「女だらけの戦艦大和」・狙われた松岡2

艦内の誰からも親身になって心配してもらえない松岡中尉はかわいそうではあった――

 

が、松岡修子海軍中尉はどこからどこまでが本気で、どこからが本気じゃないのかが今一つ分からないので誰も彼女を真剣に心配してやるものがいないのが真実である。

しかし、今回の件では梨賀艦長は

「なぜ海軍工廠の人間が松岡中尉を追うのか、それがもう一つわからないね。繁木航海長、あなたその辺を御主人からもうちょっと突っ込んで聞けないかなあ?航海長の家はここから近いのだから艦が出航するまで『通勤』したらいい、そうだそうだ、そうしよう。というわけでぜひ今夜聞いて来て欲しいの」

と無理やりな提案で繁木航海長を『通勤』扱いにしてしまった。ただ連日では大変なので土曜日曜は自宅に泊り、月曜朝帰艦ということに。

内心繁木航海長は喜んだのだが他の士官たちの手前、喜びを前面に押し出すわけにはいかないので、しかつめらしい顔で

「わかりました・・では大変恐縮ではございますが本日はそうさせていただいて松岡中尉の件聞いてまいります」

と応えたのだった。

そして『大和』幹部たちは<何があっても詳細が分かるまで松岡を上陸させないように>と堅く誓いあったのだった。

 

その日の夕食後、航海科居住区に繁木航海長が「こんばんは、みんないるかな」とやってきた。その手には大きい包みが抱えられてそれを見つけた小泉兵曹は大声で

「みんなー、航海長が結婚写真を見せて下さるけえ早うこいや!」

とよばった。とたんに「ワーーッ!」「おめでとうございます」「おめでとうございます航海長!」と血相変えて叫びながら部屋に突入してくる航海科員たちに、航海長は「ギャッ、何事だ」とびっくりしたがやがて大勢の航海科員に取り囲まれてしまった。

麻生分隊士が「航海長、はよう。はよう見せてつかあさい」と航海長の背中にひっつきながら言うし、普段おとなしい見張兵曹まで分隊士の隣にひっつきながら

「航海長、うちもはよう見たいです。はよう開けてつかあさい」

とその可愛い瞳で航海長を見上げる。石川水兵長や亀井一水なども「願います」「航海長、願います」とやかましい。

するとそのうしろから

「皆さん熱くなってますねえ!今日からみんな富士山だ、尻の穴を締めろ!」

と大音声を発したのは誰あろう松岡分隊長。分隊長は航海長を取り囲む兵たちをかき分けて前に進み航海長の隣へとやってきた。

「はいごめんなって。・・・麻生さん邪魔。はいこれでよし。さあ皆さん、待ちに待った航海長――片山改め繁木航海長の御結婚写真の御開帳であります。さあ皆さん静かにして!いいか静かにするってことは黙るってことだ。いいね静かに・・・って誰だいつまでもしゃべってるのは!」

松岡中尉は天井にラケットを突き上げて怒鳴った。とたんに天井を這いまわる配管にラケットがあたってカーン!と派手な音が響く。

すると松岡中尉の二人後ろから石場兵曹が、暗黒の一重まぶたも重々しく

「いつまでもしゃベッとるんは、松岡分隊長あなたです。うちらはもうとうに静かにしとってですよ?」

と注意した。松岡中尉は「おお!なんてことだ、私としたことが熱くなりすぎたね。というわけで、さあ繁木航海長。結婚写真を御開帳願います!」と謝って航海長を見つめた。航海長は少し恥ずかしげなほほ笑みで以て皆を見回した後「それでは」と言って包みを開いた。

中から豪華に装丁された記念写真がでてきた。その表紙を開いたとたん、皆の間から「うわあ~」「ほう~」「ええねえ~」と様々なため息が漏れた。

写真の中の航海長は桜に錨の刺繍もまぶしい白無垢姿、角隠しの下の微笑みも初々しくその隣に立つ新郎のりりしさには皆が「ああ~、ええなあかっこええ。うちもこげえに格好のええ人と結婚出来たらええなあ」とため息をついた。

みな、写真を前に羨望のため息しか出ないようである。麻生分隊士でさえ「はあ、ええのう~。航海長きれいじゃわあ、ほいできれいな花嫁衣装じゃ。うちもこげえな綺麗な着物、一度着てみたいわあ」とため息ついて松岡中尉に

「あれ、麻生さんは女だったの?」

と冗談とも本気ともつかない言い方をされ「うちは女ですこれでも!失礼な人じゃねえ分隊長は」と怒りだすが松岡中尉は「へえ!麻生さんて男の匂いがするから男かと思ってた、それもきっと熱くなってるからだね」と言って分隊士は少しげんなり。見張兵曹は分隊士の後ろからそっと、松岡中尉を睨みつける。

ともあれ皆が堪能したころを見計らって航海長は写真を仕舞い「では私はこれで」と言って居住区を後にした。皆の「ありがとございました」の声に背中を押される格好で繁木航海長は私室へ行き艦を降りる支度をし、副長に

「では私、自宅に戻ります。例の件について聞いてまいります」

といい、副長も「頼みます。ちょっとのっぴきならない話のようなので。航海長には迷惑かけるようで心苦しいが――ってでも、御主人にまた会えるからいいか!うふふっ!いいな航海長うらやましい~」と笑って航海長が内火艇に乗り込むのを見送った。

航海長が下艦したのを副長は艦長に報告、梨賀艦長は

「そうか。航海長が何か重要な情報を持っていてくれることを期待したいが――」

と言葉を切った。どうしました、と副長が訪ねると艦長は「まあねえ、ほらいずれにしてもあの人は新婚だからそんな話よりしたい(・・・)ことがあるでしょう。ちゃんと話をして来てくれるかどうかが心配でねえ」と言って副長は思わずほほを赤らめる羽目に。

だが艦長の心配は杞憂に終わる。いくら新婚とはいえ、立派な海軍士官の繁木史子大尉はやるべきことはしっかりやり、聞くべきこともしっかり聞いてきた。

翌朝帰艦した航海長は艦長室に梨賀艦長を訪ね、副長同席の元で夫から聞いてきた松岡中尉に関する危険な話を披露した。繁木悟朗大佐と航海長の会話のまま伝えると以下の通りになる――

 

――「松岡修子海軍中尉を追っている中心は実は、海軍第十一航空廠の連中らしいんだ。航空廠は、前線の航空隊基地の要請で敵をかく乱させるような兵器の開発をしているらしいんだがなかなかそのヒントが浮かばなかった。だが、以前に航空廠の技術士官の一人が所用で呉の工廠に来ていた時たまたま松岡中尉を見かけたらしい。あの人変わってるらしいねえ、それで興味本位でついて行ったら彼女、同期だか同じ艦の仲間に出会ったらしく一軒の甘味処に入ったんだって。そこで彼女が仲間とひそかに話しているその内容こそ、第十一工廠がほしがっていたヒント、いや兵器そのものらしいんだね。そこで十一工廠の士官は彼女に話を聞こうとしたんだが彼女は逃げてしまったというんだ。

で、以来十一工廠と呉工廠がチームを組んで松岡中尉を追っているとまあ、こういう話らしいんだが」

「はあ、そうですか・・・随分大げさなお話ですが・・・。もしかしてその兵器のヒントというのは松岡中尉の<ラケット>ではないでしょうか?」

「そうそう!それなんだ。なんでも松岡中尉のラケットはラケットのようでラケットじゃあないって聞いたんだが、それは本当?」

「はい、中尉のラケットはラケットのようでラケットではありません。実は――」

「ええっ!――う~~ん、そんなにすごいものなのかあ。それならどこの艦艇、いや航空隊でも欲しがるだろう。素晴らしい防御兵器だ。完全無敵の夢の兵器じゃないですか!で、史子さんはじかにその様子を見たことがあるのかな?」

「いいえ・・・私はじかには無いんですが航海科の麻生少尉はじめ防空指揮所の配置員たちが見ていまして。あれこれ信じられない出来事が目の前で展開していたといいます。艦長も指揮所にはいらっしゃいましたがじっくり見る暇はなかったようです。でも、そのラケットのようでラケットではないラケットのおかげで防空指揮所の配置員は戦闘時にも命の心配なしに心おきなくそれぞれの仕事をできるのだそうですよ」

「ほう!それは実際目の前で見たいものだが、戦闘中ではそうもいかないね。――でも『大和』も様々な戦闘をくぐりぬけてきたんだね。史子さんが無事で本当に良かった!」

「ありがとうございます、悟朗さん。あなたが一所懸命祈って下さったおかげです」

「史子さん・・・」「ああ、悟朗さん・・・」

 

――と、話は夫婦の別の話の方へ行ってしまったが梨賀艦長が顔をほのかに赤らめながら「つまりこういうことだね」と要約したのは

<松岡中尉のラケットが、呉海軍工廠と第十一航空廠の目的である>

ということなのは明明白白である。副長は、生々しい夫婦生活の実態に踏み込みかけて頬を真っ赤に染めながらも

「そういう話なら悪いことではないですね。松岡中尉が同意してさえくれればあのラケットが持つあの夢の技術を提供したらいいでしょう。あれが使えたらどこの艦でも、特に航空隊は助かることでしょう。さっそく松岡中尉に話してみましょう」

と言った。

梨賀艦長は深くうなずき、「そうだね、そういう話ならいいだろう。松岡を「追っている」というから尋常ではない話だと思ってはいたがそんなことなら良かった。わが『大和』の乗り組み員が役に立てるならこれ程の名誉はない!

松岡中尉を呼んでこの話を伝えよう。そして工廠と連絡を取ってみよう。――繁木航海長、松岡中尉に話をして来てくれないかな。そして御苦労さまでしたありがとう。では航海長は週末また上陸してね」といい、航海長はほっとしたような微笑みを浮かべて艦長室を退出した。

航海長が部屋を出ると、副長がほうっとため息をついた。艦長が副長の顔を見ると副長は

「航海長、きれいになっていいですねえ。結婚するとあんなにきれいになるんですね、それに何かいい匂いがしましたよね・・」

と言って最後は聞きとれないほどの小声で何か言った。梨賀艦長は副長をそっと抱きしめると

「うらやましい?――ツッチも結婚したくなったの?」

と囁いた。副長はかぶりを振った。そして「いやだ、したくない」と駄々っ子のような言い方をした。が、艦長は

「嘘ばっかり。さっき『私も・・・』って言ったでしょ」

と問い詰めてそして抱きしめる腕に力を込めた。うう、と副長がうめいた。その耳元に艦長は

「ツッチーは今のままで十分綺麗。とっても綺麗。そして―ー」

「そして?」と鸚鵡返しに問うた副長の耳に熱い息を吹きかけると艦長は

「とてもいい匂いがするよ」

というとさらに力いっぱい、副長を抱きしめたのだった。

 

そんなころ、繁木航海長は松岡中尉を私室に呼びだしていた――

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・

なんと。

松岡中尉自身ではなく、松岡の持っているラケットにご用があったとは・・・。しかしあのラケットを、第十一航空廠はどう使おうというのでしょうか。そして何より松岡中尉はその話を了承するのでしょうか??

昨日7日は「第二艦隊」(『大和』『矢矧』「朝霜』ほか)のお命日でした。カレーライスを作りましたので『大和』の人形の前にお供えいたしました。
DSCN1391.jpg


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Comments 8

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見張り員  
matsuyama さんへ

matsuyamaさんこんばんは!
彼女のラケットの材質。一体何なんでしょう??
そう、以前戦闘中に敵の機銃弾を跳ね返したりしてましたね。普通の鋼鉄じゃあなさそうですが・・・
重いラケットを振り回す腕力、ただものじゃあないですね。

かつての軍人さんがた、陸海の別なく力も知力もあったですね。あれこれ書物をひも解きますとさまざまな御話が出てきます。
とても今の人間では無理だなあと思うようなこともかなり平気でなさっていますね(^^ゞ。

2014/04/11 (Fri) 22:57 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
matsuyama  

松岡中尉のラケット、鋼鉄ででもできてるんですかね。
以前、敵軍の弾丸を打ち返してたことがありましたよね。凄い頑丈なラケットでまた跳ね返すだけの弾力があるんだな、と思ってました。鋼鉄製のラケットを振り回すだけの腕力も必要でしょうね。
実際テニスのラケットは使いようによっては弾丸ライナーを打つこともできますし、チョコンと合わせるだけでラインぎりぎりに落とすこともできますからね。
昔の軍人さんは腕力と体力だけではなく、知力もお持ちだったんでしょうね。今のひ弱そうな若者からは想像もできません。

2014/04/11 (Fri) 22:44 | EDIT | REPLY |   
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見張り員  
柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
こちらこそいつもありがとうございます^^。

いろんな人たちがあたふたして松岡中尉のラケットをどうにかしようとしています・・・!
果たして松岡中尉はラケットの秘密を工廠の人たちに教えるのでしょうか、大体それ以前にあのラケット、兵器になるのでしょうか???
ご期待ください!

2014/04/10 (Thu) 21:10 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
おお、ようこそ!!お待ちしておりました~~♡

今までにもそっとお供えしてきました。このころになると筍なんかも出回りますので手作りの筍ご飯とかお供えしました。
自己満足と言われればそうなんですが、こうすることでもしかして・・・ご英霊に喜んでいただけるようならいいなあと思いまして(^^ゞ。
いやいや、金曜日にカレーを召しあがるご子息も素晴らしい。今でも海上自衛隊は金曜日がカレーの日なのですから♪

明治神宮、私はまだ未踏なんです。
靖国、いいですよ。落ち着きます。ぜひ遊就館も拝観なさってください^^。

さあ、松岡と松岡のラケットは一体どうなるでしょうか、こうご期待です^^!

2014/04/10 (Thu) 21:05 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
松岡中尉のラケットのようでラケットではないラケット(^^ゞ。実はすごい兵器になる!--のでしょうか??

新婚の初々しさ。昨今の御夫婦はいかがなのかしらと余計なおせっかいをしてしまいたくなる私はオバサン(-_-;)。一人の幸せはみんなの幸せというのが「女だらけの大和」「女だらけの海軍」の心意気です。
最近の人が薄っぺらいというのは人間的に厚み――教養とか躾とか――がないからではないかと思う昨今です。

おお、ぜひ親御様の結婚写真を見てください。私の親には結婚写真がないのでうらやましいです^^。
角隠しに・・銀ばえ…ですか(-_-;)しかし年がたてばそれも思い出ですね♪

2014/04/10 (Thu) 20:56 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
柴犬ケイ  

見張り員さん    こんばんは♪
いつもありがとうございます♪
梨賀艦長さん達は心配で繁木航海長さんに松岡海軍中尉さんを探して
いることを聞いて繁木航会長を家に帰してご主人に理由を聞いてきて
もらい松岡海軍中尉さんのラケットの秘密が知りたく探していたんですね。
松岡海軍中尉さんのラケットがどうなるか気になりますね。

2014/04/10 (Thu) 20:43 | EDIT | REPLY |   
ウダモ  
こんにちは!

やっと…やっとPCで読む事ができました!w
これからは少しずつ読み進めていきたいと思います♪

御命日にカレーをお供えするその御心!頭が下がるばかりでございます。
息子に大和の事を話してもらいながら、感慨深くこの写真を見ているところです。
見張り員さんの美しい心に感動です。
毎週金曜日にカレーライスを食べる事しか出来ない愚息に比べたら…orz

PS:7日ではございませんが、8日に明治神宮に行ってきましたw(関係ないですねスミマセンw)
次は靖国です!!

PSその②:
ラケットが…え??ど~なるん?!…え…ええ??←今ココ

2014/04/10 (Thu) 14:39 | EDIT | REPLY |   
まろゆーろ  

おはようございます。
謎が謎を呼ぶ松岡さんのラケット。新兵器だったりして。

新婚は良いですね。はやし立てるまわりのみんなも幸せそう。
今風の美形の新郎新婦よりも昔の人の方が美しく見えるのはやっぱり心根の違いでしょうか。
確かに今の人たちも美しいのですが重厚感がないというか薄っぺらいというか。
今度実家に行った時に親の結婚写真を改めて見てみます。
確か、母の角隠しに銀バエがとまっていると嘆きながら母が言っていたような。

2014/04/10 (Thu) 09:11 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)