「女だらけの戦艦大和」・狙われた松岡3

繁木航海長は、自室に松岡中尉を呼びつけその訪れを待っていた――

 

しかし待っても待っても松岡中尉はやってこない。しびれを切らして繁木航海長は自ら士官室へ足を運び「松岡中尉、松岡中尉は居るか!」

と呼んだ。しかし部屋の中には誰もいない・・・「おかしいな。一体どこへ行ったんだろうか」と繁木航海長はひとりごちながらさらに探しに歩く。

途中麻生少尉に出会った繁木航海長は

「ねえ、松岡分隊長はどこに行ったか知らない?見かけたら私のところに来るように言ってほしいんだが」

と言った。麻生分隊士は

「はいわかりました。――ほういやあ、分隊長の姿を見かけませんのう」

と首をかしげた。それでも麻生少尉は「分隊長に会いましたらすぐ、航海長をおたずねするよう伝えます」と言って別れた。

その麻生分隊士が血相変えて繁木航海長の元へすっ飛んできたのはそれから一時間もしないうちのことである。麻生分隊士はなりふり構わぬ態で、三種軍装の上着の裾を乱して吹っ飛んで来て航海長の姿を第一艦橋に認めると「こ、こ、こ・・・・航海長!」

と叫んだ。艦橋正面の窓の近くにいた野村副長が麻生少尉の方を振り向いた。そしてこれも三種軍装の繁木航海長は、略帽の廂を右手でちょっと上げて麻生分隊士の方を見たが、その血相変えた様子にぎょっとした。ぎょっとしながらもそこは海軍大尉の繁木さん、それと悟られぬよう

「どうした麻生少尉?」

と落ち着いた声音で訪ねた。麻生少尉は航海長の前に立つと震える声で

「だっそ・・・」

と言った。繁木航海長は「は?」と言って麻生少尉の顔を見つめる。少尉は航海長の両腕にすがるようにしてごくり、と喉を鳴らすともう一度

「だそ・・・」

と言った。繁木航海長はよくわからないと言った顔で麻生少尉の肩に手をポン、と置くと

「麻生少尉、しっかりしなさい。一体どうしたんだね、きちんとおっしゃいな」

と言ってその瞳を覗き込んだ。すると麻生少尉は航海長の腕をつかむ手に少し力を込めて

「マツオカ・・・中尉が・・・艦を抜け出しました。脱走です」

と言った。とたんに繁木航海長、そしてその場にい合わせた野村副長が声を合わせて「脱走だってーー!」とものすごい大声をあげて麻生少尉は大変びっくりしてその場に「ひえっ!」とひっくり返ってしまった。その麻生少尉を引き起こして副長と航海長は

「どういうことだ、きちんと教えなさいっ。麻生少尉!」

と怒鳴ってその軍装のネクタイを締めあげた。麻生少尉は顔を真っ赤にして「グエッ、グエエエ!く、首が締まる~~」と唸って、副長と航海長は我に返りあわててネクタイから手を離した。

少しよだれを垂らしながらはあはあと荒い息をついてその場にうつぶせになっている麻生少尉に副長がまず、

「麻生少尉一体どういうことだ?松岡中尉が脱走とは」

といい、航海長が

「知ってるなら早く言わんか、麻生少尉!」

とせかす。麻生少尉は床から跳ね起きると

「それがですね――」

と話し出した。

詳しくはこうである。

 

――麻生少尉は、航海長から松岡中尉を見かけたら呼んでほしいと言われた後、松岡中尉を探しに歩いた。なかなか見つからず「いったいどこ行きよったんね、あん人は!」とブリブリ怒りながら歩いていると「麻生少尉~」と後ろから石場兵曹の声が追ってきた。

「なんね?」と振り返ると石場兵曹が「見張兵曹が時間になっても現れません・・・こげえなこと、初めてでうちはなんや嫌な予感がしますが」と少し青い顔色で言った。オトメチャンが?と麻生少尉も不審に思い「探そう」ということになって艦内に走って行った。すると森上参謀長が向こうから走ってきて

「おお、麻生少尉。ちょっと来てくれないか」

という。何かと思えば「誰もいないはずの幕僚室から何やら音がする。怖いから一緒に来て」という。幕僚室へと走った参謀長、麻生少尉と石場兵曹の三人で部屋のかぎを開け扉を開いた。

幕僚室の中で――!

大きなデスクの前に見張兵曹が転がされていた。しかも、さるぐつわをかまされ両手両足を縛られている。着ていたはずの三種軍装が脱がされ肌着姿になりその周囲には、中尉の襟章の付いた三種軍装が散らばっている。そして兵曹は誰かにこの事態を知らせんとして、デスクの足を必死で蹴っていたのだった。

あわてて麻生少尉が見張兵曹を抱き起こしさるぐつわを取り縄を解いてやるとオトメチャンは「はあーーっ!」と大きな息をついた。「いったいどうしたというんだこれは!」と参謀長も驚いて尋ねる。するとオトメチャンはまだ少し荒い息のまま

「うちもようわからんのですがいきなり後ろから松岡中尉に羽交い絞めにされてここに押し込まれて。ほいで中尉は『すまんねえ、ちいとあんたの服を借りるで』言うてうちの服を脱がして、それからうちを縛って口に手拭いを噛ませました。一体何があったんだか・・・全くわかりません」

と言って麻生少尉を見上げた。

参謀長は「なんで松岡中尉が見張兵曹の服を持って行くんだ?サイズが合わんだろうに」と首をひねる。ともあれ四人は幕僚室を出て艦橋へと歩き出す。と、向こうから梨賀艦長がやってきて

「副長!私の一種軍装を知らない?」

と尋ねてきた。副長は「へ!?艦長の一種軍装ですか?」と素っ頓狂な声を上げた。――う~ん昨夜は艦長は私の部屋に泊らなかったから・・・いや、それは関係ないか・・・しかし一種軍装がないとはどういうこと??

考え込む副長に艦長は「困ったなあ、ブラシをかけようと思っていたのになあ」とブツブツ言っている。ふと思い当った参謀長は

「今日は上陸員はもう出ていったか?――梨賀、野村に麻生少尉、ちょっと行こう」

と三人を誘って甲板へ。そこには藤村甲板士官や医務科の下士官嬢たちが数名いた。参謀長は藤村少尉のところへ行くと

「上陸札を見せてくれ」

というと、上陸員たちが投げ込んで行った札を一つ一つ調べていった。皆必死に「マツオカ、松岡、まつおか・・・」とブツブツ言いながら札を探す。「ああ、もうやねこいねえ」と麻生少尉が言い次の札を手にしたとたん、「あ!分隊長の札です」と声を上げた。麻生少尉の手には「右舷 松岡修子中尉 航海科」の文字も鮮やかな上陸札が。

「上陸・・・してますね。しかもこれでは脱走とは言えません」

麻生少尉が言うと副長が藤村少尉を見て

「藤村さん、松岡中尉を見たの?」

と聞いた。が藤村少尉は首をひねって「いえ・・・私は松岡中尉がいたとは認識しておりませんが」と応える。副長は艦長を見て

「松岡中尉は、艦長の軍装を着て降りたんですね。きっと軍帽を目深にかぶって行ったんでしょう。藤村君ちゃんと見なきゃだめじゃない!袖章を見ればわかると思うんだけどなあ。まあいまさら言っても仕方がないね、しかし彼女ならラケットを持っているからわかるはず・・・」

と言ってふっと上を見上げた途端、「あーーー!」と大声を出して空を指差した。

皆が見上げる上空には松岡のラケットをくわえて飛んでゆくハシビロの姿があった・・・

 

「やられた。松岡中尉は自分が上陸をさせてもらえないと知って変装して行ったんだな」

参謀長は腕を組んで唸った。ラケットなどハシビロにいい含めて持ってこさせれば済む話、本人はもうランチに乗りこんで呉の地に足を踏み込んでいるころだろう。

「松岡中尉、工廠の人たちと何かなければいいんだが」

副長のつぶやきは皆の思いである。

 

それから十分ほど後。

上陸場から少し離れた場所にハシビロのハッシー・デ・ラ・マツコが降りたった。その背中からトメキチが飛び降り「マツオカサン、松岡さん!」と呼んだ。と、向こうから一種軍装に身を包んだ松岡中尉が走ってきた。そして

「やあ、鳥くんに犬くん!面倒かけてすまなかったねえ。私はなぜか、みんなからいじわるされて上陸しちゃあいけません!――と言われていたんですよ。でも私だってたまには上陸して同期の桜と話をしたいじゃないか?というわけで変装して上陸しようとして、特年兵君の服を―ーと思ってあの子から奪ったもののあの子のは小さすぎる!しかも三種軍装ではちょっとねえ、というわけで私は艦長室の前に捨ててあったこの服を拾ってきて来たんだよ。よく見ると襟章も袖章も大佐のものじゃないか!熱くなってるぞ、というわけです。さあ、鳥くん。ラケットを頂戴な。

さあ一緒に呉の街を歩いて熱くなろうじゃないか、今日からみんなで富士山だー!」

と叫んで歩きだした。

マツコとトメキチは

「そんな他人の服を盗ってまで・・・。上陸したいんです、ってお願いしたらいいのに。変なやつねマツオカって」

といいながら中尉のあとをついて歩いてゆく。

 

松岡中尉とその腰ぎんちゃくの珍奇な一行は町中の大通りを歩いている。

その後ろをついて来る一団が居ることに、松岡中尉は気がついていない――

   (次回に続きます)

            ・・・・・・・・・・・・・・・

 

オトメチャン監禁事件?も梨賀艦長一種軍装紛失事件も松岡中尉がしでかしたことみたいですね。

幹部連中の目を盗んで上陸した松岡中尉に迫るあの一団、松岡中尉を捕まえるのでしょうか!次回を御期待下さい。

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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
大変なことになりそうですがこの連中、戦闘よりもこうした騒動のほうが多いような気がしますね(^^ゞ。
ラケットの正体わかるのでしょうか???

本当に寒さがぶり返しちょっと風邪やめまいが出てきています。困ったもんです。お母さまはいかがでしょうか、案じております・・・くれぐれもお大事になさってくださいね。
今年の春もちょっと・・・変ですよね。

荒野鷹虎さんへ

荒野鷹虎さんこんばんは!
お越し下しましてありがとうございます^^。

「永遠の0」観たかったです。
戦争映画はどっちかというと若い人には敬遠されがちですが、話題の映画を見てもらうことに意義があるように思います。そこからあの戦争に興味を持ってもらい色々考える・・・それこそが大事と思いますね^^。
私も戦争映画は大好きです。
確かに私も艦艇や飛行機などのハードもそうですが、より人々の生き方などに興味がありますね。

なんだかまぁ。
こんな大騒動もサマになる面々ですから憎めないですね。
しかしてそのラケットの本性は??

寒さがぶり返してしまっているここ数日ですがお体に障りはありませんか。
無理をせずにお過ごし下さいね。
大分も無茶苦茶寒いです!!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
本当にエラいことになりつつありますw!
一体このわけのわからないラケットのようでラケットでないラケットを工廠の人たちはどう扱おうというのでしょう??わかりませんねえ…(ってお前が言うな!)

おお・・・懐かしの魔法アイテム!
アッコちゃんのコンパクト、持ってましたよ!それを買ってもらう前は紙に丸を二つ書いて切りぬいて『コンパクト』として遊んでましたっけw。

さあ、松岡中尉どうなる!次回をご期待ください♪

見張員さんへ!!

今夜はコメントありがとうございましたねー。!
目が悪くなり小説を読めなくなり、記事へのコメントが書けなくてお許しください。
葬儀で、姪の子が『永遠のゼロ』を見たと言っていましたが、必ずしも反戦映画でっはないのではと言いましたら・・若い人が戦争を知ることに意味があったと言っていました。笑)なるほど今の若い人もしっかりとしていますねー。
そう言っても、私も戦争映画が好きなんですが・・笑)
戦場に於ける戦友の友情に打たれるのですねー。

こんにちは。エライことになってますね~大丈夫なんでしょうか、人も服も(笑) ラケットの秘密、なんだか秘密のアッコちゃんのコンパクトのような、コメットさんのステッキ(でしたっけ?)のような、魔法アイテムに思えてきました! ドキドキしながら続きを待ちます(^.^)
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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