「女だらけの戦艦大和」・狙われた松岡6

松岡中尉は<長い話>とやらを始めた――

 

しかしその話の最初の方でもう、野村中佐と繁木大尉は(いかん、こりゃいかん。本当に長い話になる)と思ってがっくりと下を向いてしまった。

なぜなら、松岡中尉の話の導入が

「私が生まれた時、母が言ってましたがたいへんな難産だったそうです――」

だったからだ。松岡の性格からしてきっと生まれた時の話から子供時代そして今に至るまでを熱く、だらだらと語るのだろう。繁木大尉はそう思って内心舌打ちしていた。だからこいつとかかわり合いにはなりたくなかったんだ、と。

案の定、松岡中尉は

「母はですねえ、私を産むのになんとあなたがた!二昼夜も苦しんだのですよ、二昼夜。普通の女性ならもうとっくに根をあげていたでしょうがあなた、私の母は熱くなっていましたねえ。陣痛に苦しみながらも作り上げたんですよ!」

とラケットを振りながらしゃべる。益川中佐が

「作り上げた・・・というとそのラケットに関する何かだろうか?」

と身を乗り出して尋ねた。しかし松岡中尉は片手の人さし指を立ててチッチッとまるでアメリカ人のようなしぐさをしてから

「ちがいますねえ。どうして私の母がこのラケットを作るんです?いいですか私の母は陣痛に苦しみつつも生まれてくる私の為に毛糸の靴下を三足も編んでくれたんですよ。三足ですよ?普通そんなことできませんよ、痛いのに。母は熱くなってくれましたね、ですから生まれた私も熱い女になったというわけですねハイ」

と応えたので益川中佐も山中大佐もがっかりした。そしてそのあとも、野村副長と繁木航海長が危惧したとおりに自分の生い立ちを延々と語る松岡中尉。居並ぶ海軍工廠技術士官たちの表情にだんだん怒りのようなものが現れ始めたのを見てとった野村副長は

「松岡中尉もういい加減にしないか。皆さんそんなことを聞きたいのではない!貴様の持っているラケットについて話を聞きたいのだ。早く話の核心を話さないか!時間がもったいないではないか、早く話しなさい」

とたいへん不機嫌な口調で松岡を見て言った。そのきれいな顔に怒りが満ちている。山中大佐は、副長に見とれていたがハッと我に返ると

「いやいや・・・野村中佐。我々は急いでは居りませんから平気です」

とあわてて言った。が野村中佐は「松岡中尉は調子に乗るともっと大変なことになりますからこうした方がいいのであります。皆さんにご迷惑をおかけしては申し訳もございません。それに――先日松岡が呉の町中で皆さんに狼藉を働いた件、まだきちんと謝罪をしておりません。この場にて謝罪させます」といい、

「松岡中尉。先日の件を謝らんか」

と厳しい声でいい、松岡中尉は話を一旦切ると

「どうもすみませんでした―!」

と大音声を発してその場に土下座した。いつもこの様子を見ている野村と繁木の両士官にはどこからどう見ても松岡中尉が真剣に謝っているとは皆目思えないのだが技術士官たちはたいへん驚いて

「そんなにしてくれなくても平気です。ほら、もう頭をあげなさい」

と席を立って中尉を取り巻いて騒ぎ始めた。すると平伏していた松岡修子海軍中尉はひょいっと顔をあげて自分を取り巻く技術士官たちを見た。そして

「たいへんご無礼をしてしまいましたが――許して下さるのでしょうか?」

とまるで乙女の様な声音で小さく言った。皆がうなずくととたんに松岡は

「熱くなってますねえ!いいぞ、今日からみんな富士山だ!さあ、あきらめんなよー、尻の穴を締めろー!」

と叫んですごい勢いで立ちあがりラケットを天井に向かって突き上げた。技術士官たちはその豹変ぶりに腰を抜かしてしまった。

繁木航海長が「ほら出た。だから松岡は困るんですよね」とため息をつき、野村中佐も「真剣なのかそうでないのか、判断しかねる。どういう精神構造なのか、一度日野原軍医長に診ていただきたいよ」と言ってそっと髪に手をやった。

 

ともあれ松岡中尉の様子に疲れた工廠側は「しばらく休憩をとりましょう」と言ってぞろぞろ部屋を出て行った。

残された三人、野村副長がまず「ふう~っ」と大きな息を吐いた。次いで繁木航海長も。そんな二人を交互に見つめて松岡中尉は

「どうしたんです二人とも!?ため息なんかついて、もうあきらめてるのか?駄目だ駄目だそんなことじゃ、あきらめたらそこで終わりだぞ?――さあ、しっかり尻の穴を締めて深呼吸だ。そしたら今日からみんな富士山だー!」

と叫び、野村中佐はいよいよ頭を抱えてしまうし繁木大尉は椅子から立ち上がって

「松岡ー!貴様一体どういうつもりだ、自分の言ってることやってることわかってんのか?ああ!?」

と怒鳴って松岡中尉の一種軍装の胸ぐらをつかんだ。

と、部屋のドアがノックされ「はい?」と副長が答えるとドアが開いた。ドアの向こうに立っていたのは

「繁木悟朗」少佐

だった。一瞬ぽかんとして、松岡中尉の胸ぐらをつかんでいた繁木航海長だったがやがて「・・・あなた」とつぶやき、野村副長はあわてて立ち上がり「繁木少佐。お久しぶりです」と挙式以来の挨拶をした。

繁木悟朗少佐はにこやかに部屋に入ってくると

「『大和』からのお客様がいらしていると聞いてもしかしたらフミさんが・・と思って聞いたらそうだというので来てみました。――野村中佐、いつも妻がお世話になっております。どうぞこの先もお見捨てなく願います」

とあいさつし、野村中佐はあわてて

「こちらこそお世話になっております・・・繁木少佐には御機嫌麗しゅう」

と改めてあいさつしたがちょっと硬くなっている。繁木少佐は、「ありがとうございます。野村中佐どうぞお楽になさってください・・・フミさん、そして松岡中尉もお茶でもいかがですか」とほほ笑んで手ずから日本茶を淹れてくれた。

松岡中尉は日本茶を飲み、出されたせんべいを盛大にかじりながら

「繁木少佐、熱くなってますねえ!おいしい日本茶をいただいて、おいしいせんべいを食べたらもう怖いもの無し!熱くなって敵撃滅ですよ、あきらめんなよーー!今日からあなたも富士山だ」

と怒鳴って繁木少佐は大笑いした。恥ずかしくて顔を上げられない副長に代わり、妻の繁木航海長が

「松岡中尉、いい加減にしなさいとあなたさっき副長にご注意を受けたばかりでしょう?少し自重なさい」

といさめた。すると松岡中尉はニヤ~と気味の悪い笑顔をその顔いっぱいに浮かべると

「ありゃあ~航海長。旦那様が来たら急に言葉使いが丁寧になりましたねえ~、さっきみたいにもっと熱くなって私を罵ったらいかがです?さあ、尻の穴を締めて!」

と言って繁木航海長は居心地悪げにそっぽを向いてしまった。その松岡中尉の尻を、野村中佐が後ろからけり上げた。そして「黙ってろマツオカ!」と厳しい語調で叱りつけた。

そんな三人を、微笑みながら見ている繁木少佐である。

 

休憩をはさんで再び技術士官たちは集まり松岡中尉は「話の核心」を語らされることとなった。野村中佐・繁木大尉の厳しい視線にさすがの松岡中尉もまじめに語り始める。

「このラケットは・・・私が海軍兵学校に入る時中学のテニス部の顧問の先生にいただいたものなんです」

そういう松岡中尉に技術士官たちは身を乗り出す。松岡は言葉を継いだ。

「顧問の先生――胡桃伊達(くるみだて)キミ先生――は『あなたのテニスの才能は素晴らしい、この先どこに行ってもテニスを忘れないでね』と言ってこのラケットを記念にくださったんですねえ。そのとき先生は私に「このラケットは肌身離さずに。あなたを守ってくれますよ、もしあなたが戦場に出て弾丸が飛んできたらこれで跳ね返しなさい』って言って下さったんです。まあその当時私もそんなことあるわけないだろう!とあきらめていたんですが、兵学校を出てあれこれ艦を転勤して『瑞鶴』に乗った時これを使う時が来ましたよ!とある海域での戦闘で、私のいた艦橋に敵機が突っ込んできました・・・あぶなーい!私は自分の前にいた見張り員くんを突き飛ばして敵機からの機銃弾をこのラケットで撃っていましたよ。そしたらですねえ、信じられるか!?機銃弾が跳ね返って敵機が撃墜出来たんですよ!熱くなりましたねえ私!」

そこまで一気に話すと松岡中尉は椅子に座って湯呑に残った茶を飲み干した。

技術士官たちは一斉に唸り声をあげると腕を組んで考え込んだ――まさか、まさかこんなすごいものがどうして一般民間人が所持していたのだろう。大体どこでこれを開発していたのだろう。

胡桃伊達という名前にも心当たりはない。もし何らかの形でこうした技術にかかわっていたものが軍関係でも民間でもいたら知らない我々ではないというのに。ともあれ。

「松岡中尉、ラケットを所持するにいたった経緯はよくわかった。我々の希望を申し述べる――そのラケットを詳しく調査させてほしい」

山中大佐が言った。

すると松岡中尉は苦渋の表情を浮かべて「調査、と申されますと・・・しばらくの間このラケットをここに置いて皆さんにお渡しするということですよね」と言った。山中大佐が重々しくうなずくと松岡中尉は顔をあげて言った――

    (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・

ラケットの秘密はまだ深いベールの中。しかし松岡中尉はこのラケットを譲り受けたのでした。

一体このラケットはどういう構造になっているのか、それよりも工廠はこのラケットを利用して何を作りたいのか???

次回をお楽しみに。

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Comments 8

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見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
松岡中尉自身も結構謎だらけの女ですし、その持ち物とくればもうどんなもんだかですねw。

そうそう!横須賀は住民が減っているらしいですね。私は何年か前、「三笠」を見に横須賀に行きました。「横須賀中央駅」から歩いて行ったのですがなんと!『ピンク映画館』があって大感激したことがあります。その昔、千葉にもあったはずですが時の流れとともに消えて行ったあの淫靡な映画館ww!横須賀大好きです(って何言ってんだか)。

おとといから体調を崩し昨日は寝込んでしまいました。どうもこの陽気がいけません。
まろにいさまもご自愛くださいませね。

2014/04/22 (Tue) 21:31 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
松岡のラケット、いろんな想像が膨らみますww。

そうそう先週横須賀でカレー祭り?あったのですよ。海自の艦艇のカレーが大集合だったそうで、行きたかったなあもう~~~~!
『陣痛』、過去記事に名前だけですが出てきますよ^^。ハシビロが初めて登場した時、鳥に詳しい士官が載っていたのが『陣痛』でした。
しかし我々出産経験者にしてみると『陣痛』はもう、懐かしいの部類になりますね^^。

2014/04/22 (Tue) 21:26 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
ウダモさんへ

うだもさんこんばんは!
ありがとうございます!こうして読んでくださるかたがいてくださる・・・大変な励みになります。ウダモさんも毎日大変ですよね、ですがお時間のあるとき「女だらけの海軍」ワールドに身をゆだねにいらしてくださいませ^^。
『自分の時間』ホント欲しいですよね。三つの願いをかなえてやろうと言われたら『自分の時間がほしい』と絶対言いますね。あとお金かなw。

どんなお話でも結構ですよ、コメント欄に書き込んでくださいませ、いつでもお待ちしています!!

2014/04/22 (Tue) 21:22 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
松岡の恩師、胡桃伊達先生の残したラケット…一体どんな秘密があるのかないのか???
そして松岡中尉は大事なラケットを置いてゆくのでしょうか?
次回ご期待ください^^。

2014/04/22 (Tue) 21:18 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  

なかなか本性を現さない松岡ラケット。それでも少しずついわく因縁が……。楽しみです!!
横須賀は日本一の住民離れの街になったとか。今日、銀行での待ち時間で雑誌で知りました。由緒も歴史もある街なのに住みにくさが目立ち始めたのでしょうか。残念ですね。

お体の具合は如何ですか。季節はずれの寒さが続いたり低気圧がやって来たりで不順な天候ですが大事に過ごして下さいね。

2014/04/21 (Mon) 20:51 | EDIT | REPLY |   
オスカー  

こんばんは。私のアタマには後世に「宝」として語り継がれる松岡ラケットが浮かんでいます~実は最小型ロケットだったりして(笑)

昨日、横須賀で海軍さんのカレー祭りみたいなものがあったのですか? どこかの記事で《護衛艦「じんつう」》という文字を見て「えっ、陣痛!?」と思ったワタクシ……「神通」でした。神通川(じんづうがわ)からとった名前のようです(岐阜県および富山県を流れる一級河川)が、女だらけのこのお話には「陣痛」という名の艦が登場しても…なんて思ってしまいました!

2014/04/20 (Sun) 22:58 | EDIT | REPLY |   
ウダモ  
こんばんは!

みなさんより遅れまして、ただ今4まで読ませて頂きました!w
まだまだ追いつくまでかかりそうですけど、頑張って追いつきまっせー!ww
じっくり腰を落ち着けていられない今日この頃ではございますが(明日もでかける泣)、必ず『自分の時間』を確保してやるっっ!…という希望的な思い込みだけで毎日どうにかやり過ごしております(笑)

物語とは関係ない話でスミマセンm(__)m
まずはご報告まで☆彡(生存確認的な)

2014/04/20 (Sun) 21:31 | EDIT | REPLY |   
柴犬ケイ  

見張り員さん    こんにちは♪

いつもありがとうございます♪
松岡中尉は話が長くなりましたがラケットをいただいた
顧問の先生の胡桃伊達キミ先生の話をされてこれから
守ってくれますとこのラケットは肌身離さずにあなたを守って
くれますよと言われていたんですね。
調査のためにしばらくの間このラケットをここに置いていくこと
を山中大佐が重々しくうなずくと松岡中尉は顔をあげてラケット
の秘密は気になりますね。

2014/04/20 (Sun) 14:02 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)