「女だらけの戦艦大和」・友あり南方へ帰る1

野田兵曹は、あいも変わらず三匹の蝙蝠を大事にチェストに飼っている――

 

三匹は初めての日本の正月を越していた。さすがに南方育ち・南方暮らしの蝙蝠だけあって寒い外には出たがらないし野田兵曹もその辺は心得ているのか艦の外へは出さない。が、

「いくらなんでも運動不足になっちゃいけませんよねえ。だからこうして運動させることにしました。この子たちは私の大事なお友達・・・誰がなんて言っても私は手放したくないですね、やっぱり」

といいながら蝙蝠たちの片足に紐をつけ、その紐三本を自分が持ち、蝙蝠はその可動範囲内でぴらぴらと飛びながら艦内を散歩するというまさに珍景が巡検後に展開していた。まるで子供が風船を持って歩いているような格好ではあるがそんなかわいいものであるはずがなく、この「お散歩」を野村副長はたいへん嫌がり――いや、嫌悪し――「もういい加減あの蝙蝠をどうにかしろ!私はあんなものと一緒に艦内にいるというのが我慢できん!」と怒り心頭に発している。

彼女は実は大変な蝙蝠嫌いで野田兵曹のチェストを点検した際この蝙蝠たちに遭遇し、気絶するという惨事に見舞われていた。それを彼女は大変に恥じていたが、梨賀艦長の『人間、一つや二つ嫌いなものや苦手なものはある。そんなに恥じることはない』という優しい言葉に感涙を流したが

「でも!あんなものを飼っていては艦内衛生が保てない。なんとかせねば」

と、この手のことにはなんでも精通していそうな航海科・松岡修子海軍中尉を呼んで善後策を講じたのだった。

松岡中尉は、第一艦橋で花山掌航海長・樽美酒ゆう航海士などと一緒にいた。正式に航海士になった樽美酒少尉にあれこれいらんことをレクチャーして先輩風を吹かしている松岡中尉、そしてそれをさりげなくけん制している花山掌航海長。

艦橋に副長が入ってゆくと三人は敬礼し、副長もそれに応えた。そして

「今日は航海科の重鎮が集まってなにをしてるの?花山さん、航海長不在でたいへんだろうがしっかり頼みますよ」

と掌航海長を主にねぎらった。が、松岡中尉が

「副長、我々は片山航海長不在の間は今まで以上に熱くなって頑張ってますよ!尻の穴も今までにないほどきっちりと閉めています。ですからご心配なく願います。樽くんも航海士としてしっかりできそうだし花山さんも尻の穴を締めて頑張ってくれてます。副長、御心配なら我々の尻の穴をご覧になりますか!?熱くなっている証拠をお見せしましょう、さあ、花山さんも樽くんも褌はずして副長に尻の穴を見せて差し上げなさい!」

とわけのわからないことを言ったので顔をしかめて片手を体の前に突き出して横に振り

「いい、いい!そんなもの見んでもいい!松岡中尉がいつも熱くなってるのはよく知っているから結構だ。私はひとの尻の穴を見つめる趣味はないから結構。ふんどしは外さないで絶対!」

と必死にことわってから「そうそう。松岡中尉ちょっと来てほしい」と言った。松岡中尉はいつも抱えているテニスラケットをブン、と音を立てて振って

「おや副長。いやだとかおっしゃいながら私の尻の穴をどこかで二人だけで見たいんですかあ?熱くなってますねえ、ではじっくりご覧くださいな」

といらぬことをしゃべり副長は松岡を軽くにらんだ。が、全くそんなことを意に介さない中尉は

「あれ?副長は冗談を解さないんですか?いけませんねえ、それでは熱くなっているとは言えませんよ。さあ、今日から副長も富士山になりましょう~」

と叫んでまたラケットをひと振り。それがちょうど後ろを向いていた花山掌航海長の後頭部を直撃。掌航海長はその場に昏倒する羽目に。樽美酒ゆう少尉があわてて抱き起こし、副長も「花山さん大丈夫!?」とあわてたが

「さあ、早いとこお話をしましょう。何処でしましょうか、副長のお部屋でしますか?おいしいお菓子を願いますよ~」

と松岡中尉に艦橋から引きずり出されてしまった・・・

 

そして二人は副長の私室に。

入った途端松岡中尉は「あっ。あれはなんでしょう」と叫ぶなり副長のデスクの上に置いてあった皿に乗っていたカステラの五切れを目ざとく発見。副長が制する暇を与えないままあっという間にそのひときれを大きな口を開けて放りこんだ。野村副長は(この女・・・せっかくこれから食べようと思っていたのに)と腹を立てて涙目になりながらも、副長たるものがこのくらいで騒ぐのはみっともない、と咳払いをひとつして

「立ったまま食べるのはみっともない・・・ここに座って」

とソファを指した。松岡中尉は「さすが副長。熱くなってますねえ」といいながらもうひと切れのカステラをつかんで座った。その松岡中尉を情けなさそうに見つめてから副長は

「でね、松岡中尉。あの野田兵曹の蝙蝠なんだが・・・このままずっと艦内に置くわけにはいかないでしょう。以前あなたは同期の人に頼んで元の場所に返すようなことを言っていたけどその話はどうなりました?」

と切り出した。松岡中尉はカステラを口に放りこんだ、その途端「うーーー」と唸って目を白黒させた。カステラがのどに詰まったのだ。副長はあわてて水をコップに注いだのを持ってきて中尉に飲ませた。中尉はガブガブとコップの水を飲むと

「ああ!死ぬかと思いました!熱くなりすぎましたねえ、私としたことが」

と言って笑った。そして急に真顔になると

「先ほどの副長のお話ですがね、私は呉に停泊中の艦艇をあたってみました。トレーラー方面に近々帰る艦がいましたよ。『軽巡・蚊取』です。そして『蚊取』には愛しい私の同期の桜が数名いました。彼女たちに私はこの話をしましたら、彼女たちも熱くなってくれてあの蝙蝠三羽ガラスをトレーラーに連れ帰ってくれるそうです。副長ー、安心して下さいね~」

と最後は笑った。副長はほっとして、だが

「それは良かった。しかし『蚊取』の同期の士官には大きな迷惑をかけてしまうね。それにほかの乗組員にも」

と少し表情を曇らせた。が、松岡中尉は

「いやご心配には及びません。『蚊取』艦長以下皆、それはいいけない、きちんと元に戻さないと!と熱くなって下さいましたからね。『蚊取』の皆さんはもうすっかり富士山になっていますよ。

・・・あとは『蚊取』の出航前に蝙蝠三羽ガラスを持って行くだけなんですが野田さんは承知してくれるでしょうかねえ」

と言って考え込む格好をして見せる。副長はそんな松岡中尉を正面から見つめて

「承知するもしないも、させる!松岡中尉、今夜巡検後ここに来てほしい。そして今夜中に野田兵曹にこの話をしてあの蝙蝠を手離させよう。それでいいかしら?」

と言った。松岡中尉は

「わかりました。では今夜巡検後伺います」

と言って立ち上がった。そして副長のデスクの上のカステラをじっと見つめたが副長は松岡の背中を押して

「じゃあ今夜よろしくね」

と部屋から押し出しながらドアを開けた。と、ドアの前にマツコとトメキチが並んで立っているではないか。副長の頭の中に

(松岡中尉+ハシビロ+トメキチ)=A

という動かしがたい公式がちらついた。そして

A=気の向くまま+食い気+やりたい放題

という最悪の公式も出現した。とたんに松岡中尉の大きな声が響いた。

「鳥くんに犬くん!デスクの上に副長さんがおいしいカステラを用意してくれましたよ!さあ、君たちも熱くなっていただきたまえ~!」

あっという間もなく副長の部屋になだれ込んだマツコとトメキチはデスクの上の残り少ないカステラを捕捉すると、Aの答え――『食いつくし』が出たのだった・・・。

 

ともあれ、その晩巡検後松岡中尉は副長を訪ねた。なぜかマツコとトメキチを従えて来た松岡、その手にはラケットとともに何か大きな箱が抱えられている。

松岡中尉は「今日はどうもすみませんでした―ッ、大事な副長のお菓子を私と鳥くんに犬くんで食ってしまって。さ、二人とも私と一緒に謝りましょう。副長、すみませんでした―っ。というわけで私の心からのお詫びのしるしです・・・」と言って箱を差し出した。

副長が「それはどうも・・・」と恐る恐る受け取るとずしっと重い。包み紙を透かして見るとなんと長崎の老舗「袱紗屋」の高級カステラではないか!

副長は顔がニヤつくのを辛くもこらえながら「いやあ、却って悪かったねえ。気を使わせてしまったようだ」と言って三人をソファに座らせた。自分はカステラの箱をしっかり膝に置いて。

そして――彼女たちは「野田の蝙蝠」をどうやって野田から引き離し『蚊取』の士官に引き渡すかの相談を始めたのだった。

 

同じころ、森上参謀長が何やら探し物をしていた――

    (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

また何か騒動の予感です。

野田兵曹三匹の蝙蝠をおとなしく手放すでしょうか??次回を御期待下さい。

 

カステラ。だーいすきぃ^^。(画像お借りしました)
カステラ

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オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは!
おお、さださんの「かすていら」!以前ドラマ化されたあれですね。
佐田さんの独特な視点がユニークだと思いましたが、彼らの親の年齢だと戦争体験は外せませんね。サイパンは悲劇の島でしたから、あの世代では「行かない、行きたくない」という人は多いですね。
若い読者が増えて戦争というものについて考えるよすがにしてほしいですね。

福砂屋さんのカステラ、長崎ではもう絶対♪ですね^^。

こんにちは。カステラに刺激され(笑)さだまさしさんの『かすていら』を読んでしまいました! さださんの父上の話だったのですが、父上がサイパン旅行には絶対に行かなかった話など、戦争体験者だからこそのエピソードなどがあり……堅苦しい戦争体験談は苦手という若い世代に読んでもらって、少し考えてほしいなぁと思いました。
福砂屋さんのカステラ、もちろん登場します(笑)

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんにちは!
ご体調は戻られましたでしょうか?くれぐれもお大事になさってくださいね。決してご無理をなさいませんよう。

この二月の大雪ですがモミジには嬉しかったようですよ!家の裏にある小さな庭にすっごい吹き溜まりが出来てそこに飛び込んで遊んでいましたよw。
ケイちゃんも元気で何よりですね。
春になったらまた新しい楽しみがありそうですね♪

見張り員さん     こんばんは♪

コメントありがとうございました♪
私こそ体調を崩したり入院をしたりといろいろあり
気にはなっていましたがご無沙汰しました。
体調もかなり戻ってきましたのでこれからも改めて
よろしくお願いします。
モミジちゃんも今年の冬は雪が積もって喜んだでしょうね。
この冬は寒さが厳しく感じましたがケイは元気で散歩が
楽しみです。

ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
ホント、みるだけであかん~~てものありますよね。私は蝶ちょ、蛾、蜂、バッタが特にだめです。この「昆虫四天王」がいっぺんに飛んでこちらを襲ってきたらと思うと卒倒しそうです(-_-;)。

カステラってたいがいの飲み物とよく合いますね!一度抹茶と食べたことがあったのですが抹茶の苦みとカステラの甘みが絶妙にマッチして至福の時を味わいましたw。ぜひお試しを^^。

ああいかん…食べたい…

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
私もあまり甘いものを食べてはいけんのですが、どうも甘味の誘惑は心惑わしてくれますね・・・(-_-;)カステラは菓子の中でも大好きカテゴリーの上位に入るものです!
あのしとっとした感触が・・・おお~~~~たまりません~~~~!

野田兵曹、こいつはもう本気でお灸をすえねばだめのようですね。蝙蝠を飼うなんて・・・ゾゾゾ・・!罰直を食らわせてやりましょうw。


色々とお大変でしたね、少し落ち着かれましたか?くれぐれも御身おいといくださいませね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
そうなんです・・・長崎「福砂屋」さんのマークは蝙蝠~~♪。確か千葉のそごうの地下に入ってなかったでしたっけ?以前買った記憶があります^^。

熱いお茶とともに食べたいカステラーーー!!

嫌いなものは仕方ないw

私にも『見るだけで無理』なものがありますw
なので、どれだけ嫌なのか、よ~く解りますww

カステラ美味しいですよねー!^^!
紅茶で食べてもよし、緑茶で食べてもよし、そして牛乳で食べるのもいいですよねー!
…って、この時間にカステラの映像はイケマセンwww
食べたくなってきた(笑)

おはようございます。
美味しそうなカステラですね。恩賜のどら焼きと言い最近甘いもの控えめな僕には酷なことです。
でも口に入れた時のあのしっとりとした感触。忘れられませんね。口福の極みに立てます。

懲りもせずに野田さんは。どこまでも我が道を行くタイプのようで。
一度マジにお灸をすえなきゃならないでしょうが見張り員さんの展開を楽しみにしています。

このたびは色々とありがとうございました。もう大丈夫です!!

こんにちは。長崎のふくさや(字が思い出せない!)さんのマークはコウモリですよね!さすが見張り員さまです~ああ、私もアツいお茶でカステラを食べたい!
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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