「女だらけの戦艦大和」・友あり南方へ帰る3

夕食後の自由時間は兵たちの貴重な楽しい時間である――

 

その自由時間の始まりに高角砲分隊の居住区に

「野田兵曹、おるか!?」

と声が響いた。高角砲分隊の下士官嬢があわてて声の方に駆けだして行くと部屋の入口にいたのはなんと、野村副長・藤村甲板士官(少尉)そして、松岡中尉にその腰ぎんちゃくのマツコとトメキチである。下士官嬢――平井兵曹――が姿勢をただすと藤村甲板士官がズイッと前に進み出ると

「野田兵曹はおるか。ここに出しなさい」

と言った。平井一等兵曹が居並ぶ士官連中をそっと見ればまあ、なんて怖い顔の皆さんなんだろう、こりゃあ早いところ呼ばんといけんわ。

というわけで平井兵曹は室内に体を向けると大きな声で「野田兵曹、野田兵曹!副長と甲板士官がお呼びです」と呼ばわった。

野田兵曹は例によってチェストの中から蝙蝠三羽ガラスを取り出して事業服の腕にぶら下がらせている。その周囲に兵の姿はなく――仲間たちはみな、蝙蝠を敬遠して野田兵曹の半径一メートル半は「真空」状態である。

野村副長は「指揮官先頭」の海軍の伝統に則ったか一番最初に部屋に入ってきたが野田兵曹が片手に蝙蝠をぶら下げて微笑んでいるのを見てさすがに片足を引いた。藤村少尉がさっと副長の前に進み出て

「野田兵曹。今日は貴様に話があってこうして来た。その蝙蝠をとりあえずチェストに戻してから一緒に来い」

と言った。副長は重々しくうなずき松岡中尉がラケットを肩に担いでじっと野田を見つめる。マツコとトメキチさえ妙に静かな瞳でこちらを見つめている。野田兵曹はちょっとだけ怖くなって「わかりました」というとおとなしく蝙蝠をチェストに戻した。

そして野田兵曹は副長、甲板士官に松岡中尉にマツコトメキチに囲まれて連行されていったのだった。

それをぞろぞろと連なって見送っていた兵の一人が不意に

♪ 蝙蝠を飼ってた野田兵曹

  えらいさんに連れられて行っちゃった・・・

と「赤い靴」の節で歌いだし、一同大爆笑になったのだった。

 

さて。

野田兵曹はそのえらいさんがたに連れられて、寒風吹きすさぶ露天甲板・副砲前にいた。さすがにこの冷たい風はマツコとトメキチにはよくないと松岡中尉は二匹を中に置いてきたが、野田兵曹は事業服のままで寒風に震えている。野田兵曹はガタガタ震えながら

「あの・・・藤村少尉・・・私あの・・・寒いんですが」

と言って藤村少尉は「何をぬかすか、我々だって寒いわ!貴様のせいでここで話をする羽目になったんだ、悪いと思え!」と怒鳴って野田の尻に回し蹴りをくらわした。いたい、という野田兵曹に松岡中尉は

「あなたいけませんね。もっと熱くなればこんな寒さは屁でもないはずですよ?あなた熱くなってませんね、いけませんよ?本当ならこの話し合いは副長のお部屋でするはずでしたがあなたの体からはあの蝙蝠さんがたの体臭がぷんぷんするんでね~、蝙蝠嫌いの副長さんがたいへん嫌がられたのでここにしたんですよ。あなた、自分が被害者のように思ってません?ですがよく考えなさい、真の被害者は我々ですよ?」

と説教した。

野田兵曹は体を手でさすりながら「はい・・申し訳ございません。で、お話とは?」と尋ねる。副長はゴホッと咳払いをして三種軍装のネクタイのしまり具合を確かめてから

「野田兵曹、あなたのあの蝙蝠だがね。この松岡中尉の友人が近々トレーラーに戻るというのでその友人の中尉が連れ帰ってくれるというのだ。だからあなたは速やかに、松岡中尉の用意した鳥かごに蝙蝠を入れて松岡中尉に渡しなさい。これは命令だ、いいね?」

と重々しく告げた。すると野田の顔が悲痛に歪んだ。そして震える唇で

「あの子たちと、別れんならんのですか?そがいな寂しいことうちはよう出来ません。いくら・・・副長の御命令でもそれは・・・。

副長、お願いです!きちんときれいにして飼いますけえ、どうか連れて行くんは勘弁してつかあさい!これこの通りお願いであります!どうか、どうか――」

というなりその場に伏して大泣きし始めた。しかし、だからと言ってはいそうですかではどうぞというわけにはいかない問題である。

松岡中尉はラケットをひと振りしてから野田兵曹のそばに膝をつくと

「野田さんあなた何を言ってるんです?この期に及んでまだわかりませんか?私前にも言ったはずですよ?あなたの蝙蝠はトレーラーで生きる生き物です、それが遠く離れた日本に連れてこられたのは彼らには迷惑かもしれませんよと。それにもしも彼らが逃げ出したら、内地の生態系が狂うかもしれないでしょうとも言いましたよね?蝙蝠さんがたは、私の鳥くんや犬くんとは違うんですよ。適応能力がそれほど高いとは私には思えないんですよ。

ですから万が一死なせたりしたらねざめも悪いし彼らにも気の毒でしょうが?だから私の同期に頼んでトレーラーに返しましょうとこう言ってるんですよ。まだ分からないんですかねえ貴方。あなたが本当にあの蝙蝠さんがたを好きなら、そうしてあげるのが最高の愛情表現だと私は思いますがね。どうでしょうか」

と説いた。

しかし野田兵曹は伏して泣き続ける。泣きやみそうにないその様子に、藤村少尉がついに腹を立てて

「貴様あ、いい加減にしろ!副長や松岡中尉をどこまで困らせたら気が済むんだ!よし、貴様がそんなつもりならこちらも実力行使で行く!――副長、松岡中尉。こうなったら致し方ありません。強硬手段です。蝙蝠を鳥かごに入れて明日、『蚊取』の士官にお預けしましょう」

と言って、野田兵曹に「立て!貴様の蝙蝠を差し押さえる。貴様の手でかごに入れよ、出来ぬというなら他のものにさせる」というとその事業服の背中をつかんで引き上げた。

すると。

野田兵曹は「うわ―ッ!」と叫んで全力で暴れると藤村少尉の手を振り切った。そしてあっという間もなく甲板を走り去ってゆく。

「まて!野田兵曹待たんか!」

副長に藤村少尉そして松岡中尉がそのあとを追う。野田兵曹は叫び声をあげながら露天機銃座そばの出入り口から艦内に走り込んで行った。副長が松岡中尉に

「松岡中尉、あなた早く野田を追いかけて!変なことをしそうになったらそのラケットでひっぱたいて気絶させなさい。もし逃げ出したら誰か人数を集めて彼女を追い詰めて。私は急ぎ准士官以上による衛兵隊を組織して彼女を追う!」

と言って松岡中尉は「はいっ!」と叫んで野田兵曹が消えていった方へ走り去る。副長は藤村少尉に「衛兵隊を組織する。急ぎ集合させよ」と命じ、藤村少尉は令達機へ走ると興奮と緊張で震える手でマイクを取り上げ

「衛兵隊を組織する。当該の准士官以上は前甲板に集合、急げ!」

と怒鳴るように言ってマイクを置いた。と、一分もたたないうちに数名の兵曹長それに少尉などが走って出てきた。あっという間に前甲板に二十名ほどが集まった。この彼女らは、副長直属の「衛兵隊」構成員で、何か事が起きた時甲板士官あるいは副長直々の号令でこうして集合するのだった。

副長の前にズラリ、整列した「衛兵隊」嬢たちは緊張の面持ちで話しを聞き、そして

「野田兵曹を拘束せよ。そして蝙蝠を捕獲し籠に入れよ。急げ!」

との副長の号令一下、隊列を組み一斉に走り去って行った。

藤村少尉がその先頭に立って走ってゆく。副長は(艦長に知らせないと)と、これも急いで艦長室に走ってゆく。

 

さて艦内では令達機からの衛兵隊云々の放送に緊張が走っていた。何も知らない下甲板などの兵員嬢は「ええ!?一体何があったんじゃろうか?いやじゃなあ」とおびえているし、野田を巡る騒動を目撃していた高角砲の分隊員たちは

「野田の奴、逃げたんと違うか?ほいで衛兵隊が組織されたんじゃないね?」

と不安げな表情で互いを見交わした。さらに、航海科の部屋では自由時間とあって本を静かに呼んでいた見張兵曹が顔をあげて

「准士官以上の衛兵隊じゃと・・・これはちいと面倒事が起きたんと違うかねえ。ほういやあ、ハシビロとトメキチはどこへ行ったんじゃろう」

とつぶやいた。小泉兵曹も、姉への手紙を書く手をとめて

「ちいと穏やかじゃないねえ。何事が起きたんじゃろうか・・・」

と言って立ち上がり廊下の左右を見た。そして

「なにもないようじゃが・・・」

といいかけた途端に向こうから奇声をあげながら走ってくる野田兵曹に気がついた――!

        (次回に続きます)

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

なんと野田兵曹、御乱心でしょうか!

そして怖そうな?衛兵隊に活躍の場はあるのでしょうか。緊迫の次回をお待ち下さい!
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Secre

matsuyama さんへ

matsuyamaさんへ
野田さん大ごとになりそうですがどうなりましょうか???
好きなものを取り上げられることの苦痛は耐えられないものがありますよね、覚えがあります。が、野田さんの場合はねえ~(-_-;)、ちょっと公共の福祉に反する気がしますね(^_^;)。

そちらはまた、時ならぬ大雪になってしまったそうですね!
こちらも今日は晴れてはいるものの風邪がとても冷たく、以前に立ち戻ってしまったような感じで風が胸に染みて痛いです。
雪掻き大変ですがどうかお身体を大事になさってくださいね!

艦内では野田兵曹大乱心ですか。
何でもそうですが、好きなものを取り上げられるということは乱心でもしたくなりますよね。
本人にとっては右腕をへし折られるようなもので、耐えられない苦痛なんでしょう。
とはいえ、身から出たサビということもありますから致し方ないことです。

耐えられない苦痛といえば、明日のお彼岸中日を前に今夜は大雪です。
暑さ寒さも彼岸までといいながらの名残り雪、耐えられないです。
明日はまたまた雪かきなんでしょうか。なまった身体を鍛え直すか(アセ)。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
野田兵曹ご乱心・・そして衛兵隊の結成と来るとこれは大ごとになりそうです、どうなりますか???

今日は東京も朝から雨。結構降りましたが夕方には上がって散歩も行けました。本降りではさすがにケイチャンも歩きたくはなかったのでしょうね、明日は晴れますように^^!

れい姉さんへ

れい姉さんこんばんは!
昔はよくあったものですね、拾った猫や犬を『捨ててらっしゃい』っていうの・・・

蝙蝠はそう、ぶら下がったまんまでの排せつで<きれい>とは言い難いですよね(-_-;)。よくTVなんかで見る蝙蝠の穴の中ってくそだらけですよね、げっそり来ますw。
マツコのえさにもトメキチのえさにもならない蝙蝠・・・さあどうする!

見張り員さん     こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
野田兵曹さんは御乱心で素直に蝙蝠は渡せなかったですね。
衛兵隊が組織されて面倒なことになり目が離せませんね。
こちらは朝から雨で朝は小降りで散歩に行けましたがまだ上がらずに
雨は本降りでレインコートを着せての散歩でしたがトイレをしましたら
すぐに帰りました。

こんにちは(=゜ω゜)ノ

一瞬、お母さんに拾った猫を元に戻して来なさい!と怒られた小学生の姿が、頭をよぎりました…吊って来ます;;。
そういや、コウモリって、ぶら下がったままで排泄しますよね…ww。
艦から下ろしたいという、他の士官の皆さんのお気持ちも分る気がしますww。
そういや、マツコさんの餌にはならんのか?とか思いましたがw、
そういえば、ハシビロコウは魚食でしたね…ww。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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