「女だらけの戦艦大和」・友あり南方へ帰る4

「なにもないようじゃが」と言いかけた小泉兵曹の目に、異様な光景が飛び込んできた――

 

廊下の向こうから奇声を発しつつ走ってきたのは誰あろう野田兵曹である。小泉兵曹は「うわっ!いったい何ごとじゃ?」というなり体を部屋の中に引っ込めた。そのすぐあとを、野田兵曹が叫びつつ走り去って行きさらにそのあとを大人数の「衛兵隊」の準士官や士官たちが血相変えて口々に

「野田兵曹待て!」「待たんか野田!」

と怒鳴りながら走ってくる。小泉兵曹も、部屋にいた他の航海科員たちやほかの分隊員たちもその光景に肝をつぶした。

見張兵曹が小泉兵曹の後ろからこわごわ顔を出して

「何事が起きた言うんじゃろうねえ?あがいに野田兵曹が無茶苦茶に走っていったんをうちは初めてみたわ」

と言った。それに周囲の下士官嬢や兵隊嬢が同意してうなずいた。普段野田兵曹という人物はひょうひょうとしていると言ったらいいのかなんと言ったらいいのか、ちょっとやそっとのことには動じない図太さのようなものがあって評判だった――良くも悪くも。

しかし今走り去った野田兵曹にその面影はなく、追手の衛兵隊士官嬢たちの表情には必死なものが見えた。

「気味が悪い。なんぞ悪いことが起こってじゃないかねえ」

と見張兵曹の後ろから石場兵曹が暗黒の一重まぶたも重々しく言った。悪いこと?と見張兵曹がつぶやくと石場兵曹は

「そうですオトメチャン。悪いことが起きたとしか思えんで、ありゃ。もしかしたら――」

と言って言葉を切った。見張兵曹と小泉兵曹がその身体を石場兵曹に向けて

「もしかしたら。――なんじゃとお思いです?」

と尋ねた。すると石場兵曹は暗黒の一重まぶたをいったん閉じてそして再び開いた。白目をむいていて、見張兵曹も小泉兵曹も、ほかの兵員嬢たちも一瞬「うわっ」と身を引きかけたがその身を戻して石場の次の言葉を待った。

石場兵曹は白目をむいたまま重々しい調子で

「あなたがた、あの人がチェストに蝙蝠を飼って居るのを忘れてませんかのう?あの騒ぎは蝙蝠関連の騒ぎですよ。そうとしか思えんが。まあ妙なことに巻き込まれるんは嫌ですけえね。みんな今日はあの騒ぎが収まるまで部屋の外に出ん方がええ思うよ、うちは」

と言った。見張兵曹はじめその場の一同は「ほう・・・」と感嘆のため息をついて、見張兵曹は

「さすが石場兵曹じゃ。うちらそんな大事なことを忘れとったわ。ほうじゃね、今日は当直以外はここから出ん方がええですね」

と石場兵曹をほめて、石場兵曹は目を元に戻すと「オトメチャンに褒められるとは嬉しいことじゃ。ウフフフ・・・」というとオトメチャンを抱きしめた。

と、野田兵曹たちが走り去って行った先の高角砲分隊の居住区の方ですさまじい怒号が聞こえて皆はからだを固くした。

「な、なんじゃろう」

と石川水兵長が声を震わした。石場兵曹は、主席下士官らしい責任感にあふれて

「皆はここに居れ。やたらとでたらいけんで」

というと艦内帽をしっかりかぶると廊下に走り出た。他の居住区からも古参の下士官たちが走り出て来ている・・・

 

その怒号は高角砲の居住区から発せられたものである。

野田兵曹は自分の居住区に大声を出しながら走りこんだのだった、驚く皆を尻目に野田兵曹は自分のチェストに直行、扉をあけるなり足にひもをつけたままの蝙蝠三匹を荒っぽく引きずり出したのだった。

そこに駆けこんできた衛兵隊の準士官たちは

「野田兵曹、何しとる!貴様自分のしとることがわかっとってか!」

と怒鳴ったのだった。

野田兵曹は蝙蝠三匹を繋いだひもを振り回し「あっちへ行け、あっちへ行かんか!もううちに構わんでくれ!」と怒鳴る。かわいそうに蝙蝠たちは足を縛られているので逃げることもかなわず振り回されている。

衛兵隊の準士官の中の一人、機関科の松本兵曹長は

「野田、そげえなことをしたら蝙蝠が死んでしまう、やめんか!」

と怒鳴った。もう一人の兵曹長が

「いけんで野田!蝙蝠の足が取れてしまう!」

と叫んだ。が、野田兵曹は耳を貸さない。余計に蝙蝠たちを繋いだひもを振り回す。高角砲の分隊員たちは部屋の隅にひと塊りになっていたが

「あれじゃあ蝙蝠が可哀想じゃ。足がもげてしまうで・・・誰かはよう野田を止めんと」

と騒ぎ始めた。

そこに、

「野田さんあなた間違ってますねえ!」

と大音声が響いた。皆が声の方を見れば、松岡中尉がたいへん怖い顔つきでラケットを構えて野田兵曹をにらみつけている。その後ろには野村副長に藤村甲板士官が控えている。さらにその後ろにはマツコとトメキチ。

マツコは野田兵曹が振り回しているひもにつながれた蝙蝠たちを見て

「ちょっと早くあの連中を助けてやらないと死んじゃうわよ!足がもげちゃうって悲鳴をあげてるじゃない・・・マツオカ、早く何とかしてよう」

とくちばしをガタガタさせたし、トメキチも「かわいそう、あの人たち泣いてるよ!信じてた野田さんにこんな目にあわされて・・・かわいそう!」と半分泣きながらマツコに叫ぶ。

松岡中尉はマツコとトメキチを振り向いてそっとうなずいた、そして

「大丈夫、あの蝙蝠三羽ガラスは私が絶対助けます」

というと野田兵曹をもう一度睨みつけた。野田は相変わらず蝙蝠を繋いだひもを振り回している。

松岡中尉はラケットの先を野田兵曹に向けると

「あなたはこの蝙蝠さんがたを大事にしてきたんだろう?それがなんだ、元に返せと言われたらそれが気に入らないとあなた、この蝙蝠さんがたを死なせるような目にあわせてるじゃないですか!野田さんね、あなたは人間だからいいでしょうがこの蝙蝠さんがたは艦内の環境に慣れるだけでも結構なダメージを受けてるとは思いませんかねえ?もともとはこの蝙蝠さんがたはトレーラーの林の中で静かに暮らして虫だの果物だのを食って生きていたんでしょう?それをあなたの勝手な思いでこの艦の中に連れてこられてさらに自由を奪われて。

ひもでつながれてのお散歩もいいですがあなたもうちょっと考えなさい。生き物にはそれぞれの生きる場所があるんですよ?私の鳥くんや犬くんのように人間生活に順応できる能力があればそれはいいでしょうが蝙蝠さんがたはそうはいかないでしょう。

一所懸命あなたについてゆこうとしている蝙蝠さんがたを健気だとは思わないんですかねえ?そしてあなたは今、その蝙蝠さんがたをひもがついたまんまで振りまわして・・・足が取れたらどうするんですか?足がたとえ一本でもなくなってしまったらこの蝙蝠さんがたはもう、野生で生きてはいけないんですよ?あなたこの蝙蝠さんがたをその一生の間しっかり面倒見られますか?そんな覚悟があって飼ってるんですか?

さあ、蝙蝠さんがたをこっちによこしなさい!」

と最後はさらなる大声で怒鳴った。野田兵曹は蝙蝠を繋いだひもを持った手をダランと垂らして泣いていた。松岡中尉はそっと歩み寄って

「さあ、貸しなさい」

とひもをその手から取ろうとした。

その時!

「いやだあ、これはうちのものじゃ!」

と野田兵曹が絶叫し、蝙蝠を繋いだひもを持った手を大きく上にあげて床に蝙蝠を叩きつけようとした。あっと皆が目を覆いかけたその時。

「危ないッ!」

と叫んで蝙蝠が床にたたきつけられる寸前に床に滑り込んできた人影一つ。それは誰あろう副長であった。副長は大嫌いなはずの蝙蝠の危機にその身を投げ出して救ったのだ。もうすっかりダランと全身の力の抜けた蝙蝠たちは副長の腕に抱えられ、危機から救われた。

「馬鹿もの!」

松岡中尉の声とともに「ごつっ!」という鈍い音が響いた。とたんに床に昏倒する野田兵曹。兵曹は松岡中尉の怒りのラケットを頭に受けて昏倒したのだった。

わっと衛兵隊嬢が野田を取り囲み乱暴に引き起こす。野田兵曹は軽くうなり声を上げつつ引き立てられていった。それをやっと駆けつけた梨賀艦長が見送りつつ

「副長、副長どうなったんだ」

と言って高角砲の部屋に入ってきた。そして見れば、副長が松岡中尉や藤村甲板士官は他の兵員嬢たちに囲まれている。そっと寄ってみればその副長の腕にはぐったりとした三匹の蝙蝠が抱えられている。

(卒倒するほど嫌いだったはずなのに)

と艦長は微笑ましく思った。そしてそれには触れずに

「副長、その蝙蝠たちは畑大尉(注・医務科の大尉でもともとは獣医になりたかったひと。人間を扱うより生き物の方が得意らしい)に診せよう。そして野田兵曹の処分を考えないといけないね」

というと副長を真ん中にして皆はぞろぞろと医務科へと歩き始めていったのだった。

それを見送りながらマツコは

「よかったわねえあの連中助かって。アタシもうだめかと思っちゃったわよ」

と言って翼をくちばしで撫でつけた。トメキチも

「ほんと。よかったわねマツコサン。・・・あ!」

と声を上げた。マツコが「なに大声出してんのよアンタ」と見れば――興奮状態になったトメキチ、またもやうんちを落としていたのだった。

「あんたって・・・尻の穴をしっかり締めたらどうよ?」

マツコはあきれてその大きなくちばしを開けたまま――。

        (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・

野田兵曹御乱心の果てでした。

蝙蝠たちは危機一髪でしたが副長の機転で助かりました。そしてこのあとは野田の処分と蝙蝠さんがたの処遇が・・・どうなりますか、お楽しみに。

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オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは!
こういう野田兵曹タイプはちょっとごめんなさい~~ですね(-_-;)。
相手を自分の思い通りにしようと思ってもそうはいかの金玉!でございます(ってすごいたとえだ)。

野田と蝙蝠の行く末、どうなりますか・・・(-_-;)。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんにちは!
こちらこそいつもありがとうございます^^。

さあ、緊急事態です・・・野田兵曹と蝙蝠の行く末は?

石場兵曹の<暗黒の一重まぶた>は本物の石破さんを思い浮かべるととても不気味で怖いですね(石破さんごめんなさい!)。
夜道で会いたくないです・・・(-_-;)

こんにちは。野田さん、めんどくさくて付き合いにくい女、確定ですね~殿方と長くお付き合いしたら束縛するタイプできっとストーカーになるに違いない! 自分らしく生活できる場所を奪うのはいけないことです。コウモリさんたち、ちゃんとふるさとに帰れますように。恩返しはいらないから(笑)

見張り員さん    おはようございます♪

いつもありがとうございます♪
ついに野田さんは見つかって蝙蝠の足を結んだまま振り回しながら
みんなの言うことを聞かないで泣き叫んでいましたが蝙蝠を床に投げ
ましたが大嫌いな副長さんが身を投げ出されて手で受け止められて
助かり良かったすね。
これから野田さんはどうなるんでしょうね。

石場さんは白目をむくのがそっくりでこちらは不気味ですね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
いよいよ桜が咲きだしそうな気配になりましたね^^。
色々とお忙しく、お疲れのことだとお察しいたします。そういう年もあるんですよね。しかしどっとお疲れが出ないようにくれぐれも御身大切になさってくださいね。

この陽気プラス、更年期障害でめまいがして久しいです(-_-;)。
お母様もお苦しいことでしょう、東京の片隅から案じております。どうか、どうかお大事に!

いつもいつもありがとうございます。にいさまがこうしてわが拙ブログにいらしてくださっているというのが何よりの私にとっての励みであり喜びであります!

こんにちは。
桜の季節になりました。体調は如何でしょうか。
ここのところ諸事にまぎれてコメントを残せずにいて申し訳ありませんでした。
春の陽気に反比例して今年ばかりはアップダウンの激しい毎日になってしまっています。
大和の皆さんの活躍に疲れをとっては何とか頑張っていることを見張り員さんにお伝えしますね。

この季節母も今朝から目まいで床に臥せています。お嬢さんのご卒業などを終えて見張り員さんもお疲れの出ないようにくれぐれもご自愛下さい。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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