「女だらけの戦艦大和」・探し物はなんですか?|女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

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「女だらけの戦艦大和」・探し物はなんですか?

2014.03.28(22:55) 805

野田兵曹の一件のころから、森上参謀長は探し物をしていた――

 

(どこに行ったんだろう、確かにここに置いておいたのに)

と、森上大佐は不審に思いつつ自室の隅から隅、そして自分の思いつく限りの場所を探して歩いた。だが、彼女の探しているものは見つからない。見つからないが、誰かに「あれを知らない?」と聞くのはちょっとカッコ悪い、参謀長としての沽券にかかわる!というわけで黙って一人黙々と<それ>を探す森上大佐である。

それを見ていた梨賀艦長は

「森上はなに?ちょっと落ち着きなさすぎるんと違うかねえ?一体何!」

と注意した。森上大佐はあわてて片手を顔の前で左右に振ると

「なんでもないったら、何言ってんの梨賀はさあ?私は普段通りだよ、落ち着きないってどういうことさ!」

と少しふくれて見せた。梨賀艦長はそんな海兵同期の友をじっと見つめると

「ふーん。まあ何もないならいいけどさ・・・」

とだけつぶやいて書類に目を通す。しかし、森上大佐は本当は必死でそれを探していたのだ。<それ>は彼女にとって大事なものである。

(あれは私の大好きなもの。せっかく同期の松原が贈ってくれたものを・・・ああもう!いったいどこに行ったんだろう)

多少いらいらしながら森上大佐は艦内をうろついた。こんなところにはないだろうというような――夜戦艦橋や主砲の発令所まで足を伸ばす。そのたびそこの兵員嬢に

「森上参謀長、いかがなさいましたか!」

とか

「森上大佐、なにかご用でしょうか?」

と敬礼され質問されて、森上大佐はそれに返礼するのも鬱陶しくなってき始めた。辟易して

(どうせこんなところにゃあるまい。もう一遍上に行こう)

と踵を返し前牆楼へあがる。その途中にも何名か先ほど行きあった兵隊嬢や下士官嬢に出会いそのたびかすかに不審げな表情がその顔に浮かぶのを参謀長は見て取って(まずい、不審がられてる。変な噂が立たないうちに探さないと!)と走り出す。

 

と、向こうから松岡中尉がマツコとトメキチを従えてラケットを振りつつやってくるのに出くわした。松岡中尉は森上大佐に

「参謀長ー!今日も熱くなってますね?今日からあなたも富士山だーッ!」

と叫び、マツコとトメキチがそれに唱和する。いつものことだがちょっとした騒ぎになるのが常で参謀長は困ったようにほほ笑んでそっと片耳を手でふさぐ。それに構わず松岡中尉は

「参謀長、私は参謀長が何かお困りとお見受けしましたが、お困りの時はぜひこの松岡に御用命を。――で、参謀長は何をお困りですか?」

と怒鳴るように言う。参謀長はついに両耳をふさぎながら

「そうかそうか、う~ん・・・困ったことがあると言えばそうなんだが。松岡中尉あんた口は固い方かね?私が必死で探し物をしてるってこと誰にも言わないでほしいんだけど」

という。松岡中尉はラケットをブーンと振ってから

「なにをおっしゃるうさぎさん、いや参謀長。私の口はいつだって財布の紐より固いんです。いや、私の口の堅さにはこの『大和』の装甲板でさえかないませんね、はい。というわけで御安心下さったでしょう?さあ、参謀長の秘密を話して下さいな?」

といい、マツコとトメキチが参謀長を見上げる。参謀長は両耳をふさいだ手を離すと

「秘密じゃあないが・・・あのさ、君たち私の部屋のデスクの上にあったこのくらいの大きさの包みを知らないか?」

と言って三〇センチほどの幅を作って見せた。ほう?と松岡中尉はそれを見て首をかしげる。そして「一体それは何なんです?」と尋ねた中尉に参謀長が言った一言に、松岡中尉は一瞬視線を右斜め上四五度にあげたがすぐになに食わぬ顔で

「知りませんねえ。お役に立てなくて申し訳ないです・・・でも気にしてあちこち見てみましょう。というわけで鳥くん犬くん、行きましょうー!」

というなりあっという間にその場を走り去ってしまった。

一人取り残された森上大佐はぽかんとして「なんだ、ありゃ?」とつぶやいてから「そんなことより探さないと」と言ってまた小走りに今度は防空指揮所まで駆け上がる。

 

そんなころ。

一仕事、いやふた仕事を終えた野村副長が自室へ戻ってきた。一月の寒い内地の風の中での作業とは言え、一所懸命仕事をしたあとなので襦袢が軽く汗に湿って、それを着替える副長。

そしてサッパリとすると(さあ、お楽しみを)と嬉しげに戸棚をあけ、そこから長方形の箱を引き出す。先日松岡中尉からもらった袱紗屋のカステラである。

(あの時は松岡中尉とハッシーそれにトメキチに大事なカステラを食い散らかされて泣きたかったけど、あの松岡中尉もけっこういいところあるじゃない、こんな大きなカステラ持ってきてくれるんだからねえ。あの人もあちこちに人脈があるらしいからこういうものをくれる人がいるんだねえ、いいねえ)

そんなことを思いつつカステラの箱をデスクの上にそっと置く。

しばしの間その箱を見つめていた副長は(そうだ、やはり艦長と一緒に食べなくちゃ)と思って部屋を出ると艦長室へ。艦長は在室だったので副長の「私の部屋でおいしいものを食べましょう」という誘いに嬉しげについてきた。

副長の部屋で大きなカステラを切り分けてもらった梨賀艦長は、手をつけようとして

「そうだ、森上の奴が何か落ち着かないんだよ・・・何か探し物をしてるみたいでね。落ち着かせたいんだがあいつも呼んでいいかな」

と言った、副長は「探し物ですか。そりゃ大変ですね、いいですよでは・・・」と立ち上がると従兵を呼び参謀長を呼んでこさせることに。

やがてやってきた参謀長、

「なになに、野村の直々のお呼びだってから来てみれば――梨賀がいるじゃん?梨賀とのいいところ見せつけよってのかい?」

と言って笑った。その冗談に副長は頬を染め、梨賀艦長は「馬鹿、変な事言わないでよッ!」と叱った。その森上大佐を「まあお座り下さい」とソファに座らせたあと副長は手ずから紅茶を淹れ、カップを三つテーブルに置いた。そして

「これはいただきものなんですが、一人ではもったいなくて皆さんと一緒に」

と言ってまるい大きな皿に、切り分けたカステラを盛ったのを真ん中に置きその横に小皿とフォークを並べた。そして嬉しそうに

「これはなかなか手に入らない長崎は袱紗屋のカステラなんですよ!」

と言った。そのとたん――

「ふー、ふー、袱紗屋のカステラだと―!」

森上大佐は大声をあげて立ち上がり副長の三種軍装の襟をつかんだ。びっくりして目をまん丸くしている副長に

「これ!俺はこれを探してたんだよ!貴様かあ?これを俺の部屋から盗って行ったのは!」

と言ってカステラを指差した。副長はしばらくぽかんとして口を半開きにしていたが突然その頬にかっと朱が差すと

「何言ってんですかあ、大佐ー!私が泥棒してきたっていうんですか、あんまりじゃないですか!私は盗んだものをその人に食べさせるなんて器用なまね、出来ませんよ!大体なんで私が大佐の部屋に盗みに入んなきゃいけないんだよ!ったく、冗談じゃあねえわ!!」

と最後は我を忘れて叫んでいた。いきなり泥棒呼ばわりされたのだから仕方がないと言えばそうだが森上大佐は中佐より海兵は数期上だし階級も上。上下関係も忘れるほど激高した副長に梨賀艦長が立ちあがり、二人の肩を押さえて

「まあまあ、落ち着けよ!座れ二人とも」

と言ってそれぞれの肩を押さえる手に力を込めてソファにねじ込んだ。森上大佐と野村中佐はお互いにふうふうと息を荒げながらにらみ合っている。すさまじいにらみ合いでまるで龍虎の決闘もさもありなんという風情である。

梨賀艦長はまず、森上大佐を見て

「これが森上のものだって言う証拠は?」

と尋ねた。森上大佐は野村中佐を睨みつけたまんまで

「証拠だあ?梨賀貴様何言ってんだ。――証拠というならさっきこいつが言ったようにそんじょそこらじゃ手に入らない長崎の袱紗屋のカステラだってことだ!そのカステラを俺は同期の松原から贈られたんだよ!二,三日前に届いて俺は楽しみにして自分の部屋のデスクに置いといた。そしたらいつの間にかなくなってたんだよ!ふん!」

と怒鳴って腕を組んでそっぽを向いた。すると副長がソファから身を乗り出して

「それをあなたは私が盗ったって言うんですね、私にそんな暇あるわけないでしょう。私はね、松岡中尉からこの箱をもらったんですよ。あの人とハシビロとトメキチが私の持っていたカステラを食い散らかしたその詫びだと言って持ってきてくれたのがこれ!絶対盗ってなんかないから。それでも疑うならここで自決するっ!」

と怒鳴って部屋の隅のチェストに駆け寄ると、中から軍刀を出してきた。梨賀艦長があわてて

「バカッ、やめないか!」

と副長に飛びついて軍刀を取り上げようとした。と、

「野村、ちょっと待て・・・そのカステラを松岡中尉にもらったと言ったな?」

不意に森上大佐が言った。副長は軍刀を取り返そうと梨賀艦長と揉み合いながら

「だからそうだと言ったでしょう!あの連中ひとの部屋になだれ込んできてひとの大事な菓子を食い散らかして!でも悪いと思ってかそのあとこれを持ってきたんですよ、何度も言わさないでくださいよ!」

と大佐に叫んだ。副長は梨賀艦長に軍刀を取られて、艦長にソファに突き倒されてしまった。

「そうか・・・そうだったのかあいつめ!だからさっき俺が『カステラ』と言った時視線を泳がしたんだな!野郎め」

森上大佐はそう唸ると「梨賀、野村犯人はあいつだ!一緒に来い!」というなり部屋を飛び出し、艦長と副長はわけのわからないままそのあとを追った。

そして森上大佐は、松岡中尉をとっ捕まえて「貴様だな!私の部屋からカステラを盗んだのは!ただじゃおかねえ」と怒るし副長は「あなたのくれたカステラで私は泥棒扱いされたんだからね、ちゃんと説明して!」とわめく。

松岡中尉はやれやれ、というように艦内帽を取って頭を掻いて

「どうもすみませんでした―」

と大音声を発してその場に土下座した。彼女が平伏したまま言うには、副長の部屋で彼女の大事なカステラを三人(自分とハシビロ、トメキチ)で食ってしまったことに申し訳なさを感じた松岡中尉、どうやって償おうかと考えながら歩いて第一艦橋に入った。ふと見れば、磁気羅針儀の下に紙袋が置いてある。そっと持ち上げて中身を検分するとかすかに「カステラ」の文字が読めた。一体だれのものかわからないがこんなところに捨ててあるんだからいただいてもかまわないだろう・・・と思って

「副長に差し上げましたー!」。

松岡中尉は平伏したままである。梨賀艦長と野村副長が、森上大佐を見つめた。森上大佐は「・・・第一艦橋・・・?磁気羅針儀・・・?」とつぶやいた後

「ああっ!」

と大声を上げた。その声に皆驚いて飛び上がったが森上大佐は

「いやあ~、忘れてた。俺はこれを従兵から受け取ったのが第一艦橋。で、そのあと通信長に呼ばれたんでこれを磁気羅針儀のところに置いたんだったー!部屋じゃなかったんだよ、すっかり忘れてたぜ!・・・副長、ごめんすまん!泥棒扱いしたこと謝るよ!悪かったなあ~、自分でおいた場所を忘れちゃうなんてなあ、俺もボケたかなあ。

――しかし松岡中尉、あんた勝手にもってっちゃだめじゃないか。『捨ててあった』んじゃないよ忘れてったんだよ!全くとんでもない奴だなあ、おかげで俺は副長に泥を塗るところだったじゃないかッ」

と一気に話した。

梨賀艦長が「全く人騒がせな!松岡中尉も中尉だが、森上も森上だ。自分の持ち物の管理くらいちゃんとしろよ。そのせいでツッチーに嫌な思いをさせて!」と怒り、しかし副長は

「いいんですよ。これで私が犯人じゃないってわかりましたものね。しかし私も森上大佐の大事なものを食べてしまってすみませんでした。申し訳ないことをしました。そして先ほどの暴言をお詫びします」

と森上大佐に謝った。松岡中尉は顔をあげてその様子を見ると

「素晴らしい和解ですね!今日からみんな富士山だ、尻の穴を締めろー!」

と叫んであっという間に走り去ってしまった。

梨賀艦長、野村副長そして森上参謀長はなんだか急に可笑しくなって大笑いすると副長の部屋に取って返し、件のカステラをすべて食べつくしたのだった――

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

探し物は何ですか・・・カステラでした。このところ私はカステラにハマッテいます。そのつながりでカステラの話を書きました。

松岡中尉そこら辺に置いてあるものを『捨ててある』だなんて・・・しょうもない人。

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コメント
柴犬ケイさんこんばんは!
探し物でそわそわするってよくありますよね、挙動不審に見られたりして、でも人に言えない探し物もありますものね^^。
「ここにおいたはず!」と思っても実は別の場所だった!--というのは私もしょっちゅうありまして(^_^;)、本当に赤面の至りですw。

ともあれこの三人は仲良くカステラを食べられて何よりでした^^。
【2014/03/30 00:21】 | 見張り員 #- | [edit]
見張り員さん    こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
森上大佐が探し物をしているのは同期の松原さんに
贈ってもらった物で落ちつかずに探す姿は誰の目から
も分り梨賀艦長も落ちつきがなさ過ぎて注意されて
何でもないと言っていても気になる気持ち誰でもありますね。
松岡中尉がマツコとトメキチと会って話しても知らないことに
しているのは分かりますね。
野村副長のカステラを松岡中尉に食い散らされて森上大佐
のカステラが副長に上げていた物を部屋ではなく磁気羅針儀
に置いていたことを思い出すのは納得で私もよくあります。
無事分って美味しく食べれてよかっったです。
【2014/03/29 20:50】 | 柴犬ケイ #53A0b1AQ | [edit]
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