「女だらけの戦艦大和」・狙われた松岡4

呉の町中を大手を振って歩く松岡中尉とハッシー・デ・ラ・マツコそしてトメキチは、自分たちの後ろをひっそりと付いて来る一団に気がついていなかった――

 

なんてことは決してないのであった。動物以上に嗅覚の鋭い松岡中尉は、トメキチよりも先に自分たちをつけて来る連中の匂いを察知していた。

つめたい風の吹きつける中、中尉はマントの裾を軽く翻して傍らのマツコとトメキチにそっと囁いた、「鳥くんも犬くんも、後ろを振り返っちゃいけませんぜ。尾行されていますよ我々。向こうも熱くなってるみたいですからね、こっちも尻の穴を締めてかかりましょう。いいですかあ、今から我々は富士山だ!」と。

トメキチはマツコの背中に乗っかっていたがそっとうなずいて

「そうねマツオカさん。どうもさっきからつけられてるわね。マツコさんも知ってたでしょ」

とマツコにささやく。マツコもその大きなくちばしをそっと開いて

「知ってたわよ。あの連中何かしらねえ・・・もしかして!」

と言った。トメキチが「なに、もしかして?」と尋ねると不意に松岡中尉が

「そうだ、もしかしたら君たちを捕まえてサーカスか見世物小屋に売ろうって寸法かもしれないよ~、さあ大変どうしようかねえ」

と言ったので二人は軽く恐慌に陥った。松岡中尉はそんな二人に笑って

「大丈夫、そんな時は私のこのラケットでその連中をひっぱたいてやります!だから安心しろよ、安心して尻の穴を締めろ!」

と言った。マツコが

「アタシはいつもしっかり閉まってます。問題はあんたよトメキチ、あんた何かってと漏らしてるじゃないさ」

とこぼすとトメキチは「いつもじゃないわよ、マツコサン」とちょと恥ずかしげに弁明。松岡中尉がワハハと笑って「公園へ行こうか」と路地を曲がったその時。

三人の後ろから六名の海軍士官が走ってきて三人を取り囲んだ。男性ばかりである、こりゃあ珍しい男の海軍士官だと思いながらも松岡中尉は眉一つ動かさないで

「ハテ。私にご用でしょうか?私は『大和』乗り組みの松岡修子海軍中尉ですが・・・どなたかとお間違いではないですか」

と穏やかに言った。三人を取り囲んだ士官たちは互いを見交わすとうなずき合った、そしてやおら中尉にずいっと近寄って行った。

と。

「あなたがた、私が自己紹介してるじゃないですかー!なんであんたがたは黙ってんのよ!不審な連中だ、そういう連中にはこうしてやる!熱くなれよ!」

松岡中尉は激怒し、マントをばさーッと脱ぎ捨てるとマントの中で大事に抱えていたラケットを構え、あっという間に自分たちを取り囲んだ士官連中をそのラケットでぶん殴っていた。

松岡中尉はふうふうと怒りに息を荒げていたがその場に昏倒している士官たちをラケットで指すと

「その痛みは私の心の痛みです、少し反省しなさい!そしてあなたがたたまには風呂に入って油のにおいをとりなさい!あなたがた機械油臭いですよ!そして礼儀をわきまえなさいッ!」

というとマントを拾い上げ元通りに着るとラケットを肩に担ぎ、マツコとトメキチを促して歩きだした。

その場に残された士官の一人はジンジンと痛む頭を抱えてようよう起き上がると

「なんだあの人・・・こっちがなにか言う暇もなくいきなり襲いかかってきた・・・しかもマントの階級章は中尉なのに軍装は大佐の袖章だったし。どうなってんだあの人?」

とつぶやいて彼女の行方を目で追ったが・・・もうその場には居ない。ともあれ「『大和』に連絡しよう、おい、起きろ!」とまだその場に倒れたままの仲間をひとりひとり叩き起こした。そして皆、ふらつく頭を抱えると走り出していったのだった。

 

マツオカ中尉は二河公園でしばらくマツコ、トメキチと遊んだ後馴染の食堂に行った。そこではマツコとトメキチも歓迎され皿に盛った魚や肉を出してもらい御満悦である。三人はすっかり先ほどの士官たちのことなど忘れ去って、食事に夢中である。

松岡は忙しく箸を使いながら

「君たちしっかり食べておきなさい、次の上陸はいつになるかわかりませんよ?熱くなって食いまくれ、そして尻の穴を締めろ!今日から君たちは富士山だっ」

と叫んで後ろの座席にいた他の艦の下士官たちが下を向いてひそかに笑う。それを見てマツコとトメキチが

「いやあねえ。マツオカったらこんなところで<尻の穴>なんか言うんじゃないわよ。食事の最中言っちゃあだめよねえ、尻だの股だの。みんなに笑われてあたし恥ずかしいわあ」

と下を向く。

そして三人、そのあとしばらく町中を散策した後帰艦のランチに乗り込んだのだった。

 

そしてその頃。

松岡中尉がたたきのめした海軍士官――彼らこそ第十一航空廠の技術士官と呉工廠の士官であったが――から『大和』に連絡が行っていた。

その知らせを山口通信長から受け取った野村副長は

「ま、まさかー!」

と卒倒せんばかりの驚愕。副長はおろおろして「そんな・・・まさか工廠の士官を、しかも男性士官をあのラケットでたたきのめすなんて。なんてことしてくれたんだあいつぅ!」とうめいた。そして「松岡中尉が帰艦したらすぐに呼んで下さい」と幹部に厳命した。

麻生少尉はその話を聞いて

「あん人は見境ないけえね。ほいでもあのラケットでしばかれて工廠の士官さんがたはどうもなかったんじゃろか」

と心配している。見張兵曹も「ほうですねえ。前に花山掌航海長があれに当たってたいへんでしたものねえ」とこれも心配顔。

皆の不安をよそに、能天気な女士官・松岡修子は上機嫌でマツコとトメキチと帰艦してきた。それを血相変えて迎え出たのは副長に航海長である。二人は

「松岡中尉、待て!」

と語気荒く呼びとめた。松岡中尉はマントを翻して「はいー!」と振り返った。その中尉のマントを、副長は引き剥がした。その下から現れい出たのは大佐の階級章の付いた一種軍装。副長は松岡中尉を正面から睨みつけると

「これはなんだ、貴様はいつから大佐になったのだ?」

と問い詰めた。航海長も松岡中尉をじっと凝視している。すると松岡中尉は

「私の言いたいことを言わせて下さい。あのですねえ、私だってたまには上陸したいのに皆さんがそうさせて下さらないんですよ。ですから一計を案じましてねえ。当初は特年兵君の服を着て変装して出ていこうかと思ったんですがねえ、いかんせん彼女の服は小さいし三種軍装でしたからやめました。で、このことがばれちゃあちょっと都合が悪いので一室にいてもらいました。で、ふと見たら艦長室の前に袋に入ってこの服が捨ててあったので着て上陸したんですよ。でも、上陸札は自分のですからね、不正ではないですよハイ!」

と反論した。呆気に取られる副長、航海長であったが数瞬の間の後副長は気を取り直して

「問題はそのあとだ。中尉は上陸の際、呉海軍工廠および第十一航空廠の技術士官をそのラケットで以て殴り倒したであろう。相手に何か言わせる暇を与えず殴り倒すとは言語道断である!中尉は明日、航海長とともに上陸し当該の士官に謝罪し、工廠の協力要請に従うべし!」

と言い放った。

すると松岡中尉の表情が変わった。副長が一瞬「ん?」と思ったそのあと、松岡中尉は

「<工廠の協力要請>とはなんです!私はなんにも聞いちゃいないですよ、一体どういうことです?御説明願いますよッ」

とたいへん怖い顔で副長に詰めよった。繁木航海長が「松岡中尉、誰にものを言っておる!」と叱ったが副長はそれを押しとどめ

「知らなかったか・・・それはすまなかった。では教えてやろう。私の部屋に来なさい。航海長も一緒に」

というと三人は副長の部屋に向かったのだった。

そこで松岡中尉は、自身にとっては衝撃の事実――つまり、海軍工廠が自分のラケットのあの威力をほしがっているのだということを知ったのだった。

「どうかな、松岡中尉。いや、どうかななどと言っている暇は最早無い。このラケットの素晴らしい技術を帝国海軍の為にぜひ生かしてほしい。これは皆の――全海軍の祈りでもある」

副長はそう、松岡中尉にいい含めた――

    (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・

 

松岡中尉大暴れの巻きでした。

そして中尉は皆の願いを汲みとってラケットの秘密?を工廠に伝えるのでしょうか。緊迫の次回をお楽しみに。

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Secre

すっとこさんへ

すっとこさんこんばんは!
おお、ついにねえさまも『松岡病』にり患なさいましたぞ!
この「尻の穴を閉めろ」には麻薬的効果があります、いったんこの言葉にハマりますともう…抜けられません!
ぜひNYで拡散してください、「尻の穴を閉めろ」!

全責任は私の尻の穴でご勘弁願いますーーってどういうこっちゃ!!!!

どぼぢよう!!
何度も出てくる台詞
「尻の穴を締めろ!」が ぐわんぐわんと
頭の中で渦巻いているんですけど!

うっかり口に出して言ってしまうそうなんですけど!

出勤する夫の後姿に
「今日も尻の穴を締めてけっぱれ!」と
声かけちゃいそうなんですけど!

もし、言っちゃったら
見張り員さん、責任とってくださいね。 ね!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
そうそう、市川雷蔵でした~~~!思い出せなかったその名前、ありがとございます^^。彼のあの立ち回りすてきですね、松岡もその感じで想像してやってください。
あのラケットどんな秘密があるのかないのか。
この先をどうぞご期待くださいませ^^。

今日は大変暖かかった東京です。
急にあったかくなったのでまたも、めまいが出てきつつあります(-_-;)。
いつもご心配をありがとうございます、にいさまもご自愛くださいませ。

こんばんは。
まるで映画の市川雷蔵のような鮮やかな姿。かっこいいですね。
松岡さんがだんだん大器のように見えてきました。
そのラケットとともに実はとんでもない密命を帯びた裏の仕事師だったりして。

天候が不順です。どうか無理をしませんように。

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
松岡の大立ち回りを想像すると何かスカッとしますね。昔の剣劇を思い出しますね!
ラケットの秘密・・・松岡があかしてくれるか心配です。
協力要請を言わなかった幹部にも非がありますね今回は。
松岡の怒りは収まるでしょうか・・・
次回をご期待ください!

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
松岡中尉、海軍工廠技官を相手に大立ち回りでしたw。
そして、協力要請を聞かせなきゃだめじゃないか・・・って感じですが(-_-;)さあどうなるでしょうか。松岡中尉はどう出るでしょうか。
ご期待ください!

6人もの海軍士官をラケットでぶん殴ってぶっ倒す。痛快活劇ですね。スッキリします。
でもラケットの秘密って何でしょうか。気になりますね。
ラケットの素晴らしい技術で帝国海軍に道が開けるなら、その技術を推奨してもいいですね。
工廠の協力要請といっても、本人が知らないのでは、やり方が良くないです。強引に奪い取ろうとするときは、得てしてそんなもんですよね。

見張り員さん    こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
松岡中尉は上陸して追っての海軍士官第十一航空廠の技術士官と呉工廠の
士官の方をラケットで倒して大暴れでしたね。
副長に航海長二人は松岡中尉を睨みつけていても工廠の協力要請は松岡中尉
は聞いてなかったですから副長に航海長と松岡中尉の話がどうなるか気になり
ますね。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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