「女だらけの戦艦大和」・狙われた松岡5

野村副長に懇々と諭されて、松岡中尉は翌日副長と航海長とともに海軍工廠の技術士官たちに会うことを渋々承知したのだった――

 

翌日の朝、松岡中尉はその両横を野村副長と繁木航海長にぴったりとくっつかれて上陸した。松岡中尉は

「ねえ副長、航海長。そんなにくっつかれちゃあ私は歩けないんですがねえ。どうしてお二人はそんなに私とくっつきたがるんです?――そうか、お二人も私のように熱くなりたいんですね。わかりましたでは、今日からみんな富士山だ、尻の穴を――」

と言ってラケットをマントの中から振り上げようとしたがその手を副長がマントの上からガッと押さえた。そして怖い顔で

「いい加減にしないか松岡中尉。今日はおふざけは無しだ。余計な口をきいてはいけない、わかったか」

と低い声で言った。繁木航海長も同じような怖い顔で松岡をじっと見つめる。松岡中尉がさすがに黙ってラケットを持つ手を下すと、副長もその手をマントの中へ戻して三人の海軍士官はマントの裾を翻しながら呉の街を歩いて行ったのだった。

 

その頃、『大和』では見張兵曹が小泉兵曹相手に

「なあ小泉、松岡分隊長はえらい大人しゅうしとったねえ。なんぞあったんじゃろか?」

と話している。小泉兵曹も「ほうじゃねえ、あれほど熱うなれ熱うなれいうてやかましいお人が昨夜っからちいとも顔も出さんし声も出さん。こりゃあもしかしてオトメチャン」

「もしかして・・・なんね小泉」

すると小泉兵曹はごくっと喉を鳴らして

「天変地異の前触れじゃ。敵襲いうんは考えられんけえ、残るは天変地異じゃ。きっとなんぞあるんじゃわあ・・・怖いわあ」

と言って身を震わせた。見張兵曹も「ええ!?天変地異言うて、地震やら火山の噴火やら言うあれじゃろ?嫌じゃわあ、うちそがいなん嫌じゃわ。怖いわ」と体を震わせた。

そして二人は「なんも起きん様、神様にお祈りせんといけんね」というと、『亀山神社』の方向に向かって一心に手を合わせたのだった。

 

そして。

マントをまとった海軍士官嬢三人は呉海軍工廠にひそかに到着した。

門の前で待ちかまえていた一人の男性士官によって三人は中へと案内された。野村副長を先頭に、繁木航海長、そして問題の松岡中尉。その三人を先導しながら男性士官は(今日はなんだかいい日だな。きれいな海軍士官が二人も来た・・・もう一人が例のあの人か。綺麗というより勇ましい雄々しい感じだなあ)などと見たまま、率直な感想を持っている。

三人は工廠の事務棟の中の一室に案内され、

「しばしこちらにてお待ち下さい」

と言われそこのソファに腰を下ろした。マントを男性士官が「お預かりします」と持って行き、間もなく紅茶と菓子が出されさっそく菓子に手を伸ばす松岡中尉。野村副長がその手を軽くたたき

「行儀悪い。最初に紅茶を一口いただいてからお菓子はいただくものです」

と注意した。繁木大尉が深いため息をつく。しかし松岡中尉は

「ハイハイ、わかりました。では紅茶をいただいて」

といいズズッと音を立てて紅茶をすすってから「はいではお菓子をいただきまーす」と言って菓子の盛られた皿に手を伸ばした。そして菓子をバリバリ食べて、野村副長は「はーあ・・・」とため息をついて頭を抱えた。

三人が紅茶と菓子を食べ終えたころ部屋のドアがノックされ

「お待たせいたしました・・・こちらへ」

と別の部屋に案内される三人は階段を下りて地下へと降りる。松岡中尉は大きな布に大事に包んだラケットを抱えて

「何処へ連れて行くつもりなんでしょうねえ。まさか我々を何処ぞに売り飛ばそうって魂胆じゃないでしょうねえ。まあ、この三人の中で商品価値があるって言えばそりゃあなた私でしょう。なぜなら私はテニスの王女様と呼ばれた女ですからねえ。そこへ行くと副長と航海長は・・・」

とブツブツ言ったが副長に「黙れ松岡!」と一喝されて「・・・はいはいすみません」と言って黙った。

「こちらです」

と男性士官がドアを開けて三人を招じ入れた。その部屋には六名の男性士官がテーブルを前に着席している。その六名が一斉に立ち上がり三人を迎えた。

中の一人、大佐の襟章・袖章をつけた男性が

「ようこそ。今日は御足労いただき申し訳ありません・・・さあ、どうぞお座り下さい」

と自分たちの前の椅子を示した。男性士官たちとは向い合せになる席である。三人はそっと椅子を引き出し腰を下ろした。松岡中尉は大事なラケットを膝に置いて彼らを警戒して見つめている。

やおら、大佐――呉海軍工廠技術佐官・山中大佐――が

「では時間も限られていることですからいきなりのようですが話に入りましょう。松岡中尉はあなたですか」

と言って松岡中尉を見た。松岡は警戒心を解かない瞳でしかし、山中大佐を見てニヤッと笑った。その笑いが薄気味悪くって、山中大佐以下は背筋に冷たいものが走るのを感じた。

鈴木中佐がとなりの席の根岸中佐に「あの中尉、大丈夫か?ちょっとイカレてるのと違うだろうか?」と心配げにささやいたのが野村副長に聞こえて副長は(うわっ!松岡中尉変な奴だと思われてるじゃないか・・もうまったく!)と情けない気分になっている。

そんな思いに構わず山中大佐は話し続ける。

「松岡中尉、あなたの所持しているそのラケットだが・・・聞いたところによれば敵撃滅に多大な効果を及ぼしているらしいではないですか。その話を南方の航空隊から漏れ聞いて、我々はそれは素晴らしい、まさに神の兵器ではないかと思い・・・あなたをお待ちしていたのです。

ぜひ我々の、いや全海軍の期待をくみ取っていただきたいのですよ。そのラケットをお貸し願いたい!我々でその構造を解き明かし、海軍の為になる兵器を作りたいのです!」

最後は熱っぽく語った。他の技術士官たちも熱のこもった瞳で松岡中尉を、そして野村副長・繁木航海長を見つめる。副長と航海長がそっと松岡中尉に視線を送ると松岡中尉は腕を組んで難しい顔をしている。副長がそっと「松岡中尉・・・」と呼びかけると松岡中尉は厳しい瞳を技術士官たちに向けた。

おっ、と上半身を引いた士官たちに松岡中尉は

「お貸しするのは構いませんが・・・これの構造を解き明かすってのは出来ないかもですよ」

と言い放った。山中大佐が

「解き明かせない、と?それはどういうことでしょう」

と静かに聞いた。すると松岡中尉はラケットを布から取り出して、椅子から立ち上がると格好良く構えて見せて

「だってあなた。これは私が開発したものではないからですよ」

と言った。技術士官たちの間に衝撃が走った。「あの人が開発したものではない・・・とすると一体だれが」動揺して囁き合う士官たち、そしてその様子をただ見つめるだけの野村中佐と繁木大尉。山中大佐が

「それは一体どういうわけですかな?よろしかったら・・・いや是非にお話を聞かせていただきたいですね」

とそっと身を乗り出して言った。松岡中尉はラケットを構えたまま黙って考え込んでいるようだ。野村副長がそっと「松岡中尉・・・お話して差し上げなさい」というと松岡中尉はブン!とラケットを一回振ってからふうぅっとため息をついた。

そしてラケットを大事に抱え直すと椅子に座りなおした。

そして居並ぶ技術士官たちを等分に見つめた後、

「いいでしょう。しかし――長い話になるかもしれないですよ」

と言って、<長い話>を語り始めたのだった――

    (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・

呉海軍工廠に出かけた三人でした。松岡中尉の話はいったいどのような話になるのでしょうか?そして肝心のラケットは帝国海軍の神器となりうるのでしょうか。次回を御期待下さい!

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非公開コメント

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
あのとても怖い?ラケットの秘密が明らかになる――のでしょうか??一体あのラケットにどんな謎が??ご期待ください。

昨日今日と寒くて困りますね。本当に体調がついてゆけず風邪に似た症状や持病のめまいが出てきて困りものです。
matsuyama さんもくれぐれも御身大切にお過ごしくださいね^^。

いよいよラケットの解明が始まるようですね。
初めて解き明かされる話って興味津々ですよね。松岡中尉だけが知っている謎、どんな謎なんでしょう。

このところ繰り返される気候の変動、体調が追い付いていけません。十分お気を付けくださいね。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
えらいさんに連れられて松岡中尉、このあと何を語るのでしょうか??
緊迫?の次回をお楽しみに♪

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
松岡中尉もう誰が何を言っても完全なるマイペースです(-_-;)・・・
運命の出会い、そろそろ彼女にもあっていいころですね~~。

<長い話>一体何なのでしょう、お楽しみに^^!
今朝の地震にはちょっとばかり驚きましたね。またぞろ地震が多くなってきた気がします、気をつけましょうね(-_-;)。
オスカーさんもよい週末をお過ごしくださいませ。

鍵コメさんへ

鍵コメさんこんばんは!
オオ!神社へ祈るオトメチャン達の姿私が思いながら書いたのとおんなじです!感激~~!
天災は防ぎようがないという点でとても怖いですね、特に日本はあの大震災を経験しているからなおさらです。

私は鍵コメさんの文章にいつも色彩だとか香りを感じ取りますがそれは鍵コメさんが五感をフルに活動させて文章を書いてらっしゃるからだと思っています。
見習うべきだといつも思っています。

松岡の言う<長い話>って一体??お楽しみに^^。

見張り員さん    こんにちは♪
いつもありがとうございます♪
松岡中尉は野村副長・繁木航海長に連れられて
海軍工廠の技術士官たちに会うために行かれて
ラケットの秘密は松岡中尉が作った物ではなくて
ラケットのことを長くなる説明を語り始めて気にな
ります。

こんにちは。松岡さま、相変わらずのマイペース~彼女を変える運命の出逢いはないのかしら?
長い長いヒミツの話、楽しみにしておりますね。
今朝の地震、そちらもいきなり揺れましたか? ビックリしました! お身体に気をつけて良い週末を!!

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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