「女だらけの戦艦大和」・友あり南方へ帰る2

野村副長は、松岡修子海軍中尉から『お詫びのしるし』としてもらったカステラの箱をしっかり膝に抱えて<野田の蝙蝠>をどう手離させるかを松岡中尉とマツコ、それにトメキチを相手に相談していた――

 

がしかし、なかなか結論を見ない。

野村副長は膝に抱えたカステラの箱を今度は胸に抱えてはあっとため息をつきた。その副長を見て松岡中尉は

「副長、あきらめないで熱くなりましょう。・・・敵もさる者ひっかくもの。野田さんはあれで内心火の玉みたいに熱い人ですからねえ。う~~ん・・・そうですねえ。彼女みたいな人には姑息は手段を用いるより強制力を発動した方がいいんじゃないかと思うんですよね。

副長!こうなったら野田さんには気の毒ですが実力行使で行きましょう。そうですね・・・準備の都合がありますから四日後に野田さんとあの蝙蝠くんたちはお別れさせます。『蚊取』の友人はいつでも良いと言ってくれています。と言っても『蚊取』も十日後にはトレーラーに向けて抜錨ですからね、それ以降にはずれ込むことはできません。ですから副長、いいですね。そして鳥くんと犬くんも手伝いをよろしく!熱くなろうぜ!」

と強硬手段を訴えた。副長はしばしの間、松岡中尉の顔をポカンとしたように見つめていたが次の瞬間

「わかった松岡中尉。では四日後に野田兵曹からあの蝙蝠連中を引き離そう。で?準備とは一体何?」

と勢い込んだ。松岡中尉はにっこり笑って

「よくぞ聞いて下さいました。私は工作科に頼んで蝙蝠連中を入れ込む特別製のかごを注文してあるんです。それができるのが四日後の朝の予定なんですねえこれが。ですからその日の午後までにはかごに入れて私は『蚊取』に行ってまいりますがそれでよろしいですか、副長」

と言った。副長は、松岡中尉の手まわしよさに感心しつつ

「いいよ、そこまで用意周到とは驚きました。あとはあなたに一任しましょう。ではよろしく」

というと二人は立ちあがり、松岡中尉はマツコとトメキチを伴って部屋を出ていった。

残された副長は、カステラの包み紙をそっとはがし箱をむき出しにした。老舗カステラ店「袱紗屋」のマークが目に飛び込んできた。副長の顔がこれ以上ないくらいの至福に輝いた。そしてその手は大事に箱を開き中のカステラをそっと引きだした。

和紙に包まれたカステラがその全身を現し、副長はウフフとほほ笑みながらそれをデスクの上に置き、薄紙をそっと外すと引き出しからナイフを出してカステラにその刃をそっと入れたのだった。

(艦長には悪いけどこれは私一人のお楽しみにしよっと。だ―い好きなカステラなんだもん)と思いつつ・・・

 

野田兵曹は、その翌日も課業の後蝙蝠をチェストから大事に出すとその足にひもをくくりつけ、まるで風船かなにかのようにふわふわひらひらと飛ばせつつ艦内をお散歩。行きあう下士官兵たちは士官たちは思いっきり顔をしかめたり恐怖に顔をひきつらせて壁にひっつくようにしてやり過ごす。

そして小声で「なんじゃ野田の奴。ええ加減にあがいなもんほったらええのに」とか「もっときれいに飼っとるなら我慢も聞くがあがいに汚く飼っとるんじゃたまらんわ。何とかしてほしいわ」とか「蝙蝠を捨てる時野田兵曹も一緒に捨ててきたらいいのにね。このさい艦内大清掃だよ。片付けられない帝国海軍軍人はこの艦には要らないわよ」などと囁き合う。

が、肝心の野田兵曹の耳には届いていないし、届いたとしてもあの大きな顔にふてぶてしい笑みをいっぱいに浮かべて

「何言ってるんでしょうかねえ?あなたたち私のように生き物を手なずけることができないもんだからやっかんどるでしょう?これじゃけえねたみをする人は嫌じゃねえ。悔しかったらあなた方もやってみんさい?」

というのが関の山である。ようするにちっとも彼女の心にはそうした皆の迷惑が届いてはいないのである。自分の思う通りに振る舞い人の迷惑を気に掛けないどうしようのない女の典型である。

「あがいなおなごが帝国海軍に居るいうんがそもそも変じゃ、そう思わんか」

と言ったのは小泉兵曹である。小泉兵曹は当直の間、双眼鏡をのぞきながら反対側にいる見張兵曹にそう話しかけていた。見張兵曹は双眼鏡の奥の景色を中尉深く見つめつつ

「うん、まあうちもたいがいじゃけえひとのことをあれこれ言うんはなんじゃけど――野田兵曹のチェストの来たないんは嫌じゃねえ。ほいで今度は蝙蝠を飼っとろう?あれがまたおかしなものにならんか思うたらうちは恐ろしゅうていけんわ。妙な化けもんはあのキノコで大たくさんじゃけえねえ」

と言ってため息をついた。小泉兵曹がクスッと笑って

「ほうじゃね。デカイ蝙蝠のお化けになんぞなった日にゃあ、うちら食われてしまいそうじゃ。大ごとじゃj

といい、見張兵曹も「ほんま、大ごとじゃわ」というと二人は声を立てて笑った。

 

そんなころ、森上参謀長は何かを探して部屋や外廊下をうろうろしている・・・。

 

そしてついに

「松岡中尉、出来ましたよ」

という待ちに待った声が中尉の元に。その朝工作科の水木水兵長と荒川上水が、大きな鳥かごを二人で抱えて持ってやってきた。そして二人はそれをそっと、中尉の前に下ろした。中尉は喜んで

「いやあ、素晴らしいじゃないですかあ!あなたがたは熱くなってますねえ、素晴らしいですよ。というわけでこれは私の心からの感謝のしるしです」

というと三種軍装のポケットから大きな板チョコ二枚とビスケットの袋を四つ取りだすと水木水兵長と荒川上水に手渡した。工作科の二人は大喜びでそれを押しいただき、そして敬礼すると帰って行った。

松岡中尉は床に置かれた鳥かごをしばし見つめた後「よし!今日から君も富士山だ」とひとりで叫んだあとそれを抱えるといずこかへと走り去って行った。

その途中に出会ったマツコとトメキチは、中尉の抱えている大きな鳥かごに仰天した。そして

「マツコサン、あれもしかしてマツコさんを入れるものかしら?」

「いやあねえこのくそワンコ、どうしてアタシがあれに入れらんなきゃいけないのよう、もう~」

と騒いだ。すると松岡中尉は振り向くなり

「おお、鳥くん犬くん!さあ今夜あの計画を発動しますからね。なにって、そう、野田さんの蝙蝠を南方に返すあの計画ですよ。――でもこのことを誰かれ構わず話したらあなたがた銃殺ですからね。黙っていなさいよ。ってなわけで私はこれを副長のお部屋に持ってゆきますからね。・・・そうだ鳥くん、この風呂敷をかごに掛けてくれませんかねえ」

と自分の服のポケットを顎でしゃくった。マツコは「はいはい・・・ああ、これね」と中尉のポケットから風呂敷を引っ張り出すとそれをトメキチと一緒に上手にかごに掛けた。松岡中尉は

「これでよし。途中野田さんに出会って我々の意図を察知されたら元も子もないですからねえ」

と言って笑い、かごを持って副長の部屋に歩き出したのだった。そのあとを忠実な部下のハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチがしたがってゆく。

 

そして松岡中尉は副長にかごを見せ、副長から「これなら大丈夫だろう。いくら汚い蝙蝠とはいえ生き物だ。命ある物を邪険にはできないからね。このかごならあの連中も快適にトレーラーまで行けるだろう」と承諾をもらった。かごには蝙蝠嫌いの為の目隠しの役割の薄い鉄板が張られ、そして空気の流通も良いようにところどころ小さな通風口らしきものもある。

副長はその通風口部分に指を当てて

「これならいい。息もできるし向こうについても茹であがったりしないでしょうね」

と言った。松岡中尉は「じつは」と言って隠し技を見せる、薄い鉄板は、外すことも「出来るんですよ」と中尉はまるで自分が作ったような得意顔で説明。副長は

「さすがわが『大和』の工作科。することが違います」

と感心してうなずいた。そのそばでマツコとトメキチも同意のしぐさをして見せる。

「で、松岡中尉」

と副長は言った。「蝙蝠差し押さえは、午後の課業後にする?それとも夕食後の自由時間に?」

松岡中尉は自分の腕時計をちら、と見てから

「夕食後にしましょうか。そのほうが落ち着いて出来ますからね・・・さあ、熱くなれますよ副長!」

と言って二人は何か可笑しくなって笑いあったのだった。

ただ――マツコだけがその金色の瞳をうつろに見開いて「何か・・・起きそうでいやだわアタシ」とつぶやいている。トメキチも「そうねマツコサン。僕も何かいやーな予感がするんだけど」といい、マツコは視線をトメキチに向けると

「何事も無けりゃいいんだけどねえ」

と言って二人は深いため息をついたのだった。

 

そして夕食が終わり、自由時間に入った時――。

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

いよいよ野田の蝙蝠三羽ガラス(?)が差し押さえられる時が来たようです。野田兵曹おとなしく蝙蝠を差し出してくれるでしょうか。

マツコとトメキチの「いやな予感」が杞憂に終わりますよう祈るしかありません。次回をお楽しみに!

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いなばさんへ

いなばさんこんばんは!
おお!奇遇ですねえ~~私も食べましたよ、おんなじメーカーのw、わたしは「桜カステラ」をチョイス。
うんめ~~~~です♪

カステラと言えばこの間、食べました。
「カステラ一番♪電話が二番♪三時のおやつは~」でおなじみの。(笑)

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
蝙蝠は嫌いな人が多いですよね、あの姿はちょっと…好きにはなれないかも。私も好きでないです・・(-_-;)
野田兵曹がちょっと気がかりですね、おとなしく差し押さえに応じるとは思えない???
また騒動が起きるかもしれませんね^^。

今日は春一番で昼間はずっと強風でした。
夕方は収まったのでモミチャン散歩に行きました♪

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
昨日無事卒業いたしました。袴姿に嬉しさとさみしさを感じておりました・・・おかげさまで上天気でほっといたしました。
ありがとうございます!

さあ!蝙蝠の話はどうなりますか??
お楽しみに^^。

見張り員さん     こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
蝙蝠は苦手な方が多く見たらきっと声を上げて
逃げるでしょうね。
野田兵曹は蝙蝠を素直に出してくれるか微妙ですね。
マツコさん達が気にしていることが何か起こりそうですね。
今日はこちらは朝は風が冷たかったですがお昼と夕方の
散歩は風が弱まり暖かく散歩ができ喜びましたが明日はお昼
前から雨の予報で夕方はレインコートを着せての散歩になり
ます。
モミジちゃんも今日は暖かく散歩は気持ちよく行けますね。

おはようございます。今日、娘さまの卒業式なのですね。袴姿がきっと凛々しく可愛くステキなはず…晴れてよかったです。おめでとうございます!

お話も鳥籠の完成でいよいよ…ですが、その前にアレコレありそうな……大捕物が展開されそうでドキドキしています。楽しみです~! お身体に気をつけて下さいね。
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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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