねえ、そうなんです私はこのラケットとは離れられないんです。そうですか・・・航空部隊への兵器にですか。うん、いいぞ!このラケットのこの部分、<ガット>というんですがね。この部分は上手くすると上手くいくかもしれません!というわけで私はしばらくここで御厄介になることに決めました。

ですので野村中佐に繁木大尉はもう『大和』にお帰りになって結構ですよ。あとは私とこちらの皆さまでしますから、ではごきげんよう」

とあっさりと方向転換し副長たちに別れの言葉さえ言った。野村副長はなんだか打ちのめされたような、疲れたような表情になってしまいそれでも気丈に山中大佐に

「たいへん妙な部下をお預けすることになってしまいましたが本当によろしいでしょうか・・・」

と尋ねた。山中大佐は野村副長に

「お預かりいたします。しばらくかかるとは思いますがその間、そちらでは軍務に支障はないですか」

と優しく訪ねた。副長はその優しい口調にほっとしながら

「艦は平気です。松岡中尉の留守をしっかり補佐できる部下が居りますのでその点は。しかし皆さまには本当に申し訳ないことですが・・・よろしく願います」

と言った。松岡中尉が横から

「大丈夫ですよ。私の部下の麻生少尉は私が『大和』に赴任する前は一人で分隊長の役目もしていたつわものです。まあ私がしばらくいないと航海科の連中は寂しくて泣いちゃうかもしれませんがそのへんは副長や航海長からよーく言って聞かせてやって下さいな。おとなしく留守を守っていないと私はなかなか帰りませんよと言えばおとなしくしてくれるでしょうから。ハイではごきげんよう」

と口を挟む。

繁木航海長が「松岡中尉、やかましい」と苦情を言うと松岡中尉は

「ありゃ。航海長は御主人がいないと結構言葉が荒くなりますねえ。御主人がいらっしゃるときは女らしい言葉遣いでしたのにねえ~。もしかして、いやもしかしなくても使い分けてますねえ。さすがです」

と突っ込み、繁木航海長は「そんな・・・。大体松岡中尉がわけのわからないことばかり言うから」ともぐもぐ言った。

副長はそんな松岡を黙らそうとエヘンと咳払いを一回すると姿勢をただし

「それでは我々はこれにて帰艦いたしますが、なにかありましたら速やかにご連絡をいただきとう存じます。すべてが済みましたら改めて御挨拶に伺います」

といい繁木航海長とともに皆に敬礼。松岡中尉は益川中佐たちと部屋に残り、山中大佐が二人を玄関まで送ってくれた。大佐は

「繁木少佐は最近前にもまして朗らかになりましたね。私は今日、やっとそのわけがわかりましたよ。こんなに素敵な奥様がいらっしゃるからですね。うらやましいことです・・・どうぞお幸せに」

と言って微笑み、繁木航海長は恥ずかしくてうつむいてしまった。野村中佐はその航海長を見ながら

「はい。本当にうらやましいことです。繁木大尉もお話が決まってからこっちとてもきれいになるし張り切っています。やはり良い伴侶を得るというのは素敵なことですねえ」

と言った。山中大佐は「野村中佐は、お独りですか?」と尋ね中佐はうなずいた。そして中佐は

「私はとりえもない女ですからもらってくれる人もいないでしょう。でもいいんです。軍務に励んでいれば一人の淋しさを忘れますから」

と言って笑って見せた。

そして野村副長・繁木航海長は山中大佐に「くれぐれも松岡をよろしく」願いますと言って海軍工廠をあとにした。

その後ろ姿をいつまでも見つめている山中大佐に、呉の冬の風は優しく吹きぬけてゆく――

 

松岡中尉は、事務棟に一室を借りてそこでしばらく過ごすことになった。益川中佐が

「この部屋でいいかな?何か不自由があったらなんでも言ってほしい」

というと松岡中尉はラケットをかっこよく構えて「不自由という文字は松岡修子の辞書にはない!あなた、マスヤマ中佐はあきらめてませんか!?駄目だ駄目だそんなことじゃ。あきらめんなよ、尻の穴をしっかり締めて今日からあなたも富士山だーッ」と叫んで益川中佐は大笑いした。そして

「はいはい、あきらめないでやりますよ。一つだけいい?私は益川。マスヤマじゃないからね」

というと部屋のドアをそっと閉めた。中からはまだ、松岡の雄たけびが聞こえてきている。益川中佐は(やれやれ、なんだかとんでもない人だったなあ。あんな士官が居るんじゃあ、あの副長という人も心休まる暇がないだろうなあ可哀想に。しかし・・・大きな艦には大きな変人がいるんだね。初めて知ったよ、艦艇の秘密!)と思って笑ったり考え込んだり。

 

さあ、明日から松岡中尉のラケットの構造が徐々に解明される――?

    (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・

松岡中尉に翻弄された副長や、技術士官たちでしたがなんとか松岡を丸めこんで?ラケットを調査できるような運びになったようです。

それにしても松岡中尉どこに行っても相変わらずのマイペースぶりに技術士官たちはついてゆけるのでしょうか?心配です。

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● COMMENT ●

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
お返事遅くなってごめんなさい!

松岡中尉はよくいえば鉄の意志、悪く言えば自分勝手のマイペースです(^^ゞ。
さあ、松岡中尉のラケットはどうなるのでしょうか?

matsuyama さんへ

matsuyamaさんこんばんは
お返事遅くなってごめんなさい!

マイペースも良い方向のならばいいのですがそうでないと本当に困ったちゃんでしかないですね。
松岡も典型的なマイペース困ったちゃんですが山中大佐に上手く治められました^^。
人の性格をうまく見抜く術、身につけたいものですよね(-_-;)。

見張り員さん    こんにちは♪
いつもありがとうございます♪
松岡中尉は人に左右されない強い意思がありますね。
残ることになって副長さん達は大和に帰られたら
みんなが驚くでしょうね。

マイペースっていう人はよくいますよね。持論を持っているからなのでしょうか、人にたしなめられても考えを曲げない。正論であればそれはそれでいいんですが、相手に否定されても常に覆していく。意志が固いというのか、頭が固いというのか、我々凡人にはちょっと付き合いにくい人。
こんな人でも弱みがあるんですよね。ちょっとそこをくすぐるとゴロにゃんという感じ。相手の性格を速攻で見抜く透視術を身に付けた方ってすばらしいと思います。
山中大佐の操縦術ってすごい。こんな人を見習いたいです。

酔漢さんへ

酔漢さんおはようございます!
いつもお読みいただきありがとうございます、酔漢さんもお元気そうでなによりです^^。

やはりあったか庭球場!という感じですね。海軍省にならあっただろうなあと改めて感じいっております。そして…問題の松岡のラケット構造。正直どんなものにしようか考えています(-_-;)。自分でも納得いく形にしないといけませんので・・・。

横須賀、行きたかったです。私は酔漢さんはお出かけになったかなあと思っておりましたよ^^。カレー・・・食べてみたかたですね。いつか絶対行こうと思います。
おお!私も自宅でカレーを作っていましたよ~♪

庭球って・・・

ご無沙汰しておりました。お元気でお過ごしのことと存じます。
さて、拝読させていただいておりましてどうにもラケットが気になりまして・・。

海軍省の中には庭球場が二面あったと聞きました。
謎?ってその構造が気になります(^_^;)

「横須賀へお出かけになられたのかも」と密かに思っておりましたが、遠いですものね。
カレーが気になりましたが、行けませんでした。で、自分でまたつくりました!


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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