2017-10

「女だらけの戦艦大和」・異母きょうだい4<解決編> - 2014.02.16 Sun

麻生分隊士に促され、オトメチャンは一息すううと息を吸うと「貴子姉さん」と呼びかけた――

 

貴子少佐は、見張トメの穢れなき瞳の奥をじっと見つめた。オトメチャンも貴子少佐の瞳の奥を見つめて

「貴子姉さん。うち今思い出しました。昔の様々。確かにうちはつらいことばかりじゃった。ほいでもよう、よう思い出して見れば姉さんとはええ思い出ばっかりじゃ。さっきも姉さんが言うとられた絵本の話し、うちは覚えとります。あの寒い夜、姉さんはうちの住む納屋に大きなおにぎりを幾つも持ってきてくれましたよね。ほいで絵本を読んで下さった・・・字ぃを一つ一つ、丁寧に教えて下さった。ほいで姉さんの大事なお小遣いでこうた帳面と鉛筆を下さって『トメちゃん、これは母さんやほかの姉さんに見つからん所に隠しとくんよ、うち時々来てトメちゃんに勉強言うもんを教えてあげる、勉強できんとこの先困ることばっかりじゃけえ』いうて本を読んで、字ぃも教えて下さいましたね・・・うち、あの時の絵本も帳面も鉛筆もみなすべて今も持っとります。・・・姉さんさっきは姉さんにひどい事言うてごめんなさい、うち、前に麗子ねえさんに親切にされた思うたんにいやな見合いを押しつけられて、ほいで・・・ほいで・・・」

というとまた泣き出した。貴子少佐はその方を優しく抱いて

「ええんよ、もう。うちは麗子姉さんやほかの姉さんたちとは違ういうんをわかってくれたらそれでええんよ。ほんでも・・・あん時の本やら帳面やらを今も持ってくれとってんじゃね・・・うちは嬉しい」

と言ってこれも涙にむせぶ。オトメチャンは

「あれはうちの最初の宝物です。姉さんの言いつけどおり、だれも探さん様なところにきっちり隠して、うちが海兵団に入る時もなんとか隠して」

と言ってそこで二人は初めて顔を見合わせて笑い合った。この瞬間、(おお、二人の間のつめたい壁が氷解した)と麻生少尉は実感した。感動が、少尉の全身を走り抜け少尉はかすかに身震いした。

貴子少佐は改めてオトメチャンを見つめると

「トメちゃんは・・・あがいな目ぇにあいながらよう、曲がらんかったねえ。それだけが正直、うちは心配じゃった。うちが兵学校に行ってからも一番の心配ごとがそれじゃった」

と言ってほほ笑んだ。オトメチャンは恥ずかしげにほほ笑むと

「うち、ちいと悪んぼじゃった時があってです。姉さんが兵学校に行ってしまわれて、母さんやほかの姉さんたちがたまに帰ってくるといじめられて・・・そのうっ憤を晴らす、じゃないですがよその子たちと一緒になって畑のスイカ盗んだりして。母さんに『見張の家の恥さらし!』いうて死ぬほど殴られて外にほっぽり出されました。うちはふらふらになりながらあるいとったら、うちのお祖父さんとお祖母さんがうちを抱いてお祖父さんの家に連れてってくれました。そこで『一体どうしたんじゃね、こげえなえらいけがをして!』と聞かれました。うちはこれこれこうじゃというてうちのしたことを白状しましたら、お二人ともえらい怒って泣いて・・・叱られました。トメちゃんはこげえなことをする子じゃなかろう、こげえな悪いことをしたら悲しむ人が居ってじゃけえ、この先絶対したらいけん!ええか金輪際したらいけんで!――言うてね。うちはその剣幕にびっくりしました。うちはうちなりにわかりました・・・悲しむ人いうんはこのおじいさんとおばあさん、それに貴子姉さんじゃないかと。

それは半分あたりでしたね、もう半分はあの時海軍にいたお父さんとそれから、死んでしもうたうちの生みのお母さんだったんだとあとになってわかりました。

うちはいけんことをした、このお祖父さんお祖母さんを悲しませ貴子姉さんに心配かけたらいけん、貴子姉さんに嫌われたらうちはほんまにもう生きてはいけん思うて・・・それから悪いことはやめました」

と言って貴子少佐をもう一度見つめた。

貴子少佐は「ああ・・・あのお祖父さんお祖母さんには何度お礼をいうても言いきれん・・・ありがたい人たちじゃ。それにトメちゃんのもともとの心根がまっすぐじゃったけえ、トメちゃんは曲がらんかったんじゃね。ああ、それはトヨさんの性格そのものじゃ。トメちゃん、トヨさんに感謝せんといけんよ」と言ってオトメチャンをぎゅうっと抱きしめた。

オトメチャンは貴子少佐の胸の中で「はい・・・」と囁いた。そして

「ほんまにごめんなさい姉さん。うち姉さんも疑うてしまって。許してくれますか」

ともう一度許しをこうた。貴子少佐は「もう済んだことじゃ。許すも許さんも・・・うちは何とも思うてないけえ。今までのことを考えたら疑うても当たり前じゃ」と言ってオトメチャンを抱きしめたまま。

 

やがて三人は、見張トヨの墓の前に整列するような格好で横一列に並び、墓を見つめつつ話を続けた。

貴子少佐は「実は、あの見合いいう話。うちは麗子姉さんから事前に聞かされたんじゃ」と明かした。「明かさねばならん話があるんよ。つらい話じゃが聞いておいてほしい」と前置きして。

オトメチャンも麻生少尉もじっと貴子少佐の横顔を見つめた。貴子少佐は墓を見つめたままで

「麗子姉さんはわざわざうちを訪ねてきて『トメをある人の妾にして見張の家から追い出す』言うたんじゃ。見合いという形だけ取って否応なしにトメちゃんをその男の妾にする言う話でうちは当然猛反対したよ。そげえなひどい話があってええわけない。でも麗子は『あがいな娘が見張の家に居るんは穢れじゃ思わんか、あがいなもんにはそれなりの生き方しかないんじゃ、それくらい解れ。じゃけえハンモックナンバーの下のやつはいけんのう』言うて。うちはその時分トメちゃんが海軍に居るいうんはきいとってじゃがどこに居るかを把握できんかった。尤も麗子がうちが海兵団に聞いても教えん様、裏から手ぇ回しとったと思う。

――なんでもな、その男にはちゃんと妻が居ってじゃそうな。じゃが子供が出来ん。ほいで後継ぎに困って、当時海軍の御用商人のはしくれじゃったけえその伝手で麗子と知りおうて、その話をしたそうな。そしたら麗子が『妾にして子供を産ませるにええおなごを知っとる』言うてトメちゃんの話を持って行ったんじゃ。そん男はすぐ乗り気になってのう、ぜひ欲しい言うことになっての。トメちゃんを囲って子供を産ませたら子供は自分たちが引き取って、トメちゃんにはまた次の子を産ませる・・・そげえな約束みとうなもんがあったらしいで。

そげえなひどいこと、どうして出来ようか。こん人たちは人間の皮をかぶった鬼ではないかとうちは思うたよ。うちは『そがいなこと、よう出来るのう。あんたは鬼じゃ、人間じゃないわ!』言うて怒鳴ったが麗子は『なに抜かす、この出来そこないが。うちは海軍省の人間じゃ、四の五の抜かすと貴様海軍から追い出してやる』言うて・・・うちも覚悟がなかった・・・トメちゃんを守ってやれんかった。ほいでもあとからあの話をトメちゃんと上司――あなただったんじゃね、麻生少尉――が自分たちの力でぶっ壊したいうんを伝え聞いて、うちは溜飲を下げたよ。麗子の悔しそうな顔が浮かんでね。ええ気味じゃ思うたわ。その時にトメちゃんが『大和』に乗務しとるんを知ってね、ああえらい出世じゃ、あの子が『大和』に乗っとりんさる思うたらもう嬉しゅうてねえ。

――それからもう一つ、ちいと衝撃的な話があるんじゃが・・・」

貴子少佐はそこで一旦言葉を切った。オトメチャンは「どんとな衝撃な話でもうちは今、受け止められます。話してつかあさい」と言った、その顔には覚悟がみなぎっている。麻生少尉はトヨの墓を見つめたまま。

貴子少佐は軽く咳払いをすると

「これは・・・麻生少尉にとっても衝撃じゃ思いますが・・・話します。ええですか・・・トメちゃんの戸籍は、私の母によって操作されていました。トメちゃんの生年は実際より三年、早くして届けられていました」

さすがにオトメチャンも麻生少尉も貴子少佐のほうを見た。貴子少佐は苦しげな表情で

「私もそれをしったんはつい最近のことです・・・私の方でちょっと必要があり戸籍原本を取り寄せたんですがその中のトメちゃんの戸籍が・・・本当の生まれ年より三年も早く書かれていたんです。一体どうしてこんなことができたのか私にはわかりませんが、多分トメちゃんが生まれた後いろいろあってなかなか入籍ができなかったのでしょう、そしてトヨさんの死後入籍となった時、母がああしたとしか思えません」

と言った。麻生少尉はそれを聞いて(だからか、だからオトメチャンは年よりも何か幼いような感じを受けたのだ)とやっと合点した。貴子少佐は

「ですが麻生少尉、この件は内密に。これが知れるとあるいはトメちゃんの海軍での勤務に差し支えができるかもしれません。知らぬが花、ということもありますから。心苦しいのですがどうぞこの件だけは。願います」

といい麻生少尉は立ちあがって貴子少佐にしっかり敬礼すると

「わかりました、この件は一人私の胸の中に仕舞うておきます」

と言いきった。オトメチャンはかすかにうつ向いていた、麻生少尉が「オトメチャン・・・」と心配げな声をかけると顔をあげ、笑いながら

「そうでしたか!じゃけえ松岡中尉がうちをあやしんで<特年兵>言うたんですね、うちは年よりもこまいんじゃけえ当たり前ですね。松岡中尉は人を見る目えがある言うことですね。――ほうですか、うちは年三つもサバ読まれとったんですね」

といいなんだかさっぱりしたような表情になった。そして貴子少佐に向き直ると

「貴子姉さん、ありがとう。うち、今まで心の中に黒い雲がいつもあったような気いしてましたがこれで晴れました。感謝します。これも――きっと私の母の導きだと思うてます。今日ここで姉さんに会えたいう奇跡。それにねえさんのお心うちがしっかりわかったいうことに、うちの思いも伝えられた言うこと。そしてあれこれ知ったこと、これ全て奇跡じゃ思います。うちは知ってよかった思うてますよ、姉さん。

そしてうちは貴子姉さんを本当の姉さんじゃ、思うて――ええですか?」

と言った。貴子少佐の瞳に、新たに涙が盛り上がり流れ落ちた。

「トメちゃん。そういうてくれてありがとう・・・うちもこれからもずっと、トメちゃんを本当の妹じゃ思うて生きて行くよ。ええね?」

そして姉妹は固く抱き合い麻生少尉はそっと涙をぬぐった。

 

三人はすっかり陽の登った山道を仲好く降りて行った。

町へ出る道のわかされに来た時、貴子少佐は「あ、そうじゃ」と胸ポケットから「うちの連絡先じゃ。万が一にもほかの姉妹から何かされたりしたらうちに連絡しんさい。ほいで・・・たまにはトメちゃんの近況も知らしてほしいけえ」と<新井少佐>としての住所と現在の所属先を書きつけた紙を渡してくれた。

そして貴子少佐は麻生少尉に

「妹をどうかよろしゅう願います。――あなたには姉が嫌な目にあわせてしまって申し訳ないことをしました。償いはいずれ。ともあれ今は、妹の幸せを願うばかりです・・・あなたとトメちゃん、そして『大和』の武運を心より祈っています」

というとしっかり敬礼した。

麻生少尉も直立不動の姿勢を取ると

「新井少佐、ありがとうございます!少佐のお幸せを祈ります」

と言ってオトメチャンも姉に敬礼。貴子少佐は最高に嬉しそうな笑顔を満面に浮かべると敬礼の手を下し「では」と言って歩み去って行った。

その後ろ姿をいつまでも見送る麻生少尉と、貴子少佐の妹・見張兵曹の二人に一月の呉の風は優しく吹いて行った――

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

衝撃的な告白もした姉・貴子少佐でした。

でもそれもあってこの二人の「姉妹」はわかりあえました。きっとより本物の姉妹に近付き、本物になれることでしょう。

麻生少尉もほっとしたことですが一番喜んでいるのは、泉下のトヨさんかもしれません。

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● COMMENT ●

ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
いつもお越しくださってありがとうございます^^!

ねじれた心も誤解がなせる業か、誤解が解ければすべて良しですね。
オトメとねえさんは本当の姉妹だったらよかったのに・・とも思いますがこういう関係だからこその愛十尾もあるかもしれませんね。
そして時間という妙薬も。時間は互いの固くなった心を和らげてくれる効果もありますね。
でも!隣のクネクネおばさんには千年たっても効きそうもない!そうですね、あれは被害妄想という名の御病気でしょうww!

またお越しくださいね、待ってまーす!!

こんにちは!

遅ればせながら、今やっとここまで読み終えました!
もう、感無量!!良かったあ^^b
誤解が解けるというのはスッキリしますよね。
この場合、オトメちゃんの清い心とお姉さんの潔い心が問題解決に大いに関係していると思われますが、長い年月という時間も助けてくれたような気がします。
そう思うと、時間ってある意味、特効薬でもありますね。
某国の基地外じみた反日外交をしているクネクネおばちゃんには効かなそうな気もしますが(笑)
もうあれは誤解でもなく、ただの被害妄想ですけどね←

いいお話しでした☆彡

すっとこさんへ

すっとこさんこんばんは!
そう!帝国海軍の敬礼って陸軍とは違ってひじを張らないんですよね~。私は海軍の敬礼のほうが何か好きですね^^。
そのコンパクトな敬礼で三人は別れてゆきました・・・

異母きょうだい。オトメチャンとほかの姉たちの間には溶けない氷がありますがそれでも貴子姉とわかりあえただけでもオトメチャンの人生はきっと豊かなものになるでしょう!
そしてオトメチャンの年齢に関する衝撃の告白もありました(-_-;)もうこれ以上彼女を翻弄する告白がないよう祈りたいです。

私の頭の中。。。ぐちゃぐちゃしてますw。
もういろんなことがわんさかわんさか、整理されるのを待ってる状態ですぞww。
今度見に来てね^^。

日本帝国海軍にいらした89歳の素敵なおじい様が
知り合いにあります。
先日、海軍式敬礼の仕方を教わりました。
狭い船内で手がぶつかりあわないよう 自分の身幅の
内での敬礼なんですね!

このお互いの敬礼場面を読んでそんなことを思いました。

姉妹のわだかまりが融けて 一番喜んでいるのは
泉下のトヨさん・・・きっとそうでしょう!

それにしてもオトメチャンがこげに可愛い理由は実年齢が
3つも年下だったから、だったとは!
驚愕の事実が次々と明らかになるこの展開。

こういうことを次々に思い付く見張り員さんの頭の中は
いったいどうなっているのでせう!
実年齢は一体何歳?そっちも気になります・・・・。

オスカーさんへ

心をこめた敬礼はとても美しいですね。
ただ手を挙げただけでは敬礼ではないですよね、そこに相手を敬う心があって初めて「敬礼」であるのだと私も思います!

心をこめた三人の敬礼・・・絵心があれば絵にかきたいものだと思いましたっ(-_-;)!

だいぶ体調もよくなりましたが頭痛を早く治したいものだと・・・(-_-;)、いつもご心配をありがとうございます!
また雪が降るんでしょうか…もう私は雪はおおたくさんです!早く春よ来い!ですね。オスカーさんもくれぐれもご自愛のほど!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
長年の冷たく厚い氷もやっと溶けた貴子姉とオトメチャンでした。きっと本物の姉妹以上によい姉妹になることでしょう。
本当に「誤解」というものは怖い部分がたくさんありますから気をつけねば!と思いますね。

そしてオトメチャン実は3つも若かった!
16歳と19歳じゃやはり違いますもんね~、オトメチャンは海軍ではいくつなのだろう・・・多分20歳くらいだと思うのですが本当の年齢は17歳くらい!?之は事件だあw。

松岡中尉の観察眼は鋭い。あの日とは隅に置けませんね。

また明後日にも雪の予報の関東周辺、もう私は雪はいやだあ~~(泣)。
大分も寒そうですねくれぐれもご自愛くださいね。

こんにちは。敬礼する三人の姿が目に見えるようです。一枚の絵のような美しい場面、本当に素晴らしいです。カタチだけの敬礼、ポーズをとる人がたくさんいますが、敬礼の正しい意味というとヘンですが、心をカタチにしたものであるべきだと思いました。

お身体は大丈夫ですか? 天気予報に雪マークを見ると、ああ~な気持ちになります。ご自愛下さいね。

オトメチャンとお姉さんの氷が解けて良かったですね。
誤解というのは時として人を恨み自分の価値すらも下げていくものですが
墓前での姉妹の新たな出発に心が弾むような思いがしています。
それにしてもオトメチャン、三つも実年齢よりも若かったとのこと。
このくらいの年齢って、特に女性にとっては大切な一年でしょうね。
サバで良かった。逆だったらつらいものがありますが。
松岡、恐るべしでした(笑)

今週半ばにもまた雪の関東とか。
どうか無理をせずにお過ごし下さいね。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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